第32話 揺らぐ今


 ソラリスの王座にて、アレスジェネシスは、アイオーンのまとめ役である、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル、サラカエル、レミエル、ラグエルの七名と話をしていた。


 全員がいる正面には、セフィロスが世界中のネットワークシステムから採取した現状のデータを展開して、アレスジェネシス達に話をしている。


「現在、ナノマシン・システムによる工業品の流通は、世界で40%を越える予定です。主な主要品として、ネットワーク・ディバイス。動力の光子アクチュエーターや、電磁アクチュエーター、及びに電磁人工筋肉…といった動力系統と、電力を貯蓄するリアクターバッテリーといったモノで、メタトロンの工業物は…15%未満でしか、ありません」


 アレスジェネシスは顎を腕の一つで触り

「もう少し…メタトロン極小機械構造・マトリクスを増やすか…?」

 ガブリエルが

「それは賛同しかねます。メタトロンは、我らの兵器でありますギガンティス、並びにソラリスの材料になります。慎重に扱った方がよろしかと…」


 ラグエルが

「ガブリエルの考えに賛成です。ゼウスヘパイトスも、メタトロン・マトリクスを広めるに関して慎重です。天帝やゼウスヘパイトスが提唱するアイオーン・アーマーや、エクス・アーマーを装備した者達のみ許されるべきでは?」

 アレスジェネシスが渋い顔をして

「しかしだ…。米国や、ヨーロッパに、ナノマシン加工機システム群を提供すると表明している。それを作り出せるシステム群を与えるより、こちらで部品だけを提供してコントロールする事が楽なのでは?」


 ウリエルが

「それはーどうでしょうーねー 無闇にー、信用するってー危ないとー思いますよー」

 サラカエルも

「ウリエルの言う通りだと思われます。人類の歴史を鑑みてもその危険性が高いのは明白です。いっそう、地球で我らと共に歩める者達だけを選別して、宇宙開発させて発展させる宇宙民にしては…」

 ミカエルが

「それは、差別ではないのか? 選ばれた者しか未来がないなんて…まるで、今までの地球上に存在した傲慢な支配者と同じだぞ」

 サラカエルが

「宇宙民になる門戸を閉ざす訳ではない。その資質に目覚めた者達を探して受け入れる。日本でも凡そ、三分の一くらいの人口に適正があると、私は思うぞ」

 レミエルが

「サラカエルの言う通りです。現在、日本地区では、ナノマシン・エンジニアが4000万人に迫っています。これ以上は増える事はないでしょう。日本以外に目を向ければ、東南アジアで6000万人、南米では一億近くにもなっています。

 ゼウスヘパイトスの担当するアフリアや中東、インドでさえ、インドで二億、中東で一億近く、アフリカに至っては二億もの人々がナノマシン・エンジニアになりました。

 この膨大な人数を下地に、将来は、いや…二年後には、我々の宇宙民として計画も受け入れられて、アイオーン・アーマーや、ゼウスヘパイトスのエクス・アーマーを身に付加する者達も増加します」

 ラファエルが

「ナノマシン技術によって、世界の文化も変化を始めています。今まで宗教が強かった国では、その影響が低下しているのが目に見えて現れています。イスラム教の厳しい戒律も現状に合わせた形態へ変化を始め、人々の考えも変化しつつあります」

 ラグエルが

「男女の今まであった価値観が変貌して、ある意味、本当の男女平等も始まっています。男性と女性の性質を理解して、それにあった職業形態や、学習、就労形態。

 とくに、就労や学問に関しては、大きく変化が始まっています。

 後二年後には、天帝が望む通り、我らとゼウスヘパイトスが管轄する国々の医療と教育、生活に関する事は、無料となり。人がいるありとあらゆる場所には、治安管理システムが広がって、犯罪者の早期発見や、犯罪を犯す前に確保して治療する事で犯罪も激減するでしょう」

