第35話 最後のキャピタリズム 前編

 杉田と中村は、DIエッシャーから得た情報を本部、ナノハザート対策機関NOIRへ転送する。

 現地のネットワークを使った通信では、傍受される可能性があるので、量子共鳴通信、二対の同じ量子の同調を使った通信で、転送した。


 中村が

「まさか…組織的な犯罪の可能性があるなんて…」


 杉田が

「現地の関係者の元へ向かおう」


 中村が嫌な顔をして

「もしかして…」


 そこへDIエッシャーの通信が入り

「すいません。お二人にお願いが…」


 中村と杉田が顔を見合わせ、中村が

「何があった?」


 DIエッシャーは

「捜査対象三名の家族が…狙われています」


 


 ノイアが、地球への帰還船に乗って連絡を受けている。

「了解、こっちは後…24時間も掛かるから、そっちで対応して」

と、画面に映る中村と杉田に、利用された被害者の家族の保護をお願いする。


 ノイアの目の前にある通信画面に映る中村と杉田の中村が

「オレ達が来た事で…事態が悪化している可能性がある。現地の司法システムは当てにならない。応援を本部から要請してくれ」


 ノイアが頷き

「分かったわ。要請して置く。二人とも気をつけて」


 通信画面の杉田が

「地球に戻ったら…大仕事になる事を覚悟してくれ」


 ノイアは「ええ…」と答えた後、通信が切れた。

 直ぐに、ナノハザード対策機関NOIRに通信を入れる。

「監視長官」

と、兄である総一郎へ通信を繋げて

「人身の保護を要請したいです」


 通信に出る総一郎が

「ノイア。何をやった? フランスの当局から、厳重注意があって、これ以上…違法捜査をするなら…と」


 ノイアが

「兄さん、それはウソよ。派遣した捜査官が…現地のシステムを維持しているDIから、被害者である三名の身元に虚偽の記載があるって…」


 総一郎が驚き

「どういう事だ?」


 そこへ緊急の通信が出る。

 そこには、タクティカルスーツの方へ回った水樹と伊東がいて、水樹が

「ノイア特務捜査官。大変な事が判明した。彼ら三人は、派遣エンジニアではなく」


 ノイアが

「中村さんと杉田さんから聞いた。国家が運営するバイオナノマシン研究所の職員だって」


 水樹が鋭い顔をして

「所在を偽装していた。これは…」


 ノイアが

「直ぐに杉田さんと中村さんがいるフランスへ向かって、被害者の家族が狙われているわ」


 水樹と伊東は頷き、水樹が

「了解した。二人へ合流する」

と、通信を終える。


 ノイアが開いている総一郎の通信へ

「兄さん。直ぐに応援を」


 総一郎は厳しい顔をして

「ヨーロッパは…まだ、こちらのシステムを全て受け容れていない。承認には、現地の責任者達の許可が…」


 ノイアが厳しい顔をして

「分かった。後で厳重注意でも厳罰でも受けるから、私達で対応するわ」


 総一郎が申し訳ない顔で

「すまん」


 ノイアは、アレスジェネシスが貸してくれた超光速宇宙艦で地球へ向かう。


 通信を終えた総一郎がデスクで項垂れていると、別の通信画面が出る。

 そこには…

「父さん」


 総一郎とノイアの父ゼウスヘパイトスがいた。

「総一郎。事情は…理解している。私が協力する」


 総一郎が

「しかし、それでは…内政干渉に…」


 ゼウスヘパイトスが鋭い顔で

「ヨーロッパのシステムを担っているDI達は、良い仕事をしてくれた。犠牲者は出たが…これで、システム移行が早まるだろう」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 フランスの被害者宅の前、彼女は子供達と共に家にいた。

 不意な呼び鈴。

 彼女は、外を見るモニターで確認すると、3人の男達がいた。

「どちら様でしょうか?」


 男達の一人が

「わたくし、旦那様が勤めていた会社ジェネシック社の者です。旦那様の事で少し…」


 彼女は、男達が見せる端末名刺に覚えがあったので

「はい」

と、玄関に向かう。


 だが、玄関で待機する男達は右腕にあるステルスを解除する。

 右腕装甲型の銃器が…。


 玄関を彼女が開けようとした瞬間

「おっと待った」

と、三人の背後に中村と杉田が立ち、三人の背後に右腕をデウスマギウスにした銃口を向ける。

 

 三人は渋い顔をする。


 中村がデウスマギウスの銃口を向けたまま

「そこから動くな」

 杉田が、システムを停止させる手錠を三人に掛ける。

 

 三人の右腕にあった腕型銃器が外れる。


 その時に彼女が来た。

「え?」

 事態が飲み込めない。

 

