第34話 表裏

 衛星軌道上にあるナノハザート対策機関NOIRの監視長官室で、ノイアが機関監視長官の総一郎を前に、報告書の端末を読み上げていた。


 デスクを挟んでノイアを前にする男性、機関監視長官の総一郎は、ノイアからの報告を聞いて眉間を押さえ

「まさか…管理外からのナノマシンが関与している可能性があるとは…」


 ノイアは頷き

「その線が妥当だと思われる。立てこもり事件を起こした被疑者…いえ、犠牲者の血液サンプルには、微量の医療目的以外のナノマシンが検出されています。

 おそらく、体を乗っ取るシステムを備えたナノマシンでしょう」


 総一郎が

「もっと詳しい検査は、何時になる?」


 ノイアが

「もう…そろそろ」

と、告げた傍でノイアの前に立体映像画面が出て、そこには沢城分析官がいて

『今、大丈夫かしら?』


 ノイアが総一郎を見ると、総一郎が頷き

「大丈夫です」


 沢城分析官が

『例のナノマシンの分析だけど…ダメね。こちらの施設では分からなかったわ』


 ノイアの目の前に分析された結果のデータ画面が投影され、それをノイアがタッチしてコピーして総一郎へ送った。


 ノイアが

「そうですか…ありがとう。沢城分析官」


 沢城分析官が

『ごめんね。あんまり役に立てないデータで…』


 ノイアが微笑み

「いいえ、十分です。ありがとうございます」


 通信が切れた。


 総一郎が送られたデータを見て額を抱えて

「このデータを父さん…いや、ゼウスヘパイトス氏に送って欲しい。ノイア特務捜査官」


 ノイアが敬礼をして

「了解しました」

と、告げた次に

「ねぇ、総一郎兄さん」


 総一郎は微笑み

「なんだ。ノイア?」


 ノイアが渋い顔をして

「こんなナノマシン。わたし…見た事がないわ」


 総一郎は頭を掻いて

「その通りだ。オレも見た事がない」


 ノイアが

「父さんに聞けば、ある程度は分かるかもしれいないけど…。もう一人…参考意見が欲しいの」


 総一郎は微笑み

「火星へ、アレスおじさんの所へ行くんだな」


 ノイアは頷き

「ええ…このデータを…」


 総一郎は了承の頷きをして

「ああ…アレスおじさんの所へにも送って、意見を仰ごう。使いっ走りになるが…」


 ノイアは微笑み

「気にしないで兄さん」


 総一郎が

「こんど、何かおごってやる」


 ノイアが気軽に手を上げ

「楽しみにしている」


 機関監視長官室を出て行った。

 そして、仲間がいるナノマシンハザード対策部門9課へ戻る。


 そこには、デスクでくつろぐ、中村、杉田、水樹、伊東の四人がいて、ノイアは四人に今回の事件に関して、最重要証拠であるナノマシンのデータを送る。


 中村が

「まさか…操られていたとは…」


 杉田が

「被疑者ではなく…被害者…」


 水樹が厳しい顔をして

「なんて、悪質な…重罪だ」


 伊東が挙手して

「これ、どこで…造られたんですかね?」


 ノイアが首を横に振り

「全く分かっていないわ」


 中村が杉田を見て

「オレと、杉田は…乗っ取られて操られた三人の跡を追う」


 水樹が伊東を見て

「私と伊東は、その三名が使用してたタクティカルスーツを追う」


 ノイアは

「私は父と、火星へ向かうわ」


 杉田が

「ノイア特務捜査官の父君と、その対極、アレスジェネシス氏に…」


 ノイアは頷き

「ええ…父さんの方は…直ぐだけど…。火星へは…」


 水樹が

「最短でも片道三日は掛かる。仕方ない事だ」


 ノイアが

「捜査の継続をお願いします」


 全員が『了解!』と返事をした。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ノイアは、ナノハザート対策機関NOIRの衛星要塞基地から、小型の宇宙船に乗って父のいるSRフィランギルへ向かう。

