255帖 日曜の朝
『今は昔、広く
8月25日の日曜日。
目が覚めたらもう周りが明るくなってる。今日はミライも起こしに来てくれへんかったみたいやし、急いで着替えて外にでる。
ほんで畑に行ってみると水を撒いてるハディヤ氏しか居らんかった。
「おはようございます」
「おはよう。今日はえらく早いな」
「えっ!」
確かにまだ誰も来てへんし、陽も登ってるやん。
「みんなは何処ですか?」
「あはは。今日は日曜だぞ。仕事は休みだ」
「ああ。そうなんですか」
みんな休みやし、そやからハディヤ氏が代わりに水を撒いてるんや。
「僕がやりましょうか?」
「おお、ありがとう。でもこれは私の仕事だ。ゆっくりしていいんだよ」
「そうですかぁ……。分かりました。ありがとうございます」
礼を言うて僕は昨日掘った穴の所へ行く。そう言えば昨日はここでミライと仲良くしてたなぁと、昨晩の出来事を思い出すとめっちゃ恥ずかしくなってしもたわ。
穴には水が滲み出してて、こっちまで水を引いた甲斐があったちゅうもんや。まだムハマドとカレムは見てへんやろから穴はそのままにして、僕は屋敷に戻って部屋のベッドでゴロゴロする。こういう時に、ここは戦争をしてる国やのに平和やなぁって贅沢な事を思てしまう。
いつになったら前線の街に行けるんやろう?
ふと頭にそんな事が浮かび上がるけど、それと同時にミライやゼフラ、ムハマドやカレムやガディエルさん達の顔も浮かんでくる。そしてハディヤ氏。このままずっと平和な日々が続いてくれてもええなぁと思てしまう。
そやけど、いつになったら南の街に行かせてくれるんやろう……。
そんな事を考えてたらまた寝てしもた。
「おにちゃん、朝ご飯だよ」
あれ。今朝はゼフラやないんや。
そんな疑問を抱きながら食堂に行ってみると、不貞腐れて座ってるゼフラの姿がある。
「ゼフラ、おはよう」
「ふん、もうー。ホントに」
みたいにぶつぶつ呟いてる。
「あれ、ゼフラ。今日の卵焼きはキレイに出来てるやん」
と褒めたつもりが仇となって返ってくる。
「それはね、ミライが作ったのよ。勝手に作っちゃうんだから。もう!!」
髪の毛がくしゃくしゃなんを見ると、ゼフラは朝寝坊をしたみたい。それで卵焼きをミライに作られてしもたんかな。
「まぁええやん、たまには。また明日作ってよ」
と言いながらゼフラの横に座り、ゼフラのくしゃくしゃな髪の毛を整えて上げると、ニターって顔になってくる。
「ありがとう。キタノ」
どうやらご機嫌が直った様や。
ところが朝食の準備が終わり、隣にミライが座ってくるとゼフラの機嫌がまた悪くなり、終いにはミライと何か言い合いを始めてしまう。僕を挟んで口喧嘩。何故か前に座ってるムスタファやユスフ、奥の女性陣達はそれを見て笑ろてる。それなら大した喧嘩やないなと安心する。
最後にハディヤ氏が登場して、二人の口喧嘩に注目しながら笑みを溢してる。ほんで僕の顔を見て嬉しそうに言う。
「ほほー。キタノはゼフラと結婚するんだね」
えっ! なんでそうなるん?