 杉田が彼女の近づき

「アラン・フランドルさんの奥さんのリアラン・フランドルさんですよね。私達は、ナノハザード対策機関NOIRの捜査官です」

と、自分達の所属を示す立体画面を投影させる。


 彼女…リアランが戸惑い

「どういう事でしょうか?」


 杉田が

「貴方達を保護します。狙われています」


 住宅の前に二人が手配した移動車両が来た。


 杉田が

「さあ、早く…」


 リアランが戸惑っていると、中村の通信にDIエッシャーが

「防御してください! 戦闘VTOLが来ます!」


 中村の背後に、頭上から無人VTOL戦闘機が降臨して、凶暴な対物ガトリングを放つ。

「クソがーーーーーー」


 ドドドドドドドドドドド

 地響きのような無人VTOL戦闘機の対物ガトリング。

 中村は咄嗟に右腕のデウスマギウスをシールドに変える。

 その間に、襲撃者の三人が再び外された武器を手に、リアランを襲うとするも、杉田が右腕デウスマギウスのインパクト砲で三人を吹き飛ばした。

 そして「さあ、お子さん達も」と、リアランを中に入れて、子供達の方へ向かう。


 中村は、シールドを解除して、高エネルギー砲で襲ってきた無人VTOL戦闘機を破壊する。


 無論、手配した車両は粉砕、家の奥へ行き、裏口から脱出すると、別のナノハザード対策機関NOIRの輸送戦闘機が降臨する。

 その後部ゲートが開くと

「早く乗れ!」

と水樹に、伊東がいて、二人が別で保護した家族達がいる。

 中村と杉田は、保護したリアラン達家族を乗せて、中村が

「もう一組は?」


 水樹が

「ゼウスヘパイトスが向かっている」


 中村がフッと笑み

「やっぱ、こういう時に本家のデウスマギウス様がいると助かるわ」


 

 ゼウスヘパイトスは、人型のデウスマギウスモードで、襲撃者の顎を掴み持ち上げていた。

「が、ああ」

 襲撃者のスーツの下には、軽量薄型の新型タクティカルスーツがあった。

 だが、所詮はデウスマギウスの前ではお遊び。


 襲撃者をゼウスヘパイトスは三眼で睨み上げ

「喋らなくていい」

 脳内をナノマシンで覗くだけ。

 掴み上げるデウスマギウスの腕から襲撃者のナノマシンが入り、その脳内を覗く。

 ゼウスヘパイトスは眉間を寄せて

「フランスの諜報機関、対外治安局か…。そして、お前は…軍人からのスカウト…」


 ゼウスヘパイトスは、男を放り投げて解放する。

 その間に、保護した家族を乗せた輸送戦闘機が昇り、別のNOIRの輸送戦闘機へ向かった。


 解放された男が

「待ってくれ。これは、国家の治安に関する」


 ゼウスヘパイトスが鋭い三眼を向け

「お前の上司達の利益の為にやった事だ。治安も何も関係ない。変わらんなぁ…国家は、Countryは…自身の利益の為に、幾らでも人を犠牲にする。いや…Capitalism自体、餓鬼、畜生、修羅を隠すラッピングだったなぁ」

と、告げてゼウスヘパイトスは背を向けて去る。


 その背に襲撃者が

「オレ達は、アンタ達のように強くない! だから…」


 ゼウスヘパイトスは、冷徹な視線を向け

「そうやって、自身を高める努力を怠って…他人に寄生するんだな。はぁ…まだ、ニートの方がマシだな。他人に寄生して食い潰して、また他人に寄生する。お前達は…悪魔だよ。いいや、ビースト…獣…畜生だ」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ノイアが地球へ帰還する。

 向かった先は、衛星軌道にあるナノハザード対策機関NOIRだ。


 ノイアは、全員が集まっている課へ行き

「みんな。被害者家族の保護…ご苦労様」


 捜査官仲間の一同、中村、杉田、水樹、伊東が、技術捜査官の沢城と能登もいて、二人は端末を操作して、得た情報の整理をしていた。


 水樹が

「あと、一歩…遅かったら、全員が消されていた」


 中村が

「首謀者が判明した。ジェネシック社を出資している国家企業…ログフェードだ」


 沢城が

「兼ねてから、ログフェードは…人体の欠損や、人体を強化するシステムの研究をしていた」


 能登が

「その課程で、人間の神経組織を乗っ取り操るナノマシンを創り出していた」


 全員の前に、そのナノマシンの映像が出る。

 蛸型の幾つもの針のような足を備えるナノマシンだ。


 杉田が

「今回の被害者の三名は、自分達がマズい事になると思っていたらしく、家族の生体認証でロックが解除されて構築が始まる。分散型暗号クラウドデータボックスに、自分達のやっていた事を…今回の事件に使用されたナノマシンのデータと、自分達の職歴や、会社に関する事を残していた」


