第11話 グッバイ、ハロー

1.


 そう、戻った記憶の話をしよう。

 何度目かの遊園地でのできごとを。

 俺の、悔やんでも悔やみきれない、最悪の記憶を。



 きっかけは、クレープだった。

 純と食べっこしていたそれを、どっちがどれだけ食べたかで言い合いになり、大ゲンカになったんだ。

 本当にくだらないケンカはしばらくして収まったものの、家に帰ってからかかってきた電話でまた火が点いた。

 何分かかったか分からないほどエキサイトした果てに、純はこう言い放った。

『まったくもう! ちっちゃいことばっかり気にして! 幻滅だよ!』

 聞いた俺が破局の引き金を引く言葉を放ったのは、自分でも気にしていたことをカノジョに指摘されたからだと思う。まさに図星だったのさ。

 だからこっちの台詞も、むやみに勢いがついて止まらなくなっちまったんだ。

『ああいいよ! 幻滅だろ? そんな男、別れちまえよ! 俺もそんなうっせぇカノジョ、いらねーし!』

 息を飲む音のあと、怯えと動転がミックスされた声が聞こえてきた。

『ちょ、ちょっと待って! ごめん! ごめんなさい!』

 でも、俺は止まれない。ちっちゃい男だからな。

『へっ! 待たねぇよ! 心配すんな! ほかにちゃんとアテはあるからさ!』

『だ、誰? 誰なの? あの子なの……?!』

『じゃあな!』

 引き籠った部屋の中で純が転倒して意識不明になったのは、それから3日後だった。


2.


 家に刑事がやって来たのは、深那美の喪失から一週間後のことだった。40代くらいの男性と、20代に見える女性の2人だ。

「直正洋太君だね? 籾井深那美さんのことで、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 予想はしていた。意外と早かったけど。

 あいつが学校を無断欠席して数日後、ちょっとした騒ぎになっていた。担任が家を訪ねても、無人だったらしい。黒幕の野郎、あいつに『両親は助ける』って言ったくせに。むかつく。