 サラカエルが

「今後の人類は、人間は競争するのが本能という間違った価値観の無意味さに気付くでしょう」

 レミエルが

「競争心とは、植え付けられたトラウマなのですから…」

 ガブリエルが

「本来、人間とは互いに共存して、互いに助け合うのが本質です。それは、この今までの世界でも分かっていた事でしたが…。愚かな自身の劣等感と向き合う事をさせない。支配者という愚者の無駄な努力と、自身の間違った思い込み…認知の歪みによって、自分を見詰めるのは愚かだとすり込まれていましたから…」

 ラファエルが

「平等は、悪だと言う者達がいますが。それは間違った情報により、間違った見方なのに、気付いていないのも…人類のサガです。情けない事に、人類は自信がある者ほど、自分が愚かだと気付いていない。その愚か者が人類の上に立ってしまうから…人類は何時も苦境に立たされてしまう」

 ラグエルが

「故に、愚かな運といった。不確定な事でしか世の中が動かないと思っている。

愚の骨頂ですよ。社会がどういう風に動いているか…知る事こそ、世の中を動かす原動力になる。それを分かろうともしない、理想主義という愚か者や、リベラルというバカ共のお陰で、過去、日本は何度も苦境に立たされた。認知機能が低いバカは、格好いい言葉だけに踊らされる愚者の踊り子ですから」


 アレスジェネシスが、んん…と唸った後

「では、お前達は、私がヨーロッパや米国にナノマシン加工システムを提供するのを反対であると…」


 ガブリエルが

「そうです。必要ありません」

と、告げると、ウリエル、ラファエル、レミエル、サラカエル、ラグエルと5人は頷いたが…ミラエルだけは頷かなかった。


 アレスジェネシスは、ミラエルを見て

「ミラエル。お前は違うのか?」

 ミラエルが渋い顔で

「わたしは…天帝と同じように限られた一部の地域だけに提供する案に賛成です」

 ラグエルが

「その限られた地域の者達が欲望に負けて、暴走したら?」

 ミラエルは目を閉じ

「私は、ラグエルやウリエルにネルフェシェルと同じく一から天帝に設計、造られたアイオーンです。ガブリエルやラファエル、サラカエル、レミエルの人だった元型からではないので、人の愚かさがどれ程か…分かりません。でも…信じてみたいと思います」


 ウリエルが

「信じてもー 裏切るのがー 人間だよー」

と暢気に言う言葉にはトゲがある。


 レミエルが

「人間ってのは、100%裏切る。裏切らない人間なんていないんだよ」


 ミラエルが

「それは知性ある我々だって」

 ラファエルが

「我々は違う。一つのシステムに繋がった兄弟であり家族であり、個人であり全体だ。裏切るなんて出来ない。群体であり個人のアイオーンには、裏切りなんて存在しないのだよ」


 そう、アイオーン達1000人は、一つのシステムで繋がっている。

 1000人が一個の個人であり群体なのだ。個性を持つ群体。


 ミラエルが

「それでも、私達には感情が許されている。誰かを思うことも、愛する気持ちも、気持ちに寄り添う事も…。それは人も同じでは…」


 アレスジェネシスが

「ミラエルよ。確かにお前の言う事も分かるが…。残念ながら、人類の半分である男共は、お前達と似た女性とは、全く違う。途轍もなく知性が高い紳士もいれば、全くもって下半身にしか脳みそがないサル以下もいる。そのサル以下のクソ男共が、何時の世も問題を起こす。そうだな…栄枯盛衰、世の常。米国やヨーロッパにナノマシン加工システムの提供は取り下げよう」

 ラグエルが

「どうせ、我々のナノマシン・システムに依存するしか将来は、ないのです。問題ありません。システムや工業品は、世界中を巡る。彼が傲慢に覇権を握っていた時代の長さの分、自らが行った覇権の罪業で苦しんで貰いましょう」