 地球の遙か上に突き出ている全長10万キロで八つの千キロ級コロニーを広げる父の居城に、娘ノイアが乗る宇宙船が着艦する。


 広大な内部の移動には、専用の円盤形台座システムに乗って移動。

 SRフィランギルの中心にある黄金と結晶で出来た中核、父と母達がいる所へ到着する。 

 ノイアは移動式の円盤台座から下りると、横に母の一人イリディアの顔が映る立体映像が出て

「おかえりなさい。ノイア」

と、微笑む。


 ノイアも微笑み

「ただいま、イリディア母さん。ノア母さんは?」


 イリディアは肩をすくめて

「急用が出来たみたいで、さっき出かけたわ」


 ノイアが少し残念な顔で

「そうか…せっかく父さんと母さん達の顔を見に来たのに…」


 イリディアが

「また…何時でも来なさいな」


「うん」とノイアが頷き内部へ入ると、その入り口に中東風のドレスを纏ったイリディアがいた。


 ノイアが

「ねぇ…父さんは?」


 イリディアが

「貴女が提供したデータを見たら一目散に、分析室へ向かったわ。そんなに驚くようなデータなの?」


 ノイアが微妙な顔で

「仕事でね。どうしても父さんの意見が欲しかったから…」


 イリディアが

「じゃあ…分析室へ向かいましょう」



 ノイアとイリディアが、父ゼウスヘパイトスがいる分析室に来る。

 無数の演算システムの柱がある分析室の中央で、人型で軽めの服を着るゼウスヘパイトスが両手に演算端末に繋がるシステム端子と自分の手をナノマシンで融合さえ、演算システムの柱を動かしていた。


 ノイアがそれに近づき

「父さん」

と、父ゼウスヘパイトスに呼びかける。


 壮年の男性になったゼウスヘパイトスが娘のノイアを見て、厳しい顔に微笑みを作り

「おかえり…総一郎や、正人はどうだ?」

 ノイアと同じくナノハザート対策機関NOIRで働くノイアの兄達を訪ねる。


 ノイアが微笑んで肩をすくめ

「相変わらず、堅い所があるわね」


 ゼウスヘパイトスはフッと笑み

「実直な所は褒めるべきだが…あまり堅すぎると頑固という欠点になる」


 ノイアが

「私の心配はしないの?」


 ゼウスヘパイトスが娘に微笑みながら

「ノイアは、ノアのように均等な能力を持っているから、そのあたりは大丈夫だが…。優しい人間は、非道な人間に利用され易い。それを見極める事さえ気をつけてくれればいい。だが…もし…」


 ノイアが頭を掻いて

「父さんがそんな事を言うから、みんな萎縮して私と親しくしようと近づかないんだよ」


 ゼウスヘパイトスは微笑みながら

「そうか、魔除けになっているか」


 ノイアが呆れつつも、顔を真剣に変えて

「父さん。私が送ったデータ…」


 父ゼウスヘパイトスは真剣な顔をして頷き

「ああ…それに関して少し話そう」

と、システム端末と融合しているナノマシンを解除して両手を離した。



 ノイアにイリディアと共にゼウスヘパイトスは、地球が一望できる展望デッキでテーブルを囲み。

「ノイア…これはある程度…予測はしていた」


 ノイアが座るテーブルにある焙じ茶ミルクティーを両手に取って

「既存の部品を集めて造ったとか?」


 ゼウスヘパイトスは娘の問いに首を横に振り

「既存の部品で造るにしては、あまりも小型で精密だ」


 イリディアが

「二人とも、どんな話なの?」


 ゼウスヘパイトスが渋い顔で

「私とアレスが造る原子サイズほどのナノマシンを使った事件をノイアが担当している」


 イリディアがハッとして

「本当なの? ノイア…」


 ノイアが頷き

「父さんに提供したデータのナノマシンより、大きな100ナノのウィルスサイズや細菌サイズのナノマシンは、多くあるけど…。私が今、担当している事件で使われたナノマシンは…1ピコメートルだった」