 伊東が

「まさに、家族がいなくなれば…永遠に迷宮だったって事ですね」


 中村が

「ノイア特務捜査官、この後は? オレ達は…その本丸であるログフェードに…」


 ノイアが渋い顔をして

「待ったが掛かっているわ」


 沢城が

「企業、組織が絡む犯罪は…大変よ。色んな連中と利益の共有があるから…」


 能登が別のデータを出して

「ログフェードは政府系の企業、色んな財団や大企業が絡んでいる。そこから犯罪が出たとすれば…一気に関連する全ての組織、財団や大企業に不信が走る」


 中村が

「そうなれば…ヨーロッパに根付いていた企業体、財閥、財団、資本家、金融、その他…諸々、国家体制の根幹さえ崩壊するかもしれない。ただでさえ、ナノテクノロジーとそこから生まれた人工知性体DI達が、問題を解決しているんだ。それに取り付いている連中は…」


 パンと伊東は両手を叩き合わせて

「一網打尽…ですか…」

 

杉田が

「それは、ストップが掛かるか…」


 沢城が

「ノイア特務捜査官。どうするの?」


 ノイアが

「今…その交渉中よ。それまで…待って」


 全員が視線を合わせた次に、中村が

「ノイア特務捜査官のお父上が…」


 ノイアは頷いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ノイアの父ゼウスヘパイトスがいるSRフィランギルの研究ドームで、ナノマシン製造器を捜査するゼウスヘパイトスの後ろに、一人の中年の男性が立ち

「申し訳ありませんでした!」

と、ゼウスヘパイトスに頭を下げる。


 ゼウスヘパイトスは淡々と作業を続ける。


 男は、今回の事件を起こしたログフェードや、ジェネシック社を総括する人物だった。

 男は、頭を下げた後

「今回の事件に関してまして…今後、このような事がないように、対策を」


「私に謝罪して何になる?」

と、ゼウスヘパイトスが冷徹に告げる。


 男は黙ってしまう。


 ゼウスヘパイトスは、男へ振り向き

「謝罪するのは、被害者達と、被害者達の家族じゃあないのか?」


 男は困惑しつつ

「その、それは…これから」

と、告げる横をゼウスヘパイトスが通り過ぎながら

「さすが、資本主義、capitalismだ。権力がある者にしか媚びず、弱者は踏みにじる。お前みたいな連中を見ていると、人間は獣だと思い知らされるよ。私に絶望をありがとう…」


 男は項垂れながら

「私は…私達は…あなた方のように優れていない。だから」


 ゼウスヘパイトスがチィと舌打ちして

「ああ…悲劇のヒロインですか…。優れようが劣っていようが、世の中、自分の思い通りにならないのは当然だろう。その中で、選択して、何をするべきか? 何ができるか? 模索するのが人生だ。さすが、資本家は違うねぇ…」

と、告げて去って行く。

 

 男は膝を崩してその場に座る。


 ゼウスヘパイトスはそんな男を見ながら

「かつて、私は、お前達のような資本を持っている連中から、何も期待していないと言われた。だから、私もお前達に、資本主義に、資本というシステムに縛られている者達に何も期待しない」

と、下りるエレベーターが閉じた。


 ゼウスヘパイトスが乗ったエレベーターが目的の階に到着すると、開いた扉の先にもう一人の妻ノアがいた。

 ノアが夫ゼウスヘパイトスに頭を下げ

「申し訳ありません」


 ゼウスヘパイトスはふ…と溜息を吐き

「ノア。君のやっていた事を否定するつもりはない。だが…人とは、こんなモノだ。人の上に立ち、権力を握れば、どんな人間だろうと腐る」


 ノアは、ヨーロッパの財団や財閥に通じて、何とか資本のシステムを使う者達が生き残る方法を模索していたが…結局は…。


 ノアが顔を上げて

「お願いです。チャンスをください。今度は…」


 ゼウスヘパイトスは冷徹な視線で

「ノイアに聞け」


 ノアは頷き

「はい。ありがとうございます」



 ノイアは、産みの母ノアから説明を受けていた。

 ノイアは頷き

「分かった。ノア母さんに、任せる」


 ノアは頷き涙して

「ありがとうノイア…」


 それを見ていた捜査官達、それにノイアが

「今回の事件は、ヨーロッパの方に…」


 中村が

「未だに、キャピタリズムの亡霊が生きているとは…」


 ノイアが頭を下げて

「ごめんなさい。みんなには大変の思いをさせたわ。本当に…ごめんなさい」


 全員が散会して伊東が

「一応、どんな事があったか…報告書を作成して置きますから…」

 全員が各自にあった報告書の作成を始めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 そこは、ジェネシック社と通じるログフォードのナノマシン加工機達が並ぶ前、一人の男がとある立体映像の設計図を指でなぞり、設計図の立体映像を加工している。