 それはともかく、俺があいつの『思い出作り』に付き合っていたことは、みんなが知ってる。だから遠からず学校や警察にばれて、照会が来るだろう。そう予測していた。

 実際、職員室に呼び出されたのは、終業式の前日の放課後だった。深那美のことをいろいろ訊かれて、例のこと以外は正直に答えた。

 あいつから年明けにいなくなると聞かされて、思い出作りに付き合ったこと。

 彼女の家には3回ほど行ったこと。特に変わった様子はなかったこと。

 彼女が風邪で欠席した日の午後、何度電話しても出なかったこと。

 いま目の前に座っている刑事2人にも、同じ説明をした。おろおろ落ち着かないお袋を目の端に捉えながら。

 男性刑事はお茶もすすらず、じっと俺の顔から目を離さない。代わりに女性刑事が口を開いた。若いほうに話しかけさせて、親近感を得やすくする作戦だろうと推察する。

「その後は籾井さんと接触はない。そういうことでよかったかな?」

「はい」

 女性刑事はそのまま続けた。

「気にならないのかな?」

「深那美のことがですか? どうして連絡がつかないのか気にはなりますけど……」

 女性刑事は動かない。俺としては、困惑した顔を作って黙っているしかない。しゃべり過ぎは、自滅のもと。いつか親父がつぶやいた言葉が思い出された。

 その時、男性刑事が口を挟んできた。低く渋い、しかし少し威圧的な声が耳に響く。

「実はね、先日、籾井さんの遺留品が発見されたんだよ。市内のあるところで」

 女性刑事の表情は変わらなかったが、目に驚愕の色が少しだけ浮かんだ。その目を向けられても、男性刑事の情報漏えいは止まらない。

「ああ、これはまだ報道発表前なんで、オフレコでね。どこで発見されたと思う?」

「……深那美の家以外の所、ですよね?」

「ああ。衣服が数点、そして、君と写ってるプリクラがね」

 あの時の生々しさを思いださずにはいられず、表情を無理やり整える。見透かされたかもしれない。刑事が図に乗って攻勢に出てきたからだ。

「彼女のスマホが見当たらないんだ。家にもなかった。知らないかね?」

「スマホが? さあ……」

 女性刑事も口を出してきた。男性に質問の主導権を握られたのがくやしいのか、それとも情報漏えいを止めようとしたのか、やや早口で。

「どこか、彼女の立ち回り先で思い当たるところはないかな?」

「……カフェ・ゴエティアとか」

 そう言った瞬間、女性刑事の目が光った。やや前のめりに話し始める。

「そのカフェ・ゴエティアって、どこにあるの?」

「えーと、河島線の……地名はちょっと分からないんですけど……」

 刑事二人は目を見合わせると、異口同音に告げた。

 カフェ・ゴエティアなる店は、存在しないのだと。

 唖然として、すぐに思い至る。

 あれは、深那美の魔法の産物だったのか。すかした男が段々増えていったのもそのせい……

「君は学校からの聴き取りにも、その店の名前を出したそうだけど、なぜなの?」

 女性刑事の口調は柔らかいが、眼は俺をひたと見すえている。『嘘つき』だと思われてるんだろう。

 でも、彼女と一緒にお茶をしたことは事実なんだ。少なくとも俺の記憶の中では。

 それを訴えても、刑事たちの態度が軟化することはなかった。女性刑事が手帳に何か書き付けるのを待って、男性刑事がついに身を乗り出してくる。

「タワーパークの東にある森に、行ったことはあるかい?」

「通ったことはあります」

 これは予測された質問だった。あれだけ回数を重ねて訪れていれば、目撃者もいるだろう。

「森の中に入ったことは?」

「ありません」

 ここでようやくお袋が口を挟んだ。状況にようやく頭が追いついたみたいで、血相を変えている。

「あの、どうしてそんなことをお訊きになるんですか? まるでうちの子が深那美ちゃんの行方不明に関係があるような訊き方じゃありませんか?」

 女性のほうはギクリとしたが、男性はまったく動じない。きっとこんなやりとりを何百回と繰り返してきてるんだろう。

 でも、口から出てきたのは、

「めっそうもない。私どもも報告書を作らなきゃいけないんで、関係者にお話を聞いているわけでして」

 どっかで聞いたことのある言いわけをして、本題が来た。

「12月19日の午後3時以降、どこにいたのかな?」

 ここまでか。俺は観念した。

 部活をサボって家に帰ってきました。証人はいません。

 努めて平静に、そう言おうと口を開きかけた時、

「ただいまー」

 聞き慣れた声の、聞き慣れない朗らかな声色が玄関から聞こえてきた。親父が帰ってきたんだ。

 ゆっくりと立ち上がる刑事たちと短い自己紹介を交わした後、親父は荷物を部屋に置きに行って戻ってきた。事の次第を、俺の隣に座ってコーヒーを勧めながら女性刑事から聞かされてるその姿……気味が悪い。

 お袋も同じ思いのようだ。眼を大きく見開いて親父の顔を凝視してる。

 なぜなら、刑事の説明を拝聴する親父の横顔は、今まで見たこともないくらい穏やかでにこやかだったんだから。そう、まさに一家の主が客を応接しているように。

 その光景を他人事のように見ながら、同時に、目の前の刑事たちに怒りが込み上げてくる。

 真相を知っても、何もできやしないくせに。

 黒幕の野郎のお遊びすら止められないくせに。

 俺にだって、どうにも、ちくしょう……ちくしょう……

 表情を隠すために、うつむいて堪えていたら、横の席に座り直したお袋が背中に手を置いてきた。気分が悪くなったとでも思ったのだろう。うれしいけど、お袋もなんの解決策を持っていない。それが、無性に悲しい。

 やがて、直近の質問を俺に投げかけたところまできた。気が付いて顔を上げると、俺に向き直った刑事が今まさに口を開きかけたところ。それを、親父が制した。

「ああ、その時間、私とここで将棋を打ってましたよ」

 将棋……?