 ゼウスヘパイトスが厳しい顔で

「100兆分の1を越えてシステムを構築できるのは…高次元解釈を持っている私とアレスでしか出来ないはずが…」


 イリディアが

「つまり…アナタとアレス様と同じ人が…」


 ゼウスヘパイトスが厳しい目つきのまま

「自分が、アレスが、特別だとは思っていない。いずれは現れると思っていたが…」


 ノイアが

「ねぇ…父さん。明らかに自身とアレスおじさんと同じく、高次元解釈をもって造っているって思い込んでない?」


 娘の指摘にハッとする父ゼウスヘパイトス。


 ノイアが

「もしかしたら、他の方法で造られた可能性だってあるのよ。捜査の基本は思い込まない事。今ある事実を元にして考える。今はある事実は、これが原子サイズのナノマシンで、それを使ってブレインジャックをされていた。なら、そのブレインジャックしたナノマシンに何らかの手がかりがないか? そうでしょう」


 娘の逞しい指摘にゼウスヘパイトスは嬉しそうな顔で

「いやいや、さすがノイアだ。私の至らない事を持っていて嬉しいよ」

 娘の成長を見られて嬉しかった。


 ノイアが

「これじゃあ、父さんだけで解決しないから、やっぱりアレスおじさんの所へも行くしかないわね」


 ゼウスヘパイトスは頷き

「そうしてくれ。アレスの意見も必要だろう」


 ノイアが

「じゃあ、アレスおじさんがいる火星に行くから、何か伝える事は?」


 ゼウスヘパイトスがニヤリと笑み

「あんまり、老いらくの恋にのめり込むなよってな」


 ノイアが呆れ気味に「全く…」と呟いて笑む。




 ◇◆◇◆◇◆◇


 中村と杉田は、超音速小型飛行機にてヨーロッパに向かっていた。

 四人乗りの超音速飛行機は、あと数分後にヨーロッパのフランスの首都パリに到着する。

 中村は、外の風景を見る。

 ナノハザート対策機関NOIRのある衛星軌道は、日本の上だ。

 日本は夜だった。

 それがあっという間に、夜から昼間になっていく世界の風景に

「今から20年前の人間には、こんな小型で超音速飛行機なんて考えられなかったよなぁ…」


 隣に座る杉田が

「質量を無力化するゼロマテリアル無質量化フィールドが誕生…いや、アレスジェネシスやゼウスヘパイトスから提供され、あっという間に小型化、質量が消えた物体は、際限なく加速可能だ。そして、そのゼロマテリアル・フィールドは、接触した大気の粘性までもゼロにする。お陰で、空気抵抗も考慮しなくて良くなり、こうして安価で安全で小型な飛行機が世界中に普及した」


 中村が

「だが…その分、厄介事も多くなった。だから、オレ達のような特別な機関が誕生するしかなかった」


 杉田が

「人間の業は深いのさ」


 中村が渋い顔で

「それは真実なのか? 人間の業ってのは…深いんじゃなくて、分かっていなかっただけで、以外に底は浅いぞ。所詮は、己が利益の為に罪を犯す。そんな連中の脳回路なんて単純明快だ。権力、金、女。この三つを適用させれば、90%は判別可能だ」


 杉田が眉間を寄せて

「確かに、我々、ナノマシンシステム社会が作り出した犯罪者判別システムのお陰で、犯罪を犯す前の者を見つけたり、それに陥る寸前の者達を見つけたりして、その後の社会保障を適応さて、助けてはいる。だが…それでも漏れる者達はいる」


