ナノトピア編

第33話 ナノトピア

 ナノトピア


 ゼウスヘパイトスは、ノア・ロックフェラーを前に弟の会社で話し合う。

 ノアが持って来た提案書の書類を見るゼウスヘパイトスは

「これが、アメリカの一財団が持って来た計画書か…」

 ノアが肯き

「今後、世界にとって必要な事です。我々財団関係が持っているネットワークを生かせば…貴方方の計画の躍進は間違いありません」

 

 ゼウスヘパイトスの弟アキトが

「なぁ…兄貴…」

と、人前や友人のお兄ではなく、敬語の感じで

「オレはこれを受け入れても良いような気がする。悪い計画ではないと思う」


 ゼウスヘパイトスは透徹な目だ。

 要するに、この計画の本質は、既存の世界中に存在する財団達にナノテクノロジーを提供して、世界の発展に寄与すると見せかけた、今までの貴族と奴隷による格差、階級社会の延長でしかない。


 ゼウスヘパイトスは頭が痛くなり

「ノアさん。本当にコレが世界を良くすると思っているのか?」


 ノアがゼウスヘパイトスから視線を外さずに

「はい。もし、ご不満な」


 ドンとゼウスヘパイトスは、計画書の書類を間にあるテーブルに投げ捨て

「結局、人間の悪しき性質は変えられないという事か…」


 ノアはゼウスヘパイトスを見詰めて

「何がご不満なのでしょうか?」


 ゼウスヘパイトスは腕を組み苛立ち気味に

「全部だ。結局の所、キサマ等は人類が古代から抱える貴族と奴隷という価値観しか持っていない。残念だが…それは我とアレスジェネシスの考えと交わらない」


 ノアの目が硬くなり

「もし、信用が出来ないなら…信用に値する行動を我々が示します」


「あああ?」とゼウスヘパイトスの目が鋭くなる。


 ノアが自分の胸に手を置き

「私をゼウスヘパイトス様の所有にさせて」


 ドンとゼウスヘパイトスがテーブルの足を蹴り

「つまり、人質を寄越すから、信用しろと…キサマ…何処まで、いや、それが今まで世界を支配した貴族のやり方か…。呆れるよ」


 完全に否定にするゼウスヘパイトス。

 人を人として扱わない行為に、ゼウスヘパイトスの苛立ちが頂点に達した次に、冷たい怒りがこみ上げて

「お前等、財団は昔から…世界に格差をもたらしてきた。財団の前身は、民から財を奪い尽くし、生殺与奪を握って奴隷にした連中、貴族が元だったな。流石、帝王学様だよ」


 ノアが悔しさで隠した両手を握り締める。


 それをゼウスヘパイトスは察知して

「苛立つか、怒りがこみ上げるか? 本当の事を言われると人間は防衛心理で、怒りを持つからなぁ」


 ノアがハッとする。

 自分は所詮、ゼウスヘパイトスの言う貴族の側と指摘され、再び気持ちを落ち着けるように

「確かに、そうかもしれません」

「そうかもしれませんじゃあない。そうだったろう。歴史を学んでいないのか?」

と、ゼウスヘパイトスの口調は鋭い

 ノアが、向ける視線に淀みが出る。

「私達に…滅べと?」


 ゼウスヘパイトスは、嘲笑のような顔で

「滅ぶ事はないんじゃない。どうせ…私やアレスジェネシスが構築したナノテクノロジーのネットワークシステムの隙を突いて、上手い事…利益を上げる方法を編み出すだろう」


 ノアが自分の胸に手を置いて

「私は…アナタの事が好きでした」

「ウソを言うな!」

と、ゼウスヘパイトスは言い放つ。そして

「瞳孔反応、脈拍、さらに観測される脳電磁輻射の反応がウソを示しているぞ」


 アキトが

「お兄、ちょっと」

 ゼウスヘパイトスは

「黙ってろ!」

と、鋭くアキトを見るとアキトは下がり

「ああ…」


 ゼウスヘパイトスはノアを見つめて

「口では何とでも言える。だが、キサマの身体反応は、ウソと示している。キサマは、ただ…自分達の財団とする貴族を上手い事したいだけだろう」


 ノアの眉間が寄り

「違います。私達は…貴方達の可能性に」

「なら、黙って見ていろ」

と、ゼウスヘパイトスは放った。


 ノアが言葉を失うと、ゼウスヘパイトスは立ち上がり

「ノア・ロックフェラー。いや、朝宮 葵くん。君は…ただ、私を利用する為に今まで接触していたのは、分かっている。君と私との関係は、利益だけだ。じゃあな、もう…会う事もないだろうが…。まあ、何処かで出会っても知らぬ誰かとしてな」

