20帖 超絶美少女は妹?

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



「まった来ったでー」

「こんちはーす!」

「こんにちはー、どうぞ中に入って下さい」


 朴君は嬉しそうや。来て良かったわ。


「俺、3本頂だい」

「僕も、取り敢えず3本下さい」


 早速シシカバブーを頼む。他にお客は居らんかったんで、朴君は焼き終わるとシシカバブーを持ってこっちのテーブルに来て座り、話掛けてくる。


「あなたの名前は何と言いますか?」

「俺は多賀浩二、28歳。中国語で……何やったかな?」

「ドゥォフゥァ・ハオアールでしょ」

「そうそう、ドゥォフゥァ……ハオアールや」

「なるほど」

「僕は北野憲太、24歳です。ベイイェ・シィェンタイと言います」

「なかなか中国語、上手ですね。私は朴春穆パクチュンムーと言います。20歳です」

「知ってる、昨日聞いたで」

「そうでした、ははは」


 食べながら、日本語でいろんな事を話す。

 僕らが日本の何処に住んでるかとか、そこはどんな所やとか、いろいろ聞いてくる。京都は知ってるらしい。

 僕らは他に日本で知ってる所あるかって聞いたら、広島と長崎やて言うてた。中国でもアメリカが日本に原爆を落とした事を学校で習うらしい。反米の国やからなぁ?


 その後も、朴君の質問は止まず、僕らの家族のことや、日本で何をしていたとか、今日本で何が流行ってるとか、兎に角いろんなことを聞いてきた。

 そやから僕らも朴君の事や、中国では何が流行ってるかとか聞いてみる。


 今、中国の若者の間では、密かにロックが流行りかけているらしい。僕は高校の時バンドをやってたとか、多賀先輩はギターを持って来てるとか言うと羨ましそうやった。


 そんな話をしてたら3本とも食べてしもたんで、もう2本追加してと言うと喜んで焼いてくれた。

 ほんでまた一本おまけだと言うて、3本ずつ持ってきてくれる。


「朴君、ありがとう。いつもおまけしてくれるけど、お店は大丈夫なんか」

「大丈夫です、どんどん食べて下さい」

「それやったらビールでも飲みながら話しよか」

「そうっすね。朴君、ビールを一本ください」

「はい、わかりました」


 朴君は店の奥に向かって朝鮮語で何か言うた。


 ん? なんで。


 朴君の店はそんなに広くないし、ってか奥の壁、見えてるし。


「なんも無いのに誰に言うてるんやろ?」


 と思てた。


 そしたら、なんと!

 昨日、隣の店で見た美少女が奥からビールを持って現れたではないか!

 何も無いとこから出てきたのもそうやけど、彼女が出てきた事にめっちゃ驚いた。


 な、なんでおるん。隣のお店とちごたん?


 彼女もこっちに気がついたらしく、エッという表情をしてた。

 またその驚いた顔が、とても可愛らしい。彼女は、朝鮮語で「どうぞ」と言うてビールを置くと、なんか逃げるように奥に消えてった。

 どうやら奥で、隣のお店と繋がってるみたいや。

 僕が不思議そうな顔をして彼女が消えた方を眺めてたら、朴君が更に驚くことを言うた。


「今のは僕の妹です。奥で隣の店と繋がっています」

「マジっすか!」


 まじかぁ。あの子、朴君のい・も・う・と?


「妹は隣のお店で、おじさん、おばさんと一緒に働いています」


 妹キターーー!


 なんかドキドキしてきたぞ。


「そうです。僕は妹が二人いて、年上の妹はお父さんお母さんと一緒に吉林省に住んでいます」

「そしたら北京には朴君とさっきの妹と二人で住んでるん?」

「いえ、おじさんおばさんと従兄弟いとこも一緒に住んでいます」


 そっかぁ、そうやなぁ。妹と二人やなんて……。危ない、危ない。


「なるほどね。良かったなぁ北野。朴君、シシカバブーをもう2本追加してくれるか。今日はいっぱい飲もかぁ」


 多賀先輩、何ニヤついてるんですか、もう!


「僕も頼もかな……」


 そうや、隣の店と繋がってるんやったら、冷麺頼んだらまた妹さんが持って来てくれるんとちゃうやろか?


 僕は期待して朴君に聞いてみる。


「朴君。ここで冷麺頼んでも向こうからもって来てくれるんかなあ?」

「はい大丈夫ですよ。隣の店も僕の店です」


 でかしたぞ朴君! このお店のオーダーシステム、最高やん。


「じゃ、冷麺1つ」

「俺も冷麺食べよ。朴君俺も冷麺頼むわ。あんま辛くないやつ」

「わかりました」


 と、朴君は店の奥に向かって大きな声で冷麺を頼んでくれる。向こうの方からおばさんの返事が聞こえてきた。


「朴君。さっきのなー、妹さんは何ていう名前なん」


 我慢しきれず、聞いてしもた。


「ミョンファと言います」


 ミョンファか、可愛い響きやなぁ。


「今年中学校を卒業して、店を手伝っています」


 ええっ! ってことは……。


「ミョンファちゃんは、今何歳なん」

「えーっと、15歳です。たぶん」


 なんと、15歳やと! ほんまか?


「18歳か19歳ぐらいに見えたわ。ははは。少し大人っぽいですね」

「そんなことはないですよ。まだまだ子供ですよ」

「でも可愛い……で、すよね」


 あっ、思わず言うてしもた。しかも、実のお兄さんに……。朴君、怒ってるかな。


 恐恐こわごわと覗いてみたら――そうでも無かった。


 良かった。ほっとした。


「そんなこと無いですよー。可愛く無いよー」


 いやいや、めっちゃ可愛いって、と心の中で僕は言うといた。


 どうやら奥から冷麺が運ばれて来たみたい。

 ミョンファちゃん、キターーーー!


「はい、どうぞ」


 えっ、ええ?


 見上げたら、な、なんと。持ってきてくれたんは……、おばさんやった。


 しもたー! その可能性を考慮してへんかった。最悪にして最大の失態。


 憲太、一生の不覚っ! (ズバッ、ドヘーッ)


 僕は、自分の知恵の足りなさを痛感してしもた。



 つづく

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