 中村が

「その漏れる者達が出てくる場所って、そのシステムを入れていない国からだろうが…」


 杉田が

「全ての人間に知性を与えるのは不可能だ。未だに…21世紀初頭のような考えの者達だっているんだ。そんなに直ぐには人は変われない」


 中村が皮肉気味に

「変われないんじゃない。変わる気がないから…地獄を見る。そういうもんだろう。人は変わる事こそ本質だ。永遠不変なんて、頭が悪い連中の思い込みだ」


 杉田が

「そんな口調だと、これから行くヨーロッパの人達とケンカになるぞ」


 中村が皮肉な楽しげに

「ヨーロッパにこういう言葉がある。全ての道はローマに通じている。そして世界全ての悪はローマに通じている。19世紀から21世紀のナノマシン社会までの今日までの全ての悪の根源はヨーロッパにあるとは思えないか? 白人こそ最高という最強に愚かな差別イデオロギーによって」


 杉田が頭が痛いと振って

「もう…そんなのは昔の事だ。今や…ヨーロッパは…アレスジェネシスやゼウスヘパイトスの保護下の状態だ。悪さえ叫ぶ気力もない。今回の事件だってたまたま、ヨーロッパの会社がそうだった。それだけだ」


 中村が

「オレは、いーつも、何かの事件の度にヨーロッパに行っている事が当然のように思えるんだけどなぁ…」


 杉田が

「事件に国も人も関係ない。それだけだ」


 中村が

「良い世の中だよなぁ…民族とか国とか人種なんて、アホの愚考だって時代なんだから…。でも、事件は起こる。そういう事だ」


 杉田が

「そろそろ着くぞ」


 二人を乗せた超音速飛行機がフランスにある空港に着陸して、二人は日が高いフランスに来た。


 杉田と中村が超音速飛行機から降りながら

「まずは、フランスの治安システムの元へ行って、フランスの治安管理を一括しているDI人工知性に挨拶しに行きますか」


 杉田が

「挨拶じゃあなくて、捜査許可だろう」


 二人は空港から自動運転タクシーにて、フランス首都パリの郊外にある治安維持システムの建物へ向かった。




 ノイアは、日本の上にある軌道エレベーターコロニーから火星行きの宇宙船に乗り、アレスが惑星開発をしている火星へ向かう。


 ノイアを乗せた全長千メートルの宇宙船は、加速して亜光速に突入する。

 千メートルの宇宙船にロケットのような噴出口はない。

 中心を支える主柱には、高エネルギー加速による流動作用で動く空間湾曲推進システムのお陰で、常時無質量化と、慣性による反作用を打ち消して、無限に加速を行い、亜光速という速度で、太陽を挟んで向こうにある火星へ向かう。

 その日数は三日程度。

 直ぐ近くにあると半日程度で到着する。

 今後、超空間ネットワーク航法が開発されれば、火星は遠い距離ではない。近い場所になるのだ。

 それは太陽系全ての惑星が近くなる事を示している。

 もう…人類にとって太陽系内は制覇されつつあるのだ。


 ノイアは、千メートルの輸送宇宙船の客室で、ゆっくりと過ごしながらチームの状態を確認している。

 ノイアが座るテーブルには、立体映像の画面が出てそこに能登分析官がいて

『今の所、私達が出来るのは…今回の事件に使われたブレインジャックのナノマシンが原子サイズで出来ている事しか分からないわ。詳しい解析は、残念だけど…ノイア特務捜査官が行く火星のアレスジェネシス氏に頼るしかないわね』


 ノイアが

「きっと、データを受け取って熱中しているかも…」

と、クスッと笑う。


 能登分析官が微笑み

『そうだと助かるわね』


 ノイアが

「各捜査官の方達は…」


 能登分析官が渋い顔で

『水樹捜査官と伊東捜査官の二人は、難航しているみたい。使われていた部品が多岐にわたっているから。杉田捜査官と中村捜査官は、マイペースね。対人の捜査は時間が必要だから、丁度良いんじゃない』