 !!

 そのキーワードが俺の記憶を刺激し、観念していた心を覚醒させた。

 ここだ。ここが勝負だ。心の中の俺が叫んでる。

 その声に従い、俺の表情筋は一世一代の大仕事をした。ああそうだという顔を作り、うなずいたんだ。

 刑事たちは、少なくともうろたえた様子は見せなかった。

「失礼ながら、証明できますか?」

 親父の答えも明快だった。

「ええ、日記に棋譜をつけてますから」

 驚くお袋に、その日記とやらを取りに行かせる。すぐに戻ってきたお袋の手には、1冊の大学ノートがあった。

 それを受け取りながら、刑事がちくりと刺してくる。

「奥様がご存じないとは、意外ですな」

「あらすみません。私、将棋に興味が無いものですから」

 そう答えるお袋の顔は、俺の嫌疑が晴れそうな形勢に、すっかり明るくなっていた。

 男性刑事はパラパラとめくって日記を流し読みしていたが、顔を上げて、俺たちに視線を投げてきた。上目づかいの、疑っている目つきだ。

「19日の棋譜、ああいや、対局ですがね」

「ええ」

 と親父も受けて立つ姿勢。にこやかな顔は崩していないが。

「こういうと大変失礼なんですが、お2人ともあまりお上手じゃないですな」

 親父は投げつけられた煽りに軽く笑って、だからこそネット将棋だけでなく、息子と対戦してみようと思ったのだと答えた。

「しかしまあ、この15手目の4四角はいただけませんな」

 失礼ながらと親父が手を挙げる。

「17手目ですよ」

 ありゃ失礼、と刑事の顔は日記の陰に隠れたが、一瞬だけ見えたその顔は『ちっ、引っかからなかったか』と読めた。

 次は俺に来る。どうすると身構える前に、親父が動いた。

「その後の洋太の42手目、2五桂が痛かった」

 来た。記憶を必死に手繰って、かつ的確なコメントを返さねばならない。

「へっ、痛恨の一撃は6二飛成じゃねぇの? そのあと無理に連続王手しようとして息切れしたじゃん」

 それから2、3やりとりをしたあと、刑事たちは腰を上げた。玄関で靴を履きながら、男性刑事がぽつりと言う。

「洋太君、籾井さんの衣服はね、森の中で発見されたんだよ。何らかの犯罪に巻き込まれた可能性がある。そのことについて、どう思うかね?」

 かかとでトントンと床を鳴らしながら、刑事の横目が光っている。

 俺は即答した。

「深那美にもしものことがあったら、俺が犯人をぶちのめします」

 復讐は法律違反だよ。刑事は面白くもなさそうな声でそう言うと、相棒を促して帰った。


3.


 お袋が風呂に入るまで待った。悪いけど、邪魔をされたくない。

 親父は俺が来るのを予期していたらしい。コーヒーを淹れてくれていた。その良い香りに、気持ちが落ち着いていく。

 俺は椅子に座り直した親父に向かって、問いかけずにはいられなかった。

「俺がこういう状況になるのを、知ってたのか?」

 親父は軽くうなずいた。脚を組み直してふんぞり返る。

「お前が厄介事に巻き込まれているのは分かっていたからな」

「なんで分かったんだ?」

 親父はちょっと首をかしげると、

「お前の彼女の記憶喪失の回復は、奇妙な経過だった。なのに、お前はそのことを母さんに話した時、さらりと流した。その後もだ。加えて、12月に入ってから急激に増えた夜間外出、そして硝煙の匂い――」

 親父は腕を組んだ。

「つまりお前は、その回復のからくりに絡んでいる疑いが強い。それも人に言えない何かを使って」

 ばれてたのか、やっぱり。俺はうつむいた。その頭の上から、親父の短い声が降ってくる。

「で?」

「……まず、これを見てくれよ」

 シューズ袋に隠してあったマカロフを差し出したとたん、親父は俺の手ごと銃を押しのけ、空いた手で俺の喉に手刀を打ち込んできた!

