カリマバード(フンザ)→ギルキット
199帖 アッルラーの加護がありますように
『今は昔、広く
8月3日の土曜日。
朝早く部屋へやって来た日夏っちゃんに叩き起こされた。
「まだ寝てるの。もう行くよ」
と言われたけど、僕は夜遅くまでじいさんと話してたさかいまだ眠たいし、それに朝飯を食ってお腹の調子を見てから移動したかったら、
それからもう少し寝て荷物のパッキッングをして食堂に行く。朝食を食べて部屋でお腹の様子を見るも1時間経っても便意は催さなかったんで、僕はギルギットに向かうことにした。
最後に食堂へ行きじいさんに別れを告げると、僕を抱擁し何度も何度も頬を合わせた。その上
バスストップ前に荷物を置き、はっさんの店にも顔を出して別れを告げる。はっさんとも肩を抱き合い、長々と別れを惜しんだ。
「カーオーディオを楽しみにしてるよ」
「OK、必ず送るよ。その代わり、この後じいさんをホテルに送ってやってくれるか」
「お安いご用だ」
もっと話したかったのに、こんな時に限ってバスは直ぐに来る。
「では、お元気で」
やっぱり涙が出てきてしもた。じいさんも皺くちゃな顔に涙を流してくれてる。
「おお、我が息子にアッルラーの加護がありますように」
「キタノさんも元気で!」
最後の懐抱をして僕がバスに乗り込むとバスは直ぐに走り出した。丁度一番後ろの席やったんで僕は見えなくなるまで二人に手を振った。
さいなら、フンザ。
さいなら、はっさん。
さいなら、じいさん。お元気で……。
これが永遠の別れになった。
2時間程でギルギットに着き、マディーナカフェを覗くとオーナーはもちろん日夏っちゃんや高島さんの姿も無かったけど、顔見知りの店員が僕を見つけて出て来てくれた。
「日本人の旅行者は来てませんか? 女の子と男の人ですが……」
「来てましたよ。もしかして、あなたがミスターキタノですか?」
「そやけど」
「そうですか。今、オーナーと道場に行ってます。あなたにも来て欲しいと言ってました」
いきなり道場に連れて行ったんかぁ……。
しょうがないし僕も道場に向かう。
道場まで来ると中から元気な掛け声が聞こえてくる。中を覗くと、日夏っちゃんは椅子に座って見学してた。
「よう!」
「あら、着いたのね」
「うん」
「早かったじゃない」
「まぁねー」
リュックを置いて椅子に座って見学してると、カフェのオーナーが僕を見つけて寄ってきた。
「ミスターキタノ。ごきげんよう」
僕は拳法のスタイルで合掌をして挨拶をした。
「今日はまたお世話になります」
「おお、ありがとう。それよりあなたに感謝の言葉を送りたい」
「へっ?」
「いや、あなたの友人がたくさん泊まりに来てくれたよ」
ああ。みんなに宣伝しといたからなぁ。
「それはよかったです」
「さー、一緒に演武をやろう。あれから随分と練習をしたんだ」
「よし、やってみよ」
僕は身体をほぐしながら前を見たら、なんと高島さんがみんなと一緒に空手の練習をしる。高島さんのぎこちない動きからすると、多分オーナーに素人やのに無理やりやさられたみたいや。Tシャツが汗でドボドボになってる。
僕はオーナーと向かい合って演武をやる。1週間やそこらでは大して動きは変わらんかったけど、手順はしっかりと憶えてる。
なかなかやるやん。
次は僕がやられ役。最後の関節技を決めたオーナーは得意そうやった。本当は痛くないけど痛い振りをしてると、
「なんや北野くん弱いやん。オーナーすごーい!」
と言いオーナーに向けて拍手をしてる。それに気を良くしたオーナーは日夏っちゃんとこに行って握手をしてる。
「北野くんは全然やなぁ」
「あほー。あれはわざと痛い振りをしてるんや」
と言うたけど、日夏っちゃんはオーナーをずっと褒めてた。
その後一通りやり、オーナーに幾つかアドバイスをして合掌をして稽古を終わった。ちょっとやっただけやけどめっちゃ汗が出てきた。でも久し振りの気持ちいい汗や。
しばらくすると高島さんの方の稽古も終わったみたいで、4人で道場を出てホテルに向かった。
オーナーに紹介された部屋は5人部屋で既に欧米人が2人、ベッドで横になってる。
オーナーに拠ると、今日は別の部屋に沢山の日本人が泊まってるとの事。
「おお、面白そうやん。なんかええ話が聞けるかも知れんで」
「ほんなら後で行ってみよかぁ」
「そうですね」
「よしほんなら用意して行こか」
荷物を整理した後、3人でその部屋に行ってみる事にした。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます