297帖 戦闘
『今は昔、広く
いつの間にやろか、気が付くと薄暗かった家の中は真っ暗になり、窓から入ってくる月明かりで隣の人の顔がほんのり分かる程度になってる。
もう夜かぁ。いつまでこうしてるんや。
喉が渇きお腹も減ってきたけど、どうする事も出来へん。頭もボーッとしてる。
ミライは大丈夫やろか。
どないしてるかと心配するけど、全く様子が分からん。朦朧とする意識の中でミライの顔を思い浮かべたその時、大きな声が聞こえた。
兵士の声?
ほんでその声の次に、
パッパンッ! パンッ、パンッ、パンッ!
と銃声が鳴る。
家の前に居った兵士の駆け出す音が消えると、その後は一気に銃声が激しくなる。僕らが収容されてる家のすぐ傍からも射撃音が聞こえる。
遠くの銃声も聞こえ、どうやら味方と撃ち合ってる様や。
間近で聞く銃声。戦争映画は好きでよく観てたけど、ほんまに人を殺せる銃で今まさにすぐ近くて撃ち合いをしてると思うと、その恐怖から僕の身体は
僕は目を瞑り、耳を押さえる。身体はガタガタ震え、力を入れるけど全然止まらんかった。
暫くして銃声が収まったかと思うと、また激しく鳴り響く。流れ弾やろか、この家の壁に弾が当る様な音も聞こえる。
銃声の合間に大きな爆発音と衝撃が伝わってくる。
榴弾? 迫撃砲か?
耳は押さえてたけど、爆発がするたんびに耳がはち切れそうになり、心臓が飛び出すかと思た。
政府軍の兵士の呻き声も聞こえてくる。
僕も死んでしまうんやろか?
応戦してるんは味方の
銃撃は続く。時折、機関銃の射撃音も聞こえてきて戦闘の激しさが増してる様に思える。
いつまで続くんや。早よ終わってくれ!
と思てたら、僕は肩を叩かれる。目を開けると、家の奥の方へ皆が腰を低くして移動してる。肩を叩いてくれたおちゃんに続いて僕も動き出す。
奥まで行って分かったけど、見張りの兵士が居らん様になった裏口から逃げ出してる様や。
外は月明かりで思った以上に明るい。おっちゃんが指差す方を向くと、村の裏山を登ってる人影が見える。
山へ避難するんや。
よく見ると、山の麓でこっちを向いて手を振ってる人が居る。
距離は50メートル位。その人の手招きの合図で僕とおっちゃんは駆け出す。走ってる間も銃声は鳴ってた。
いつ後ろから背中を撃たれるかとビビりながらも思いっきり走る。
どうか当たりません様に!
と、祈りながら必死に走る。時間にして15秒位やと思うけど、めっちゃ長ごう感じた。
何とか裏山の麓の岩陰に入れた。落ち着く間もなく、そこから山を登る。少し登ったとこで振り返ると、広場の向こう側の家が燃えてるんが見える。
村の外、谷を少し奥に行った所でもトラックらしき車両が燃えてる。ペシュメルガが政府軍の待ち伏せしに遭遇したみたいな状況やろか。
銃声と共に閃光が走る。
谷の奥や山の上の方でも光ってる。どっちが優勢かまでは分からんけど、ここからやとペシュメルガと政府軍の戦いがよう分かる。
ペシュメルガ、頑張れ!
と思いながら山を登る。
途中、おじいさんがしんどそうにゆっくりと歩いてたんで、そのおじいさんの手を引いて登る。
あっ! ミライは? どうしてるんや?
山を登ってるんは男の人だけや。僕はおじいさんの手を引きながら振り返る。ちょっと立ち止まって見ると、僕らが収容されてた家の二軒隣から、女の人が二人一組で走って来てる。
兎に角このおじいさんを先に逃がそうと思て、尾根の大きな岩の手前で手招きしてるおっちゃんの所を目指して登る。
岩の向こうには洞窟というか崖に窪みがあって、先に逃げてきた老人達がそこに座ってた。
そこへおじいさんを連れて行くと、さっき村を眺めてた所まで戻る。
おっちゃん達は逃げてきたおばあさんやおばちゃん達の手を引いて山を登って来てた。
ミライは? どこ?
その時、村が煌々と明るくなる。
照明弾?
岩陰から覗き込むと、広場で倒れてる兵士が見える。次の瞬間、広場の手前で爆発がして大きな音が響く。その後に衝撃が来る。
暫くして空から石の欠片や砂が降ってきた。何個か頭に落ちてきて痛かったけど、僕はじっと村を見つめる。
照明弾が燃え尽き、辺りが暗くなって銃声が止んだ時、家から出てくる人影が見えた。
ミライか?
そやけどその歩みは遅かった。たぶんおばあさんとその手を引くおばさんや。また銃声が鳴り響く。そやけど、走れへんおばあさんはゆっくりと歩いてる。
そこへ男の人が駆け寄りおばあさんを抱きかかえ、もう一人がおばさんの手を引いて走り、無事麓に辿り着いた。少しホッとしたわ。
それを見守ってると、初めに逃げてきた女の人らが僕の横を登って行く。
ミライは? まだ?
銃撃が更に激しくなってくる。そやから逃げられへんのか、次はなかなか家から出て来うへん。ヤキモキしながら待ってると、一瞬銃撃が止む。
その時、家から二つの影が動いた。
ミライや!
影でも分かった。少し小さいミライの影と、奥さんの大きな影。
早よっ!
と叫びそうになったの抑え、身体に力が入りドキドキしながら逃げるのを見守る。ところがあと少しで麓やって所で、おばさんの影が止まった。
何っ!
おばさんが転けてる。それに気付いたミライは一瞬立ち止まった。
ヤバいって! 早よ逃げて!
ミライは、戻っておばさんを起こそうとしてる。僕の身体から血の気が引いた。
その時だけは、
「ミライ逃げて」
と思てしもた。気が付くと僕は坂を駆け下ってた。何が何やら分からんけど、涙も出てくる。
僕が麓に着く頃には、幸いにもおっちゃん達が二人を助け岩陰まで連れて来てた。
その間、ほんまは10秒も無かったかも知れんけど、僕には1分にも2分にも思えた。
そして目の前には生きてるミライの姿が。
よかったぁ……。
めっちゃ嬉しい瞬間やのに膝がガクガク震えてくる。
そして僕に気付いたミライは、思いっきり胸に飛び込んで来た。
つづく
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