 アレスジェネシスが

「そうなると…多くの移民が発生するかもしれないが…」

 サラカエルが

「問題ありません。その為に土地活用や、新たな人工島の建設は、何時でも用意できますから…」

 レミエルが

「その方が好都合かもしれません。移民してきた者達が、地球以外に活路を求めてアイオーン・アーマーの付加を望み、宇宙民になる可能性の方が高いですから」

 アレスジェネシスは

「ゼウスヘパイトスは…動かないか…」

 そこへ、ネルフェシェルが来た。

「遅れました…少し、ゼウスヘパイトスとの話が長くなってしまい。申し訳ありません」


 アレスジェネシスがネルフェシェルに

「ゼウスヘパイトスは…どう…」

 ネルフェシェルが、指を鳴らしてデータを開示させ

「もう…トルコ共和国以上から…ナノマシン・システムを広めるつもりもないそうです」

 ラグエルが

「さすが…もう一人の天帝」

 ネルフェシェルが

「こちらの結論は?」

 ガブリエルが

「現状の範囲内で…」

 ネルフェシェルが

「それでは…米国やヨーロッパの国々が…ウルサいですよ」

 ラファエルが

「なら、こちらで兵器システムと治安システムだけ渡して、運用させれば良い」

 ネルフェシェルが

「納得しますかね…?」

 ラグエルが

「納得しないなら、提供しないまでだ」

 サラカエルが

「国益なぞ、我らナノマシン・システムの世界では無意味。それを分からない従来の愚かな政治家共は、その国の民主主義に駆逐されるだろう」

 アレスジェネシスが歩み

「そういう事で、纏まったから、今からゼウスヘパイトスの所へ行って直接、話してくる。後は…頼むぞ」

「はい」とアイオーン達7人とネルフェシェルは答えた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ゼウスヘパイトスは、東トルクメニスタン共和国の首都の遙か上空に浮かぶ千メートル級の巨城宇宙戦艦で、データのチェックをしていた。

 今後、ヨーロッパにナノマシン・システムを提供した場合のシミュレーションを行う。

 入れてあるデータは、ヨーロッパが過去にどんな動きをしたか?という膨大なデータによって最も行動するパターンを予測すると、ゼウスヘパイトスは頭を抱えた。

「所詮、戦争はヨーロッパの風土病か…」

 自分がナノマシン・システムをヨーロッパ諸国に提供した場合…結果は、90%で自分達が再び過去の植民地政策のように世界へ侵攻するとあった。


 人は、個々個人では優しいが…集団になると、その残虐性が発揮される。

 集団という責任が分散する状態は、自らの利益の為に行動を始める。

 集団化した人は、その組織の一部となり、自己を喪失する。

 これは…どうしようもない人間の性質だ。

 そうやって長い時間を人類は、生きてきた。

 だが…もう、それも終わりに近付いているが。

 人間の性質が、ナノマシン・システムに追いついていない。

 

 だからこそ、エクス・アーマーのように人類に新たなシステムを付加しないと、それに追いつけない。

 人類が、自らの文明技術に適応する為に、自らへ能力を付加させる必要性は、分かっている筈だ。

 だが…それをしない。

 その理由は、無知な故にだ。

 知識は絶えず進化してアップデートされる。だが、人間はアップデートする事を拒む。

 この世に永遠の存在があると勘違いしている。

 残念だが、永遠の存在はない。人類自身が永遠でないのに、永遠の存在を求める。

 このような現象が生じる理由は簡単だ。

 人類の知性は、地球に閉じ込められたままでは、進歩しない。


 ゼウスヘパイトスは頭を抱えて、傍にあるソファーイスに座る。

 支柱がない浮かぶソファーイスに座って、ゼウスヘパイトスは天井を見上げる。

 空の映像という天井ライトを見上げて、悩ましい人類の業を垣間見た。

「どうして、ダメな部分だけ人類は永遠不変なのだろう」


 人類の善性は、変わる。時代によって…。

 人類の悪性は、永遠だ。


 昔、読んだ本に、聖書にあったアダムとイブは、エデンから追い出されて地上に広がった。

 二人から人類の始祖達が生まれて、人類が増えていった。

 

