42帖 宴は酣でございます
『今は昔、広く
朴君の音頭で乾杯する。
「
「
「
「
プハーッ。美味い! さー盛り上がるでー。
と思てたら、マジな顔をして多賀先輩が話し掛けてくる。
「北野、『サル』って何やあ? 『さるぼぼ』か」
「なんでですのん、ちゃいますわ。『乾杯』ちゅうスペイン語ですわ」
「お前は何でも知ってるな」
「いや、前にメキシコ料理屋に行った時に教えて貰ろたんですわ」
「あっ、大学の裏にある店やろ」
「そうです。四条の木屋町にもありますよ」
「そうなんや」
…………。
それで会話が終わってしもた。またシーンとなってしまう。
僕とミョンファは、顔を見合せてクスクス笑てたけど多賀先輩と朴君はまだ固い。まぁそりゃそうかも知れん。多賀先輩も、朴君も、まぁ僕もそうやけど、今日はお別れの
そやけど、多賀先輩と朴君は余りにも「お別れ会」って意識し過ぎとちゃう。そんなん思たら僕まで悲しくなるし。折角ミョンファも一緒なんやから、今日は楽しも! もっと気楽に行こうや、みんな!
と思てたら、そんな空気を破ってくれたんは、なんと
それを見て僕はミョンファに話し掛ける。
「あっ、そうや。ミョンファもチマチョゴリ持ってんのん」
「持ってるよ。赤いのと紫のあるよ」
「ほんまに。今度着てみてや」
「あっ俺も見たい」
「見るだけでっせ」
「もう、うるさいなぁ。ええやんけ……」
「ミョンファ。今度お店で着たらどうや」
「うーん……、わかった。いいよ」
「絶対可愛いいやろなあ」
「そんなことないよ……」
ミョンファは照れて俯いてしまう。
「さあ、みなさん食べましょう」
「よっしゃー食うぞー。久しぶりやなぁ焼肉は」
と言うて多賀先輩は肉を焼き始める。「いつもシシカバブー食べてるやん」と思たけど突っ込まんかったわ。
僕も肉を焼こうとしたら、
「私が焼いてあげる。美味しい焼き方があるねん」
と言うてミョンファが焼いてくれる。
テーブルには肉がどんどん運ばれて来る。日本の焼肉屋では見たことの無い肉もある。いろんなキムチとか野菜も運ばれて来る。
キムチ最高!
雰囲気としては、なんか日本の焼肉屋にいるみたいな感じで落ち着いてきた。まあこっちの方が元祖なんやろけど。
暫くしてミョンファは、ちょうど頃合いに焼けた肉を僕の皿に乗せてくれる。
「どうぞ、食べてみて」
「おおきに」
僕は、まず何もつけずに食べてみる。レアぽくって、そやけど中まで火が通っててめっちゃジューシーやった。
「うん、美味しい。ごっつう美味いわ」
「ミョンファちゃん、俺も焼いてや」
「ではこれをどうぞ」
と、朴君が焼いた肉を多賀先輩の皿に載せてた。
「あぁん、ミョンファちゃんに焼いて欲しかったのになぁ」
「まあそう言わないで、食べて下さいよ」
みんなで笑ろた。多賀先輩のおかげで少し場の雰囲気が和んでくる。
会話は弾み始め、なんやかんや言いながらも食べまくる。どの肉もめっちゃ美味しい。
大抵、会話は僕とミョンファが二人で喋り、多賀先輩は朴君と喋る。昨日の「
ほんでも気になって二人の会話にも聞き耳を立てる。多賀先輩と朴君の間では仕事の話になってた。
「ドゥォフゥァさんは、具体的にどんな仕事をしてたのですか?」
「俺が行ってた会社はそんなに大きいないねんけど、電気製品の部品を製造する機械を作ってる会社やねん。ほんで俺は、その機械を設計をする仕事してたんやわ」
「なるほど
「そうやで。クライアントから話を聞いてどういう風にしたらその部品ができるか、どうやったらうまいことええもんが作れるか考えるのが俺の仕事やってん。面白いねんけど、うまいこといかへんかったら責任が全部俺に来るからな。結構辛い立場やってん」
「そうやったんですね。てっきり会社で遊んでるだけやと思ってました」
と僕も口を挟む。
「アホか。俺はな、立場は一応係長兼開発担当責任者やってんからな」
「そうやったんですか」
「シィェンタイさんはどうなんですか」
今度は僕に話を振ってきた。なんか昨日の多賀先輩から聞いた朴君の思いが、ふと頭に浮かんでくる。
「僕ですか。僕は
「おお、それはすごいですね」
「それと
「シィェンタイさんは何でもできるのですね。ミョンファは
おいおい朴君急に何を言い出すかと思えば……。焦るがな。
「ア、アルバイトで
「何の
とミョンファが聞いてきたので、
「
と答えた、するとミョンファは、
「
と言うて、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしたんで、みんなで大笑いした。
その後も和気あいあいといった雰囲気で4人で会話が弾む。僕は時々、薄化粧のミョンファの横顔をこっそり眺めたりしてた。
このままずっと眺めてたかったけど……。
最後に明日の
「ここは僕の友達の店だから」
と言うて朴君が全額払ってくれた。多分結構な値がしたと思う。
そして楽しい昼餐会が終わってしもた。
朴君とミョンファは自分の店に戻るということで、ここで別れる。別れ際、ミョンファは何時もの様に笑顔で手を振ってくれる。
「また、明日なー」
「バイバイ~」
ミョンファは見えん様になるまで手を振ってくれてた。
「ちょっとぶらついてから帰るわ」
と言い、姿を消した。僕は一人で旅館へ向かう。
一人で地铁に乗ってた時に、別れ際、朴君は意味ありげな顔をしてたのを思い出す。
僕はあの事をミョンファに言えんかった。何度か朴君から「パス」が飛んできたんやけど、やっぱりあの楽しい雰囲気では言えんかった。笑顔ではしゃいでるミョンファの顔を見るとやっぱり駄目やったわ。
逆に、言わんで良かったかも……。
明日、動物園で頑張ろと思た。
つづく
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