 そこへ、一人の男が近づき

「どういう事だ!」

と、その設計図を加工している男に近づく。


 男は…イプシロンは平然と

「それが計画だったでしょう…」


 イプシロンに詰め寄る男は、このログフォードのCEOレナードだ。

「バレないんじゃなかったのか!」


 イプシロンは平然と

「それ程、連中が…ナノハザード対策機関NOIRが優秀だった。それだけでしょう…」


 レナードは

「ありとあらゆるところがお怒りだ! ロスチャイルドも、ベルファードも、欧州連合銀行も! このままでは、外部からの介入を許すしかないと! 聞いてるのかイプシロン!」

 声を荒げた。


 イプシロンは操作を続けながら

「赤の革命なんてCOGを作って、好き勝手やっていたツケでしょう」


 レナードが

「我々が破滅すれば、お前だって破滅だ! その神経浸食型ナノマシンを作ったのは、お前なんだからなぁ…」


 イプシロンは平然と

「私は、これを作り、これを提供した。そんな風に使ったのは、そちらの勝手でしょう」


 レナードが詰め寄り

「責任逃れするつもりか!」


 イプシロンはフッと笑み

「責任逃れ? じゃあ、銃を作って、人殺しに使用した責任を製造者に押しつけるんですか? ミサイルを作って、ミサイルで人殺した連中と同じように、それを作った者達まで同罪なんですか? 違う。それをそういう風に使った連中が悪いだけで、それを作った者にまで責任を押しつけるなんて、責任転嫁でしょう」


 レナードが青ざめ

「お前…まさか…」


 イプシロンは冷徹な笑みを向け

「お前達のような人の命より金が大事なキャピタリズムの畜生は、何時も世も愚かだ」

と、告げた瞬間、レナードの体が持ち上がった。


「あ、ええ…」

と、レナードはその場に蹲りうつ伏せで倒れると、口と押さえる腹部から出血して絶命した。


 イプシロンは冷徹な笑みで、死んだレナードを見詰め

「キサマのような金と権力の畜生なんて幾らでもいる」

と、告げた後、別の方向に右手を向けて、指先から紫電を放ち

「出てこい、ネズミさん」


 その紫電が放たれる右手の先にあるナノマシン加工機の裏から一人の男が出てくる。

 男は鋭い目、赤と黒が混じる髪。


 イプシロンは冷徹な笑みを向け

「さて、お前は何代目の機神人類、赤井 崇なんだ?」


 機神人類、赤井 崇は鋭い顔で

「エボリューション・インパクター キサマは…この世界で何をするつもりだ?」


 イプシロンは笑みながら

「超進化加速因子の宿命通り、この世界を進化させるだけだ」

と、告げた後、傍にある端末の画面を殴る。

 ビキッと音をさせて端末の画面が壊れると

”警告、警告、ナノマシン・プラントの全ケースが解放されます”

と、警報が響き渡る。


 そこへ

「クソーーーーーー」

 デウスマギウス・タヂカラオノの刀真の一撃が降り注ぐも、イプシロンは軽やかに避ける。


 そこへ、赤井 崇が背中から機神を出現させ、イプシロンを捕まえようとするも、イプシロンが右手にある紫電を暴発させ、周囲を爆炎に包んだ。


 赤井 崇が

「お前は! この世界で何をするつもりだーーーーー」

と、叫んだ背後にイプシロンがいて

「決まっている。キサマが別平行世界で地球圏体を作ったように、ここでもそうするだけだ」


 刀真が

「待ちやがれーーーーー」

と、デウスマギウス・タヂカラオノの手を伸ばすも、イプシロンが爆炎の中に消えて空を切った。


 赤井 崇、赤井が周囲を見ると、爆炎の中にあるナノマシン・プラントの天井が開き、さっきまでイプシロンが設計していたナノマシンが解放されていく。


 ナノマシン・プラントの天井から、プラントがあるフランス全土へ、ナノマシンが拡散する。


 それを刀真が赤井と共に見上げ

「ヤバい。このままじゃあ…」


 赤井が渋い顔で

「このままでは、この神経浸食型ナノマシンによって、フランスで無差別の殺人行動が始まる」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

創世戦神物語 赤地 鎌 @akatikama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