 ノイアが

「引き続き、何かあったら報告をお願いします。こちらもしっかりと聞いて来ますので」


 能登分析官が頷き

『了解、よろしくです』


 通信が切れた後、ノイアが窓から外を見て

「久しぶりだなぁ…アレスおじさん」



 三日後、ノイアを乗せた千メートル輸送宇宙船が火星の軌道エレベーターコロニーに接岸する。

 ノイアは軌道エレベーターコロニーのロビーに来て、大きな窓から見える火星北極上に浮かぶソラリスを見て

「さて…ここなら」


「ノイアちゃーーーん」

と、声をかける女性


 ノイアはその女性に向いて手を振り

「お久しぶりでーーす。アイカさーーん」


 ノイアに呼びかけた女性アイカ、そう…それはアレスジェネシスが日本で作戦を終えた時に遭遇した東城 愛香が30代半ばの大人になった彼女だった。

 アイカの後ろには、微笑んでお辞儀するガブリエルとミカエルがいた。


 アイカがノイアの前に来て、ノイアの手を握り

「お久しぶりねぇ。ノイアちゃん」


 ノイアが嬉しげに微笑み

「本当にお久しぶりです」


 アイカが

「本当は…あの人も一緒に来れれば良かったんだけど…」


 ノイアが微妙な顔で

「その…私が原因なので…」


 アイカが

「とにかく、家へ、ソラリスへ行きましょう」


 ノイアが近づく女性型アイオーンのガブリエルとミカエルに

「お久しぶりですね。ガブリエルさん、ミカエルさん」


 ガブリエルとミカエルが微笑み、ガブリエルが

「天帝が、ノイア様が来るのを首を長くしてお待ちです」


 ミカエルが

「さあ、参りましょう」


 四人は軌道エレベーターコロニーの外部ハッチの前に来ると、アイカにガブリエルとミカエルが、アイオーンの結晶の翼を広げ、アイカが

「ノイアちゃん。ここでは存分にデウスマギウスの力を使って良いから。地球みたいに規制なんてないからね」


 ノイアが頷き

「はい、では」

と、ノイアの背中から、父ゼウスヘパイトス譲りのデウスマギウスが展開される。

 それは鋭角な翼を広げたロケットスラスターのようだった。


 外部ハッチが開くと、そこには…膨大な数の結晶の翼を広げたアイオーン達が火星の空を飛んでいる姿があった。

 外部ハッチの遙か百キロ以上も下の火星の大地は緑と青に輝き、その上を天空の都市が浮遊して移動している。


 アレスジェネシスとソラリスの技術力によって火星は、完全に地球化され、その緑に大地の上空を天空の城のように浮かんで移動する都市群達が存在する超未来世界がそこにあった。


