313帖 お買い物~

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



 数少ない種類の中から、濃いピンク地にフリフリの付いた半袖のシャツにグレーの薄手のカーディガン、それにデニム地のタイトなスカートを選んだ。ウエスト部分にギャザーが入ったフレアスカートにしよか迷ったけどね。デニムのスカートの方が格好ええし、日本の高校生ぐらいの活発な女の子をイメージしたコーデがミライに似合うと思た。まぁ、僕のファッションセンスは当てにならんけどね。ほんでも、きっとミライに似合うと思う。


「え、えぇ……」


 選んだ服を身体に当ててみたミライはちょっと複雑な声を漏らしてる。


「あかんかなぁ?」


 ミライは、ちょっと戸惑ってるみたい。


 もしかしてダサい?


「そうね。でも、いいんじゃない」


 みたいな事を店員は笑顔で言うてる。


「でも……、これはちょっと恥ずかしいよ。おにちゃん」

「そ、そうなんか。ジャポンの女の子はこんな格好をしてるで」

「そうなの? でも、どうしようかなぁ」

「可愛いと思うけどなぁ。ほんなら、いっぺん着て考えたら?」

「う、うんー。どうしよう……」


 店員に促され、悩みながらミライは試着室へ移動する。


 恥ずかしいって言うてたけど、結構似合におてると思うけどなぁ。まぁ、僕の好みやけど。


 そやけど、何が恥ずかしいんやろ?


 そんな事を考えながら待ってると、店員が僕を手招きしてくる。試着室へ行ってみると、着替えて変わり果てたミライの姿があった。


 ええやん! 格好いい! それに、めっちゃ可愛い!


 少し短めのタイトスカートの下から伸びてる長くて白い足が色っぽい。


 うーん、ええ感じや。


 と、我ながら満足。スタイルもええけど、彫りの深い顔と洋服がめっちゃマッチして格好ええ。まるでアメリカの青春映画に出てくる活発なヒロインみたいや。


 そやけどさっきからミライは、スカートの裾を下へ引っ張ってモジモジしてる。どうやら素足が出てるんが気になるみたい。


 思い出してみると、ミライはクルディッシュの伝統的な形のワンピースみたいな裾の長い服を着て、その下にいつも長ズボンを履いてる。勿論、今も。足はあんまり出した事がないんかな。そやしスカートの下から足が出るのんが恥ずかしいみたい。


「いいよ、似合てるよ。めっちゃ可愛いやん!」


 と言うてみたけど、ミライは余り嬉しそうやない。


「そうなのぉ。でも……、おにちゃんが選んでくれたんだけど……」


 そう言うミライを、店員がなんやかんや言うて説得してる。何を話してるかは判らんけど、段々とミライもその気になってきたみたい。


「さぁ、ミライ。買おうや。絶対可愛いで」

「う、うん。でも……。それなら、これは、ジャポンに行ってから着るね」

「そっかぁー」


 残念やけど、しゃぁないなぁ。でも買う事になったしええかぁ!


 ミライが着替えて直してからお会計へ。そこで値段を聞いてびっくり。めっちゃ高かったわ。ホテルの1泊分を軽く越えてる。それでもミライは、ハディヤ氏から預かった封筒の中からお金を出して、しれっと払ろてたわ。流石は金持ちの末娘。


 店を出て分かったけど、外にはヨーロッパの様々な国名が書いてある。この店はヨーロッパ等からの輸入した服を専門に扱ってる店やったわ。

 そやしKurdishクルディッシュ(クルド人)が普段着てるデザインとは違う、ちょっとおしゃれな服ばかりが置いてたんや。

 それに、入れ違いで入って行った家族連れは、やっぱりお金持ちっぽかった。


 改めてモール街の通路を歩く女性を見てみると、中には堂々と手足を出して歩いてる人も居る。そやけど腕は出してる人は沢山居っても、素足を出してる人はどちらかと言うと少ない。やっぱり素足を出して歩くんは、ここの女性には少し恥ずかしいみたいやな。まぁ、殆どがムスリムやしね。勿論ムスリムの女性は全く素肌を出してません。


 と言う訳で、ミライの着替えの買い物は振り出しに戻った。

 それから2軒見て回り、ほんで3軒目の伝統的なクルディッシュスタイルの服の店で落ち着く。それでも華やかな色、模様のドレスがいっぱい飾ってある。

 その中から僕は、バラ色の様な赤いシルクで出来たテカテカと艶のある服と、ビリジアンの様な緑色の服をどうかと勧めてみたけど、どちらもミライにはお気に召さなかった様や。


 それから悩みに悩み、時間を掛け、店員と相談しながらミライ自身が服を選ぶ。

 ほんで決まったんは、落ち着いた青色のワンピース。白い糸で綺麗な刺繍がしてある。ワンピースの下に履くズボンはほぼ白色の薄い水色のもんを選んでた。

 パッと見は、今着てる黄色いワンピースの青色版。あんまり代わり映えはせえへんけど、ミライはそれが気に入ったみたいで、早速試着しに行く。


 ほんで試着室から出てきたミライを見た僕は、


 おおっ!!


 と驚いてしもた。


 めっちゃ似合てる。シンプルやけど青色が映えて、ミライの可愛らしさを引き出してる。

 そやど、それ以上に僕は感動して思わず、


「姫さまや!」


 と、口ずさんでしもた。


「ええっ。『ヒメサマヤ』ってなーに?」

「いや、ヒメサマ。えーっと、プリンセスって事」

「これが、お姫様なの?」

「そう! えーっと、ジャポンのアニメーションに出てくるお姫様の服によう似てるんよ」

「そうなのね。じゃぁこれにするねー」


 さっきの洋服を買うた時と違ごて、ミライはめっちゃ嬉しそうや。僕も早く着て欲しいなとワクワクしてきたわ。


 服の後は装飾品店でお買い物。自分のもんを買うんかと思てたら、そうやのうてSarsankサルサンクの皆んなへのお土産を買うてるみたい。ほんでから乾物屋、お菓子屋をハシゴする。店を回るたんびに僕が抱える荷物が増えてくる。

 途中、家電屋があったんで外から覗いてみた。電圧や周波数の関係やろか、日本製は殆ど無く、やっぱり欧州製が多かったわ。


「おにちゃん、次へ行くよ」

「おう」


 パスポートの手配も出来たし、今日は落ち着いたホテルで休める。昨日までの、あの辛さらか開放されたミライは、思いっきりショッピングを楽しんでる様や。活き活きとして笑顔が絶えへんミライやけど、まだ足はちょっと辛そうな感じ。そんなミライを見てるんは嬉しいねんけど……、なんせ買い物の時間が長いわ。


 最後は雑貨屋。もうミライと一緒に店へ入るのは辞めて、僕は外で待つ事に。外は既に暗くなってきてたし、僕は疲れも溜まってきてる。何よりお腹が空いて力が無くなってきた。


 そう、僕は早よ中華料理が食べたくてしゃぁなかった。



 つづく

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