256帖 みんなでバザールへ
『今は昔、広く
ハディヤ氏の車には、奥さんとラビア、ミライ、エシラ、ゼフラが乗り込み、ラヒムさんの運転するトラックには、頭にスカーフを被ったアズラとメリエムが乗り込む。荷台に僕ら男連中が乗り込んで座るとトラックは動き出す。
みんなニコニコしてて、嬉しさが溢れ出てしもたユスフとアフメットはじゃれ合いから更に興奮してしもて喧嘩になってる。そやけどみんなバザールに行くのんが楽しみなんやと思う。普段は砂漠の中の農場でじっとしてるだけやもんな。
荷台から後ろのハディヤ氏の車を覗くと、僕に気が付いたゼフラが手を振ってくる。僕が手を振り返すと笑顔になってめっちゃ嬉しがってる。ほんまに可愛い小さなお嫁さんや。
車は
バザール広場の手前の道路脇に車が停まり、荷台から降りると少年達は一斉に駆け出す。何処へ行くんやろと見てると、走って行く先は向かい側のゲーセン。やっぱり何処の国の男の子もゲームが好きみたい。
それを目で追ってたら、
「キタノー!」
と言うゼフラの声がして、手を握りに来る。
「一緒にバザールを見ましょう」
みたいな感じで僕を引っ張って行く。その後ろをエシラとミライが付いてきた。
こんな小さくてもやっぱり女の子や。ゼフラが真っ先に行くとこは装飾品を売ってる店。ミライやエシラもやって来て目を輝かせてる。いつも本ばっかり読んでる大人しいエシラも次から次へとアクセサリーを手にとり、品定めをする。
そこへラビアもやって来て、3人でワイワイ言いながら楽しそうにしてる様子は日本の女子中高生が雑貨屋でショピングをしてるのと殆ど同じ感じ。そんなほのぼのとした3人の様子を眺めてたらこっちはゼフラが腕をひっぱってくる。
何事ぞと思て振り返ると、どうやら腕輪を買いたいみたいで適当なのを見つけるとそれを僕の腕に通してくる。その腕輪は勿論、金や銀でメッキした高級品で無く、プラスチックのおもちゃのヤツ。3つの腕輪を僕の腕に通すとゼフラはニターっとして嬉しがってる。ほんで今度は自分用の腕輪を探してる。おもちゃの腕輪やけど僕とお揃いで付けたいみたいや。
ところがゼフラが選んだ腕輪はゼフラの細い腕には大きすぎて直ぐに抜けてしまう。そやから僕も一緒になって箱の中からゼフラの腕に合う大きさの腕輪を一緒に探すけど、どれも大きくて中々合うヤツがみつからへん。それでも箱の底の方を探ると幾つか小さいのが見つかる。それをゼフラに見せると一瞬喜んだけど、手に取ってみるとどうやらその色が気に入らんみたいで箱に戻してる。
それを見てた店主が、
「これはどうかな」
と小さい箱を出してきてゼフラに見せる。その箱には少し小さめの腕輪が入ってて、ゼフラは嬉しそうにその箱の中を覗き込み気に入ったヤツを6つ選ぶ。ほんでそれを自分の左右の腕に3つずつ通し僕に見せてくる。
「ねー、これ綺麗?」
「おお、綺麗やで」
と笑顔で言うと、小踊りしてめっちゃ喜んでる。それでお金を払おうと店主になんぼか聞いてると、ゼフラが僕のシャツを引っ張ってくる。
何やろうと思て振り返ると、ゼフラは自分の小さな吊り下げバッグを開けて中のお金を見せてくる。さっきハディヤ氏から貰ろた20ディナールとそれ以外に前から貯めてたと思われる小銭が少し入ってる。
「いいよ、僕が出すよ」
と言うてバックを閉め、僕はポケットからお金を出して払う。
すると店主が、
「やさしいお兄ちゃんやな」
みたいな事をゼフラに言うとゼフラは首を振って少し怒った様な声で、
「違うのよ。私のダーリンよ」
と言うてるみたいや。店主は笑って僕に、
「可愛い小さなお嫁さんだな」
と言うた後に、また笑ろてくる。僕は苦笑いをしてお釣りを貰ろた。
早速ゼフラは腕輪をミライやエシラ、ラビアに見せびらかしに行く。どうやら僕とお揃いやと自慢してるみたい。
