59帖 混血
『今は昔、広く
僕は昼飯を食べる為にホテルを出て
僕はまた高昌市场横の漢族のお店に入る。ところが店には誰も居らんかったんで、声を掛けてみる。
「こんにちは」
奥から昨日の可愛い女の子が出てきて、片言の日本語で喋ってきた。
「あー。……お店、まだです」
まだ営業してないんか。そういえば僕の時計は北京時間やから、まだ10時半にもなってへんのや。
「すいません。また後で来ます」
と言うて店を出ようとしたら、
「ちょっと待って!」
みたいな感じで呼び止められ、椅子に座らされる。
僕はびっくりして彼女を見てると、何か言いたそうに考え込んでる。
その仕草も顔の表情もとても可愛らしい。服装はそんなに派手ではないけどウイグルの青いドレスに白いエプロンをつけて、頭には綺麗な刺繍がされたハチマキの様なもの巻いてる。言い換えるならばウイグル風メイドさんって感じかな。
顔は他のウイグルの女性に比べるとそんなに彫りがは深くないけど、目鼻立ちがしっかりとしてて、目は少し青みを帯びてる。
今気づいたけど、髪の毛はめっちゃ長くて、三つ編みにしてるんやけど腰の辺りまで伸びてる。身長は165センチぐらいかな。日本やったら十分女優でやっていける様な美しい姿やと思う。
彼女は考えた末、ゆっくりと話し出す。
「うーん、まだ、時間ある。あなた、お話、しましょう」
と彼女も席に座わる。目の前に座った彼女を見ると、当たり前やけど彼女も僕の顔をじっと見てる。綺麗な青い目で見つめられるとドキドキしてむちゃくちゃ緊張してきた。それでも店が営業するまで彼女と話ができるかと思うと嬉しくなってきた。
僕はメモ帳とペンを出して筆談の準備をすると、彼女はペンを持って書き始める。
「あなたは
「はい、少し」
「
「いいえ」
「
「いいえ」
なんか一問一答形式ので会話になってしもた。一生懸命、メモ帳に書いて僕に質問をしてくれる。あまり漢字を書くのが苦手なのか苦労しながら書いてた。またその様子がとても愛らしく見える。
「
「はい、昨日見ましたよ」
「あれは、無くても、いいです」
そうなんやと思て笑ろてしもた。彼女も笑ろてる。
やっと彼女の笑顔が見れた。大きな目が細くなり、ほっぺたがキュッと上がるとこがめっちゃ可愛らしい。
その後も彼女は色々と質問をしてくる。日本語がほんまに少ししか話せんみたいやけど真剣に話をしてくれてるんで僕も精一杯それに応えた。
そやけど、名前は何やとか、何歳やとか、日本で何をしているかとか、片言の日本語で聞かれると、なんか尋問されてるみたいやったわ。
今度は逆に僕が質問をする。
「名前は何て言うの?」
「ナマエ?」
「うん、こんな字かな」
氏名とか姓名とか書いてみる。すると彼女は、名前を漢字で書く。
ふむ?
「
「えっ? ウイグルじゃないの?」
「うーん……」
彼女は黙ってしまう。もしかして失礼な事を言うてしもたかなと心配になった。
「
と言うてくれたけど、少し悲しそうな顔やった。
なんでやろう?
「ということは、ハーフなんかな?」
「そうそう、ハーフです」
明るく言うてくれたけど、あんまり嬉しそうやなかった。もしかしたらハーフと言うか、民族上の混血という事でなんか辛い経験でもあったんやろか? 漢族とウイグルの混血は結構増えてると聞いた事があるけど、まぁええわ。話題を変えよ。
「歳は?」
「うーん、
「若いね、マーさんは」
「マーさん、ちがう。ジィェンピンと言う」
「わかった。ジィェンピン」
「うーん……」
「シィェンタイ、やで」
「シィェンタイね。そうそう……。シィェンタイと、
「そうやね。正解!」
なんか嬉しそうにしてくれる。笑顔が戻ってよかった。
そやけど、こんだけの話で30分以上かかった。僕はまだまだ話をしてみたかったけど、そろそろお店の時間や言うて彼女は奥へ戻って行く。
そうしてるうちに漢族のおっちゃんやおばちゃん、ウイグルのおっちゃんが店に入ってくる。お店は急に忙しくなってきた。
するとすぐにまた彼女はやってきて、
「何、食べる?」
と聞かれてるみたいやった。
「ポロと
と言うと笑顔で戻ってった。
僕は料理を食べ終わると、忙しそうにしているジィェンピンに、
「またね」
と言うて店を出る。また晩飯も食べに来ようと思てたら、
「シィェンタイ!」
と呼び止められた。店の外にジィェンピンが出てきて、メモ帳を出せとジェスチャーをしてる。
メモ帳とペンを出すと素早く書き込んでる。
「
ジィェンピンは不安そうな顔で僕を覗き込んでくる。なんとなく言わんとしていることは分かった。
「星期一、一緒に观光をしよか」
と言うと、笑顔で頷き「バイバイ」と言うて店に戻った。
よっしゃー。ジィェンピンとデートや。
店の方を眺めながら、ジィェンピンの笑顔を思い出してた。ジィェンピンの癖なんやろか? 笑うときは少し首を傾げる。それがまた可愛いんやけどね。
それにしても楽しみになってきた。多賀先輩にはちょっと悪いなあと思う気持ちもあったけど、バスのチケットが売り切れでよかったと心から思えた。
そう思いながら隣の店の前を通ると、なんと多賀先輩が居る。店の前のテーブルでウイグルのおっちゃんと一緒に昼飯を食ってる。
「おう!」
「多賀先輩も昼飯ですか。今、隣で食べてたとこですわ」
「そうか。ほんであのお姉ちゃんとはうまい事いったんか?」
「なんでわかりますの」
「そんなもん、お前の性格はお見通しや」
「参ったなあ。一応月曜日に観光に行く事になりました」
「お前ーやるなあ。せやけどなー、俺もなー、日曜日に遊びに行くんやぞ」
「多賀先輩もなかなか手が早いですね」
「アホか。俺はおっさんと遊びに行くねん」
多賀先輩には悪いけど、大声で笑ろてしもた。
詳しく聞いてみると同じ年ぐらいの青年漢族と知り合いになって、そいつの車で湖に行くらしい。もしうまいこといったら、そいつが女の子の友達を連れてくると言うてたそうや。ほんまかいなと思たけど、多賀先輩もええ出会いがあったら出発が遅れた事を喜んでくれるやろと応援する事にした。
うーん、それにしても月曜日が楽しみやなぁ。僕は、多賀先輩のビールをご馳走になった。
つづく
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