190帖 三雲さん、再び

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



 3人で座って、まずは注文。僕は一昨日と同じくバターナン2枚とチャイ、シシカバブーを1本頼むと、


「僕もそれで」


 と同じもんを頼まはった。はっさんはスープを注文したみたい。


「えーっと、僕は北野って言います。こちらははっさん」

「あ、どうも三雲ですー」

「アッサームアライクン。私はハッサンです」

「ア、アッサームアライクン。この人、北野さんの友達なんですかぁ?」


 なんか喋りやすそうない人やなぁ。イントネーションも関西弁っぽい。


「はは、そんな感じですわ。そやけど……、もしかして三雲さんって関西ですか?」

「そやで。大阪や。あっ!」

「あっ!」


 この人、北京で会う人や。髪の毛伸びてるけど、多分そうや。


「もしかして、北京の……」

「そうや。パキスタン大使館の前に居てはりましたよね」

「ほんならパキスタンのビザを取りに行った時に、声掛けてくれはった人ですね」

「そうですわぁ。やっぱり、そうかぁ。わー、お久しぶりです」

「偶然やなぁ。まさかこんなとこで会うとはなぁ」

「二人は友達ですか?」

「いや、丁度2ヶ月前に中国の北京で会うたんよ」

「おお、それは凄いことですね。二人が会うのは神の思し召しだぁ」

「はは、そうかも知れんわ。ほんなら一昨日まで中国に居たんですか」

「せやで。ずっと中国を回ってましてん」


 この三雲さん、大阪出身の25歳。僕と北京で会うてからパキスタンのビザを取得し、ほんで一旦中国の南部を周ってそれから僕と同じくシルクロードを通ってパキスタンにやって来たそうや。


「いやー、中国はマジ大変やったわ。ほんまにどこ行ってもゴミゴミしてたさかい、めっちゃ疲れたわ」

「ははは。パキスタンも大概やけど、そやけどこの辺はめっちゃ過ごしやすいですよ。なぁ、この辺はええとやんなぁ。はっさん」

Hunzaフンザはいい所です。パラダイスですよ」

「はは、おもろいなぁこの兄ちゃん」

「このはっさんもええ人ですけど、ここの人達はみんなええ人ですよ」

「そうなんや。中国ではホンマに人に疲れたさかい、暫くここに居ろかなぁ。山の景色も綺麗やし、涼しゅうて気持ちがええわ」

「ですよねー。僕もいっぺんパキスタンを一周してから戻って来たんですわ」

「ほんまかぁ。そんなにええとこなんや、ここ」

「ええ。平地はめっちゃ暑いし、なんと言うても心が疲れましたわ。ほんでもここへ戻ってきて大分回復しましたで」

「そうかぁ。僕もそうしよかな。安いホテルある?」

「ありますよ。飯の後、はっさんに車で送って貰いましょか」

「大丈夫なん」

「うん。なぁ、はっさん。後でホテルまで送ってくれる?」

「OK。大丈夫だ。任せてくれ」

「ほら」

「すごいなぁ」


 食後にはっさんの車でホテルまで送って貰い、オーナーのじいさんに紹介して三雲さんは宿泊の手続きを済ませる。丁度、欧米人達もホテルを出てったさかい、じいさんも喜んでくれた。

 ほんでも今日は僕と三雲さんの二人しか泊まって無いし、ホテル経営の方が少し気になってしもた。まぁじいさん一人しか居らへんし丁度ええかも。


 三雲さんは「少しゆっくりしたい」と言うんで、「また夕食の時に話しましょう」という事で一旦別れた。僕も今日は早起きしたし、昼寝をすることに。


 6時の晩飯タイム前に三雲さんを誘って食堂に行く。

 じいさんは、


「今日はミートカレーしか無いが、それでいいか?」


 と聞いてきたけど、無いもんはしゃあない。三雲さんはまだカレーを食べてへんて言うてたし丁度良かったわ。

 晩飯を食べながら僕は三雲さんの中国での旅の話しを聞きまくった。


 上海や広州ではぼったくられたり、宿が無かったり、お腹を壊したりで散々な目に会うたらしい。そやけど西安は落ち着いた街で良かったから、そのままシルクロードを進んだけど、ウルムチではちょとした暴動に巻き込まれて難儀したそうや。なかなか大変な旅をされてきたみたい。


「因みに、吐鲁番トゥールーファン(トルファン)では何処に泊まったんですか?」

「トルファンか。確か吐鲁番饭店ファンディェン(トルファン旅館)やったかいなぁ」


 そうなんや。パリーサの最新情報が手に入らんかったさかい、ちょっと残念。


「ええ。どないしたんや」

「いや、僕もそこに泊まりましたよ」

「そうなんや」

「ところで、明日はどうします。どっか行きますか」

「そやなぁー。疲れたし、明日はゆっくりして、ほんでからちょっと村でもぶらつこかいな」

「いいっすね」

「それから……、折角カラコルムに来たんやし山でも登ってみたいなぁ。そんな高このうてええさかいに」


 キター! 山、登りたいて言うたやんなぁ。


「ほんまですか! ええとこあるんですけど、一緒に行きませんか。テントもあるし」

「テント持って来てんや」

「はい」

「やるなー。面白そうやんけー」


 僕は本棚にある情報ノートを持ってきて、トレッキングコースが書いてあるページを見せる。三雲さんは登山は素人やから手頃で景色の良さそうなコースを選んだ。

 まずPasuパスーの村まで行って、そこからパスー氷河に入り、山の尾根を越えてBaturaバツーラ氷河へ下りて帰ってくるコース。これやったら1泊2日で行けるんちゃうかなって言うたら、それがええわと話に乗ってくれた。


 やったー。実は一人やったらちょっと不安があったし、これでなんとか山登りに行けそう。


「三雲さん、感謝です。良かったら明日、村を案内しますわ」

「そうか。ほんなら頼もかな。昼からでもええか?」

「了解です!」


 やっとやりたい事ができて、めっちゃワクワクしてきたわ。ほんまにこんなとこで再会するやなんて、なんと言う偶然。

 偶然に感謝……、いや三雲さんに感謝やね。



 つづく

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