「3人にも何か買うてあげるよ」
と言うと、ミライとラビアはお互いの顔を見合わせた後、嬉しそうに二人で隣の生地屋へ向い、そこで品定めをする。綺麗な模様の布を選び、頭に被って二人で似合てるかどうか確かめ合うてる。
普段大人しく本ばかり読んで余り笑わへんエシラも布を選び始め、ショッピングを楽しんでる様や。いつの間にかゼフラも布を選んでたけど、布は大きすぎて頭には被れへんし興味を無くしてした。
漸くミライとラビアは気に入ったものが見つかったみたいでそれを僕に見せに来る。ミライが選んだ布は鮮明な青と黄色で描かれた模様で、それをミライの頭に被せてみると布からはみ出した少し金色に輝く癖毛がアクセントになってより一層可愛く見える。ラビアは赤と白のチェックの布で、もっと派手な方がええかと思たけど、本人がこれがええと言うし、
「うん。似合てるで」
と言うと二人共嬉しそうに微笑んでる。店主にお金を払うと、二人はお礼を言うて折りたたみ、バッグの中に大切に仕舞ってた。
エシラはと言うと、いろいろ漁ってはみたものの余り気に入ったヤツが無いらしく、
「私は要らないわ」
と言うてくる。それは残念やし僕は、
「エシラが好きな本を買いに行こうや」
と言うと、笑顔になって嬉しそうにしてたけど、
「本は高いのよ」
と、少し心配してる。
そうなんや。ここでは本は貴重品なんかなぁ。
そう思たけど、僕はハディヤ氏に200ディナールも貰ろてるし、僕は何も欲しいもんは無いさかい、
「構わへんよ。僕はお金を使う事は無いさかいにええよ」
と言うと、ミライとラビアはエシラの手を取って歩き出す。僕はゼフラと手を繋ぎ、人混みを避けて二人の後を追う。
通りに出て反対側の本屋に向かう。途中、男連中がまだゲームをしてる姿が見えたし、ラビアにゼフラを託して先に本屋へ行って貰い、僕は隣の雑貨でコーラを買うて、ほんでゲームに熱中してる男連中に振る舞う。
ありがとうとは言うてくれたけど、目はサッカーのゲーム盤に集中してたわ。あはは。
本屋に行くと、店の中も人でいっぱい。本棚を眺めてみると英語のタイトルの本も少しはあったけど、殆どがペルシャ文字の様なクルド語で書かれた本ばっかり。ひとつ手にとって見てみたけどさっぱり読めへん。
ミライとラビアは暇そうにエシラに付き合ってる。ゼフラはと言うと、地面にしゃがみこんで絵本を見てる。
「その本が欲しいんか?」
と聞くと、ゼフラは首を振ってる。どうやらまだ字は読めへんみたいで、ぱらぱらと捲って絵を見てるだけみたい。
エシラはというと、真剣な眼差しで2つの本を手に持ち、どちらを買おうか迷てるみたい。ほんで悩んだ末に決めた分厚い本を僕が預かり、店主になんぼか聞いく。
聞いてびっくり、なんと本代は160ディナール。まだ190ディナールほど持ってたし何とか払えるけど、布や腕輪に比べたらめっちゃ高いと思てしもた。そやけどそれをエシラに悟られん様にすっとお金を出して払う。
ほぼ文無しになってしもたわ。また暫く働くかぁ。
そう思いながら本をエシラに渡すと満面の笑みを浮かべて僕にお礼を言うてくれる。いつもは大人しいちょっと優等生っぽいエシラやけど、笑顔はホンマに可愛かったわ。
本屋を出て左のゲーセンの方を見ると、なんとムハマドとカレムが5、6人の少年らにとり囲まれ、そこにはなんか不穏な空気が漂ってる。
そう思てたら、2人はそのヤンキー連中に路地へ連れ込まれていく。日本で言うとカツアゲをされてる様な雰囲気や。
何処の国でもヤンキーは居るんやなぁ。
と思いながら、僕は足早に二人のとこへ向かった。
つづく
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