23帖 1週間の猶予
『今は昔、広く
今朝は早く目が覚める。まだ少し頭が痛い様な気もするけど、目はバッチリと醒めてる。多賀先輩を見るとまだ熟睡中や。
さっと着替えて、超さん姜さんの部屋へ行ってみる。
そやけど部屋は既に空っぽやった。
昨日までの楽しく喋っていた時の笑顔が頭に浮かんでくる。見送りができんかって悔しかった。
部屋へ戻り、もう一回寝ようとしたけど寝付けん。
それで僕は、
『10時までにパキスタン大使館に来てください。先に出て、ちょっとぶらついてから行きます』
とメモを置いて一人で部屋を出た。
今日は5月20日、火曜日。外はまだ涼しい。
僕は地下鉄に乗り
地上はちょうど通勤時間やって、大勢の人が行き来してる。
信号が変わると一斉に人民たちが走り出す。乗用車やバスも走ってたけど、それもお構い無しで銀輪部隊が行進してる。
人民たちは、勤務先に向かって必死になって自転車をこいでるけど、それを見て僕は楽しんでた。
自転車通勤ラッシュ。
これが見たかったんや。
カメラを構えてシャッターを切ってると、自転車に乗った人に当たってしまう。怪我は無かったし良かったけど、自転車に乗ってる人は素知らぬ顔でスイスイと行ってしもた。
ラッシュが終わりかけてきた頃を見計らい、道路脇の公園に移動する。樹木が植えてあって緑は多く、広場では大勢の人が太極拳をやってる。殆どがおじいちゃんおばあちゃんやったけど、その孫らしき子ども居った。一緒に太極拳をやってる姿が愛おしい。
公園というても道路に沿って平行に伸びてるんで、僕はのんびりと大使館街の方へ向かって歩く。
ジョギングをしている人や犬の散歩をしている人、鳥かごを持って歩いている人や朝から囲碁をしている人もちらほら見かけた。
時刻は8時半を回る。お腹が空いてきたんで、通りの反対側の店で
北京は広い。歩けど歩けどなかなか進まへん。このまま歩いてたら10時にパキスタン大使館に間に合うか不安になったんでバスに乗る。
おかげで10時には余裕で着けたけど、まだ多賀先輩の姿はまだ無い。
正門で待つこと5分。西の方から多賀先輩が歩いてくる姿が見える。僕の姿を見つけると、こっちへ向かって走ってきた。
「遅いですわー」
「すまんすまん。寝坊してもた」
はぁはぁ言うてる先輩と二人で正門をくぐり、門衛のおじさんの案内で待合室に入る。
待合室には長机と長椅子だけで、それ以外は何もなく殺伐としてる。
人民、欧米人、それと日本人らしい人が二人、座ってる。
この人らもパキスタンへ行くんや。
僕と多賀先輩も椅子に座って緊張しながら待つ。
そやのに10時になっても何も始まらん。少し心配になってきたけど、黙って座ってるしか無い。
10時半になって、漸く民族衣装を着た係官が入って来て、書類を配り、英語で長々と説明を聞かされる。
要約すると、
『この大使館で発行できるビザは1ヶ月の有効期間がある。パキスタン国内に入ってから1ヶ月が有効期間である。1ヶ月以上滞在する場合は延長の手続きをする必要がある。手数料は10ドルだ。本日手続きの書類を提出した者は、27日以降の朝9時までに来れば受け取ることができる。書類が書けたらパスポートと一緒に提出をして、確認が取れたらパスポートを返すので帰ってもいい』
と、こんな感じやった……と思う。
「えっ、ビザが貰えるのって1週間後ですよ」
「まじかぁ……。それはちょっと掛かり過ぎやなあ。まだ一週間も北京に居らなあかんのか」
「まぁしょうがないですわねー」
「やっぱり日本でビザを取っとくべきやったかな」
「そうですね。でも日本で取るよりめっちゃ安いですよ」
「せやな。まあええか。その間、北京でゆっくりしよか。北野もその方がええやろ」
「まあ……色々したいことがありますしね」
僕はふとミョンファちゃんのことが頭に浮かぶ。
「俺もいっぱい見たいとこあるし、楽しもか」
「そしたら列車の切符ってどうします?」
「27日にビザがもらえるんやったら、その日に合わせて切符を買うとかなあかんな」
「なんか高度なテクニックが必要ですね」
「そやね。日本みたいにパッと買えへんし、タイミングが難しそうあやな。――まあ、その辺は北野に任しとくわ」
「ええ、そんなん……」
「せやかてお前、鉄道詳しいやろ」
「詳しい言うてもなぁ……。ほんなら、今日も切符売場の偵察に行ってきますわ」
「よっしゃ頼むで!」
英語で書類を書き上げてパスポートと一緒に提出。
30分ぐらい経ってパスポートを返して貰ろた。
で、大使館を出る。
列車の切符を調達する為に僕は、天安門広場の近くにある
気楽でええなぁ。
ただ昼飯は一緒に食べよって事になり、1時に朴君の店で待ち合わせで、僕と多賀先輩は大使館の前で別れた。
朝はあんなに涼しかったけど、今は少し歩いただけで汗が出る。
太陽が高くなるにつれ、日差しがきつなってきた。
僕は
つづく
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