第31話 世界の晩餐
2020年のとある日、ゼウスヘパイトスは妻のイリディアと妹のライラと共に王達の料理店に来てた。
玲蘭と兄の子墨が営んでいる料理店の鶏肉の炒め物を人型形態でゼウスヘパイトスは、食べる。
その場所は、普通のお客と同じテーブル席だ。
隣には、イリディアがいて玲蘭と話をしている。
「最近はどう?」
玲蘭が尋ねるとイリディアは
「こんな事がね…」
と、他愛もない会話だ。
それを横にしているゼウスヘパイトスに子墨が来て
「どうだ? 色々と大変だって噂を聞いているが…」
ゼウスヘパイトスはフッと笑み
「ああ…金星をテラフォーミングしている。あと…数年後には大気が地球と同じ組成に近くなるだろう。そうなったら…金星への移民を考えないと」
ゼウスヘパイトスとアレスジェネシスは、月を開発して地球圏外へ行く中継点基地にしてアレスジェネシスは火星へ、ゼウスヘパイトスは金星へ、テラフォーミングのシステムを発射して、火星と金星を地球化している。
軌道エレベーター型テラフォーミングのシステム、エデンズ・アーク…全長五万キロの巨大な軌道エレベーターの柱の最上部には…六つの1000キロ級のコロニー円柱が接続された傘の骨組みのような形状。
先端を惑星に投下して固定、主柱にあたる最上部の500キロの独楽状の中核から惑星地上まで100キロ幅の先端が伸びて、その先端から惑星の大気を改造するプラズマ分解エネルギー粒子が放出、惑星の大気組成を地球側へ近づける。
更に最上部にある500キロの中核には、
太陽に近い金星は、太陽からの膨大なエネルギーを空間湾曲シールドでキャッチさせてテラフォーミングのシステムのエデンズ・アークに回収、動力やテラフォーミングの促進として再利用、地球のように大気を摂氏20度くらいで安定させる。
地球軌道の外にある火星には、空間湾曲シールドで外宇宙からの有害な宇宙線から守りつつ、外から入る熱エネルギーを留めて、地球と同じように摂氏20度にして安定させる。
数年後には火星と金星が、地球のように宇宙服なしで住める惑星になる。
その下ごしらえを終える頃には、アレスジェネシスはアイオーンを元にした人類と融合するナノシステム装甲、アイオーン・アーマーの配布。
ゼウスヘパイトスは、同じくナノシステム装甲だが…人類を守り包む事を優先したアレスジェネシスが前の平行世界地球でガイアシステム人種の元となったデウスエクスマキナと同系統のエクス・アーマーを配布する。
どちらも同じナノシステム装甲だが、完全融合型と、鎧装備型の違いだ。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスの力によって、人類は十年以内に宇宙民として宇宙へ旅立てるだろう。
そして…新たな第三の選択も現れた。
玲蘭がイリディアに
「お腹の子は…どう?」
イリディアは微笑み
「順調です。安定期に入りましたから」
そう…イリディアのお腹には、ゼウスヘパイトスの子がいる。
子墨がゼウスヘパイトスに
「なぁ…大丈夫なのか?」
ゼウスヘパイトスは額を掻いて
「一応、生まれる時は…人間の姿をしている。今、自分がこうやって人の姿に可変できているから…心配は、ないと思う」
子墨が不安な顔で
「一応、お前をデウスマギウスにした本人…アレスジェネシスには聞いたか?」
ゼウスヘパイトスは腕を組み。
「まあ、そのアレスジェネシスに聞いたからなぁ…心配ないと…」
子墨が渋い顔で
「生まれながらにお前と同じデウスマギウスを持つ赤子か…。まさか…遺伝するなんて…」
ゼウスヘパイトスは渋い顔で
「デウスシリーズというらしい」
子墨が、んん…と溜息を漏らし
「なら、その生まれて来る子が作る子も…」
ゼウスヘパイトスは肯き
「ああ…オレと同じくデウスマギウスを遺伝させるだろう」