 ゼウスヘパイトスが部屋から出て行こうとすると、ノアが


「私は、貴方を尊敬していました。貴方は…頭が良く、凄い人でした。だから…好意もありました」


 ゼウスヘパイトスは背を向けたまま

「それはウソだ。言葉では何とでも言える。君の生体反応は、私に何かの利用価値があるか、ないかで判断しているのが、今まで示していた」

と、出て行った。


 弟のアキトは頭を抱える。

 こうなっては、結論が変わらない。そして、そうなった事に兄は、後悔さえもないのだ。


 アキトが

「いや、その…すまん」

と、謝る目の前には涙を零すノアがいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 その夜、ゼウスヘパイトスは妻イリディアがいる巨城宇宙戦艦に帰ってくると、妻に特別に優しくゼウスヘパイトスがいた。

 イリディアは不信に思い、ともにするベッドで

「どうしたの? 何があったの?」

と、夫ゼウスヘパイトスへ尋ねる。

 ゼウスヘパイトスは、イリディアに弟の会社であった事を話す。

 

 それを黙ってイリディアは聞いてくれる。

「そう、そんな事があったんだ…」

と、イリディアは頷いた。

 ゼウスヘパイトスは

「拒否するのが最良の選択だ。私達が目指している地平は、今まで社会ではない。新たな宇宙民の社会だ。それを今までの地球にある貴族と奴隷のような西洋文明の太古の遺物ではない」

 イリディアが

「だけど…ノアさんを傷つけた事は、後悔しているのよね」

 ゼウスヘパイトスは肯きつつも

「そうだ。彼女には悪い部分はないかもしれない。だが、結局、彼女は…その貴族という階級の人間だ。適当な関係を構築していれば…何れは引き摺り込まれるだろう。それは求めている事でない」


 イリディアがお腹を触り、夫との子供を思い

「でも、この子は…少し人とは違う。その違いが…何れ、同じような階級をもたらすかもしれない」


 ゼウスヘパイトスはフッと笑み

「そんな事を心配する必要ない。私のエクス・アーマーとアレスジェネシスのアイオーン・アーマーは確実に広まる。そして…その子が受け入れられる未来が来る」


 イリディアは夫に抱き付き

「うん。その未来を私は信じている」


 ゼウスヘパイトスは妻を優しく抱き締め

「何れ、人類は分かるだろう。正義が一番人類を人殺しの戦争に駆り立て、そして男らしいとかの型に人を嵌めるのが一番、人を不幸にすると…。人は人でしかない。どんな事になろうと、どんな価値観や、文化を構築しても、人は人なのだ。何で人の共通性を求めようとするイデオロギーや、民族性の時代は終わる。だから、安心してその子を産んでくれイリディア」


 イリディアはゼウスヘパイトスの胸の中で肯き

「ありがとう。アナタ…」


 同時刻の夜中、アレスジェネシスのソラリスでは、レミエルからゼウスヘパイトスに財団の関係者が接触した話をアレスジェネシスが聞いていた。

 アレスジェネシスは、新たなシステム構築作業中だったが、それを止めてレミエルの話を聞いて

「そうか…決裂したか…」

 レミエルが

「はい。天帝の予想通りになりました。しかし、これを機に、問題な行動を既存の財団達は起こすかもしれませんが…」

 アレスジェネシスは淡々と

「問題ない。そうなって世界が割れたとしても、人は叡智を力を欲する。何れ緩やかに変化するだけ。先んじて潰すよりも、ジワジワと力を奪ってしまえば良いだけ。その方法なぞ、幾らでも我々にはある」


 レミエルが渋い顔をして

「これも人のサガ。自分の利益を追求するという性質の一端なのでしょう」


 アレスジェネシスはフッと笑み

「それが生きているという事の一つでもあるわけだ」


 レミエルが

「あと…日本で行われていますベーシックインカムへ、金融機関が…」

 

 アレスジェネシスはフッと笑み

「想定通り、金融に行かんように法整備しろ」


 レミエルが

「先んじて動いていた金融各社には…」


 アレスジェネシスが

「ベーシックインカムを金融や投資外の物品でしかできないようにした後、制裁をかける。制裁の内容は…社会保障における政府の国民保護資金の無断流用だ。回収された金額は…」