 アイカとガブリエルとミカエルの三人のアイオーンを先頭に飛翔して、デウスマギウスとなったノイアが飛翔して続く。


 無数に飛び交うアイオーン達を通り過ぎて、成層圏を越えて宇宙域にある全長15万キロのソラリスへ向かうノイア達。

 ソラリスの巨大な柱型の側面を飛んでいる最中でも、無数のアイオーン達がソラリスを出入りしている。


 現在、火星には十億ものアイオーン化、または、アイオーン・アーマーと融合した人達が来て、火星を開発維持している。

 さらに、ここから将来は、木星、土星、海王星、天王星、そして太陽系外へ進出するアイオーン人類や、アイオーン・アーマーの集団が生まれるのだ。


 因みに、ノイアの父ゼウスヘパイトスが開発中の金星も地球化されており、そこでは…ゼウスヘパイトスが今後の惑星開発に必要な装備と、実験開発を行っている。

 元々、ゼウスヘパイトスが設計したエクス・アーマーはどことなく、大型ロボット、ガンダムのような存在に近いので、一足飛びに太陽系外を目指す方向へシフトしている。


 アイオーン・アーマーもエクス・アーマーも系統は同じだが、人を基本としているのがアイオーン・アーマーで、拡張次第で何でもがエクス・アーマーなのだ。


 爽快にソラリスを昇るノイア達、そして…ソラリス最上部に到達。

 ノイア達が内部に入ると、その中核の居住区の前に白い多腕の機械巨人、アレスジェネシスが待っていた。


 アレスジェネシスが右の多腕を振って

「いやあああ、久しぶりだなぁ…ノイア」


 ノイアがアレスジェネシスの前に来てお辞儀して

「久しぶりです。アレスおじさん」


 アレスジェネシスは右腕の一つでノイアの肩に機械の手を置いて

「さあ、中でゆっくりしよう。アイカ、ガブリエル、ミカエル…迎えに行ってくれてありがとうな」


 アイカは笑み

「いいのよ、アナタ…」


 そう、アレスジェネシスとアイカは夫婦なのだ。


 それにノイアが悪戯な顔で

「父さんから、言づて…あんまり、老いらくの恋にのめり込むなよって」


 アレスジェネシスは呆れたような笑みで

「言うわ…」


 アレスジェネシスとアイカは、5年前に夫婦になったのだ。

 合理的で知性的な為に、傲慢に見える程のアレスジェネシスだったが…アイカ婦人の怒濤の如きアタックに陥落して、二人は結ばれた。

 今では、アレスジェネシスの方が、アイカ婦人にのめり込んでいるので、ゼウスヘパイトスから老いらくの恋と悪戯に言われるのだ。


 アレスジェネシスは、ノイアを置くの広間に案内して会話を共にする。

 ノイアが座る無重力ソファーの斜めにアレスジェネシスの巨体が乗れる程の無重力ソファーに、アレスジェネシスが座り

「どうだ? 最近は…」


 ノイアがフッと笑み

「それを聞くの? アレスおじさん…」


 アレスジェネシスもフッと笑み

「すまん。まあ、定番の挨拶みたいなもんだ」


 そこへアイカがお茶を持って来て

「ノイアちゃん。火星で取れた紅茶…飲んでみて」

 

 ノイアがアイカからカップを受け取り

「ああ…良いにおい」

と、口にする。


 アイカがホッとした顔で

「おいしい。華やかな香りが…鼻の中を通って、落ち着く…」


 アレスジェネシスもアイカから受け取り

「やっと、農産物が真面に収穫できるようになった。十年もかかったが…満足な成果だ」


 ノイアが

「これなら、他の星でも開発した場合…良い農産物が出来そうね」


 アレスジェネシスが遠くを見つめ

「工業物や科学物は、ワシ等のナノマシンで幾らでも作れる。だが…生体だけは、生体専用のナノマシンでないと…構築が不可能だ。同じ原理で可能なのに、生体とそうでないとの境は大きい。不思議なモノだ。全ての物質は根源的には同じなのに…我々の生きるという事になると、こうも違う。まあ…その理由は…。後々に語るとして」


 ノイアが

「私が送ったナノマシンのデータに関して」


 アレスジェネシスは紅茶の面を見つめながら

「ヘパイトスは…」


 ノイアが複雑な顔をして

「父さんは、やっと我らのように原子サイズの、フェムトの領域を扱える者が出て来た…と言っていたけど…。私は、それは思い込みと…」


 アレスジェネシスは、優しげな笑みをノイアに向け

「ノイアは、本当に良い子だ。ワシ等が持っていないモノを持っている。ノイアの言う通りだ。ワシはそう思い込んでいたから、間違える所だった」


 アイカがノイアの対面のソファーに座り、空中を撫でると立体映像端末が出て、アイカはそれを操作してノイアに調べたデータを開示して

「ノイアちゃん。貴女の言う通りよ。これは…既存のシステムで作られたナノマシンよ」

 