 その本にはこう書かれていた。

 神から造られたアダムとイブは、永遠の存在だった。だが、二人は別れた。

 イブは地上へ愛を広げる為に残り、アダムは自らの悪性の為に地獄に堕ちてサタンになった。

 そして、地獄へ堕ちる罪人、罪人は全て男だ。

 その罪人の男共を管理支配して罪人を苦しめるサタンとしてアダムは墜落した…と。


 人類で、犯罪を起こすのは99%男性だ。

 きっと、男が犯罪を犯すのは、アダムの血が原因なのだろう。

 男は、生まれながらに悪性を宿していると…。

 故に男共は、世界を破壊するしかない。

 人類の全ての悪性は、男に通じる。


 それをゼウスヘパイトスは思い出して悩んでいると…

「アナタ?」

と、妻のイリディアが来た。

 イリディアは18を越えて、現在、お腹にゼウスヘパイトスの子を身篭もっている。

 ゼウスヘパイトスが頭を起こして

「どうしたんだ?」

 イリディアが微笑み

「何となく…ね」

 ゼウスヘパイトスは、気遣ってくれた事に

「こっちに来てくれないか?」

「うん」

 イリディアが来て、ゼウスヘパイトスの開いている右に座る。

 イリディアが

「悩み事?」

 ゼウスヘパイトスは肯き

「ああ…ヨーロッパ諸国から…ナノマシン加工システムの提供を呼び掛けられている」

 イリディアが

「それに関して、私達から提供を受けた他の国々は…どう?」

 ゼウスヘパイトスは頭を掻き

「自分の判断に任せると…」

 イリディアは肯きながら

「アナタは…どう思うの?」

 ゼウスヘパイトスはイリディアに頬を寄せ

「ここで広げるのを止めようと思う。これ以上…広げるのは今の段階では危ない。アレスジェネシスは南米、東南アジアとその周辺。自分はアフリカ、中東、インドとその周辺。

丁度良いバランスだと思う。お互いにね」

 イリディアは

「じゃあ、ヨーロッパには…ナノマシン加工システムを提供しないのね」

 ゼウスヘパイトスは肯き

「生産された物品は売る。だが、製造加工するナノマシン・システムは提供しない。それで十分だと思う」

 イリディアが

「アナタが行っている惑星開発やエクス・アーマーに関しては…」

 ゼウスヘパイトスはフッと笑み

「問題ない。募集したら、それに応じて貰えばいい。人種や国、その他諸々で分ける事はしない」

 ゼウスヘパイトスはイリディアを抱き締めて

「君は…どう思う?」

 イリディアはゼウスヘパイトスの胸に頬を寄せて

「アナタの考えでいいと思う。広げ過ぎても上手く行くとは限らないから…」

 ゼウスヘパイトスはイリディアを抱き締めて撫で

「そうか…ありがとう」

 最近、イリディアに相談する事が多くなった。

 イリディアに相談しても、イリディアは具体的な案は言わない。聞いて頷いてくれる。

 言葉にして聞いて貰えるだけで、落ち着く自分がいる。

 そして、冷静で落ち着いた考えになる。


 イリディアとは、倍も年齢が離れているのに、精神的にイリディアに寄りかかっている事が多くなった。

 もし、イリディアと出会う事がなかったら…アレスジェネシスの過去のような存在になっていたかも…。

 だが、今は違う。

 こうして、誰かが傍にいてくれるという安心感だけで、自分の中にある苛烈な何かが…静まってくれる。

 心地良いとゼウスヘパイトスは、イリディアを抱き締めていると…不意に視線が気が付く。

 その視線があるドアの方を向くと、大きなデウスマギウスの体を隠して顔だけ見せているアレスジェネシスがいた。

「あ!」

と、ゼウスヘパイトスが声を張ると、アレスジェネシスが

「いや…邪魔だったら…少し外すぞ」

 ゼウスヘパイトスは立ち上がり顔を引き攣らせて、イリディアも立ち上がり

「ようこそ、アレスジェネシス様」

 アレスジェネシスは後頭部を多腕の一つで掻き

「す、すまんな…悪い事をした」

 ゼウスヘパイトスが微妙な顔で

「その…何だ。何の用だ?」


 アレスジェネシスが多腕の一つを伸ばして、それにゼウスヘパイトスがタッチすると、データが転送された。

