終焉のひとひら

 ひとつ、ふたつ、みっつ、とちぎれて落ちてく命の欠片。わたしはただそれをじっと見つめていた。助けることも邪魔をすることもなく。わたしがどうすることもできないのは、向こうだって分かっていた。

分かっているだろうけれど、それでも死にたくないとわたしにすがる姿はいっそ滑稽で。そのすがりつく手すら振り払わずにただじっとしているだけのわたしも、向こうと同じくらい滑稽で惨めだった。

「たすけて」

 その言葉に何も返せない。返したらわたしも死ぬ。死ぬことが怖くて、わたしは見届ける役を奪い取った。だからずっと眺めているしかない。

 静かに眺める。目の前の生命がなくなろうとも。声を上げている欠片の代わりにわたしは息を潜めて、必死に声を殺した。




□□□




「たすけて」

 同じ言葉を何度聞いただろう。その答えに何も返せない。その日もそのはずだった。いつものようにじっとしているはずだった。

 腐り落ちていこうとするそのひとひらは、美しかった。とても。何を失くしてもいいくらいの。思わず、伸ばされた手をとるくらいには。

 気づいたときには、もう遅かった。

「その役目をちょうだい」

 そのひとひらは、にこりと笑ってそう言う。とろけるような笑みでわたしに。その笑みだけで充分だった。気づけば口を開いて言葉をこぼす。

「いいよ、あなたに殺されるなら」

 あんなに死ぬのが怖かったのに、だからこの役目を請け負ったのに、わたしは口にしていた。ひとひらは笑って、わたしの鎌を振るって、

「ありがとう。もうあなたが最後なんだよ、だからあなたの役目は終わり」

 視界が暗くなり始める。ひとひらが告げたことは、きっと本当のことなんだろう。ああ、長かったこの役目も終わる。よかった。

 ひとひらはきれいに笑った。

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