 レミエルは肯き

「はい、全部…把握しています」


 アレスジェネシスが

「では、それをやった全ての金融、投資各社に、罰則金として回収した金額の2倍で徴収しろ」


 レミエルが

「そうなりますと…100兆円になりますが…。金融や投資会社が崩壊しますが、よろしいのでしょうか?」


 アレスジェネシスは肯き

「構わん。幾らでも金融や投資の代わりは存在する。必要ない」


 レミエルが嘲笑のような顔で

「そうなりますと…世界中の財閥や大企業に壊滅的波及が…。そうなった方が我々やゼウスヘパイトス様が、色々とやりやすくなりますか…」


 アレスジェネシスも嘲笑を見せ

「そういう事だ。もう…太古の支配システムは崩壊させるべきだ。宇宙民となる世界に必要ない」


 ミエルが頭を下げ

「畏まりました…天帝」


 アレスジェネシスは新たなシステムの創成に戻り、独り言で

「かつて、人類を奴隷と貴族として支配したシステムがようやくに終わる。人はもう…この地球に縛られる事無く宇宙へ行ける」


 そして…一週間後、アレスジェネシスの目論見通り、日本地区の国会で…ベーシックインカムの金融と投機への禁止法案が成立され、日本の金融機関や投資機関は、勝手に国民の社会保障に手をつけたという、滅びの呪文、大義名分によって100兆円にも呼ぶ罰則金の支払いが命じられた。

 それに従わない場合は…金融機関と投機部門への金融免許の全面取り消し、並びに強制徴収へ移行される。

 これによって、混乱したのは、それに連なっていた大企業達と財閥、そして…外国の企業達だった。

 国民の生活は…全く問題がなかった。

 もう、金融や経済が世界を支配した時代は終焉していた。

 2020年。そこにはアレスジェネシス達とゼウスヘパイトスが作ったナノテクノロジー文明が広がり、世界は変貌してしまった。

 たった二年で世界を作り替えたアレスジェネシスとゼウスヘパイトス。

 だが、その原因を最も作ったのは皮肉にも、世界を支配していた利権…特権階級だった。

 もし、その特権階級達が、フランスの21世紀の資本論のように世界的に税金を自身にかけて、その暴虐に回収する資産を世界に適用して、世界共通の社会保障を構築していたら…こんな事には成らなかった筈だ。

 結局、彼らは…所詮、人から奪う獣でしかなったのが本質だ。


 アレスジェネシスとゼウスヘパイトスのナノテクノロジーが広まった南米、日本、東南アジア、インド、中東、アフリカは新たな世界であり、それに乗り遅れたヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国といった前時代の力を持った国々は没落を開始した。

 戦う力さえ、根こそぎ奪い取られていた。


 何故なら、世界中に存在する借金の総額7京円を維持して支えているのは、他でもないアレスジェネシスとゼウスヘパイトスなのだ。


 自身が有利として作り出した金融と経済システムは、国を超えた統という二人の手中に落ちて、今や…自身を束縛する縛鎖となった。自縄自縛、因果応報、そんな言葉しか嘗ての第二次世界大戦の将国や植民地国家だった彼らに似合っていた。


 そして、今になってその国々は思う。どうして…そんな悪行をしてしまったのか?

 その理由は一つ、愚かだった。自ら傲慢になり絶対と勘違いしたツケが今になって現れたのは語るに及ばすである。



 東トルキスタン共和国首都ウルムチに、女性支援機関がある。

 様々な問題、主に、DVをする夫や、性差別に遭遇する女性の支援を行う支援機関アハヴァバイトのとある事務職をゼウスヘパイトスの妻イリディアが行っている。

 あくまで、イリディアは手伝いであり、その機関の長は違う女性だ。

 だが、女性による女性を助ける機関の力は大きくなり、それを気に入らない男性が出て来るも、街中にある治安システムの探知によって、妨害をした男性は即座に捕まり処罰される。

