青い春

 じりじりと茹だるような暑さ。まだ夏本番ではないというのに、風ひとつ入ってこない部室のせいで温度が高く、暑苦しい。空には雲ひとつなく、青い。そんな涼しそうな色が広がっているのに。

 下敷きをうちわ代わりにしながら思う。

 パタパタと仰ぐのも、目の前のホワイトボードを見るのにも飽きた頃―――。



「あっついねえ。どう?俳句できた?」


 ガラララ、と無遠慮にドアを開けて、その人は言った。僕はその言葉に対して、首を縦に振る。

 髪を毎回サイドテールにしているのが特徴の先輩だ。お世辞にもとびきりかわいいといったタイプでもなければ、とびきりの美人というのでもないのだが、どうしてたが気になっている先輩で。

 俳句のはの時も知らないのに、先輩がいるというだけで、先輩を追いかけるようにして、そんな不純な動機で入部した。俳句部に。

 最初こそつまらなかったものの、先輩が懇切丁寧に教えてくれるものだからどんどん俳句に興味が出てきて、今では立派な部員である。


「うん、いいね。よくできてるじゃん」

「でしょう。僕もこれは自信作です」


 ホワイトボードに並ぶ僕の字を眺めながら、先輩が言った。少しだけ誇らしげに僕も言葉を返した。嬉しそうに目の前の文字を追っている先輩の横顔はかわいい。

 自分でも納得のいくものができたと思っていたので、先輩からも思ったように褒められると嬉しくなった。


「次はこの季語を使って書いてみてよ」


 と言って、僕の字の横に「夏の雲」と書き加えた。今の季節にぴったりな季語である。


 ガラララ、とまた無遠慮にドアを開ける音がした。他の部員たちがやってきた音である。ああ、これで二人きりの時間は終了だ。それでも、その後の暑苦しい時間を余裕で過ごせるくらいには、気力が回復していたのだった。





 ――――――――

 Twitterでの #ノベルちゃん三題 で書いたものになります。加筆修正有。

 要はTwitterまとめ。お題はくも/俳句/サイドテールでした。

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