47帖 多賀先輩のアタック
『今は昔、広く
北京を出発してから最初の駅、
15分ぐらい停車するんでホームに降りてみる。ホームというても日本みたいに車両の高さとホームの高さが同じ、ではないんで、ほんまに「降りる」という感じや。
ホームにはたくさんの移動式の屋台があって、いろんな食べ物を売ってる。列車からは大勢の人民が降りてきて先を争う様に買うてる。こういう時の人民達の勢いにはいつまでたっても勝てへんわ。
僕は、少し離れた所で営業してた
列車の中へ戻り、多賀先輩に一つあげる。包みを開けてみると中には
列車が動き出して暫くすると
時々、
「あっ、今、目が会うた!」
とか言うて喜んでる。
車掌のお姉さんは、検札の度に荷物の整理を促してくる。安全対策なんか、ただそういう規定でそれを履行してるだけなんかは分からんけど、口調はかなり厳しい。例えば僕のリュックから紐が少し垂れているだけでそれを直せとか言われる。そやから荷物が多い商人の
そやのに多賀先輩はワザとリュックをずらし、お姉さんに注意されては喜んどった。これもアタックの為の作戦らしい。その涙ぐましい努力とアホさ加減に僕は感服いたしました。
ほんで検札が終わり、お姉さんが車掌室に戻って行くのを見計らって、多賀先輩は後ろをついて行く。いよいよ多賀先輩のアタックが始まった。
お姉さんはそのまま車掌室に入ってしもたんで、その前で多賀先輩は待ってる。
僕はその様子を教授と一緒に見守ってた。と言うか面白がって見てる。
暫くするとお姉さんが車掌室から出てくる。多賀先輩は、ここぞとばかりに身振り手振りで何か話してる。どうなるか二人でワクワクして見てたけど、暫くすると多賀先輩は落ち込んだ顔をして戻って来る。
それを見て教授と笑い転げてた。
「どうやったんですか」
「あかんわ、
「ええ、何て言うたんですか」
「もし時間があったらお話ししませんか、って言うたんや」
「多賀先輩って中国語を話せましたっけ?」
「そんなん話せるわけないやろ。もちろん日本語や」
流石は多賀先輩、すごい根性や。それでよう通じたなぁと思う。まぁ、とにかく多賀先輩の1回目のアタックは失敗に終わる。
「こういうなんはマメにやらなあかん。また次のチャンスに行ってみるわ」
チャレンジ精神はなかなか旺盛です。
この経緯を教授に話すると笑ろてたけど、その後に多賀先輩に中国語のアドバイスをしてた。
『
どんな意味かと聞くと、「ちょっとお話できますか?」と言うことらしい。
多賀先輩は何度も練習するけど発音が悪いので教授に言い直しをされてる。まあ今後の展開がどうなるか楽しみや。たぶん無理やと思うけどね、僕は。
辺りが暗くなってきた頃、
この近くには
またこの駅では、白い服に白い帽子を被った物売りのおばちゃん人民たちが乗り込んで来る。晩飯を車内販売してるみたい。
「
と言う声が聞こえる。僕らは日本語で言う「ソーメン」を想像したんで買うて食べる事にする。一つ4元や。
発泡スチロールの蓋を開けると中に汁は無く、茶色の細麺と野菜や肉などの具材が入ってるだけやった。
「なんやこれ。ソーメンやと思って期待してたのに、ただの汁なし麺か」
「多賀先輩はこんなやつ、食べたこと無いですか? うちの実家の方では食べますよ」
「ほんまか。草津ではこんなん喰わへんぞ」
「まぁ湖北独特の料理やと思いますわ」
滋賀県の湖北地方では、焼鯖を甘辛い出汁で煮込み、その煮汁でソーメンを煮る。出来た茶色いソーメンの上にさっきの鯖を乗せて完成。そんな汁のないソーメンを「鯖ソーメン」と言うて食べる。ばあちゃんがよく作ってくれた。もし長浜にでも行く時があれば是非ご試食あれ。癖になって結構食べてしまいます。
買ったヤツを実際に食べてみる。そんなに甘辛くは無かったけどなんとなく懐かしい味がする。中国のこんな所で「鯖ソーメン」ぽいやつを食べられるとは思ってもみんかったわ。僕はじっくりと「偽鯖ソーメン」を堪能した。
列車は
当然、真っ暗なんで黄河だろうが何だろうが見えるもんは何も無い。
また、ここからは路線が
郑州を9時46分に発車。車内では寝る支度が始まる。
そやけど僕と多賀先輩と教授の三人は座ったまま喋ってた。教授が政治経済の専門なんで、話は自然と日本の政治や経済の話になってしまう。そやけど英語でそんな事を話ししてる自分が凄いと思た。今までこんなに英語で喋ったこと無かったし、結構喋れるもんやなあと自分で自分自身を感心してた。
ほとんどの人がシートや床で寝っ転がってる中、11時39分に
洛阳と言うたら
列車が洛阳を出発してし暫くすると多賀先輩は、
「また行ってくるわ」
と言い残し、ペンとノートを持って車掌室の方に歩いて行く。
どうせあかんやろなぁと思いながら、僕は教授と話を続けてたが……、いつの間にか眠ってしもたみたい。
多賀先輩のアタックはどないなったんやろう?
つづく
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