子墨がゼウスヘパイトスを横見して
「男か?」
ゼウスヘパイトスは肯き
「ああ…検査の結果、男だ」
子墨が不安な顔をして
「マズイ事にならんか?」
そう、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスの力を世界中が狙っている。
現在の世界情勢は、この一年で大きく変貌した。
アレスジェネシスは、南米と東南アジアとインドに自分達のシステムを広げた。
ゼウスヘパイトスは、中東とアフリカ大陸、インド近郊の中央アジアに自分のシステムを広げた。
お互いに区分を守って、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスは上手くやっているが…それが広まっていない、北米や、ヨーロッパ、ロシア、中国大陸地方は、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスにシステムの提供を申し出ている。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスは無視している。
北米やヨーロッパのような白人圏は、格差を広げてしまいシステムの改変や進歩を疎外するのが目に見えている。
ロシアや中国大陸地方は、強権的な政治が誕生しやすい。故にシステムの強大さを利用して世界を征服する愚行をするのが目に見えている。
アレスジェネシスは、この平行世界が違うとは、したいが…余りもその悪意ある部分が同じ故に、呆れてしまった。
ゼウスヘパイトスも、歴史を見て分析し、ヨーロッパ圏や帝国といった歴史がある国に対して信用がない。
個人としては…素晴らしいが、その土地から出て来る支配者は最悪だ。
そういう環境ゆえに、出て来るのか? それともそういう人間達の性質を持った者達が集まるから、出て来るのか?
卵が先や親鳥が先か…。
こういう結論の答えは、簡単だ。
卵も親鳥も同時に発生したのだ。
そういう環境ゆえにそういう人間達が集まり、そういう集団や支配者が誕生する。
後にも先にも同意義なのだ。
では、環境を変えたとしても人間が変わらない限り、意味はない。
その逆、人間が変わったとしても環境が変わらない限り、意味は無い。
同時に二つが変わる事で、変化するのだ。
まあ…戦争はヨーロッパの風土病といわれる程だ。
ヨーロッパ系と似た所は、何時も権力闘争が盛んなのだ。
北米も、ロシアも、中国大陸も似た所がある。
ゼウスヘパイトスは、子墨を隣にして、はぁ…と溜息を漏らして
「何とかやってみるさ。子供の将来の為にも…」
子墨が
「なぁ…ある程度、提供すれば…面倒は起きないんじゃないのか?」
ゼウスヘパイトスは、更にある鶏肉の炒め物を抓み
「やれば、もっと寄越せとウルサくなる。欲深いのはヨーロッパ系統や中華系統の特徴だからなぁ…」
子墨は微妙な顔をする。
その通りなのだから…何とも言えない。
「アレスジェネシスはどうなんだ? その辺り…」
ゼウスヘパイトスはフッと笑み
「無関心だ。火の粉がくるなら振り払う。外に覇を求める頭の悪い政治家や、国の支配者と違って自身の国を良くする事にしか関心がないからなぁ…」
子墨は肯き
「そうか…」
ゼウスヘパイトスが
「まあ、提供しても良いって動き出せば、こっちも歩調を合わせれば良いさ。提供するとしても北米か…ヨーロッパの一部か…。その程度だろう」
ゼウスヘパイトスは自分の子を身篭もっている妻のイリディアと共に、王達の料理店で晩餐を終えた。
◇◆◇◆◇◆◇
日本のとあるレストランの夜、外が見える席で日本で最大の政党、女性党の女性総理である桜井がテーブル席に座っている。
その対面側は空いていて、相手の到着を待っていると…
