27限目 仮想デートはVRの中で
「じゃーん!」
俺は無駄に効果音を発してしまった事に若干赤面しながら、そいつを美月の眼前につきだした。
「えっと…なにこれ?」
「ふふふ…聞いて驚け。これはVRゴーグルだ!」
黒光りするそいつを自慢げに見せびらかす。未来的なデザインにワクワクしない訳がないぜ!
「ゔいあーる?え?うん、すごーい?」
部屋には子供みたいにテンションの高い大人と、大人の対応をする女子高生がいた。
まずゴーグルの内側には曲面ディスプレイが搭載されている。この曲面ディスプレイは3層になった透明有機ELパネルによって構成されていて、3D映画のように奥行き感ある映像を映し出す事が出来る。さらにこいつにはジャイロセンサーが搭載されていて、装着者の向いた方角を認識することが出来るようになっている。映し出される映像はこの動きとリンクしてその方角に向くため、「映し出された世界の中にいるような錯覚」を得ることが出来るのだ。
この技術は様々な分野に応用出来る。例えば世界遺産に直接行かなくてもその中を探索したような気分が味わえるし、ゲームのような超現実の世界に行くことも出来る。
「でもセンセ。それをつかってどうするの?」
美月を俺のPCデスクに座らせた俺は、まぁまぁと言いながらそのHMDを被せた。
ちなみにこの角度からだと胸の谷間が色々アレだ。本当、アレだ。
「真っ暗」
「まぁまて、今からコンテンツを写すから。ちょっとこれもって」
右手に専用ガンコントローラーを握らせ、ゲームを起動する。手先が見えていない美月はコントローラーを握る時に間違えて俺の手をにぎっとする。
「なにこれ、銃?」
「おお察しが良いな。今映像が映るからな」
「あ、なんかでた」
別で出力しているPCモニターにもそのタイトルが映し出された。
タイトル名は「
「なんかヘビメタみたいなBGMが聞こえる…」
俺はマイクヘッドセットを頭に装着して美月に話しかける。このマイクを通した音声は美月の装着しているヘッドセットに送信され、クリアな音声で聞き取れるという訳だ。
「今回やってもらうのはFPSの超名作、DOOM5だ。今回はVR仕様だから臨場感が違うぞ。さっそくやってみてくれ」
「え、でもどうやって。あ、画面が映った…あー、へー、こうやって銃を前に出せば狙いが取れるんだ」
DOOM5VRでは、UMD装着者が向いた方向へ画面が動き、銃を向けた方向に照準が表示される仕様となっている。フットレバーで前進と後退、振り向きとジャンプができる仕組みだ。
「美月、予め言っておくがこのゲームは人によって好き嫌いが分かれる。きつい、と思ったら直ぐに言うんだぞ」
「うん、わかった。でもやばい、面白そう!」
そうこうしている間に、stage1が開始された。プレイヤーは死の淵から蘇った狂戦士だ。棺桶のようなポットを開けてでると研究施設のような所にいる、という所からのスタートなのだが…
「げ、なにあれ・・・こっちくるの?え?ちょ!きゃーーー―!!!」
開幕そうそう、気色の悪いデーモンに襲撃を受けるのだ。
「撃て!」
その声に反応して美月はすばやくガンコントローラーを構え、トリガーを引く。画面いっぱいに映し出されたデーモンの顔面が爆散していく。
「きっしょ!」
このゲームの最大の売りはそのリアルなグロテスク表現、通称ゴア表現と呼ばれるものだ。プレイヤーはこの憎きデーモン達に正義の鉄槌を食らわせ、文字通り肉片になるまでボッコボコにしてやるのである。その爽快感に魅せられるプレイヤーが世界中にいる。
「いいか、このゲームには不意打ちが多い。ついでにエネミーはかなりきしょい。突然襲われる事もある。このゲームをプレイすることで、苦手な部分を切り分けしていく。俺は美月を良くみてるから、頑張ってプレイしてみてくれ」
怖いという感情にはいくつかの種類がある。そしてそれは驚きという感情によってブーストされたりもする。今回のゲームプレイで、美月が具体的にどんなシーンでトラウマを発症してしまうのかチェックする狙いがあるのだ。
「私のこと見てるの?」
「おお見てるぞ。頑張れよ?油断するとまじすぐ死ぬからな」
「…わかった。じゃあ頑張る。ちゃんと見ててね、私を」
「おう?みてるぞ?」
美月はそういうとガンコントローラーに左手を添えて支えるようにした。まるで本物の銃を構えているようだ。
ゲームのカウントダウンがスタートする。プレイヤーのいた研究所隔離場所のドアが開き、その先には大量のデーモンが待っていた。
「じゃあスタート!」
「はい!」
そして美月はデーモンに突っ込んで行った。
思い返せばこの日であった。
彼女のある才能がその産声を上げたのは。
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とあるシックな書斎。本格的なオーディオシステムが置かれたその前に、見るからに高級そうな革の一人がけソファがあった。そこに腰掛けている男はバスローブをまといブレンデーを回していたが、上質な音楽を
「…私だ」
携帯電話からの音声は聞こえなかった。しかし男の溜飲が下がるその様子に、ただ事ではないことが伺い知れた。
「…わかった。
男は携帯電話を机に滑らせ、ソファにもたれかかり足を組んだ。気がつけば、不敵な笑い声が室内を満たしている。
「これは実にいい機会だ。…そうは思わないかね、斉藤くん」
男はブランデーを一気に飲み干すと、退室していった。
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