51帖 彼女のはなし
『今は昔、広く
6時53分、
ここからバスに乗り換えて南へ行くと有名な
シルクロードの中継点、東西の文化の交差点や。そんな雰囲気を是非味わってみたいし、
そんなこと思いながら外を見てたけど、もう7時やというのに外が異様に明るいのに気付く。
「それは時差です。列車などの公共のものは全て北京時間で統一されてます。それでは困るので
と教授が教えてくれた。
「そしたらややこしくないですか」
「そうですね。たまに間違えることもあるけど、問題なのは列車やバスの時間ぐらいですから大丈夫です」
ほほー。東西に長い国はこんな事ともあって大変やな。今後、時間は北京時間なんか現地時間なんか確認せんとあかんと思た。
「そしたら僕の時計はどないしたらええですかね」
「列車を降りるまではそのままでいいと思います。それで、街へ行ったら時計がありますから、それに合わせれば大丈夫です」
なるほどな。
列車は柳园を出発。それやのに多賀先輩は戻ってけーへんので心配してた。もしかして柳园で置いてきたかなと思てしもた。
しかし残念ながら(?)多賀先輩はすぐに現れる。
「多賀先輩、どうしたんですか」
「あんな、向こうの車両におもろい中国人が居るし、ちょっと喋ってくるわ」
と言うてギターを持って行ってしもた。
おもろい中国人って何やろうと思て僕も行ってみる事に。
隣の車両のボックス席を覗いてみると、若い人民と多賀先輩が親しげに喋ってる。
「Hello! Nice to meet you!」
えらい陽気なヤツや。樊さんとは全く正反対。色白でおしゃれな服を着てて、金持ってそうで、見た目は金持ちのボンボンみたいな感じやった。
その青年人民は
多賀先輩とは息が合うのか何やら打ち合わせをした後、王さんは銀色のハーモニカで、多賀先輩もギターを弾いてセッションを始める。何の曲か全くわからんかったけど二人は大いに盛り上がってたし、周りの乗客も結構ノリノリやったわ。
暫く二人の様子を見て、僕は自分の席に戻る。
「
「王と言う人とハーモニカとギターで演奏してたわ」
「面白い人ですね」
「うーん。しばらく帰ってこーへんやろうから、三人で何か喋ろか」
「そうですね。明日はもうお別れやから、今晩はじっくり語り合いましょう」
「その前に、お腹が空いたし晩御飯食べよか」
車内販売で回ってきたおばちゃんからお弁当を買う。教授も買うたけど、樊さんは買わんかった。
「樊さんは食べへんの」
「あー、私はお金がもったいないので我慢します」
「そう言わんと、もうすぐお別れなんやから一緒に食べよ」
と言うて、僕はおばあちゃんのとこに行ってもう一つお弁当を買うてくる。それを樊さんに渡すと喜んで食べてくれた。
お弁当を食べてたら、
「そういえば、北京站に居た女の子は誰なん?」
教授は恥ずかしそうに喋り始める。
「あれは……、僕の彼女です」
「やっぱりそうやったんか。北京に彼女を置いてきたんか」
「はい。彼女は今、北京の大学で勉強をしています。哲学の専攻です」
「ほほう。どこで知り合うたん?」
「彼女とは西安大学の研修会で知り合いました」
「へー、そうなんや。彼女は何歳なん?」
「二十歳です」
「おお、いいねー。それに結構可愛かったよねー」
「そうですよね。ありがとうございます。へへへへ。僕もとっても気に入っています。でも彼女は北京で、僕は乌鲁木齐に居るのでめったに会えません」
「それは残念やなあ。寂しいやろ」
「まあ。ひと月に1回ぐらいは会えるので……。後は電話です」
「ほんなら北京に行った時は、彼女とイチャイチャするの?」
教授は急にニヤニヤして涎を垂らしながら喋る。黙って弁当を食べていた樊さんも何となく気付いたんかニヤニヤ笑ろてた。
「いやその辺は……ガールフレンドですから。へへへへへへ」
「そうか、ええなー」
「へへへへへへ」
涎が止まってへんぞ。飯粒を飛ばすな!
「そしたら彼女と結婚するんか」
「そうですね。彼女が大学を卒業したら結婚する事にしています」
「おお、それはおめでとう」
「ありがとうございます」
「ところで。樊さんは結婚してるん?」
教授が通訳をしてくれる。
「私は結婚はしていません」
「彼女は居るんか?」
「私の村には若い女子は居ません。一番若い女の人で34歳です。だから僕には彼女は居ませんよ」
「そうか、早く彼女を見つけられたらいいね」
そう言うと、教授は素の顔に戻って説明してくれる。
「僕が知ってる限りでは、農村部では独身の男性が多いです。これも一人っ子政策(当時)の影響なんですよ」
「なるほど、難しいなぁ中国は」
また中国の現状を知ることになってしもた。
教授に詳しく聞くと、農村では働き手の男の子が生まれてくる事を望むそうや。戸籍には子どもを一人しか登録せえへん。そうせんとお金の面で優遇されへんらしい。もし貧しい家で女の子が生まれたら、戸籍に入れなかったり養子に出したり、最悪は売りに出したりするそうや。それで女子が少なくなってるから、独身男性が多いとか。
いくら人口抑制政策とはいえ、なんかめっちゃ悲しなってきたわ。
すると、今度は樊さんが質問してくる。
「あなたは祖国に彼女はいるんですか?」
「私もそれは聞きたいですね。へへ、へへ」
女の子の話になると教授の顔はにやけて、涎が垂れてくる。
「いますよ。日本で待ってくれています」
「可愛いですか」
「めっちゃ可愛いですよ」
「プロポーションは……、いいですか?」
何を聞いてくるんや。このスケベ教授! ほんなら教授が羨ましがる様にちょっと盛ったろ。
「もうそれはそれは。おっぱいは大きいし、腰はくびれて、お尻もプリプリよー」
「それはいいねー。羨ましいねー。へへへ。じゃあ、
ああ、そんな事はしてへん……けど。教授は勝手に想像をして盛り上がってる。ホンマにスケベな顔してるわ。逆に樊さんは少し照れてた。
「そうやけど多賀先輩はもっとすごいで。あの人は……、僕が知ってるだけで彼女が9人も居るで」
「ええ、そうなんですか。なんと羨ましい。ドゥォフゥァさんが戻ってきたらじっくり聞いてみましょう。へへ、へへへ」
僕もじっくり聞いてみたいね。会ったことあるのは二人だけやし。
その後も中国と日本の「女の子」の特徴や違いを話して盛り上がった。
窓から入ってくる風が少し涼しくなってくる。
列車は9時20分に
ということは、いよいよ
ただ、外は真っ暗なんで何も見えませんけどね。
つづく
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