 その内容は、ヨーロッパ及び、米国達にナノマシン・システムを提供する事へのリスクだ。

 ゼウスヘパイトスが肩を竦め

「自分も同じ事を考えていた」


 ゼウスヘパイトスとアレスジェネシスは話し合い

「そうか…お前もそう…計算したか…」

とアレスジェネシスは頷く。

 ゼウスヘパイトスは腕を組み

「歴史的に、そういう事を行う気質がある。それを見過ごす事はできない」

 アレスジェネシスが

「向こうを納得させる事案として、向こうへ治安と兵器に関するシステムを提供するで…どうだ?」

 ゼウスヘパイトスは顎を擦り

「まあ、提供するこちらが…システムの根本を管理するから…何かあった場合は対処し易いか…」

 アレスジェネシスが

「それを向こうも分かる筈だ。まあ、それが抑えとなってヘタな事をしないと思うが…」

 ゼウスヘパイトスが

「だが…本当にそれで納得すると思うか? 向こうの気質を考えると、自分達にとって有益である事が平等で、相手にとって不利益な事は無視するぞ。真の平等を全く知らない。双方にとって有益であるが…平等ではないのが、ヨーロッパや米国だぞ」

 アレスジェネシスが

「我らが行う宇宙民計画。νジェネシスが発動すれば、否応なしにヨーロッパや米国から膨大な人口が移動を始める。そうなれば…自ずとその者達の力は削がれて、何も出来ないだろう」

 ゼウスヘパイトスは頭を抱え

「それをやろうとした手間で、2045年に世界戦争が始まったんだな…」

 アレスジェネシスは肯き

「もう少し…早ければ…と思うが仕方ない。時勢がそうだったからなぁ…」

 ゼウスヘパイトスはアレスジェネシスを見詰めて

「そう言えば…元北朝鮮だった北民主共和国は、どうなった?」

 アレスジェネシスはフッと笑み

「我らに保護して欲しいと申し出たが、無視した。歴史を鑑みて…どうせヘタに介入すると自らの真実の歴史より、自らが有利になる創作が歴史とする民族だ。関わらない方がいい。現在、アメリカ主導で、国の再編を行っているよ。因みに韓国との併合は拒んでいるがね…」

 ゼウスヘパイトスが

「近いから韓国と統合すると思ったが…」

 アレスジェネシスが

「民としては違うのだろう。まあ、歴史を見ても、あの北朝鮮だった場所は、どちらかというと…中国やロシアといった国々の緩衝地帯だった所があるからなぁ…」

 ゼウスヘパイトスが

「そういえば…韓国は…どうなった? 表面的な情報しか分からないから…何とも言えないが…。米国が北民主共和国へ移って、在韓米軍が無くなったんだろう?」

 アレスジェネシスが肯き

「そうだ。完全に諸外国の勢力は韓国から消えた。だから…なんだ? 問題ないだろう。問題があるなら、それは韓国にある政治の責任だ。民主主義なら、国民によって無能と判断された政治家は降りるだろう」

 ゼウスヘパイトスが

「いや…反日とかあったろう。この中東やアフリカにインドじゃあ…あまり関心がないから、現状がよく分からないんだが…」

 アレスジェネシスはフッと嘲笑いを見せ

「自分達が反日国家であった韓国は、今…一番の親日国だと言っているぞ」

「えええ…」

と、ゼウスヘパイトスは困惑する。

 アレスジェネシスが

「それが…半島精神だ。自分達に都合が良い事が正義。過去に自分達がやった行いなんぞ、改めない認めない存在しない。全てはその時の政治が悪い、支配者が悪い。そういう国家だ」

 ゼウスヘパイトスは微妙な顔をして

「じゃあ、付き合うのは…」

 アレスジェネシスが手を振り

「止めて置け。その国の国民には罪はないが…その国の国民から選ばれた支配者は、最も愚かな事をする。どうして愚かな事をするのかは…その国がそういう気質を集団として持っているからだ。個人と集団、組織は違う。だが、個人と集団は同じだとしたいのが人間の性だ。韓国民だろうが、中国民だろうが、人間は個人としては同じ。だが…集団となると全く別になる。そういう集団化した人間の愚かさを自覚しない国家なぞ…付き合うに値しない」

