70帖 灼熱 その1
『今は昔、広く
トラックは再びゆっくりと走り出す。非常にゆったりとした登り坂にもかかわらず全然加速せーへん。
赤い
トラックは徐々に火焔山に近づく。それとともに気温も上がり、日差しで荷台の鉄板も熱くなってきた。
大きな道を外れ、川沿に谷間を進む。トラックが路面のギャップを拾うと、荷台に乗ってる僕と建萍は一瞬宙に浮いた。初めはワーワー言いながら楽しんでたけど、だんだんお尻が痛となってくる。
建萍とお互の肩を抱き、ちょっとでも転がらん様に工夫する。ほんまやったらええ雰囲気になるんやろけど、この道ではそんな余裕はない。見つめ合ってたら顔面と頭はぶつかるし、喋ってたら舌を噛むところやったから、ひたすら耐えるのみ。
そのうち座ってることもできんようになり二人とも転がってしもた。止まれるなら止まって欲しかったけど合図すら出せへん。しょうがないんで頭を打つのを防ぐ為に僕は建萍の頭をしっかり抱えた。すると建萍は僕の腰に手を回してきて、二人の身体がしっかりと触れ合う。
ドキドキしたのも束の間、二人の身体が宙に浮いたかと思うと思いっきり荷台に叩きつけられる。僕は背中を打ち暫く呼吸ができんかった。建萍はなぜかケラケラと笑ろてた。
そしてトラックが止まる。漸く
先に建萍を降ろし、僕は二人分の荷物を持って降りる。カメラが壊れてへんか心配やったわ。
建萍も僕も服が砂で汚れてたけど、乾燥してるんで払えばすぐに落ちる。じいちゃんとおじさんは入り口近くの食堂で、
「お茶を飲んで待ってるから」
と言うて店へ入って行く。
僕と建萍は入場料1元5角を払ろて中へ入る。平日にも関わらず結構な数の観光客や。殆どが漢族やけど、中には日本人っぽい人も居る。
もちろんお決まりの団体様もいらっしゃいます。北京に居った団体客は農村部から来た感じの人たちが多かったけど、ここにいる団体客は逆に北京や上海などの都会から来た様な人たちや。サングラスを掛けてたり綺羅びやかな服を着てたりと中国人民の中でも少しお金を持ってそうやった。
その人たちの間をすり抜け、奥へ進んで行く。
谷の絶壁に穴を掘ったりレンガを積んだりして、いくつもの祠が並んでる。こんな構造物が砂漠の谷間に作られたんはなかなか凄いと思う。
ところがその中を覗いてみると、何かあるわけでもなく削り取られた仏像の様なものがあるだけ。壁には絵が書かれてたんやろと思われる跡が微かに残ってるだけやった。
建萍に言わせるとここは、
「私たちの先祖がこれを作って、私たちの先祖がこれを潰した」
らしい。
外に出てみると、さっきまで吹いていた風は止んでた。無風状態で強烈な太陽の日差しを浴びるとめっちゃ暑い。それでも時々風は吹いてくるけど、その風というのは火焔山で熱せられた温風であって、決して涼しくはない。全身をドライヤーで炙られてるような感じでとにかく暑い。
熱い……。
頭の中は「灼熱」の「
その笑顔を見て思い出す。
建萍の写真を撮ろう! 熱いけど。
建萍は少し慣れてきたんか色々なポーズを取ってくれる。ほんでもその写真はあんまり気に入らんかった。何かが足りん様な気がしてた。
いくつか洞窟を見て回ったけど何もなく、どれを見ても同じような気がしたんで、もうここを出る事に。それとやっぱり熱いとこから逃げたかった。
食堂まで戻って来る。
「シィェンタイ。千佛洞、よかったか?」
お茶を飲んでたじいさんに聞かれる。
僕は、
「特に何もなかったわ」
と言うと、じいちゃんとおじさんは「そやろう」みたいな顔をして笑ろてた。
僕らはまたトラックに乗って移動する。ここへ来る時、荷台が跳ねて大変やったんで建萍は運転席の方に乗せた。トラック自体がものすごい高温になってて、荷台に登るのも座るのも大変やったわ。
トラックはまた黒煙を上げながらゆっくりと走り出す。結局、千佛洞には30分ほどしか居てなかった事になる。
次の目的地である
じいちゃんは、窓から頭を出して僕に何か言うてきた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます