かみさまになれない人
かわいそう。誰かが言った。
「きっと、かみさまにはなれないね」
下を向いて、小石を蹴りながら言う。彼は、申し訳なさそうに笑って僕の頭を撫でた。撫でられたせいで、頭に生えた花が押しつぶされる。ぐしゃり、ぐしゃり、と音を立てる。
「ごめんね」
彼は今にも泣き出しそうな顔で、この身体のあちこちに生えた花と僕を見て、言う。
最近、彼はよくそういう顔をする。その顔は、ひどくさみしそうで僕がいちばん見たくない表情だ。僕に会うたびに、するもんだから嫌になる。
顔を見たくないから、彼を抱きしめた。ぐしゃり、ぐしゃ、と耳障りの悪い音が響く。これさえなければ、と思う。
「×××がかみさまになったらいいのに」
「おれじゃ、無理だよ」
そりゃそうだ。彼になれるわけがない。ただのひどく優しいだけの人間がかみさまなんかになれるわけが。この花がどうにかなるくらいにできるわけないと。わかってる、わかってるさ。
「おーい、」
誰かが呼んでいる。ああ、もうお別れだ。彼の身体を離す。
そうして、オロオロし始めた彼の背を叩いて、声のする方向に行けと指を指す。それでも彼は、向こうと僕を見比べるのだ。
「呼んでるぞ」
「でも」
いつまで経っても歯切れの悪い彼を待っているわけにもいかないので、仕方なく地面を消す。ひゅう、と地面のなくなった足下からは風が吹く。風に吹かれて何枚か花びらが散っていった。
「あ」
彼は地面のなくなった場所に立ち続けることはできないので、ややあってゆっくりと暗い穴に落ちていく。手を必死に僕の方へ向けるがその手が届くわけもなくて。
これが彼のかみさまになれない理由だったりする。他人から与えられる未練が重すぎるのだ。だから、空中に留まることができない。彼のそれらがなくなれば、今すぐにでもかみさまになることができるだろう。でも。彼のそれはなくならない、絶対に。だから、彼はかみさまになれない。
「またね」
彼が泣きながらそう言う。
音だけが耳に残る。彼は暗い穴に落ちてって、ここからはもう姿さえ見えやしない。そろそろ彼にも会えなくなるだろう。そんな予感がする。
「どうせ死ぬなら君に殺してもらいたかったのに」
この声だってもう彼には届かない。
頭から生えた鬱陶しい花を引きちぎって捨てた。目の前が真っ赤に染まる。そしてゆっくりと暗くなっていった。
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