19帖 パキスタンへの道は遠い
『今は昔、広く
5月20日、月曜日。
今朝の北京は涼しい。いや、寒いと言うた方がええかも知れん。夜中から急に気温が下がりだして、昨日までの暑さは嘘の様や。
窓の外は空気が澄み切ってて、遠くまではっきりと眺めることが出来る。
今まで気づかんかったけど、北京の北には山がある。そんなに高い山やなかったけど、山際は鮮やかや。
うう、ああ、うんっ……あれ?
少し喉が痛い。風邪の引き始めみたいな感じや。そやけど今日は寝てられへん。パキスタン大使館へビザの申請に行かなあかんから。
それとパキスタンへ行く為の列車の切符も調達する必要がある。上海の様にまたぼったくられたらあかんし、慎重に事を運びたい。
その為に、今日は
パキスタンに行くルートは幾つかある。僕らが考えてるのんは、
交通機関もあるみたいやけど僕は、「
その為に、日本を出る前、動物園で駱駝の生態を調査してた。ちょっとだけ。
ちょっとだけとは……、実は駱駝には会えていない。駱駝は居らんかった。
幼い頃、京都の動物園に連れて行って貰ろた時は確かに居ったんやけど、調査しに行った時はどこ探しても見つからんかった。おかしいなぁと思て係員に聞いてみたら、去年死んだって言われた。
僕は、
「どないしょう、やっぱ駱駝で砂漠縦断は無理かなぁ」
と考えてたら、よっぽど残念そうに映ったんか当時の飼育員さんを呼んでくれた。一通り特徴や生態については教えて貰う。まぁ無理やったらしゃーないけど、できるんやったら挑戦してみたい。
このルートの事をもう少し話しときます。
中国の西域、アジアの中央に位置する
更にそこから
唐の時代、
三蔵法師が
そやけど、そこまでの列車の切符を手に入れる事は、なかなか大変らしい。
朝ごはんも食べずに僕は旅館を出る。時刻は9時を回ってた。空気は涼しかったけど、相変わらず太陽の日差しはきつい。
遅れて多賀先輩も出てきたんで、二人で地下鉄の駅に向かう。
正門には門衛やろか、パキスタンの民族衣装「シャルワール・カミーズ」を着たおじさんが立ってる。そのおじさんにパキスタンのビザが欲しいからどうしたらええか尋ねた。
英語が通じる! 当たり前か。
そしたら、おじさんは困った顔をして、
「キミたち、来るのが遅いよ。明日10時までに大使館に来て、そこの部屋で待っていなさい」
と言われた。
なんと、今日の申請時間は終わってしもてたようや。あと15分早よ来とったら……。
こればっかりはどうしようもないんで、また明日来ることにする。
「まずいなあ」
「でもこれはしゃーないですわ。遅かったんやから」
「一日延びたということはやで、宿泊代や食費も1日分、余計に掛かるっちゅうことやろ」
「せやけど、どうしようもないですよ」
「うーん、そやな。ほなまた明日や」
「もう道は完璧に憶えたし、早起きして行きましょか」
「そやそや、明日は早起きしよ」
声に出して言わんけど、旅館の出発が遅れたんはトイレにこもってた多賀先輩のせいですよ!
「ほんならこれからどうします。切符売場の偵察でも行きますか?」
「そやけど朝飯、食ってへんしなぁ。腹減っってるし朴君の店行こか」
「もうやってるかな?」
「取り敢えず行ってみよ」
僕らは朴君の店「朝鲜风味餐厅」を目指して歩く。15分位で店の前に着いたけど、店は閉まってた。
「何時からやってんねん、この店。今日は休みか?」
「いや。昨日朴君にまた明日来るでって言うたら、待ってるって言うてましたよ」
「そやったなぁ。ほなまだ開いてへんのか。ここで待っててもしょうがないし、先に
「ですね」
僕らは地下鉄に乗って西直门站に向う。
駅を出ると、目の前に大勢の人民が居る。その奥に西直门售票处があり、みんな切符を買いに来てるみたいや。まだ午前中やのに
並んでる人民らは、手に紙を持ってる。何の紙やろうと覗いてみると、どうも列車の予約票みたいで、みんな我先にという感じでその紙を窓口に出してる。
窓口といってもガラスも何にも無いただのカウンターで、その奥の壁には黒板にチョークで列車の空席情報みたいのんが書いてある。
見ても何の事か分からんかった。
一応、雰囲気は確認できたんで、また朴君の店に戻る事に。今度は安い地下鉄よりも更に安い路線バスで行く事にする。
路線バスは、エンジンではなくモーターで走る。屋根の上のパンタグラフで、架線から電気を供給して走るトロリーバス。
しかも2両編成で、真ん中の連結部分で折れ曲がる。なんと後部車両のタイヤは、一個(一軸)しか無い。トレーラーみたいや。こんなバス、初めて乗ったわ。
バスは結構混んでて、立ったまま。そやけど車窓から北京の街並みを楽しんだ。
歩いてる人もいたけど、自転車に乗ってる人の方が圧倒的に多い。通勤時間は終わってるんで、そんなにたくさん居るわけではなかったけど、それでも自転車で移動してる人は多い。
道路脇にある公園では、太極拳をやってる人や鳥かごを飾って話をしてる人たちがたくさんいた。
店はもう開いてた。僕は隣の店の方が気になってたんやけど、まず朴君の店へ入る事にした。
つづく
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