制圧宣言

文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)より

『ドレスコード』『銃』『心』




「あなたならできるわ」

「きみならできるさ」

二人が僕を見下ろして、言う。ああうるさいうるさい。黙ってろ。

心の中で罵倒しても、届いていないようで、へらへらと嘘くさい笑みを浮かべている。実に不快だ。

「さあこれを」

「次はあれだ、そうこれこれ。さあ仕舞って」

僕を無理矢理立たせて服を脱がせようとする。うるさいうるさい。目障りだ、許可なく気安く触るな。

心の中での罵倒は言葉にならず二人にはちっとも伝わりやしない。あれこれと脱がされて、血のように赤いドレスを着せられる。太ももには、ベルトが巻かれ、弾の入った拳銃を吊り下げられた。抵抗しようとしても、肌に跡が残るくらいの強い力で押さえつけられるのだ。事実、手が離れていった太ももには手形がくっきりと残っている。抵抗など無駄だと言っているようだ。

二人は気持ち悪いへらへらとした笑みを浮かべて、こう言う。

「「行ってらっしゃい」」

不気味に合わせられたタイミングで言う。

ドン、と無遠慮に押されて、車に押し込まれた。バタン、と重い鉄の音がする。開けられないようにするためか、急速に車は走り出す。次に開くのは、きっと、到着した時だろう。


×××


「降りてください」

ギ、と軽く軋ませながらドアを開けて、その男は言う。僕が動かないでいると、少しだけ黙ってもう一度言った。

「……降りてください」

いやだ。もう何度目だろう。こんな風にこの男に言われるのも、あの二人に毎度毎度同じ言葉をかけられるのも。もういやだ。こんな繰り返しは。

「お嬢、感じたことを言葉にしてくれないとどうしようもないんですが」

それは初めての言葉だった。困ったように笑いながら男は目線を合わせてくる。

「お嬢、いま何を感じてるんです?」

「い、や」

いつも心でしか呟かなかった言葉を吐いた。男は目を猫のようにまあるくして、太陽のように笑う。それを見た瞬間、なんだか心臓辺りがぼんやりと暖かくなった気がした。

男は楽しそうに言う。

「お嬢、おれと制圧しましょうよ」

「どうして?」

「だってさっきいやって言ったじゃないですか。嫌なもの全部壊しちゃいましょう、それも完膚なきまでに。ね?悪いことじゃねえでしょ」

「りんりてきにはだめでしょ」

「お嬢は難しい言葉知ってますねえ。でも!」

男は人差し指を胸に指して、にぃと笑う。

「お嬢だっておれだって倫理的にはずっとダメなんすよ。だって今までにいくつ殺しました?今更倫理だとかどうでもいいでしょ」

ね、お嬢。と甘い声が耳元で響いた。


×××


僕たちは戻った。あの二人の元に。まだ帰ってくるはずがないと思い込んでいる二人には、充分の隙があった。怪しいとも思いもせずに温かい食事を囲んでいる。

人は食べているときや、入浴しているときなどは不用心になるという。これは絶好のチャンスだ。こいつらを制圧すれば、殺してしまえば。

僕は、もうしたくもないことをしなくてもよくなるのだ。解放される。

「お嬢」

男が鋭い目つきでこちらを見て、銃を握っている僕の手を掴む。ガチガチと情けなく震えている手元が目に入った。僕は随分と臆病らしい。

「おれがサポートしますから。行きますよ」

「うん」

男は僕を抱えたまま、思い切りドアを蹴破って、突入した。

二人は予想外の展開だったのかあほみたいに口を大きく開けて呆けている。それもパッと変わって、鬼のような形相で僕を見る。僕を見た。

「お嬢!」

「「やめろ」」

男は僕に撃てと言う。二人は僕にやめろと言う。

「もういやなんだろ、撃てよ、お嬢」

「そいつに撃てるものか。さっさと任務に戻れ」

ハッと鼻で笑いながら、二人は言った。

ここで撃たなければ、ずっとこのまま――――。

「いや」

震える手で照準が合わない。ガタガタと情けない音が口からしている。舌を噛んでしまいそう。

男が力強く掴んで標準を合わせてくれる。さあ、撃てと。まだ二人はけらけらと何がおかしいのか笑っている。笑っているのだ!


二人の内の一人に弾が入った。深く深く入り込んで、弾は出てこない。潰したようなくぐもった声が聞こえて、前に倒れ込む。それを見て、いやいやと言い出す女に銃を突きつけた。ごり、と頭に当たる感触が手に伝わる。

「や、やめて」

「お嬢がそういってあんたらがやめた試しがあったか?」

「いや、しにたくない、いや!」

ドン、とやけに静かな部屋に銃声が響く。女は静かになった。

男はそれを見て、頭と胸に一発ずつ二人に弾を入れた。ドン、ドン、ドン、ドン。静かになった部屋にはよく響いた。叫びをかき消すくらいに大きな音だった。

「さあて、お嬢。制圧完了だ」

「うん」

「なあ、これからどうする?」

「どうって?」

「これ二人は小物だが、後ろについてんのは随分と厄介なやつらでしてね。それも制圧するのか無視しておれと逃避行しちゃうか。」

「あなたと行く。もう制圧は完了してる、あとはしらない」

「そっかー。じゃあ行きましょうか!」


―――男は太陽のように笑った。

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