怪異に巻き込まれる男 -2-


 高速道路を走行していると、後方におかしなものが見えた。

 バイクか?いや違うな………。


「ヒャハハハハハハ!!」


 声高らかに、BGMよりも大きい音量で笑っているババアが、後ろから追いかけてきていた。

 ババアを見た後続車は、思いっきり壁にぶつかり、煙をはいている。玉突き事故も起こしてしまっているようだった。どうしよう、と考えている間に、ババアは僕の車に近づいてきている。近い。手元にあったコーヒーを見る。



「ヒャハハハハハハ……?ぎゃあああああああああ」


 窓を開けて投げた熱々のコーヒー(SAで購入)は、ババアの目に綺麗に直撃したようだった。悲鳴を上げている。

 ババアはのたうち回って、壁を壊して、どこかへと消えてしまった。

 ハザードを点けて、後続車を確認し、停車する。警察にババアのことは伏せて、事故があったと通報だけしておいた。後は、警察がやってくれるだろう。

 ふう。怪異に物理って効くんだなあ。

 ぼんやり思いながら、再び車を発進させるのであった。







「………?」


 高速道路を走行するババアに遭遇した帰りに、おかしなものを目撃してしまう。幼女だ、幼女。推定7歳だと思われる幼女が、僕のアパートの前にうずくまっている。一瞬、先日の童貞事件を思い出したが、どうやら関係ないらしい。幼女は金髪で、ゴスロリっぽい服を着ているからだ。

 このアパートの誰かが放置していった子供かもしれなかった。警察か?それとも児相か?いいや、どこかに連絡する前に、幼女に話を聞こう。迷子かもしれん。


「どうした?お母さんはいないのか?」


 自分で話しかけておいて、自分の言葉に先日のことを思い出してしまった。つらい。

 幼女は僕の声に反応して、少しだけ顔を上げて―――。

 大声で泣き始めた!


「ええっ?どうした?落ち着け……お兄さんコワクナイヨー?」


 立って声をかけたのがまずかったのかと、膝を下り目線を幼女にあわせると。さらに泣き出してしまった。これ僕が逆に通報されるパターンのやつ………。


「どうしたら泣き止むんだこいつ……!っていうかご近所さんに……」

「こんばんは。今夜は月が綺麗ですねー」

「えっ、あ、こんばんは。そうですね……?」


 偶然通りかかったご近所のおばさんは、ふっつーに僕をスルーしていった。不審には微塵も思っていない顔で。つまり。

 それでも幼女は泣くのをやめない。すっと自分の中で何かが切り替わるのがわかった。


「はあ今日も疲れたなあ」


 ガチャリとドアを開けて、ギャン泣きしてる幼女を無視して、中に入った。

 ドアからギャン泣きの声が聞こえ……ない。


「なんでお前も家に入ってんだ!」

「うわああん、わたしの電話を無視するからああああああああ」

「あっ、お前メリーさんだな?」

「………そうよ!あなたが電話に出ないからわざわざ来た、のに……いつまでも帰ってこないから……」


 メリーさんの名前を出した途端、泣くのをやめてちゃんと話し出したのに、また泣き始めてしまった。今度は静かに。なんだかこっちが悪いことをしているみたいだ。僕は悪いことなんてなにもしていないのに、だ。今日だって、高速道路を生身で走るババアに熱々のコーヒーをかけただけなのに。


「………メリー、さん。あのな、ああいう電話の掛け方はよろしくないんだ、タイミングも悪い。休日の朝にかけるなんて最低な奴がすることだ。」

「………ごめんなさい」

「ああいったのは友人になってからじゃないと、やってはいけないんだ。だから、な?次から直そうな」

「うん………」


 すっと、ドアを開ける。

 なんか感動しているメリーさんをグッと外へ追い出した。


「じゃ、帰れよ!」

「えっ」


 開けたドアをさっと閉めて言った。

 謀ったわね!とドンドンとドアを叩く音がしている。無視して鍵をかけ、風呂に入り寝た。


 朝方には、もうメリーさんの姿はない。

 さあ、今日も元気に仕事に行こうか!

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