294帖 敵か、味方か?
『今は昔、広く
9月5日の木曜日。空は青白いけど、まだ星は残ってる。昨日吹いてた風は止んでた。
昨晩はぐっすり眠れたみたいで寝起きは気持ちがええ。
そやけど身体を起こして周りを見てびっくり。昨晩は風が吹いてたからやろか、シュラフやリュックにも少し砂が積もってる。
ミライの顔に掛かってる砂を払うと、顔を顰めながらミライは起きてくる。
「お早う、おにちゃん」
「お早うー」
「簡単にさっと朝ご飯を食べて出発しよか」
「うん。分かったわ」
シュラフから出るとまだ結構寒い。
ミライはあくびをしながら大きな布を頭から身体に巻き、朝食の準備を始める。
僕がシュラフやマット等を片付けてる合間にスープは出来た。昨日と同じく、干し羊肉と草のスープ。若干香辛料がきつめに効いてて、目も醒めるし身体も温まる。それと昨日残して置いた杏の実をミライが皮を剥いて渡してくれる。これが朝ご飯のメニュー。
それを食べ終わると、ポリタンを水でいっぱいにして出発や。
さぁ荷物を背負って……、と思てたら、
「おにちゃん、今日は私が運ぶよ」
とミライが僕のリュックを担ごうとしてる。
「持てるかぁ?」
多分、20キロかその位の重さやと思う。
「大丈夫」
ミライは僕がいつもやってる動作を真似してリュックを担ぐ。なんとか担げたけど、立ってるだけでフラフラしてる。
「歩いてみぃや」
と、笑いながら言うと、
「これぐらい……、歩けるわよ」
とミライは足を動かす。ほんでも少し歩くだけでふらついてる。
「あはは。ミライ、それでは無理やで」
「そうかなぁー。ふーっ」
「無理無理。僕が担ぐよ」
リュックを降ろすの手伝う。その時、はたと気が付いた。
「これって結構目立つなぁ」
「ええ?」
僕のリュックは赤い布で出来てる。長旅でそこそこ汚れてるけど、砂漠では目立つ色とちゃうやろか。
そう思て僕はミライに長目の草を集める様に頼む。ほんで持ってきてくれた草を、リュックに付いてる未使用のリングやストラップ、バンジーコードに挿していく。
「よし、これでええやろ」
「そうなの」
「まぁ気休めや」
「ふーん」
ほんでリュックを背負ってみる。草が迷彩になって、なんとなく目立たへん様な気持ちになる。
それを見てミライは笑ろてた。
「なんだか変だよ」
「ええねん。これで……」
僕らは小屋の裏から尾根を登り、稜線に出る。
稜線は風が吹いてて寒い。ミライは布を押さえて飛ばされん様にして歩いてる。
そんなミライの横顔に太陽の光が当たってきた。日の出や。
東の地平線から太陽が昇ってくる。希望の光か、はたまた試練の兆しか。
「今日も一日、ミライと共に無事で過ごせます様に」
僕は完全に姿を出した太陽に向かって自然と拝んでた。
稜線を進み、岩がゴツゴツした
谷間まで降りてくると少し草木が生えてたし川もある。ほんでも川は干上がってて水は流れてない。
だいぶん陽も高くなり暑くなってきたんで水を飲んで休憩した。
「ふうー」
「結構歩いたなぁ」
「まだまだ大丈夫よ。早く
「そやな。早よ着くとええなぁ」
そんな事を話してると、川の下流の方から車のエンジン音が響いてくる。音が谷に反射して不気味に聞こえる。
「ミライ、こっち!」
「はい」
咄嗟に駆け出して岩の陰に隠れ、息を凝らして様子を伺う。
谷に響いてるエンジン音から車両は3、4台ってとこやろ。なんとなく軍用車両に思える。
敵か、味方か?
味方なら助けて貰えるかも知れんけど、敵ならお終いや。僕はミライの肩を寄せ、しっかり抱きしめる。今の僕にはそれしか出来んかった。
エンジン音は直ぐに聞こえん様になった。無事に通り過ぎてくれたみたいや。
まだ心臓がバクバクしてて足が少し震えてたけど、リュックを担ぎ下流から死角になる様に手前の山を登る。
稜線を越えて東側に少し下った出た所で一息つく。
「危なかったなぁ」
「ちょっとびっくりしたよ」
「車が走ってるって事は、あの谷を下って行ったら道があるって事やんなぁ」
「その道を行けばアルビルに行けるの?」
「それは分からん。それにもし敵が居ったら大変や。このまま山を進もう」
「うん。おにちゃんに付いて行くよ」
それからは西の谷を迂回する様に北東へ進路を取る。太陽がギンギンに照りつける中、熱くなってきた風を浴びながら黙々と歩く。
時折、西の方から爆発音や銃撃音が聞こえてくる。
何処かで戦闘が起こってる。
音はかなり遠くの方で鳴ってる様な気がするけど、聞こえるたんびにミライは怯えてる。
そやし僕はなるべく音から遠ざかる様にコースを取り、ちょっと急な斜面もミライの手を引っ張りながら登る。何処へ向かってるかは分からん様になってきたけど、兎に角安全やと思う方へ急いだ。
暫く進むと戦闘の音は聞こえん様になった。
山や谷を越え、昼を過ぎてたけど僕は歩みを止めんかった。何処まで行ったら安全か分からんし、敵の恐怖から逃げる様に歩きまくる。
休憩もせんと歩いてたし大分疲れてきた。
それでもなんとか歩き続け、尾根を越えて急な斜面を下ってた時、下の谷底に建物を発見する。
僕はミライを制止して、その場にしゃがみ込んだ。よう見てみると10軒程の家があって、その周りには畑の様な緑地も広がってる。
「村か」
「誰か居るのかなぁ」
暫くじっとして様子を見てると、家から人が出てきて歩いてる。遠くて見えづらいけど、銃等の武器は持ってへん様や。子ども居るし、女の人らしき派手な服装の人も歩いてる。それを見て少しホッとした。
「行ってみるか?」
「うん」
立ち上がって急な坂を下って行く。少し傾斜が緩くなってきた所には草が生えてて、村がはっきりと分かる程近づいて来た。
と、目の前になんと羊の群れが現れる。
えっ!
僕はびっくりして立ち止まったけど、ミライは平気な感じで草を食べてる10頭位の羊の中を進んで行く。
その羊の群れの先を見ると大きな岩があり、その上には少年が座ってた。
ミライに追いつき、その少年の方へ近づいて行くと、僕らの気配に気付いたんかこっちを振り向く。
二度見をしたその少年は、驚いた顔をして立ち上がった。
つづく
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