パスー→カリマバード(フンザ)
196帖 エアメール
『今は昔、広く
Dear 憲さん
この前は電話と絵葉書を送ってくれてありがとう。フンザと言う村にいてるんですね。こんなに綺麗な花がたくさん咲いてる所なんて、私も行ってみたいです。
ところで身体は大丈夫ですか。病気や怪我はないですか。それだけが心配です。病気になったらすぐに病院に行ってくださいね。
先月からうちの新聞で日曜日に「シルクロード」の特集をやっています。
「憲さんはこの辺を行ったんかなぁ」と母と話をして、憲さんの旅を想像してます。だから私も憲さんと一緒に旅をしてる気分になっています。
憲さんが行くと言ってたイラクの方は少し落ち着いてきてるみたいです。だけどイラクの北部ではまだ戦闘が続いているそうです。充分に気をつけてね。戦争に巻き込まれたりしない様に、安全なところに行ってね。
私の方はと言うと、夏休み中に文部省の研修で日本一周をすることになりました。私も旅をします。憲さんと違って船で一周するだけですけどね。でも行った事が無い所なんで楽しみにしています。お土産を買っておきますね。
それから電話でも話したけど、この前の日曜日にも憲さんの下宿に行ってきました。お掃除をした後、部屋でゴロンとしてたら自然と涙が溢れてくるの。憲さんのいない4畳半の部屋がとても広く感じて、寂しくて寂しくて涙が止まりませんでした。
そしたら、同じ下宿のカメラマンをやってる憲さんの先輩さんがやって来て、隣の喫茶店でご飯を奢ってもらいました。今度会ったらお礼を言うといてね。
喫茶店のおばさんも、憲さんから絵葉書が届いたって喜んではりましたよ。
それで喫茶店から一人で帰る時、やっぱり涙が出てきました。早く帰ってき欲しい……けど、憲さんの大切な旅です。だからわかってるんやけど、でも早く会いたくて仕方がないです。また一緒に遊びに行ったり、山へ行ったり、お話したりしたいです。帰ってきてまた会える事を楽しみに待ってます。
それでは身体に気を付けて、旅を頑張ってね。また、手紙を下さい。
from 美穂
うーん、会いたいなー。
会いたい、会いたい、会いたい……。
そして、グッと抱きしめてみたい……。
美穂の事を思い出してたら目頭が熱くなってきた。
7月30日、火曜日。
昨日の氷河強行脱出行動のせいで疲れ果て、10時まで寝てしもた。僕は今日、また
待つこと20分程でギルギット行きのギンギラバスがやって来た。例の如く満員やったんで僕らは屋根の上に乗る。1時間半程で、カリマバードの村が見えてきた。
「ほしたら……、またどっかで」
「そやね。またどっかで会えるやろ」
「そうそう、ギルギットでは
「おお、分かった。僕もそこに泊まるわ」
バスが
「お元気で」
「またなぁ」
ドアが閉まり、バスはギルギットに向けて暑い日差しの中を走り出す。そして陽炎の中に消えて行った。
カリマバードまで登ってきてホテルに着くとオーナーのじいさんが笑顔で迎えてくれた。
「おお、我が息子よ。よく帰って来たね」
「ただいまです」
「よかった、元気そうだな」
「ええ、ちょっと疲れてますが……。そうそう、ホテルとか手紙とか手配して貰ってありがとうございました」
「いや、気にしないでくれ。それより氷河は楽しめたかい?」
「はい、大きくてびっくりしました」
「そうか、それはよかった。さぁ座りなさい。チャイを入れよう」
チャイを飲みながら、じいさんに
こんな間近で長々と話したことは初めてやった。じいさんの顔を見つめながら話してると、僕のホンマの祖父に思えてくる。痩せこけた頬と目の感じが、僕が高校3年の時に亡くなった母方の祖父と似てる。久し振りに祖父と話せた様な気がして嬉しくなってしもた。
続きはまた晩飯の時に話しましょうと、その後僕は部屋に行く。今日の宿泊客は僕だけみたいで宿泊棟は人気が無かった。
僕はベッドに横になって昼寝をする。
ところが僕は急にお腹が痛くなって目を覚ます。パスーで山に登り始めてから一回も行ってなかったし、漸く便意が来たと喜んでトイレに入る。
汚い話やけどカッチカチの物が出た後軟便に変わり、ここ3日分の便が一気に出ていった。そして最後は便が水の様になり、昼に食べたナンやさっき飲んだチャイまでが出てきた様な感触やった。
一体僕のお腹の中で何が起こってるんや。
と不思議に思い、直ぐに日本から持ってきた和漢の胃腸薬を30粒飲むと、なんとなく落ち着いた感じがして僕はまた昼寝を続けた。
つづく
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