71帖 灼熱 その2
『今は昔、広く
「ここで、昼御飯、食べろ。わたし、
とじいちゃんに言われ、中途半端な所でトラックを降ろされる。建萍がトラックから降りる時にじいちゃんに何か言われて、建萍は笑顔で頷いていた。何を言われてたんやろと思ってたら、
「シィェンタイ。帰る、
と僕にも言うてくる。
え! 4時に帰る? 迎えに来るってこと? ええっ、何時間ここに居らなあかんのや……。
と、思て時計を見る。今は13時半や。じいちゃんが言うてた「4時」は北京時間やないから「18時」と言う事やろ。そしたら……4時間半もここに居れてか!
そんなことを考えてたらトラックはUターンして、砂埃を巻き上げ走って行ってしまう。そしてその砂の中に消えていってしもた。
まじか……。どないすんねんっ!
て思てたら、建萍が腕を引っ張ってくる。
「シィェンタイ。ごはん、たべます、か?」
「そうやな。取り敢えずそうしよかぁ」
僕らは目の前のウイグル料理の店に入る。比較的新しい感じのお店で、まだ時間が早いのかお客は3人だけ。もちろんみんなウイグルや。
この店はなんとクーラーが効いてた。トルファンでクーラーがある飯屋は初めてやったし、めっちゃ涼しくて生き返るわ。
メニューは建萍に任せる。「うーん」と悩んでる横顔も素敵や。
注文の後、カラチャイという甘いお茶を飲んでると料理が運ばれて来る。
トマトベースのスープで、中に羊肉のワンタンが入っる。ピリ辛で美味しい。チュチュレと言うらしい。食べ終わると、建萍は更に料理を追加する。僕ももう少し食べたいと思てたとこや。
暫くして
「シィェンタイ、辛い、だめ」
「大丈夫やけど、汗が止まらんわ」
「あせ?」
「これこれ」
と頬を流れる汗を指差す。
「あー、
と言うて、バッグがらメモを出して書き加えてる。
そしたらついでにと、僕はいろんな日本語を教えた。建萍が中国語で書いた事を僕が日本語で言う。それをどんどんメモに書き足していく。ただし僕の分からん中国語は身振り手振りで説明してたさかい、一つ追加するのに時間がかかる。僕らはチャイを追加して更に語句を増やしていった。
その一生懸命な建萍の表情は可愛かったし、美しくもあった。建萍がメモを書いてる間、その表情を眺めてたらいつの間にか見惚れてしもてた。お腹もいっぱいになってボーっとしてたんやろか、なんとなく「幸せ」と思える時間が過ぎていった。
「シィェンタイ、これ、なに」
と言われて我に返る。そんなんが何回も続くし、建萍はその度に少し膨れてた。またその表情がたまらなく可愛く映る。写真を撮っといたら良かったと思う。
メモは4枚目が埋め尽くされそうになってた。
「建萍。日本人のお客、たくさん来るんか?」
「日本人、たくさん来る。夏、お客、たくさん来るね」
そうなんや。結構くるんや。今でもたまに日本人旅行客を見るしな。全てバックパッカーやけど。夏休みになったら、ツアー客でも来るんやろか。
「これ、お客の、違う」
「へっ?」
「これ、シィェンタイと、もっと、たくさん話す、したい」
そうやったんや。
仮にウソでも嬉しかった。でもそれはウソやないと、建萍の表情を見て確信する。それほど真剣な目やった。それを見てたら僕は関西弁を教えたくなってしもた。そやけど、建萍が混乱しそうやったし今は止めておく。
少しずつ店も混んでくる。地元のウイグル以外にも観光客の漢族もぞろぞろ入って来た。そやし僕らは店を出る事にした。
快適なクーラーに慣れたせいもあるけど、千佛洞ほどでは無いにしろ、やっぱり外は暑い。しかも口の中はまだ辛い。地獄ではないけど「灼熱」と言う言葉がそのまま当てはまると思た。
そんな中を入り口まで10分ぐらい歩く。ここまで来ると弱いけど風も吹いてる。朝とは風向きも変わり涼しい風でも無かった。風はムッとするほど熱く、しかも砂が少し混じってるんが判る。
入り口で二人分の入場料2元を払ろて中へ入る。お金と引き換えに貰ろたチケット片には、なんと日本語でも簡単に説明が書かれてる。ちょっと怪しい日本語で漢字は簡体字やったわ。
今から1400年ほど昔「唐」の時代に、仏教の真理を探る事を志し、国禁を犯して旅立った
バックパッカーの大先輩て言うたら怒られるかも知れんけど僕は玄奘を尊敬してる。目的は違うけど僕はこの旅を「玄奘が真の仏教を求めた行動」に准えてる。
その玄奘が立ち寄った所に今自分が居るのかと思うと、とても感慨深いものがあった。
その高昌故城に一歩ずつ入ってる。なんや玄奘に会える様な気がして、僕は心も熱くなってきた。
つづく
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