「すまん。待たせた…。遅れた事を謝罪する」
スーツ姿で、人型のアレスジェネシスが来た。
桜井は微笑み
「少し待った程度ですから…」
人型のアレスジェネシスが対面側に座り
「本当は…定刻通りに来るはずだったが…申し訳ない事をした」
桜井は笑みながら
「この後の予定は空いていますから…。気にしないでください」
「ありがとう」
と、アレスジェネシスはお礼を告げた。
桜井とアレスジェネシスは、晩餐を共にする。
運ばれてくるコースを食べながら喋る人型アレスジェネシスと桜井女性総理。
桜井が
「そういえば…息子さんの、ゼウスヘパイトスの奥方が妊娠したと…」
アレスジェネシスは頷いて
「ああ…史上初、妊娠によって誕生する私達と同じデウスマギウスを持つデウスシリーズだな」
桜井が
「出産の際に問題は?」
アレスジェネシスが皿にある料理をフォークに乗せて
「問題ない。出産の際には、最初の人型、人の赤ちゃんの形態で誕生する。成長と同時に…そうだな…三歳くらいからデウスマギウスの一部を展開できるようになるだろう。まあ…その前に…何か問題が起こった場合は、デウスマギウスの力が発動するかもしれん。
子供のが母体にいた場合は…胎児と母体を守る為に、母体を基板としてデウスマギウスが発動されるだろう。生まれた後は…自身を守る為に、デウスマギウスが非常時の場合…発動するだろう」
桜井が微笑み
「上手く出来ているんですね…」
アレスジェネシスがフッと笑み
「上手く行くように設計したからなぁ…」
桜井が皿の料理を食べながら
「貴方の他に…ゼウスヘパイトス以外に、デウスマギウスはいるのですか?」
アレスジェネシスは上を見上げて
「私を含めて…6人かな…。ゼウスヘパイトスも含んでいる」
桜井が試すように
「では…貴方以外の他人にデウスマギウスを授ける事は…可能なのですか?」
アレスジェネシスは桜井を見詰めて
「その情報を…何かに使うのかね? 桜井総理…」
桜井は微笑み
「好奇心です」
アレスジェネシスは訝しく右の眉間を上げるも
「可能だ。適正はあるがなぁ…」
桜井が微笑みながら
「では、他のデウスマギウスの素体を何体か…用意しているのですか?」
その問いにアレスジェネシスは視線を皿に向け
「今の所…製造する予定はない」
桜井は隠した仕草に女の勘が働いた。製造する予定はない。だが…それ以前なら製造している…と、確信を踏んだ。
アレスジェネシスは、自分の仕草を見て、恐らく…女性の桜井総理なら見抜いているだろう…と感じた。こういう感情の機微を見るのは女性の方が長けているのだから…仕方ない。
アレスジェネシスが
「そんな事を聞く為に、私を食事に呼んだかね?」
桜井総理は笑みながら
「アレスジェネシス…。もし…貴方が…この世界の何処かにいる女性と、ゼウスヘパイトスのように結ばれて…子を成した場合は、ゼウスヘパイトスのように…」
アレスジェネシスはどことなく皮肉な顔で
「ああ…その胎児は、ゼウスヘパイトスと同じく、私のデウスマギウスを受け継ぐデウスシリーズだろうな…」
桜井は微笑み
「お見合いをしませんか?」
アレスジェネシスは苛立った顔で
「却下する」
桜井総理が
「貴方のデウスマギウスを受け継ぐという事は、貴方が創りだしたソラリスと同等のモノを作り出せる力があると…いう事ですよね」
アレスジェネシスは肯き
「ああ…そうだが…」
桜井総理が
「その偉大な血族を広める事こそ、人類の為になりませんか?」
アレスジェネシスは呆れ気味に
「私は…結婚生活や、夫婦に関して…酷いトラウマがある」
桜井総理が
「存じています」
アレスジェネシスは「チィ」と舌打ちする。
「どこから漏れた? いいや、多分、言ったんだなあの二人が…」
1年前、アレスジェネシスの前にあの、イヴァンとテッドの二人が来た。