「ぐっ!! な、なにすんだよ!」

「銃口を人に向けるな。小学校で習わなかったのか?」

「習ってねぇよ!」

 親父は、ニッポンの教育はなっちょらんとつぶやきながら、銃を受け取った。

 弾倉を外してみたり、遊底を引いてみたり、しばらく仔細に眺めた後、俺に返してくれて一言、

「マカロフだな。それもどこぞの国のパチモンじゃない、本国製だ。どこで手に入れた?」

 勧められたイスに座った俺は、顛末を語った。少しためらったあと、あの動画も見せた。

 深那美の声を耳にして、また涙が溢れてくる。それは、紛れもなく後悔の涙だった。

 もっと一緒にいてやればよかった。

 あんなに邪険にせずに接してやればよかった。

 週1なんて言わず、もっとメシを食いに行ってやればよかった。

 あの家で、2階で親が幽閉されてうめいているあの環境で、独りでずっと過ごさなきゃいけないなんて。

 俺なんかのために、魂を削って……

 酷過ぎて、吐き気すらしてくる。

 動画が終わって、親父が溜息をついた。メガネを外した目頭を押さえて、盛んに首を振っている。

「ベリトか……」

「ん? なに?」

 親父の眼には、奇妙な光が宿っていた。

「悪魔だ。72柱のな。恐らく彼女は召喚した時に指輪を使わなかったのだろう。だから――」

 彼女? 深那美のことか?

「――まあとりあえず、それはいい」

 そう言いながら首を振るとその光は消え、親父はメガネをかけ直してまたふんぞり返った。

「で、お前はどうしたいんだ?」

 答えられず、涙を拭うだけ。そんな俺に、親父は言葉を重ねてきた。

あらがうか、捨て去るか」

 やっぱり、意味が分からない。素直にそう言うと、親父は解説してくれた。

「深那美さんの仇を討ちたいという気持ちに抗って、恋人と幸せになる道を選ぶか。

 恋人との幸せへの道を捨て去って、黒幕とやらに仇討ちを挑むか。

 どっちだ?」

 俺は途方にくれて、がっくり下を向いた。声にも力が入らない。

「……どうやって仇討ちなんかするんだよ?」

「武器はあるじゃないか」

 それが、親父の答えだった。親父のごつい指が、俺の手の中のマカロフを指差している。

「これが……?」

「そうだ。魂を削って作った銃弾なら、奴の儡偶らいぐうを浄却……要するに、消せる」

 用語がさっぱり分からないが、『消せる』という言葉だけは理解できた。それで十分だと自覚する。

 親父はまた足を組み直した。コーヒーを一口飲んで、人差し指を振りたてながら話は続く。

「だからな、最初に黒幕に面会した時、深那美さんに銃弾を作ってもらって、黒幕を浄却すればよかったんだ。そうすれば、お前は深那美さんと手に手を取り合ってハッピーエンドだったのに」

