天津
12帖 租界
『今は昔、広く
北京行きの
そやけど今はまだ8時半を少し回ったところや。
「これから5時間もどないします?」
「そうやなあ、1時に戻ってくるとして……取り敢えず歩こか」
「はい」
僕らはリュックを背負って歩き始める。
駅を出ると、目の前には
またその手前には小さな建物もあって店舗や住居になってたけど、やっぱり歴史的な古さや。
線路の反対側を見ると、川向こうとは対照的に超高層ビルなどがあって、「現代的な街」に見える。建設中のビルも幾つかあって、これからどんどん発展していく勢いを感じた。
線路と並行した海河沿いにしばらく歩くと橋があり、橋を渡った向こう岸には公園らしき緑地帯があったんでそこへ行く事にする。
そこは
朝の太陽は眩しく、昨夜の雨で洗われた木々の緑が鮮やか。近くには
地図を見てみると、歴史博物館や記念館、動物園なんかがあったけど、どれもあまり行く気はせん。
結局何も決まらず会議は終り。
「俺、寝るわ」
と言うて多賀先輩はベンチの上で寝てしもた。僕は眠たくなかったんで公園を少し歩いてみる。
体操をしている人やジョギングをしている人、太極拳をしているおじいさんが数人居る。公園の端まで行ったけど、他に何かあるわけではなかったんで折り返して戻ると、多賀先輩はまだ睡眠中やった。
そやし今度は街の方へ行ってみる。銀行や企業の建物があったけど、どれもデザインは古く、そして西洋っぽい建物やった。なんとなく、神戸の旧居留地で見た風景に似てる。
もしかして、この建物って天津に「租界」が出来た時に建てられたやつかな?
と、高校の世界史の授業を思い出す。もし、そうやとしたら相当古いもんや。
それらを過ぎて西の方へ行くと、グランドが見えてくる。
そこは中学校らしく、グランドでは体操服を着た生徒が並んで集団行動みたいなことをやってる。先生の大きな声が響いてた。
誰かが間違えたんか、同じ動きを何回もやり直しさせられてる。何度も何度も同じ動きの繰り返しやったんで飽きてしもて、僕はまた歩き出す。
人通りの多い通りに出たら移動式の屋台があった。店主のおっちゃんがこっちを向いて何か言うてるみたい。目が合うたんでそっちへ行って屋台を覗く。
その屋台では揚げパンの様なもんを売ってる。朝ごはんもまだ食べてへんかったんでそれを買う事にする。
「
「
「
中国語と日本語混じりで話してしもた。
揚げパンは1個5角やから、2つで1元。1元札をおっちゃんに渡すと、揚げパンを2つと、なぜか小銭のお釣りを渡される。
2つ買うと1元せえへんのや。なんかお得やね。
そやけどお釣りで貰ろたこの小銭、一体なんぼの価値があるんかまだよく分って無い。ポケットにしもたけど、全然使こてへんし小銭がたくさん溜まってきてた。
揚げパンを持ってさっきの公園に戻ると、多賀先輩はやっぱりまだ寝てる。
起こすんは悪かったんで横に座り、静かに揚げパンを食べてみる。その揚げパンは、ただ油っぽいだけで味もなく、あんまり美味しいとは言えん。と言うか、正直なところ不味くて食えたもんやない。そやしミネラルウォーターで胃に流し込んだ。
その後、カメラを取り出し公園や川、租界の建物の写真を撮って時間を潰す。ほんで公園に戻ると、多賀先輩が起きてたんで、さっき屋台で買うた揚げパンを多賀先輩にあげた。
「多賀先輩、このパンめっちゃ美味いですよ。食べてみてください」
「ほんまか。おおきに」
多賀先輩は寝ぼけた顔で一口食べる。
「ん?」
不思議そうな顔をしてたけど、もう一口食べる。
すると多賀先輩は、口の中にパンが残ったまま、
「北野。これ、不味いんとちゃうか?」
と真顔で言うてきたんで僕は思わず笑い出してしまう。
「そうですか、僕はめっちゃ美味しかったんですけどぉ」
笑いが止まらんかった。
「嘘つけ、めっちゃ不味いやないかぁー」
「ばれました」
「なんぼ寝ぼけてても分かるわっ!」
「美味しそうに見えたんですけどね」
「めっちゃ油っぽいやないかこれ。朝からこんなもん食えるか!」
そう言うて多賀先輩は飲み物を探す。
そやけどミネラルウォーターはもう無かった様で、
「飲みもん買うてくるわ」
と言うて租界の方へ消えていった。
僕はベンチに座り、何を思たか多賀先輩が食い残した揚げパンをまた一口食べてみる。
おぇ!
やっぱりまずかった。
気分まで悪なってきたんでミネラルウォーターを飲んでボーッとしてけど、
「そうや! 列車の北京到着時間を確認しとこ」
と思い、リュックから時刻表を出す。
調べてみると到着時刻は16時48分と書いたる。
どうやら夕方には間に合いそうやなぁ。
時刻表を見てたら今度は僕が眠たくなってきたんで横になり、サングラスをかけて寝る事にした。
つづく
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