 ゼウスヘパイトスは呆れた溜息をして

「そうか…じゃあ、中国やロシアとは…付き合いを止めるか」

 アレスジェネシスは肯き

「私も、そのつもりだ」

 ゼウスヘパイトスが渋い顔で

「ロシアや中国が接触を求めているが…」

 アレスジェネシスは

「接触する価値さえない。自分達の利益だけを追求する愚かな統治者や支配者ほど、下らない存在はない。会うことさえ無駄だ」

 ゼウスヘパイトスが

「不測の事態という可能性を生み出す…種になるぞ」

 アレスジェネシスが

「現在、ロシアと中国は…どんな状態だ?」

 ゼウスヘパイトスは額の髪を掻き上げ

「ロシアはジワジワと経済力が落ちて、ハイパーインフレ寸前だ。中国は…政府は認めないだろうが…各地で内乱が勃発して、人民解放軍が腐敗して、内乱を行っている国民に武器の横流しをして、内乱を増長させている」

 アレスジェネシスが冷徹に

「放って置け、自分達で好きに殺し合って分かるだろう。どうすればいいかなぁ…」

 ゼウスヘパイトスは呆れ顔で

「中国は、近い内に五十個程の国々に分裂するだろう」

 アレスジェネシスが肯き

「それが本来の中国だ。民族、文化、その他諸々、違うのだ。当然の結果だ」

 ゼウスヘパイトスは、苦しい顔をしていると、それをアレスジェネシスは覗き込み

「お前は…その原因が分かっているはずだぞ」

 アレスジェネシスの鋭い視線に、ゼウスヘパイトスは会わせて

「中国は…元々から多民族国家達の集合体だった。それが始皇帝の時代に強制的に強権的に纏まったのが原因で、一つの纏まるという愚かな理想に取り憑かれた虜囚と化した」

 アレスジェネシスはニヤリと笑み

「その通りだ。強権や独裁、武力で纏まった連中なぞ、結束が弱くて当然。では…我らは…お前と私は…どうするのが、最善かね」

 ゼウスヘパイトスはアレスジェネシスを見詰めて

「生活や、システムを向上させるしかない。叡智こそ技術こそ、人類を…安寧へ、進歩へ導く」

 アレスジェネシスは多腕の一つを組み

「人類は、様々な物を作り出した。火、道具、宗教、政治、学問。結局の所、新たな叡智を生み出す事が人類をより良くして来た。何時までも過去の事に拘る者達は…絶滅していった」

 二人の話を聞いていたイリディアが挙手して

「あの…アレスジェネシス様。人間にはそれしかできない人達もいます。それは滅ぶべきだと…」

 アレスジェネシスはイリディアを優しげに見詰めて

「ゼウスヘパイトスの奥方よ。人間は…生きている限り…進歩している。どんな年齢だろうと…生きている限り前に進んでいる。人の価値観が変わるのは簡単だ。それを続ける事によって損益を被った時に、信じられない程に価値観を変える。私はそれを…何度も見てきた。人間に絶対は存在しない。明日へ生き続ける限り変わってしまう。いや、変われる。どうしても未来が見えないから、過去のツラかった事がずっと続くと思うのだ。だが…未来は変わる。以外に簡単に変えられる事があるのだよ」

 確信に満ちたアレスジェネシスの言葉にイリディアが黙ると、ゼウスヘパイトスが

「説教をする為に来たのか?」

 アレスジェネシスは頭を掻き

「いや、すまん。とにかく、我々は…ナノマシン・システムを米国やヨーロッパに提供しない。それを伝えに来て、お前の意思の確認にも来た」

 ゼウスヘパイトスは

「さっきも言ったが…同じだ。ヨーロッパにも米国にも提供しない」

 アレスジェネシスは

「では、我らソラリスの治安と兵器システムの提供だけで…」

 ゼウスヘパイトスは肯き

「ああ…それに合わせる」

 アレスジェネシスは肯き

「分かった。色々な打ち合わせはネルフェシェルが来るだろう。よろしく頼む」

と、ゼウスヘパイトスに背を向ける。

 その巨大な結晶翼の背中に

「北朝鮮の支配だった男の子供達は?」

 アレスジェネシスが

「ガブリエルやラファエル達が管理している。いずれ…自由になるだろうが…。自分達の経緯を考えれば、我らと共にある事を選ぶかもなぁ」

 ゼウスヘパイトスが

「子供には罪はないぞ!」

 アレスジェネシスは手を振り

「重々分かっている」

と、告げて去って行った。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 その数日後、米国ではドランド大統領が情報官から、アレスジェネシスがナノマシン・システム達の提供を拒否した…と受けてホワイトハウスの執務室のデスクで額を抱えて打ち拉がれていた。

「拒否された理由は?」

と、ドランドが尋ねると、情報官は厳しい顔で

「これ以上…広めるつもりは…ない…と」

 ドンとドランドがデスクを叩き

「ゼウスヘパイトスの方は?」

 情報官は厳しい顔のままで

「同じ答えでした」


 コンコンとノックされ別の情報官テッドも入り

「大統領…移民の流入が止まりました。公約通りには…なりました」


 ドランドは頭を掻き

「こんな事になって公約が達成されても意味は無い」

 さらにノックされてイヴァンが入ってくる。

「大統領、アレスジェネシスからの提案です」


 ドランドはイヴァンが持って来た、ソラリスからの治安維持と兵器システムの提供に関する書類を見て

「経済、情報まで手にされて、武力まで堕ちたら…。我は傀儡に成り果てるぞ!」


 テッドが

「大統領、忌憚のない意見を述べさせて貰えるなら…このままではアメリカは確実に治安が悪化して国がバラバラになります。現に中国ではその兆候が見えている。誠に致し方ないですが…ソラリスからの治安兵器システムの提供を受けるしかありません」


 ドランドが背もたれにのし掛かり、怒りと呆れの顔で

「米国を売った大統領として…歴史に名を残せと…」


 テッドが前のめりに

「このまま拒否をすれば…確実にアレスジェネシスやゼウスヘパイトスが行うνジェネシス計画によって、多くの国民がアレスジェネシスやゼウスヘパイトスの元へ行き、国力が急激に低下します」

 イヴァンが

「ヨーロッパ諸国も同じ提案をされて、更にEUの国民達は、独自にアレスジェネシスやゼウスヘパイトス達に接触して、νジェネシス計画における。テラフォーミングされた火星や金星への移住を希望並びに、二人が開発したエクス・アーマーやアイオーン・アーマーの融合を望む確約書にサインしている人々が多数発生しています」