 何より、ゼウスヘパイトスは男女平等と男女の理解を求めるタイプ故に、男らしいとか女らしいとかを否定する。

 男とは女とか、それは自分に付属する一部であり、全てではない。

 そして、ナノテクノロジーによって簡単に男女どちらにでも性転換できる技術が広まると、その男女の事に関して拘る者達が減っていった。

 何より、生活様式が向上して様々な知識に触れる事によって、人の考えが柔軟になり始めて、宗教的な事に囚われなくなった。

 それに関して宗教関係者が声を上げるも…人々の暴利を貪っている事が暴露され、急速に宗教関係者の地位は落ち始めた。


 結局、世界を変えたのは宗教でも政治でも軍事力でもない。人々の生活を向上させる叡智だった。

 もう、太古から続く暴力でしか変えられない世界が終焉していった。

 それを始めたのは、権力者でも、エリートでも、特権階級でも、ない。

 人の世から突発的に出現した、二人、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスだった。


 そんなイリディアが少し大きなお腹を擦りながら軽く事務をしていると、お客が来た。

「イリディアさん。お客さんよ」

「はい」

と、イリディアが席を立ち向かうと…客間には彼女がいた。

「あの…どちら様でしょうか?」

 イリディアは、彼女とは初対面だ。

 彼女、ノアはお辞儀して

「初めまして…」

と、イリディアに挨拶した。

 それが…後々に…。





 ◇◆◇◆◇◆◇


 アレスジェネシスが来た2018年から29年が経過した2047年の現在。


 一隻のナノハザード対策機関の宇宙戦艦アマノホコが日本の第四東京へ向かっていた。

 その宇宙戦艦の執務室で立体画面を見つめる一団がいた。


 立体画面の前で説明する。

 彼女、ノイア特務捜査官が、立体画面に投影される情報の説明をする。

「現在、第四東京の第七区にあるビルの最上階で人質を取り、立てこもる事件が発生しています」

 ノイアの隣にいる金髪の女性、沢城分析官が

「立てこもっている犯人は、量子通過探査によって三名、全てが男性で…三人ともアイオーン・アーマーをベースとした強化骨格、タクティカルスーツを纏っているわ」


 二人を前にする四人、男性三人、女性一人のチームの内、男性捜査官の中村が挙手して

「そのベースに連結されている三人の装備は何か分かるか?」


 会議をしている部屋の自動ドアが開き

「お待たせ、装備に関しての詳しい事が分かったわ」

と、沢城分析官の同僚で年上の眼鏡の女性、能登分析官が来て、全員の前に今回の事を起こした者達が装備している武装のデータ画面が送られる。

 中村捜査官の隣にいる杉田捜査官が頭を掻いて

「全く、なんで…装甲弾とか、小型ミサイル群を持っているんだ?」

 能登分析官が

「どうやら、三人に手を貸しているのは、最近…話題のCOG犯罪組織の赤の革命のようね。犯行声明がネットワークに投稿されているわ。その投稿された動画の内容と、彼らの装備、並びに人物達が一致したわ」


 中村捜査官と杉田捜査官の隣にいる女性の水樹特務捜査官は溜息を漏らし

「全く、何が…犯行声明だ。自分達に大義があるなんて…前時代的なテロリストと同じだ」


 更にその隣にいる男性、伊東捜査官は

「人質立て籠もりを起こしている容疑者達の情報は?」


 能登分析官が情報を飛ばして

「三人とも、共通する事があったわ。彼ら三人はAIデータエンジニアリング、バイオエンジニアリング、AIシステムエンジニアリングで収入を得ているわ。税の履歴判明して、そして…彼ら三人に収入職種の斡旋をしているのが…ジエネッシク社っていうヨーロッパの企業よ」


