26帖 勇気凛々!
『今は昔、広く
トルファン行きの切符の話をしてた。
「そしたら、どうしたらええんや」
「そうですね。北京駅やったら外国人は予約して切符を買えるらしいですから……」
「そうかあ。そやけど外国人料金は高いんとちゃうの?」
「ちょっと待ってくださいねー」
メモ帳を出してめくった。
「えーっと、北京からトルファンまでの営業キロが三千六百三十一キロなんで、
と、一気に言う。ああ、気持ちええ……。
「お前なぁ……、電車のことやったらスラスラ言えるのに、なんでミョンファちゃんにははっきり言えへんのや?」
「そ、それは……、なんでやろ。へへへ」
「しっかりせえよ、ほんまにぃ」
「は、はい……」
「わかったわ。ほんなら取り敢えず予約だけしとこ。もし人民の窓口で切符が買えんかったら外国人料金で行こ。安くで買えたら、5元ぐらい捨てたと思たらええわ」
「そうですね」
「ほんでここからが本題や」
多賀先輩がマジな顔してる。
「明日俺が、北京駅に行って予約取って来たるさかい、お前はミョンファちゃん誘てどっか観光してこい」
「プッ、ええんですか」
思わず噴いてしもた。
「ええに決まってるやないか。チャンスやぞ。根性出してみぃ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
ほんまにチャンスやな。多賀先輩、あざーす。
朴君にシシカバブーを追加して、その後も切符購入の作戦会議をした。
そして多賀先輩が今日行ってきた所の話や、僕が天安門広場で体験したことなどを報告し合う。
話が大体終わったところで帰ることにする。
そしてお金を払う時に、僕は気合を入れて朴君に言うた。
「朴君、明日も来ます。ほんでミョンファちゃんを誘ってどっか行こうと思うんですけど、いいですか?」
「いいですよ。ありがとうございます。よろしくお願いします」
「はい。じゃあ、また明日。ごちそうさまでした」
と言うて店を出た。
やった!
外へ出て隣を見ると、ミョンファちゃんがホウキとチリトリを持って店の前を掃除してる。
僕は多賀先輩の顔を見た。ニヤニヤしてたけど、気を使ってか駅の方へ歩いて行ってくれる。
一人でやれって事か。
僕は心臓がバクバク鳴ってたけど、勇気を出す。
「ミョンファちゃん!」
と声を掛けたら、ミョンファちゃんはビクッとして振り向く。
振り向きざまに長い髪の毛がふわっとなって、むっちゃ可愛かった。
それが余計に僕を緊張させる。
ほんでもこれは絶好のチャンスやと自分に言い聞かせ、更に勇気を絞り出した。
声を掛けたんがびっくりしたんか、ミョンファちゃんはまたぷっと膨れてる。
「何ですか。掃除をしてるから、忙しいんだからね!」
また怒ってる。
僕はそれにめげずに思い切って、
「ミョンファちゃん、僕は
と適当な理由を付けて言うた。
するとミョンファちゃんの顔が緩んだ様に見えた。次の瞬間、ホウキとチリトリを投げ捨てて店の奥へ走って行く。おばさんと二言三言喋って、また走って戻って来た。
その顔は、さっきの怒った顔ではなく満面の笑みやった。今まで見た最高の笑顔で、僕の心が溶けてしまいそう。
「明日、一緒に行ってあげるわ。だって、あそこはとっても広いから迷子になったら困るでしょ」
うんうん。なるなる!
「ありがとう。めっちゃ嬉しいです!」
「えっ……。わ、わたし……も、嬉しいです」
あっ、ミョンファちゃんが下向いてしもた。
「じゃあ。明日の9時にここへ迎えに来ます。それでいいですか?」
ミョンファちゃんは急に笑顔になり上目遣いに、
「お願いします」
と言うてくれた。そして、また下を向いてしまう。
やった! OK貰えたやん。
「それじゃあ帰りますね」
「……」
「さいなら」
「はい! さようなら」
僕は、多賀先輩の方に向かって歩き始める。
ちょっと歩いて振り返ったら、ミョンファちゃんがこっちを見て手を振ってくれたんで、僕も手を振る。
ふうー、と息を吐いて僕は全速力で多賀先輩の後を追った。
つづく
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