二人は今後のアメリカと日本ならびに、アレスジェネシスの望む事を叶える為にアメリカが手を貸すと…交渉に来た。
その時に、アレスジェネシスが言った。
「君達は、違うとは分かっていても…感情とは複雑だ。この世界とは違う私の平行世界でイヴァン氏と私は結婚していた。そして…娘も産まれた。だが…その娘の父親は、君だったテッドくん。君達は…私をはめる為に不誠実を重ねていてねぇ…。その子供を育てたよ。笑ってくれ。別世界の君達に托卵された私を…」
それを聞いたイヴァンとテッドの顔は分かる位に引き攣っていた。
アレスジェネシスが渋い顔で
「それで…どうしたいんだね? 総理殿」
桜井は笑み
「まずは…女性と会って話しでも…」
アレスジェネシスが肩を竦めて
「そんなに暇人じゃあない。テラフォーミングした火星の開発や、アイオーン・アーマーに関する事で忙しいのだが…」
桜井が微笑みながら
「それも分かっていますが…。合間で結構です。まずは…色んな女性と会って会話をしてみる事から始めてはどうでしょう」
アレスジェネシスが手を止めて
「何が望みだ? やけに私にそういう事を推すのはどうしてだ?」
桜井が笑みを止めて真剣な顔で
「貴方達、ソラリスを留める為です。貴方達は本当に恐ろしい。どこの権力にも依存しないで、どこの権力よりも強大だ。国家権力、宗教権力、経済権力、地球上にある全ての権力を集結させても貴方達には勝てない。それはゼウスヘパイトスも同じです」
アレスジェネシスが渋い顔をして首を傾げ
「それで、だから…何の問題がある。癒着する関係は、腐り落ちて悪臭を放つ。お互いに領分と区分を分けた関係こそ、上手くいくのだぞ」
桜井が真剣な顔で
「現在、日本にいるナノマシン技術者、ナノマシンエンジニアはどのくらいだと思われます?」
アレスジェネシスは笑み
「3000万人弱だ」
桜井が肯き
「ええ…次世代を担う若者の三人に一人が…ナノマシンエンジニアです。しかも次の政治を担う40代以下に至っては…二人に一人がです」
アレスジェネシスは淡々と
「問題ない。それがどうした?」
桜井が
「貴方達、アレスジェネシスやゼウスヘパイトスがシステムを広げた国々でも、急速に指数的にナノマシンエンジニアが増加しています。何れ…その全員が、貴方達が作り出したアーマーを持つでしょう」
アレスジェネシスは冷静に
「ああ…それがどうした?」
桜井が真剣な目で
「もし、貴方達が…地球に興味を失った瞬間…地球の人口の半分は…地球上から消失するでしょうね。貴方達が進める宇宙への道を歩みます」
アレスジェネシスは肯き
「それが目的だ。地球の人類を宇宙民にする。それが…私のやりたい事であり、やれる事だ」
桜井が頭を振り
「それは…人類の理想ですか?」
アレスジェネシスは苛立った顔をして
「理想? 桜井総理は、現実を見ない夢見がちな愚か者なのかね?」
桜井はアレスジェネシスの言い方に戸惑いつつも
「その、それに向かって邁進するなら、相当の信念があると…思いまして」
アレスジェネシスは呆れて頭を振り
「私に崇高な理想や、理念、夢なぞ、皆無だ。出来るからやった、やれたからやった。私からすればそれが可能なのに、相変わらずサル山の争いを続けている連中が、余りにも愚かに見えるよ。この世界にも期待したのだが…結局は同じサル山の連中が権力者であるのを知って絶望したさ」
桜井は納得しないような顔で
「では、ゼウスヘパイトスも…彼も同じようにしたのも、やれるからやった程度なのですね」
「その通りだ」
と、アレスジェネシスは即答した。
本来は、自分の生きた未来にさせない為にやった事と、何れは同じになるので、それを防ぐ為にもだ。だが、もう…導く必要はない。ゼウスヘパイトスは自身で別の形を形成していく。もう…ゼウスヘパイトスに干渉する必要は無い。見守りはするが…。
