201帖 酔っぱらいと天使
『今は昔、広く
「いやー飛行機が遅れてこんな時間になってしもたわ」
「どうもお疲れさんです」
「こんなに日本人が居るのねー」
「いや、今日たまたま集まっただけですよ。僕らもびっくりしてます」
11人目、12人目の日本人は大阪で高校の先生をやってるご夫婦で夏休みを利用して飛行機で
「君たちはパキスタン長いの?」
「そうですねー……。今日来た人も居ますし、1ヶ月以上居る人もいますよ」
「そんならこれは喜んで貰えるかな……」
おじさんはリュックをゴソゴソして中からなんと日本酒とウイスキーの小瓶を出してきた。
「久し振りやろ。みんなで飲もうや」
「おお、これは酒やないですか。よう持って来られましたねぇ」
「ははは。これが無いと困るからねー」
「こんな貴重なもの、飲んでも良いんですか?」
「ええよー。ようけ集まってるさかい。さーみんなで飲んでや」
僕は部屋に戻りシェラカップとコッヘル、それに僕も残してたウイスキーの白瓶を持ってきた。
「これも追加で……。みんなで飲みましょ」
「おお、いいね。さすが北野さん!」
その晩は久々の酒にみんなで酔いしれて、話は大いに盛り上がった。ここはパキスタンだからと訳の分からん理由を付けて高校生の少年にも飲ませてみたら、これが結構いける口でその場は盛り上がった。
久し振りの酒なんで少量でもみんなは直ぐに酔えた。だんだん酔いだすとみんなの本性が出てきて面白い。
大人しそうにしてた人が急に旅の事を愚痴り出したり、インドのどこそこでは騙さてれ大金とられたとか言うては怒り出したり、やっぱり日本が一番ええわと泣きそうになったりと、みんな思てる事を吐き出してた。
失恋してこの旅に来た人は、
「どうしてフラれないといけないんだー」
とか、
「なぜ俺はここに居るんだー」
などと叫びだし、宥めるのに苦労したけどみんなそれぞれ持ってる思いや悩みを聞いて真剣に話し合う。
あまりにも真剣に話しをしすぎて酔っぱらい同士で口論にもなりかけたけど、こんだけ大勢居るし宥める人も居たり、逆に煽る人も居ったりで地獄の様になった事もあった。
ほんの少しの酒やったけど、それと異国で同胞が寄り添うこの雰囲気がお互い他人同士やけどついつい本音を出させた。みんな自分の弱さを曝け出し、それをみんなで支え合う場になっていった。
結局、悩みがあったり思いつめたりして旅に出て来た人ばっかりやし、それぞれの思いをみんなで理解・共有して、最後はお互いを励まし合い、「頑張って生きていこう」と言う結論に達した。
話が一段落したとこで僕はタバコを吸おうと思て外へ出たら、なんと激しい雨が降ってるではないか。これはヤバイと思て僕は部屋に戻り、ローソクのランタンを持ってまたみんなのとこに戻った。
「何ですか、それ」
「うん、今、ごっつう雨が降ってきてんねん。そやからもうすぐ停電になるし、そうなった時に点けようと思て」
「へー、雨降ったら停電になるんだぁ」
「まぁ、多分やけどね」
「流石、経験豊富ですねー」
「いや、多分やで……」
「それだったら今のうちにシャワーを浴びてくるわ」
と日夏っちゃんから順番に浴びることになった。
ローソクをテーブルの上に置いてまた話をしてたけど、いっこうに停電にはならんかった。みんなでトランプをしたり、旅の話をしたりでその後も日本人会は盛り上がった。
夜も更けてくると、誰が言い出したんか分からんけど、ちょっと卑猥な「スネークマンショー」のネタで盛り上がる。僕も大好きなネタなのでゲラゲラと笑いながら参加した。
そうやって深夜まで盛り上がってたら、1時前にやっぱり停電してしもた。まぁそれをきっかけにそろそろ寝よかと言うことになり、各自の部屋に戻った。ランタンはみんなが部屋に戻るために大いに活躍したけど、それっきり朝までは僕の手元に戻ってこうへんかった。まぁそんなんは忘れて僕はめっちゃ気持ちよく寝てた。
8月4日の日曜日。
窓から入ってくる日差しとなんか可愛らしい声で目が覚める。その声は窓のそとから聞こえてる。しかも子どもの声や。
起き上がると欧米人の2人はもう居らんかったけど日夏っちゃんと高島くんはまだ寝てたし、僕はカメラを持ってそっと外へ出てみた。
雨はとっくに止んでて、朝靄が太陽に照らされてなんとも不思議な光景やった。
ホテルの裏の空き地には草むらがあってピンクや黄色の花がいっぱい咲いてる。昨晩の雨で開花したんやろうか今まで気づかへんかったんが不思議なくらい沢山咲いてた。
そこには小学校低学年位から3,4歳の女の子が4人、花摘みをして遊んでる。お姉ちゃんが妹の髪に摘んだ花を差してて、それはそれは微笑ましい光景やった。それが淡い朝靄包み、僕には天使が遊んでるように見えた。昨日の夜のゲスな話で汚れた心が洗われる様な光景や。
僕が写真を撮ってもええかと聞くと、一瞬固まった様に見えたけど、4人はお花を思って集まってくれた。朝靄の不思議な光景が彼女らの可愛らしさをより一層引き立たせて、なかなかいい写真が撮れた。
その後も花摘みをする少女らの写真を取り続ける。無邪気に戯れる様子はいい被写体になった。
朝靄に逆光が差してきて、花を一杯摘んで喜んでる少女の横顔はまさしく
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます