24帖 ジモティー
『今は昔、広く
僕は、
汽车を降りると目の前に大きな建物がある。これが
それでもなかなか立派な建物やったんで、ぐるっと一回りする。
門を北側に抜けるとそこに広場がある。その向こうにホンマの天安门があった。
と言う事は、目の前の広場が
天安门まで1キロぐらいやろか? 横は500メートルぐらい。スケールがでかすぎる。
こんな広い場所ってそう無いわなぁ……。
2年前、民主化を願い、多くの学生や人民が国家権力とここで戦ってたんやなと、その当時のニュース映像を思い出してた。
その影響か分からんけど、100メートル毎に公安が警備をしてる。それだけで物々しさが伝わってくる。
遠くから見ても判るけど、天安门はかなりでかい。その向こうにある
四年前に見た「最後の皇帝」という映画を思い出し、
広場越しに天安门の写真を撮ってたら、人民の夫婦が僕の方へ寄ってきて中国語で話掛けてくる。
むっちゃ早口やったんもあるけど、多分中国語でも方言なんやろう、聞いた事ない言葉で何を言うてるんか分からん。黙ってたら段々おばちゃんの語気が荒くなってくる。とうとう僕が持っている地図を指差して、怒りながら話してきた。
どうも道を聞いてるみたいで、
「ここへ行くにはどうしたらええんや」
と言う事やと思う。
僕は全く分からんし、
「
と言うてみる。そしたらおばちゃんは一瞬びっくりした様な表情をしたけど、突然笑い出して、
「何を言うてるんや、そんなことないでしょ。あんたみたいな日本人はおらへんよ。私ら地方から出てきたからと思って、冗談を言うてるんでしょ」
みたいな事を言うてる。
「もうええから。ここへの行き方、ちゃんと教えて」
と、しつこく言うてきたんで、もう1回「僕は日本人や」て言うてみる。
「あら本当に? あなた日本人だったのね。てっきり北京の人だと思って道を聞いてしまったわ。ごめんなさいね。それじゃあバイバイ」
てな感じで去って行った。
その後ろ姿は、田舎から夫婦で旅行に来てますよ感が滲み出てる。嵐のようなおばちゃんやった。まぁ日本にも、あんな感じのおばちゃんは居るよなぁ。
余計な時間を喰ってしもた。僕がやらなあかんことは、
ほんで正阳门へ戻ろうと歩いてた。ほんなら今度は中学生位の、日本で言う「修学旅行」風の学生達が寄ってくると、地図を見せて道を聞いてくる。
なんやねん、またか!
すかさず僕は「日本人やで」と言うたら、さっきの夫婦みたいにびっくりしてる。
「そうなんですか、すいませんでした」
みたいな感じで直ぐに去って行ったわ。
地方から来た人にしたら、僕はジモティーに見えるんやろか?
なんか不思議やなぁと思いながら正阳门に戻り、大通りを横断して繁華街の方へ向かう。
この辺は前门と言う商店街で、既にたくさんの人民で賑わってる。售票处を探してウロウロするけど、なかなか見つかれへん。とにかく人が多くて歩くんが大変や。
大通り沿いに少し東へ行くと、更に大勢の人民の
售票处はここかな?
と思て覗いてみる。
やっぱり「前门售票处」や。
僕らが目指してるんは、西域の
人を掻き分けて窓口を見て回る。よく分からん地名もあるし、もしかしたらこれかなあという怪しいのもあった。でも多分違うかな。
結局一通り全部見たんやけど、ウルムチ行きの窓口を見つける事は出来んかった。
もしかしたら、ここではウルムチ行きの切符を売ってないんかな?
僕は持ってた時刻表を改めて見てみる。
そうしてたら近くに居ったおっちゃん人民に声を掛けられる。なんや列車の時刻を聞いてるみたいや。それにまた現地の人と間違えられてる感じがする……。
すかさず僕は「日本人ですよ」と言う。言葉が通じんかったんか、その後も執拗に聞いてくる。
あーしんど……。
と思てたら、もう既に次の人が目の前に立ってる。ほんで、またどっかの駅名を言うてくる。
「僕は日本人です」
と言うたら納得はしてくれたけど、
「まあええやん。時間調べてや」
みたいな感じで押し切られる。
面倒臭いけどおじさんの言う駅名のページを探す。そしたら僕の周りに人集りが出来て、みんな覗き込んでくる。
地方から出てきた人かな?
「次は俺の番やぞ」
みたいな雰囲気になってる。ちょっと殺気を感じたわ。
僕みたいな外国人も切符をどうやって買うたらええんか困ってるけど、中国の人でも地方から出てきた人は分からへんねんなーと思た。
それに……、
「時刻表ぐらい自分で買えよ」
と思う。たった3元やぞ。
ふと時計を見たら1時になってる。
やばい多賀先輩との待ち合わせの時間や。
みんなも困ってるさかいホンマは手助けしてあげたかったんけど、もう行かなあかん。
そやし「ごめんなさい」と日本語で言うて、その場を立ち去る。時間があったらもっと教えてあげたいという鉄っちゃんの血は騒いでたけどね。
とりあえず朴君の店に向かう。
今日もミョンファちゃんに会えると思たら足取りが速くなってくる。
待ち合わせの時間が過ぎてたし、少し高いけど地下鉄に乗り、
店に着いた時は、もう2時になりそうやった。
入り口でシシカバブーを焼いている朴君が僕に気付いてくれる。
「こんにちは。いらっしゃい」
「こんにちは。多賀先輩は来てますか?」
「来ています。ここにいますよ」
僕は店に入る。
奥を見るとテーブルに多賀先輩が座ってる。しかもその向かいには、こちらに背を向けて女の子が座ってて、楽しそうに喋ってる雰囲気やった。
「すんません、遅なりました」
「もう先に食べたで」
そう多賀先輩が言うと、向かいに座ってた女の子が振り返った。ミョンファちゃんや。
えっ何で!?
と思た。不意打ちされた感じで頭が真っ白になってしまう。
ミョンファちゃんは振り向いた時は笑ってたのに、僕と目が合うと急に膨れて、
「シィェンタイ、来るの遅い! ドゥォフゥァさんと話してただけだからね!」
と言うて、隣の店に行ってしもた。
もしかして怒られたん?
何の事か訳が分からん。僕はそこで立ち尽くしてた。
つづく
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