251帖 兄と妹
『今は昔、広く
そのままミライに吸い込まれるていく僕。
ところが寸での所でミライはパッと目を開ける。
へっ!
「だから……、キタノ。
お、お兄ちゃん!? わぁわぁわ……。
危ないっ。もうちょっとでミライの柔らかそうな唇を奪ってしまうとこやったやん。やばいとこやったわ。
「お、お兄ちゃん……」
「うん」
「お兄ちゃんねー。いいよ。じゃぁ僕は今日からミライのお兄ちゃんや」
「ほんと。うれしいよー」
そう言うとミライは、また顔を僕の胸に埋めてくる。そして何度も、
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
と呼びながら腕に力を入れてギュッと抱きしめてくる。
「ミライ……」
「私のお兄ちゃん!」
そう言いながらミライは笑ろてる。
お兄ちゃんと妹かぁ。
なんか嬉しい様な気もするし、ちょっと残念な気もする。
僕の胸の中では、ミライの喜んでるんが伝わってくるけど……。
アズラやメリエムの言うてた事て、こういう事やったんかなぁ?
疑問も残るし、ちょっと複雑な気持ちやったけど、それでもミライとの距離は近こなったし、ミライが寂しくなくなるんやったらこれで良しとしよか。
「私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったの。だから。とても嬉しいわ」
そんなもんかぁ。
「うん……。僕も可愛い妹が出来て嬉しいで、ミライ」
「ありがとう」
やっぱお兄ちゃんなんや。
「ね、ね。『borther』ってジャポンで何と言うの?」
「えー、オ、ニ、イ、チャンやで」
「お、に、ちゃん?」
「まぁ……、それでええよ」
「よし、これからキタノの事を『おにちゃん』って呼ぶわね」
「おお、ええで」
「うれしい!」
穴に落ちたきっかけで、僕は「おにちゃん」になってしもた。ちょっとガッカリと言うか小恥ずかしいと言うか、なんや複雑な心境やわ。
「そやけどミライ。この穴から抜け出さなあかんで」
「そうねー」
「もう、大丈夫か?」
「ええ、平気よ」
「ほな、ちょっと手、放してくれる。僕が先に登ってミライを引っ張るわ」
「うん」
ほんで僕は勢いを付けて穴を登る。
あれ?
登ろうとずるとズリズリと砂が崩れ落ちてきてもうちょっとのところで登れへん。
もう1回登ろうとすると、ミライが押してくれたんやけど非力やしやっぱり登れん。
「うーん……」
これ以上、穴を崩したないし別の方法を考える。するとミライが提案してくれた。
「おにちゃん。私が先に登るはわ。下から押してくれる。そして上からおにちゃんを引っ張るのよ」
「よっしゃ。それでやってみよか」
ミライは穴の壁をよじ登る。それを後ろから僕が押すけど、あと一歩って所で滑り落ちてしまう。
「えーっと、ミライ。お尻を押すけど……、ええか?」
「うん。いいわよ。押して!」
なんやめっちゃ元気なミライなんやけど。こんなミライは初めて見るわ。
「よしいくでー」
「頑張れ!」
最後にミライの足を持ち上げて無事に脱出できた。
「今度はおにちゃん。登ってきて!」
「よし、いくでー」
ミライと両手を繋ぎ、引っ張って貰ろてよじ登るけどもう少しの所で手が離れてしもた。上ではミライが尻もちを着いてるみたい。
「ミライ、大丈夫?」
「ええ、平気よ。もう一度!」
もう一度、挑戦する。
「それ! もうちょっとや」
「それー」
あと少し。僕は穴の壁面に膝を着いてもがく。するとミライは僕を引っ張ったまま足を滑らし後ろに倒れる。
やばっ!
その勢いで僕は上がれたけど、手を放さんかったし倒れたミライに僕は覆い被さってしまう。
「キャッ!」
肘を着いたけど僕の顔はミライの胸に見事に埋もれてしまう。
ああ……。柔らかい……。天国やー。
と思たけど、やばいと感じて手を離し立ち上がろうすると、ミライに掴まれてしまう。そのまま抱きかかえられて再び僕の顔はミライの胸の中へ。
今まで、ふわっとした
ああ、気持ちええーわ。
「おにちゃん、登れたね」
「う、うん。ありがとう」
「うふふ」
「ミライが温かい」
「おにちゃんも温かいよ」
ミライの心臓がドクドクしてるんが分かる。でもそんなに激しくなく、ゆっくりと大きく響いてくる。
ずっとこのままでいたい。めっちゃ落ち着く。
「どうしたの?」
「こうしてるとリラックス出来るんよ」
「うふふ」
「何笑ろてんの?」
「おにちゃん。仲良くしてね」
「おお、仲良くしよな」
「嬉しいわ」
「うん。お兄ちゃんも嬉しいで」
「えへへっ!」
あかん! 自分の事を「お兄ちゃん」って言うんはめっちゃ恥ずかし。もう言わんとこ……。
ミライは笑ろてるけど、僕は「お兄ちゃん」ではまだちょっぴり物足りん様な気もしたけど、それもええかと思うようになってきたわ。
「ほんなら、そろそろ屋敷に帰ろか?」
「ええ、そうしましょう」
僕は起き上がり、ミライの手を取って立ち上がらせると砂を払ろてあげて歩き出す。そやのにミライは止まったままや。
「ミライ。行くで」
「じゃ、手を繋いで」
「もう、しょうがないなぁ」
手を繋ぐとミライは、まるで小さい子の様に喜び、笑顔で歩き出す。
こんな明るくて嬉しそうなミライの表情は初めて見たわ。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます