第五章《小話》 低級あやかしの過ち

 こ、これはまずい、これはまずいぃぃいい!!

 ちょっと現世に出てきたら、ものすんごい怖い顔の男の人に捕まっちゃった…


「おら教えろよ、お前どうせ鬼神とかいうやつが企んでること知ってんだろうが」

「そうだそうだ、今すぐ俺らに言えよ一つ目小僧」

「ひ、ひぃぃぃ!!そ、そんなこと言われても…!!」


 …何か漏らせば即殺される、鬼神様に殺される…!!


 僕みたいな低級の一つ目小僧なんて鬼神様なら蚊を殺すように殺せるだろう…



 …こ、怖い…っ!!



「なぁもういい加減にしろよ。何か教えてくれたら逃がしてやるからよぉ」


 も、もうダメだっ、こんな人間の男に負けてしまうのは嫌だけど…


 一向に逃がしてくれる気配がない!!このままだと吐くまでずっと帰してくれないかもしれない…っ!!!


「…ています…」

「あぁ??何だって?」

「い、戦をしようとしていますっ!!!!」


 ああああああ言ってしまった、言ってしまったああああああ!!!!


「何っ、戦だと…っ!?」

「時期は決まってるのか!?」

「いえ、それはまだのはずです…」


 もう駄目だ…終わった…僕のあやかし人生終わった…



 *



「鬼神様」

「ん?なんだ鋭峰」

 俺がいつもの通り酒を飲んでいると、少し慌てた様子の鋭峰が現れた。

「人間が。騒がしい」

「…人間が?となると現世で何かあったのか」

「うん。戦。バレた」

「何…っ!?」

 戦のことがバレた、ということか。

 区の長か…?いや違うな、あいつらがバラす訳がない。



 …あぁわかった。春麗の区の者だな。

 しかも超低級あやかしや低級あやかしの辺り。


 …なるほど、〝一つ目小僧〟か。



 頭の中に入ってきた、春麗の区に少し飛ばしてある鬼火と、見張りで現世に飛ばしてある鬼火の情報で、俺は犯人がすぐにわかった。


「…鋭峰、春麗の区の一つ目小僧を連れてこい。いいな?」

「あい」


 鋭峰は買い物を頼むことに関しては優秀ではないが、何かを連れてこいだったり殺してこいといったことに関してはこれ以上ないほど優秀だ。


 …今だってさっき返事をしてから瞬時に社を出て、もう既に一つ目小僧を連れてきている。


「き、鬼神様…如何様にございましょう…」

 ガチガチと歯を鳴らして震えながら、何も知らない体でそう言う一つ目小僧の顔には、「僕が戦のことをバラしました」と書いてあった。


「お前人間に戦のことバラしただろ」

「い、いえっ、そんなっ!と、とんでもない!!」

 …まだ知らないフリをするつもりかこいつ。

「…わかった、怒らねぇから言えよ」

「ほ、本当に怒りませんか…?」

「ああ。だからほら、言え」

 大抵の低級あやかしは怒らねぇと言っておけば基本的に何でも喋る。


「…ば、バラしたのは…僕、です…」

「ほう…そうか」

 すぐ本当のことを言った。

 こいつ、本当に俺が怒らねぇと思ってんだろうな。


「まぁいい、本当のことを言ったんだしな、帰っていいぞ」

「ううぅ…さ、さよならっ!!」

 …そう言って立ち上がろうとする一つ目小僧の顔面を俺は引っ掴んだ。

「な、何でしょう…!?」

「…お前、本当に許してもらえると思ってんじゃねぇだろうな」

「へ…?」

 そして握り潰した。

 その様子を見た鋭峰が後ろで「…すご」とボヤいていた。

 …いや、鋭峰、お前もこれくらいできるだろう…


 もう一つ目小僧は何も言わなくなった。


 その大きな一つの目玉も原型をとどめていない。

 鋭峰に残りは食っとけと言いながら、俺はもう戦をするための会議を開こうと決めた。

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