52帖 友よ、永遠に
『今は昔、広く
おっと! うとうとしてたわ。
笑い声で目が覚めると、多賀先輩も戻って来て3人でワイワイ喋ってる。
「
「油断して寝てましたわ」
「さっきまで、
「そーなん。それは僕も聞きたかったなー」
「教授、あの話は絶対に秘密やからな」
「へへへへへ。わかりました秘密にしておきます」
「そんなにすごかったん」
「はい、それはすごい話でした」
今日は最後の日やから夜通し喋るって言うてたのに、いつのまにか寝てて重大な話を聞き逃してしもた。
残念やったなあと思いながら時計に目をやると、今まさに日付が変わった。
5月30日、木曜日。午前0時。
列車は徐々にスピードを落とし、真夜中の
「それでは私はここで降ります」
「そうか、
「へー、こんな夜中やのに大丈夫なん」
「はい、ここから2時間ほど歩いたら家に着きます」
「大変やね。気をつけて帰ってね」
「樊さん、写真送るからね。楽しみにしててね」
「はい、よろしくお願いします。お弁当ありがとうございました。楽しい旅でした」
「こちらこそ。色々話し聞かせて貰ってありがとう」
「じゃあ樊さん、元気でね」
「はい、さようなら」
「
「
樊さんは列車を降り、手を振りながらホームを歩いて行った。
多分、二度と会うことはないやろう。ほんの数時間やったけど、樊さんと出会えた事は一生忘れんよ。楽しかったで、樊さん!
窓から手を振ってたけど、樊さんは直ぐに闇へ消えてった。
窓の外の空気はとても冷たい。砂漠の夜は寒いわ。
列車はまた闇の中を静かに動き出す。残った3人でなんとなく顔を見合わせてた。
「毎日毎日、三日間もよう喋りましたね」
「そうやなあ。ほんまによう喋ったな。俺らはもう親友やで。真の
「そうですね、朋友です。あなたたちのことは絶対に忘れません」
「僕も! ほんなら、僕が日本に帰ったら教授に手紙を書きますわ」
「私も書きますよ」
「よっしゃ文通しよか」
「多賀先輩、英語で書かなあきませんよ」
「わかってるわ。俺かて手紙ぐらい書けるわ」
「そしたら、教授があの彼女と結婚したら新婚旅行で日本に来てくださいよ」
「そうですね、日本に行けるといいですね」
「是非来てください。案内しますよ」
「京都とか広島とか行ってみたいですね」
「僕は京都に住んでるんで、いつでも案内しますよ。ただし日本に帰ってきてからね」
「その時は是非お願いします」
「俺は滋賀県を案内するで」
「滋賀県って何処ですか?」
「京都の隣や。ええとこやで」
「是非、お願いします」
中国人に滋賀って、どこを案内するんやろ? まあええわ。
その後は、これから旅をする上で注意しなあかん事を細々と教授がアドバイスしてくれた。ガイドブックに載ってないような細かい事で、常に助かるなぁと思た。
それから、とりとめもない事をうだうだと話してたけど、知らん間に教授も多賀先輩も寝てしもてる。
僕は一人、窓から外を眺めてる。途中、何度か駅に停車したけど乗り降りする人は無い。まだ辺りは真っ暗なままやった。
列車が駅に停車して目が覚める。僕もいつの間にか寝てたみたい。
5時26分、
窓の外はまだ闇に包まれている。そやけど月明かりやろか、ほんの少し景色が見える。
南側は荒涼とした大地に建物が少しある程度で、もちろん人は居らん。北側には山が間近に迫ってる。山と言うても日本の山とは全然違ごて草木は一本も無い。
ここ鄯善といえば「
列車はゆっくりと動き出す。ここからは斜面を登ってるんか、全然スピードが出えへん。歩いた方が早いんと違うかと思うぐらいゆっくりと進んでる。
下りになると急にスピードが出るけど、暫くするとまた登りなんで非常に遅くなる。そんな事を繰り返して列車は進む。
東の空が徐々に青くなってきた。そろそろ夜が明けるみたいや。
7時55分、
教授に再会を誓ってお別れをする。中国人の旅人
「教授、元気でね。また会いましょう」
「ありがとうな。そしたらまたどっかで!」
「手紙を待っていますよー」
「必ず書きます。必ず日本に来てやー」
「
「Good bye! さよなら」
「さいなら」
「
別れを惜しむかの様に、この砂漠に空から冷たい雨が降ってきた。
列車は静かにプラットホームを離れて行った。
つづく
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