 杉田捜査官が

「今の時代、会社に所属して収入を得ているなんて、特権階級くらいしかない。つまり…三名は…」

 能登分析官が肯き

「同じ会社からの斡旋と、同じ担当者が対応しているわ」

 中村捜査官が

「その担当者は?」

 能登分析官が

「現在…行方不明…」


 水樹特務捜査官が

「ヨーロッパには、まだまだ我々が構築した治安システムが60%しか広まっていない。逃亡するには最適だ」


 沢城分析官が

「このまま、その関係者の担当者は…ロシアへ逃れるかもしれないわ」


 中村捜査官がフッと呆れた笑みで

「つまり…犯人がロシアで消えるって事か…」


 杉田捜査官が

「となる…と、立て籠もりをしている三名を確実に捕縛するしか、この事件を解決に導けないな」


 全員の視線がノイア特務捜査官に集中して、ノイア特務捜査官が

「レベル3までの解放でリミットとします」


 中村が挙手して

「最悪、犯人達が人質を手に掛ける事になったら?」


 ノイアが堅い顔で

「レベル4、デストロイを実行します。そのトリガーを…私が握ります」




 ◇◆◇◆◇◆◇


 東京と横浜の間にある海上に建設された海上都市、第四東京の上空にナノハザード対策機関の宇宙戦艦アマノホコが到着した。

 数学的に規則正しく並べれた都市ビル達の上空にアマノホコが静止して、そこの下部から捜査官を乗せたコンテナ飛行機が降り立つ。

 立て籠もり事件があったビルの回りは沢山の低空飛行する警備ドローンと、事態の対応をしている警察官達と、その車両に囲まれている。


 その警察官達の車両の後ろに、コンテナ飛行機が下りて、ハッチが開くとそこからノイア特務捜査官を先頭に、水樹特務捜査官、杉田捜査官、中村捜査官、伊東捜査官が下りてくる。


 包囲している警察官達があまり、歓迎でないムードである。


 ノイアが警察官達の前にいる年配の警察官に

「お疲れ様です。私達は」

「聞いている」と年配の警官は腕を組む。


 ノイアが渋い顔で

「ナノハザード対策機関NOIRの捜査官です」


 警官が

「オレ達は…どうすればいい?」

 ノイアが

「犯人達が装備している武装は、非常に危険な装備です。我々が対応しますので…周辺の安全確保をお願いします。どうか…ご協力を」

と、ノイアが頭を下げる。


 それを見て現場にいた警官達は頭を掻き、対面した警官が

「後で、詳細な…データを貰えるんだよな」


 ノイアは肯き

「はい。必ず…お約束します」


 警官が手を振って背を向け

「周辺の安全は任せろ。人質の救出を犯人確保…よろしくな」


 ノイアは再び頭を下げ

「ありがとうございます」

 その方に水樹特務捜査官が手を置き

「現場との折衷、何時もお疲れ様です」

 ノイアが

「私達の仕事は、事件解決ですから」

 中村捜査官が

「じゃあ、早めに終わらせましょうか」

と告げた後ろにあるコンテナ飛行機から、とある装置が出現する。それは右腕に装備する装甲だ。

 それに、ノイア、水樹、中村、杉田、伊東の五人は手を通すと、ガチンと右腕に填まりその装甲から立体画面が投影され

『システム。オールグリーン。デウスマギウスの装備を確認、限定…レベル3までの解除。限定解除キーをノイア特務捜査官に一任します』

 五人にデウスマギウスの装備が装着された。


 ノイアが右手で右耳を触ると、右腕の装甲端末からデウスマギウスのインカムが右頭部半分に装備され

「全員の通信リンク」

と、ノイアが告げると四人の右頭部半分へ、装甲端末からデウスマギウスのインカムが装備される。

 そして、全員の右腕に重厚な砲身と、背面に結晶の翼が装備されて五人は、犯人がいるビルの最上階へ飛翔した。


 それを見つめる現場を確保する警官達、ノイアと会話した警官に若い警官が近付き

「あれが…アレスジェネシスが与えたデウスマギウスを使う部隊の…」

 年配の警官が

「ああ…まさに、今のナノテクノロジーの世界に於いて、最高峰の力を持つ者達さ」


 


 最上階に到達した五人は、通信から内部の情報が転送される。

 分析官の沢城から通信が入る。

「現在、犯人達は人質の盾を窓に作っているわ。人質数十名を窓に並べて狙撃を防ぐつもりらしいわ」

 中村捜査官が

「って事は…犯人は…」

 沢城分析官が

「犯人は中央の方へ集まっているわね」


 水樹特務捜査官が

「我々の侵入には?」


 アマノホコで分析を共に続ける能登分析官が

「動きから察するに、気付いてはいないわ」


 ノイアが考え

「最適な侵入ルートは?」


 沢城分析官がアマノホコの分析室から調査して

「今、ルートを転送するわ」


 犯人達は中央に集まっている。その中で、開いたままのドアが三つ存在している。

 そのドアには侵入者を検知する小型の端末が付けられている。


 中村捜査官が

「オレと杉田が先行して、その探知端末の2箇所を無効化する」

 水樹特務捜査官が

「私は、伊東捜査官と共に残る1箇所へ行き、無効化して…」


 ノイアが

「四人とも突入準備が完了したら、私の合図で…」

 四人は

『了解』

と、告げて全身をAOフィールドに包んで行動を開始する。


 四人は、犯人達がいる階層へ到着、そして、空いている入口にある探知端末へ照準を向けると探査量子レーザー波を照射、端末の回路にある演算システムの侵入部分を探しだし、侵入、端末を無効化する。

