314帖 灯火管制
『今は昔、広く
ショッピングモールは閉店する店も出てきて、人通りも少なくなってきてる。そやけど外を見ると、僅かな明かりの元に人々が集まってる。よく見ると屋台や露店があり、そこに人集りが出来てた。人々は涼しくなってきた野外で晩ご飯を食べてるみたい。
冷房の効いた通路から外へ出てみると、涼しくなってきてると言え、まだモワッとした空気が漂ってる。それと共に肉の焦げた匂いや香辛料の香ばしい匂いもしてくる。より一層、空腹が刺激された。
太陽が沈んで暗くなった空には相変わらず救急車のサイレンが鳴り響いてる。そやけど、それに少し慣れてきたんか、なんとなく普通になってる自分が居た。
ミライが店から出てくるのを見つけ、声を掛けて一緒にレストラン街へ向かう。レストラン街へ近づくと、さっきより沢山の人々で賑わってる。
殆どのレストランはいっぱいやったけど、
僕らは早速テーブルに就き、写真付きのメニューを捲る。
あった、あった。
僕はまず水餃子を頼む。ジュルル……。
「ミライは何が食べたい?」
と聞いてみるけど、ミライは中華料理を食べた事が無いさかいにメニュー選びは僕に任される。そやし僕は自分が食べたい料理をチョイス。もうお腹が空き過ぎて我慢できんわ。牛肉と野菜の炒めもんに麻婆茄子ぽいの、炒飯にトウモロコシ入りの卵スープを頼む。二人ではちょっと多かったなと思たけど、無事に
まず卵スープが運ばれて来て、ミライがそれ取り分けてくれる。ちょっと薄味やったけど、久しぶりの中華の味を堪能した。
ミライはというと、少し物足りなさそうで微妙な顔をしてる。そやけど次に出てきためっちゃ辛い麻婆茄子は口に合うたみたいで、美味しそうに食べてる。辛いもんが口に合うみたい。
僕は楽しみにしてた水餃子を口へ運ぶ。北京で食べきれへんかったあの大量の水餃子を思い出しながら食べると、なんか違和感があった。ちょっと味が違う。まぁ店が違うから、それはしょうがないと思いながらも久々の水餃子を楽しんだ。
ミライは水餃子のモチモチっとした食感に驚いて目を丸くしてる。ほんでもその食感が気に入ったみたいで、笑顔でパクパクと食べてるわ。
少しお腹が落ち着いてきたところでミライは、
紅茶に似てるけど、それは無いわなぁ……。
そんなミライを少し笑ろてしもた。
二人共お腹がいっぱいになって苦しかったけど、なんとか食べきって店を出る。
ショッピングモールの外は既に夜の帳が下り、空気が乾燥してるからか空にはくっきりと星が輝いてた。
タクシーを見つけたら乗ろうと思て、暗い夜道をホテルへ向かって歩く。ホンマはもっと明るい街並みなんやろうけど、やっぱり郊外で戦闘をしてるせいか街の灯りは最小限に規制されてる様や。店はやっててもネオンや看板の灯りは消えてる。それを見ると少し緊張感があったけど、それでも僕らは明日の予定を考え、楽しくお喋りをしながら歩く。
結局タクシーを見つける事は出来ず、汗をかきながら30分程歩いてホテルへ着いた。
ロビーでは、昼にも増してテレビのクルー達が慌ただしく動いてる。怒号も飛び交い、顔には緊張した表情が伺えた。
なんかあったんやろか?
僕も少し不安になり、受付で兄ちゃんに聞いてみる。
「何かあったんですか?」
「いえね、夕方にここから2ブロック程南の所が爆撃されたんですよ」
そんなアホな。
もしかしたら僕らが初め泊まろうとしてたホテルの辺りやろか、と想像してしもた。マジでやばいんちゃう?
「この辺は……、このホテルは、大丈夫なんですか?」
「ええ、安心して下さい。ここは大丈夫ですよ」
なんの根拠があってそう言うてるか分からんし、少し不安は残る。
「しかし、お部屋の事なのですが……。電気は付けて貰ってよいのですが、念の為カーテンはしっかり閉めておいてください」
「分かりました……。あっ、それと
「申し訳ありません。それが、まだ不通でして……」
そう言われると余計に不安になってしもたわ。そやけどそんな顔はミライに見せられへん。宿泊の延長と明日の朝食の打ち合わせをして部屋のキーを受け取ると、僕は笑顔を作ってミライとエレベーターへ乗り込む。
部屋へ入り、奥のリビングへ。荷物を置くと、直ぐにカーテンを閉める。ほんでも外の様子が気になったんで、僕はベランダへ出てみた。
9時を過ぎて尚、風は生温かったけど、汗がスーッと引いていく感じや。お腹もええ具合にこなれてきて、少し眠気も差してきた。
星空に月も出てて、めっちゃええ気分になれるとこやったのに、さっきの話しを思い出してしもて、また少し不安になる。
目を凝らして南の方を見ると、消防車かパトーカーの警光灯がチカチカしてる。炎は見えへんけど、その近くにはまだ少し黒い煙が立ち上ってる。距離にして……、500メートル位やろか? 居住区にホテルや商店があった所やと思う。
そういえば、
狙った攻撃か誤爆かは判らんけど、この街もそんなに安全では無いと感じてしまう。何時ここへミサイルが飛んでくるかも分からんし、僕はその恐怖に少し怯えてしもた。
そこへ荷物を整理し終えたミライがやってくる。なんかモジモジしてる。ほんで上目遣いにぼそっと話してきた。
「おにちゃん……」
僕がそっとミライの肩を抱きしめると、ミライも僕の背中に手を回してくる。ミライを抱いてるとさっきの眠気も恐怖も消え去り、代わりにミライを守らなあかんと言う意志が湧いてくる。それと同時に僕の気持ちも安らいできた。
僕らは暫く抱擁してた。なんとなくミライから嬉しさが伝わってくるのんが分かった。
「よかったなぁ。パスポートが取れて」
受け取りは、まだやけど。
「うん、ほんとに良かったわ。これでジャポンに行けるね」
「そうやな」
まだビザの事が気に掛かってたけど、まぁなんとかなるやろうし、今はミライと一緒に喜ぶ事にする。僕はミライの身体を少し離し、キスをしようとした。
するとミライは、
「おにちゃん、お風呂へ行きましょう」
とそのまま僕から離れてしまう。そやけど僕は我慢できず、ミライの腕を掴むと身体を引き寄せ、半ば強引にキスをする。するとミライの身体から力が抜けていき、僕に身を任せてくる。
数回、キスをすると、クスクスと笑いだしたミライは、
「続きは後でね」
と、ちょっと意地悪そうな顔をして部屋へ入って行く。
そんなミライの後ろ姿を見て嬉しくなり、僕の身体は力が抜けてしもた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます