ディヤルバクル→シロピ
227帖 国境の街
『今は昔、広く
タバコを咥えながらどないしよかと悩んでたら、何処からか人の声が聞こえてくる。少年っぽい声で、しかも二人居る。
そっと声の方に近付いてみると、居ました居ました。中学生位の少年が二人、バスターミナルから街へ降りてく階段の所に座ってる。
「こんばんわ」
「わーぉ」
誰も居らへんと思てたんかめっちゃびっくりしとる。
「あなたはチンか?」
「いや。僕はヤポンや」
「おお、ジャポン」
こんな夜遅くに何してるんやろう。
「君らは、何してるんや」
どうやら余り英語は喋られへんみたいで、こんな夜遅くまで客が居るとは思えんけど持ってた箱を見せながら靴磨きの仕事やとアピールしてる。
ほんで何か言いたげやけどトルコ語は分からんし困ってたら、箱から道具を取り出して靴を磨かせてくれとジェスチャーしてる。
「なんぼや?」
「二千リラ!」
「それなら良いよ」
と靴を差し出すと一人が1足ずつ磨き始める。
やられた。2人で四千リラや。
そう思たけど、一人でぼーっとしてても寂しいだけやから暇つぶしに丁度ええわと思う。多分、分からんやろけど英語で話し掛けて見る。
「お前ら学校は無いんか」
「夏休みや」
そうやな。夏休みやなぁ。
「ここから、
「シロピ?」
「そうや」
首を捻ってるとこを見ると分からんみたいや。そんな感じで殆ど意思が伝わらへんまま話を続ける。
言葉は通じへんけど、誰かが傍に居ってくれるだけで心強い。靴磨きが終わった後お金を払い、持ってきてたカロリー補給食品を3人で食べる。少年の2人は初めて食べるみたいで恐る恐る食べてたけど、一口食べると「美味しい」みたいな事を言うて喜んでた。
そやのに食べ終わると「家に帰るわ」と去って行ってしまう。もう少し居てくれたらと思いながらも、こんな遅くまで少年たちを居らすのも悪いと思て諦める。
僕はまたベンチに戻り、リュックを枕に少し横になる。一昨日までの柔らかいベッドが恋しいし、それ以上に人の温もりが欲しくなってきた。
8月17日、土曜日の5時過ぎ。人の気配で目を覚ます。辺りは大分明るくなってきてて、バスターミナルには5、6人の人が屯してる。
その中の紳士風のおっちゃんに聞いてみる。
「ここからシロピ行きのバスは出てますか?」
「ああ、確かあったはずだ」
良かった、英語が通じた。
「出発の時間は分かりますか」
「すまない。それは知らないんだ」
「いいえ、ありがとうございます」
兎に角ここに居ったらシロピへ行けることが分かっただけで安心できた。
それから30分に1本位の間隔でバスがやってくるんで、その度に車掌に行き先を聞くけど、どれもシロピ行きでは無かった。
眠たいけど我慢してバスが来る度に確認していくと、漸く8時前に来たバスがシロピに行くと言うし、慌てて乗り込む。
少し小さめの古いバスやったけど終点がシロピらしいので心置き無く寝ることができる。
ほんで12時前に終点のシロピに着く。文字がトルコ語に変わっただけで、なんの変哲も無い普通のオアシスの街って感じ。それでもヘニャヘニャしたペルシャ文字よりは少しはましか。
隣の国では戦争をしてるのに実にのんびりとした国境の街。軍隊の武装車両が走ってる訳でもないし、兵隊が歩いてる訳でも無い。人々は普段どおりに生活してるみたいやし、公園では子ども達が遊んでる。
取り敢えず今日は2日ぶりにベッドで寝たいさかいにホテルを探す為に、バスを降りた大通りから北へ伸びてる賑やかな通りへ入ってみる。いろいろな商店があるけど、名前を見てるだけでは何の店か分からへん。それぐらい英語とトルコ語では共通点が無い様に思える。
そやし僕はホテルを見つけることが出来ずに突き当たりの公園まで来てしもた。ここから先は住宅地みたいやし、折り返して戻ってみる。
二筋ほど通り過ぎたところで、店の前に立ってた散髪屋の主人に声を掛けてみる。
「すんません。この辺にホテルはありませんか?」
「おお、あなたはジャポン?」
「はいそうです」
「OK、大丈夫だ。この通りを行けばホテルは2軒あるぞ」
「分かりました。おおきに」
角を曲がって少し狭い通りを進む。突き当りまで進む。そやけどホテルの看板を見つける事は出来んかった。
おかしいなぁ?
それっぽい建物はあったけど「
なるほど。「OTELİ」って、もしかしてホテルの事かな?
そう思て中に入って聞いてみる事に。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「ここはホテルですか」
「そうです。泊まりますか?」
「ええ。一泊なんぼですか?」
「一万六千トルコリラです」
ううっ、高い? いや桁が違うだけや。1ドルを三千五百トルコリラで両替したし、えっと……500円弱ぐらいか。
「それでお願いします」
「では、どうぞ」
受付が終わると2階の部屋へ案内される。部屋は狭かったけど清潔でベッドもそこそこ柔らかい。荷物を置き、ベッドに横になる。
「はぁー」
と大きく息を吐き、思いっきり背伸びをする。
「とうとうイラクとの国境までやって来たぁー」
これから先どうなるんか全く予想がつかへん。不安で少々気持ちが滅入ってきたけど、ベッドが気持ちようて僕はそのまま寝てしもた。
つづく
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