 それは、犯人達に知らされないようにして…。


 入口の全ての探知端末を無効化。


 犯人達は中央に纏まり、窓際にいる人質に向かってタクティカルスーツに備わっている銃器を向けている。

 犯人達のタクティカルスーツの右肩には口径12ミリの対物ライフル級の砲身が備わっている。

 中村捜査官がそれを見て

「人質を粉々にするつもりかよ」

 別の入口にいる杉田捜査官が、AOフィールドに包んだ小型ドローンを飛ばしてより内部を探査する。


 それにより犯人達の詳細なデータが入ってくる。


 それを分析官の沢城と能登が解析

「犯人の装備しているタクティカルスーツに関して、どこで製造されたか…不明」

と能登が

「どうやら、様々なタクティカルスーツの部品を集めて作ったみたいね」

と沢城が


 杉田が

「じゃあ、スーツを動かす際に演算を任せているネットワークからの停止は望めないか…」


 沢城が

「今、スーツの中枢を調べて繋がっているネットワークの判明を行っているけど…」


 能登が

「沢城、無駄よ。どうやら…ネットワークにないタイプみたいね」


 沢城が

「だったら、ビル内部のシステムを使って演算を…ビンゴ。ビルの管理をしている演算システムの一部が乗っ取られているわ」


 ノイアは伊東と水樹がいるドアに来て

「では、そのリンクを途絶した瞬間に突入をかけます」


『了解』と四人から返信が帰って来た。


 沢城と能登が、ビルシステムの流用をしているリンクの途絶を開始

「後、十秒」と能登が「3.2.1.0」

 

 唐突に犯人達のタクティカルスーツの動きが鈍る。そこへ、ノイア達が突入する。

 杉田、中村は飛び出し、右腕にある砲身で犯人達の背面にあるエネルギーパックの回路を破壊、水樹と伊東が犯人達を捕縛するネットを発射、犯人達を絡め取った。

 特殊強化繊維のネットに捕まった犯人達は、タクティカルスーツと共に床へ転がった。

 

 ノイアが犯人達の前に来て

「ナノハザード対策機関NOIRの捜査官です。貴方達を捕縛します」


 杉田と中村が人質達を解放して出口に誘導しつつ、最後の人質の一人に水樹付いて行き通信で、犯人確保の知らせをビルを包囲する警官達に伝える。


 ノイアが捕まっている犯人達の傍にいて、犯人達のタクティカルスーツを見つめる。

 黒く何処か重機のような印象があり、それが本当に犯人達による、どこにでもある部品流用とは思えない程に完成度が高いように見えた。


 伊東が犯人に近付き

「身分を明らかにする為に、遺伝子サンプルを取ります」

と、犯人の指先から一滴の血を採取する機器を使い、三人分の血液を入手、犯人達の身元を調べていると、犯人の一人が

「なぁ…オレは…本当にオレなのか?」

 ノイアがその言葉に眉間を寄せると、中村と杉田が来て

「ノイア特務捜査官、人質の避難、終わりました」

と中村が報告する。


 杉田が犯人からサンプルと取ったのを見て近づき

「伊東、犯人の身元は?」

 伊東が画面を開き

「犯人は」

 その次に、犯人達三人が、ぐあああらるるうると苦悶の顔と痙攣を始めてそれを見たノイアが

「まさか、ブレインジャック!」

と、告げた瞬間、能登分析官が

「犯人から離れて!」


 反射的に、伊東を杉田が、ノイアを中村が、引っ張り床に庇うように伏せさせ、シールドを展開した瞬間、そのビルの階層の窓が吹き飛ぶ程の爆発が起こる。


 水樹は、爆発した階層を見上げて

「能登! 沢城!」

と、四人の無事を聞くと、能登が

「大丈夫よ。生きているわ」


 爆炎と瓦礫となったそこから四人は起き上がる。

 犯人は粉微塵になってしまった。


 ノイアを守った中村が

「まさか…自爆?」

 ノイアが首を横振り否定して

「いいえ、殺されたのよ。彼らは…おそらく、ナノマシンでブレインジャックされていた」


 伊東が杉田に

「ありがとうございます」

と、お礼を告げて

 杉田が

「まさか…ノイア特務捜査官が言う通りなら…」


 通信で沢城が

「伊東くんが回収した三人の血液から、ブレインジャックに使われたとおぼしきナノマシンが検出されたわ。彼らは、操られた被害者よ」

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