どうやらゼフラは僕のお嫁さんになると言うてるみたい。僕がおどおどしてると、ハディヤ氏は笑いながら、
「これは愉快だ。ゼフラはキタノのお嫁さんになって、キタノはミライの兄になるんだな。こんな嬉しい話は無いな」
と言うと、みんながドッと湧いた。
なんか勝手に変な事になってしもて僕が困った顔をしてるのを見て、みんながまた笑い出す。
「よし。それじゃお祈りをしよう」
と言うハディヤ氏の一声で静まり返った。
食事中、ゼフラが声を掛けてくるんでゼフラの方を見てると今度はミライから声が掛かる、ほんでミライの方を見ると僕はゼフラにしばかれる。みんなに笑われ、モテる男は何とも辛いもんなんやなーと思いながら食べたわ。
は、は、は、はぁ……。
食後は日曜日とあって勉強会も無いんで子ども達は中庭で遊んでる。部屋のソファーでくつろいでると、窓のそとでオムルとムハマドの僕を呼ぶ声がしたんで窓際に行ってみる。
「キタノ。カンフーを教えて下さい」
と言うてきたんで、
「OK。いいよ」
と返事をして中庭に出る。
中庭ではみんなサッカーをして遊んでる。ゼフラも男の子に混じって楽しそう。
僕は二人を呼んで、挨拶の仕方から、突き、蹴りの基本を教える。一緒にやりながら僕も汗をかく。
基本が終わると、型の練習。勿論、カンフー映画を真似したデタラメやけど、3人で真剣にやるとほんまに映画の道場のシーンみたいになってくる。そこへムスタファも入ってきて、更に盛り上がる。
その後、模擬戦みたいな事をやらしてみると、カンフーがいつの間にかレスリングになってたわ。そっちの方が様になってて結構上手い。僕も相手をするけど、みんなビビってしもてまともに戦えんかったわ。そんなに強くないのにね。
太陽も高くなって気温が上がってくると、誰が言うたか分からんけど自然とみんなは泉に向かって行く。
服を脱いで思い思いに泉に入る。僕も服を脱いでいると、ムスタファとオムルが水泳の競争を挑んでくる。
それを見たゼフラは、
「キタノは速いのよ。ザブーンと飛び込んでシューっと泳ぐのよ」
と自分の事みたいに自慢してる。それならゼフラの期待に応えなあかんなぁと思て体操をし、軽くひと泳ぎしてスタートに備える。
みんなが注目する中、僕ら3人はムハマドの合図で一斉にスタートをする。自己流やけど、流石はムスタファ。筋力で必死に泳ぎ、そこそこ速いくて只今1位。
僕は平泳ぎでのんびりとムスタファを追っかけてたらゼフラが、
「キタノ。何してるの、もうー。本気で泳ぎなさいよ」
と怒ってくる。そやし僕はクロールに切り替え、ムスタファをあっさり追い抜いてゴールするとゼフラが寄ってきて、めっちゃ喜んでキャーキャー言うてる。
ほんで今度は、
「私にも水泳をまた教えてよ」
と言うて服を脱ぎかける。
「そんな事してたら、また怒られるで」
と言うてると案の定、ミライとラビアがお昼ご飯が出来たと呼びにきてくれて、服を脱ぎかけてたゼフラは捕まえられて連れて行かれてしもた。
昼飯を食べ終わると、子ども達はなんやそわそわしてる。何が起こるんかと思て見てると、ハディヤ氏からみんなに昼から行くバザールで使う為のお小遣いが配られた。
小さい子から20ディナール、30ディナール、50ディナールと配られ、ミライやオムルより年上は100ディナールも配られる。
嬉しそうにしてる子ども達を見てると、ハディヤ氏は僕にもお小遣いを渡してくれる。それも200ディナールもの大金や。いや、大金かどうかは分からんけど、それでも一番高い金額をポッと渡してくれた。
「そんなん、僕は何もしてないからええですわ」
と言うてそのまま返そうとしたけど、
「水も引いてくれたし、この子達に勉強も教えてくれた。その感謝の気持ちだよ。ほんの少しだが取っといてくれ」
と言うて笑顔で去って行ってしまう。
食客の身分やのに申し訳ないなぁと思いながらも、バザールでみんなに何か奢って上げたらええかと思てそれをポケットにしまう。
みんなは一旦各自の部屋に戻り、お出かけの準備をする。やっぱり女の子は時間が掛かってるわ。
準備が出来た子から外に出て来て落ち着かへん様子で燥いてる。
みんなバザールに行くんをとっても楽しみにしてるみたいやった。
つづく
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