 ノイアの目の前に出現したのは…まるで蛸とカビのような菌種が合体した幾つもの腕を持つナノマシンの姿だった。


 アレスジェネシスが厳しい顔で

「ワシがフェムトサイズのナノマシンと思っていたのは、このナノマシンの腕の一つだった。この程度のフェムトサイズの端子を作るなぞ…既存のシステムで幾らでも可能だ」


 アイカが

「この多くの触手のような端子があるナノマシンは、目標の神経組織に付着、そのイオンチャンネルや、電子活動を乗っ取って相手を捜査するブレインジャックナノマシンよ」


 アレスジェネシスが

「既存のブレインジャックナノマシンは、本人の脳内物質の量を変異させ、考えを誘導、望む方向へ精神状態を変化させるマインドコントロール型だったが…。これはジャックする者の神経節を乗っ取り、思いのまま操作する肉体のコントロール神経をジャックするナノマシンだ」


 ノイアが

「じゃあ、もし…これが空気感染とかで…」


 アレスジェネシスが首を横に振り

「ムリだな。これは長期に渡って、このナノマシンを投与されない限り、効力を発揮しない」


 ノイアが顎に手を置き

「こんなナノマシンを作って…どうするつもりなの?」

 その疑問にアレスジェネシスが

「簡単な事だ。こんな事をする連中は、一つしかない。これを利用して利益を上げる為だ」


 ノイアがハッとして

「まさか…このナノマシンの目的って!」


 アレスジェネシスが冷たい視線で

「何時の世も、愚か者は権力者にいる。そういう事だ」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 フランスの治安管理システムのDIと繋がる端末広場に来ている杉田捜査官と中村捜査官は、中村捜査官が端末操作しながら

「ええ…今回の事件に絡んだ三人の…一人は既婚者で…いや、内縁を含めると三人とも…」


 杉田捜査官が

「珍しい事じゃあない。夫婦という関係性に関しては、緩やかに考える人達が多いからなぁ」


 中村と杉田が見る立体映像の画面にDIの少女が出て

『後は…どのデータを…』


 中村が

「三人の税金に関する事と、収入に関してのデータを」


 DIの少女がお辞儀して

『かしこまりました』

と、注文されたデータをサーチしてロードした。


 それを見た杉田と中村の視線が鋭くなる。

 外からはデータを見ているように見えるが、DIが中村と杉田の体内通信ナノマシンにアクセスして、別の情報を二人以外から見えないようにしている。


 そこには

『初めまして、わたくしはフランスの治安管理システムの総括をしているDIのメイブ女王のエッシャーです。お二人に重要な事をお伝えします。お二人が調べている三名のデータに関して、フランスの上層部が権限を勝手に持ち出して書き換えた部分が多数あります』


 中村と杉田が口にはしないが、うわ…と思った。


 直接通信しているDIのエッシャーが

『では、その書き換える前のデータをお二人に…』


 杉田と中村にデータがロードされると、DIエッシャーが

『すみません。私達にも限界があります。後は…』


 二人は端末を閉じて、わざとらしく

「さて、メシでも行くか」

と、中村が背伸びした。


 杉田が右腕にあるスーツの端末を開き

「どこで食べる?」


 中村が

「テイクアウトして車内で食べようぜ」


 中村と杉田は露店で適当に買って、乗ってきた分析室を乗せた車両に入ると、中村が偽装データで内部を誤魔化す。

 監視をしているシステムには、二人がのんびりと食事をしている風景しか透視されない。


 直ぐに中村と杉田は、DIエッシャーから受け取ったデータを開示させ、その立体画面には

「コイツは…」

と、中村が驚きと呆れを見せた。


 杉田が眉間を押さえて

「こちらが、掴んだ情報は全て偽装だったのか…」


 そこにあったデータには、三人はジェネシック社のAI、バイオ、AIデータのエンジニアリングではなかった。

 ジェネシック社の大本である国が運営するバイオナノマシン研究所の職員として働いていたのだ。

 そして、そこの部門はタクティカルスーツの企業とも繋がっていた。

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