「は?! 純はどうなるんだよ!」

「お前と出会った記憶のない、赤の他人じゃないか。めでたしめでたし」

 俺の嫌いな親父が戻ってきた。この人を小馬鹿にした表情、ほんとムカツク。

「あのな、何かをすれば、何かはできないんだ。それを、2人とも手に入れたいってか? この妄想ハーレム野郎め」

 めっちゃムカツク。

 でも、『手に手を取り合って』と『妄想ハーレム野郎』っていう言葉は、深那美の手の感触と口調の記憶を呼び起こした。また涙が溢れてくる。

 うなだれた俺の頭に向かって、親父のくそったれな放言が始まった。

「そもそもなぜ泣く?」

「泣いちゃいけねぇのかよ! 悲しんじゃいけねぇのかよ!」

「いや、悲しむのは分かる」

 親父はさっきまでとは打って変わったしんみりとした表情で、姿勢を正した。

「深那美さんの置かれた境遇と、それに負けない勇敢で気丈な振る舞いは敬服に値する。一日も早い転生を願うばかりだ」

 またわけの分からない事を言い始めたが、問いただす暇もなく、次の嘲弄が飛んでくる。

「だが、泣くのは解せんな」

「何でだよ!」

 親父は嗤い出した。

「満願成就だからさ。ダブルラッキー、と言い換えてもいいかな? 王太子シャルルもかくあれかしだ」

 意味が分からない俺の顔色を読み取って、親父は歴史講釈を始めた。

 その王子は、敵国の軍隊に首都を追い出されて王国の縁に追い詰められていた。反撃の手駒はそれなりにあるが、機会が見出せない。

 そんなある日、神の使いと称する村娘がやって来て、王子に告げたのだ。

『神様に言われて、あなたを王位に就け、お国を救うために来ました』

「――その村娘の訪問を機に、形勢は逆転。王子様は王様になることができ、国土も回復できた。ラッキーだろ?

 おまけにその村娘は敵が捕らえて、魔女として火炙りにしてくれたから、後腐れもない。ダブルラッキー!」

 つまり、深那美のおかげで俺と純はまた付き合えて、深那美は消滅したからダブルラッキーだってのか?

「ざけんなよ……!」

 溢れてきた涙も拭おうとせず立ち上がって、にらみつける。うって変わって神妙な顔つきになったクソ親父を。

 そんな激情も、親父が次につぶやいた言葉で勢いを失ってしまった。眼に深い哀しみを湛えた、大人の男の声に。

「だからな、例えお前が幾億の涙を流そうと、このクソ親父を殴り倒そうと、結果は変えられない。その結果を踏みしめて、前へ進むしかないんだ」

 その言葉が俺の中に沁みこむまで、親父はコーヒーを淹れ換えて待ってくれた。

 いや、沁みこんだだけじゃない。俺の心の中にある深那美の一言と合わさって化学変化が起きるまで、待っていたのだろう。

『くやしいよ』

 顔をくしゃくしゃにした深那美の、ひび割れた嘆きが、頭の中で響く。

 でも、

「……やり方が、分からない」

 マカロフを見つめた俺のつぶやきを、親父が受け止めた。

「手段については俺に任せろ。ただし、そこに至るにはお前の覚悟と努力が必要だ」

 俺は顔を上げ、ふと思いついたことを尋ねた。

「なあ?」

「なんだ?」

「奴を消す手段ってのがあるならさ、ひょっとして、深那美を生き返らせる手段はあるのか?」

 親父は、すぐに首を振った。

「死者は蘇らない。たとえ入れ物を用意して、招魂しょうごんできたとしても、それは元の故人ではない。故人とよく似た肉人形にしかならない」

 じゃあ、答えは一つだ。俺は息を深く吸い込むと、決然と言い放った。

「抗わない」

「ふむ」

「でも、捨て去らない」

 意表を突かれたらしい親父に向かって言葉を継ぐ。

「深那美が命をかけてやってくれたことを、無駄にしたくないんだ」

 そうだ、あの子は、最期に残されたわずかな時間で、俺の幸せを願ってくれた。

 だから、あの子のくやしさを晴らし、同時に幸せになるんだ。純と一緒に。

 反応は、盛大な溜息だった。

 次いで立ち上がった親父は、奇妙な仕草をした。右腕を上に上げて、大きくゆらゆらと振り出したのだ。

「さようなら。我が息子よ」

 言い終わった右腕が下がって一転、うやうやしいお辞儀となる。

「そして、ようこそ――」

 俺は最後の語句が何語かすらも分からず、黙ってうなずくことしかできなかった。

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