 テッドが

「彼らは恐ろしい。国家の武力ではなく、新たな宇宙民を誕生させる技術と叡智によって世界を統一した。もう…我々はこの流れに乗るしか、生き残る道はありません」


 ドランドが天井を見上げて

「まさか…政治家が…リストラされる時代がこようとは…」


 テッドが

「大統領、少なくなってもこの国に残っているのは合衆国民です。その国民を守る事をお考えください」


 ドランドが額に両手を置いて

「少し考えさせてくれ」


 執務室にドランドだけを残して情報官達は出て行った。

 イヴァンとテッドは、執務室のドアの前に残り

「テッド…この先、どうすればいいかなぁ?」

 テッドはその問いに黙ったままだ。

「もう、政治の時代は終わりなら…次には…どう…」

 イヴァンの言葉にテッドは

「それでも、人類が宇宙に出た場合は、生活を統治するシステムが必要だ。ならば…そこに入るだけだ」

 イヴァンが

「そのチャンス…私達にあるかしらね?」

 テッドが

「チャンスがなくてもあっても、食い込むしかないのさ」

 イヴァンはフッと笑い

「相変わらずね。その野心…昔から変わってない」

 テッドは渋い顔で

「君も相変わらずだよ。その冷静な所は」

 イヴァンはドアを見詰めて

「アレスジェネシスが言った話を憶えている」

 テッドは苛立った顔で

「ああ…バカらしい。あり得ない事だ」

 イヴァンはクスクスと笑い

「でも、あり得たかもね。私、貴方の事…気に入っているから」

 テッドは頭を掻いて

「止してくれ」

 イヴァンが

「でもね、やっぱりアレスジェネシスを選んだのは分かる気がする。アレスジェネシスは私の見た事もない世界で生きているんだなぁ…って。それを感じると別の平行世界の私は、アレスジェネシスを選んだんだろうなぁ…ってね」

 テッドが

「だが…別れた。イヴァン、君は別世界のイヴァンとは違う」

 イヴァンが

「その話を知ったからね。でも、やっぱり話を聞いたら私も結局は愚かな女の一人だったんだなぁ…って思った。キッチリできなかったなんて…ね」

 テッドが

「その話は止めろ。オレ達は違う」

 イヴァンが肯き

「そうね。確かに…もう、その世界とは違うから」


 数分後、ドランド大統領が結論を告げた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ゼウスヘパイトスは、宇宙戦艦で弟の会社のビルの屋上に来て、弟がいる会社のオフィスへ行き、弟と共に東トルクメニスタン共和国の輸入品に関する話し合いをしていた。

 弟がリストが載る端末を見て

「まあ、この品目数なら、そんなに申請に時間は掛からないだろうから…」

 ゼウスヘパイトスが肯き

「頼む」

 弟が

「兄貴、米国やヨーロッパにナノマシン・システムを提供するのを止めるってホントか?」

 ゼウスヘパイトスは肯き

「ああ…これ以上の拡大をするのを、アレスジェネシスと共に確認した」

 弟が

「反感とかないか? 色々とウルサいんじゃないのか?」

 ゼウスヘパイトスは肩を竦めて

「その変は、こちらから相応の治安と兵器システムを提供するで落とし所にした」

 弟は厳しい顔で

「同意してくれると思うか?」

 ゼウスヘパイトスはフッと笑み

「しないなら、放置だ」

 弟は渋い顔で

「面倒事はゴメンだぞ」

 ゼウスヘパイトスは冷徹な目で

「大丈夫さ。そうなる前に、その芽を刈り取るだけさ」

 その冷たさに弟は困惑を浮かべたが、気を取り直して

「ああ…そうだ。会って欲しい人がいるんだが…」

 ゼウスヘパイトスは眉間を渋め

「誰だ? 何処かの国家関係者か?」

 弟が名刺の端末を立ち上げて

「ええ…アメリカのロックフェラー財団の関係者らしいぞ」

 ゼウスヘパイトスは腕を組み

「名前は?」

 弟が端末を見て

「ノア・ロックフェラー。ロックフェラー財団の情報管理を担当しているらしい」

 ゼウスヘパイトスは顎を擦り

「なぜ、財団が…」

 弟が

「なんか? 憶えがあるか?」

 ゼウスヘパイトスは首を横に振り

「いいや、全く関係ない」


 そこへ女性社員が来て

「あ、部長…前に来たノア・ロックフェラーという女性が…」


 弟とゼウスヘパイトスは視線を合わせて、ゼウスヘパイトスが肯き

「会ってみる」


 女性社員に通されてゼウスヘパイトスと弟が、応接室に入ると

「こんにちは…」

と、朝宮 葵が挨拶をしてくれた。

 ゼウスヘパイトスが渋い顔をして

「今度は、財団関係者に偽装しての接触か?」

 朝宮 葵ではないノア・ロックフェラーとして来たノアは

「いいえ。本名で来ました。私の話を聞いて頂けませんか?」


 弟は兄ゼウスヘパイトスを見詰めると、ゼウスヘパイトスは後頭部を掻き

「まあ…話を聞くだけなら…」

 ノアはお辞儀して

「とても…有益な話になると思います」

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