ドゥホック
233帖 瓦礫の街角
『今は昔、広く
角を曲がった先は、無残にも崩れ落ちたコンクリートの瓦礫の街やった。
「一体これは……」
「元々ここも住宅地だったが、5日前の爆撃でヤラれたんだ。私の友人の家もあったんだが、今はどこにあったか分からないし、生きているのかも分からない。まだ連絡も付いて無いんだ」
そう言うとアリー氏は車を降りる。僕もカメラを持って後ろを追い、瓦礫の山の上に立つ。
見渡す限り、一区画が丸ごと破壊されてる。所々に破壊が免れた建物があるけど、よく見てみると半分は崩れ落ちてる。到底住めるもんではない。
「なんでこんな住宅街を爆撃したんですかね?」
「多分誤爆だろう」
そう言えばここから少し離れた所にPDKの司令部がある。本来はそこを狙ったんかも知れんし、もしかしたら無差別攻撃かも知れん。
「一体何人の人が死傷したんですか?」
「私もよく知らないが、300人程ここに住んで居たらしい」
そう言うとアリー氏は瓦礫の中を進み始める。
初めて自分の目で見る爆撃された跡。一瞬にして建物と人々の生活を破壊した爆撃の凄まじさに僕は呆気にとられて写真を撮ることすら忘れてた。
アリー氏の後ろを追って瓦礫の中を進む。
アリー氏は、
「写真に撮っておくんだ」
と僕に促す。余りにも酷過ぎてちょっと躊躇ったけど、「記録をせな」と思い何度もシャッターを切る。
瓦礫の下からはかつての人々の生活の跡が伺える。崩れた家具や壊れた食器類。潰れた鍋や子どものおもちゃらしきものも多数見える。焼けた衣類に、未だ鮮明さが残る血痕。燃えただれた跡。まだ焦げた匂いが漂ってる所もあるし、硝煙の匂いがする所もあった。
ある家の居間の残骸を見つけた。家具や食器などが無残に残されてるとこから、家族団欒のひと時やったんが伺える。その中に落ちてた雑誌に一人の人間の肖像写真があった。
『
彼の名の下で行われた爆撃によって、この様に街が破壊され大勢の方が亡くなったり怪我をされたかと思うと腹が立ってくる。まじでムカついてきて、その写真をいっぺん踏み潰してから写真に収めといた。
徐々に瓦礫の丘を降りてくる。半分残った家屋に絨毯を敷いて雨露をしのいでる家族も何軒かある。その前を通った時に僕は当時の様子を家族の主人に聞いてみる。
夜中に急に爆発音と衝撃が走る。直ぐに家族で外へ出て、皆で走って遠くへ逃げた。振り返るとこの辺一帯は次々と爆撃され、街は崩れていき火の手が上がった。それをただ見る事しか出来なかったそうや。
これを話してくれたおじさんはめっちゃ悔しがってた。
その後も崩れ去った瓦礫の街を歩く。生き残った人が知人に避難先を知らせる紙が貼ってあったり、崩れた壁にメモがしてある。アリー氏はそれを一つ一つ確認し、知り合いの行方を探してるみたいや。
「確かこの辺だと思うが……」
そう言いながら1時間位探しまくったけど居所は掴めへんかった。
もしかしたらみんな死んでしもたかも知れんと、アリー氏はボソっと言うてた。
再び瓦礫を登り、車のとこに戻ってくる。疲れたんもあったけど、何より心に重たいものが残っていた。
その後、僕らはPDKの事務所に寄る。アリー氏が取り合ってくれて指揮官の偉いさんと話が出来る様になる。
「こんにちわ」
「こんちには。ようこそ
その質問にアリー氏が説明をしてくれてる。アリー氏と指揮官のおっちゃんのやり取りを聞いていると、どうやらアリー氏は僕を軍と同行出来へんやろかと言うてるみたい。そんな大層な事は考えてへんかったのに、もしそうなってしもたらどないしようかとちょっとビビってた。
結果は、
「写真を撮って我々の活動を広めてくれるのは嬉しいのだが、我々の友である日本人のあなたを守る事は出来ないかも知れない。もし万が一、あたな身に危険が及んでは我々は非常に残念だ。だから軍との同行は出来ない」
と言う事やった。これには僕もホッとして、
「では安全に行ける街を教えて貰えませんか?」
と尋ねる。それには別の担当官を呼んで僕に説明させてくれた。
彼に拠ると現在、
僕はノートを開いてメモをする。
更に南の
いずれにしても、ここドゥホックからは南に行けへんので北回りで行くのを勧めてくれた。
「それでも良いか?」
とアリー氏が聞いてきたんで僕は、
「充分です」
と答える。
「それなら北から回る方法を家で考えよう」
と言う事で、お礼を言うて司令室を出た。
車に乗った僕らは街外れにある住宅街の白くて大きな家の前まで来る。大きな家と言うかお屋敷の様な家がなんとアリー氏の自宅らしい。
アメリカンスタイルのおしゃれな家やって、僕はびっくりしてしもた。
つづく
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