桜井はアレスジェネシスは見る。
その態度は、どこか威圧的だ。何か…隠している事がある。
それを告げないという事は…何かを進めているという事だ。
どう探れば…と考えていると
「私の次の手を探りたいのか?」
アレスジェネシスが見抜く。
フッと桜井は笑み
「ええ…ですが。その前に、アレスジェネシス氏には、この日本に根付いて欲しいです」
アレスジェネシスは皮肉な笑みで
「読めた…。つまり…日本との分かつ事が出来ない関連性が欲しいという事か…」
桜井は肯き
「その通りです。この地球にいる全員がアレスジェネシスの考えを理解できる訳ではないのです。ナノテクノロジーの頂点にいる貴方からすれば、原始的な思考でしょうが…血族との繋がりが欲しいのです」
アレスジェネシスが苛立ちの笑みで
「早い話が、家族を作って人質として欲しいって事だろう」
桜井が苛立ち
「違います。貴方達、ソラリスとの繋がりを作る為です」
アレスジェネシスは皿の料理を食べながら
「家族を作らせて、子供のを残す事で…人質にして従わせる。人類が使ってきた、最古からの支配手段だろう」
桜井は苛立ちを抱えたまま
「貴方は…人を信用していないんですね。とても冷静で合理的だ。判断に迷いがないかもしれません。でも、その実は…人を、他人を信用していない」
アレスジェネシスはそれを言われて、アロディアとルシエドの事を思い出す。
二人に言われた、人を信じていない、の言葉が過ぎり笑んでしまうも
「ふふ…まあ、信じているよ。領分を守ってのな」
桜井が悲しげな顔で
「貴方が奪われた未来の傷を、この世界で取り戻して癒やしませんか? 貴方の事を受け止めてくれる女性がいるはずですよ」
アレスジェネシスは呆れ溜息で
「私は現実主義者だ。あり得ない想定はしない。まあ…世の中の最悪の想定はあり得るからするがなぁ…」
フンと桜井が息を荒げた次に
「ヨーロッパや、アメリカから…貴方達のシステムを貰えるように手引きして欲しいと…再三に渡って受けています。それをお願いしたいのです」
話を変えた。
アレスジェネシスは真剣な目で
「構わない。だが…こちらのコントロール下には入って貰うぞ。ヨーロッパやアメリカの気質は信用出来ない。彼らは自分達の利益の為にどんな事でも利用するからなぁ…」
桜井が真剣な目で
「ゼウスヘパイトスは?」
アレスジェネシスは怪しく笑み
「問題ない。こちらの歩調に合わせるだろう。こちらが動けば、それなりに動く」
桜井が皮肉な笑みで
「お互いに理解し合っているんですね」
アレスジェネシスはフフ…と楽しげに笑み
「もう一人の自分のような息子だからなぁ…」
◇◆◇◆◇◆◇
アメリカのとあるレストランだ。
そこには、朝宮こと、ノアが祖父と共にレストランで食事をしている。
祖父なノアの生まれたロックフェラー家の総代である。
祖父が
「どうだ…最近?」
ノアが苦笑気味に
「色々と大変な事が多いかなぁ…」
祖父が苦しそうな顔をして
「ノアよ。事情は色々と聞いている。我々が長年に構築していった世界…今、現在…発展途上国とされた国々には、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスのシステムが…力が入り込んで、大いに発展した。僅か一年で…我々の都市を凌駕するシステムの世界がそこにあった」
ノアが悲しげに
「お爺様…」
祖父が悲しげな笑みで
「情けない。その国の為と思ってやった事は…結局は、自分達の欲望の為だった。それをアレスジェネシスとゼウスヘパイトスに思い知らされたよ。もう…この世界は…アメリカやヨーロッパ諸国の影響なぞ受けない。今後、彼ら二人が進めるテラフォーミング計画に賛同する者達が多く現れるだろう。その隙間へ入ることさえ…我々にはできない」
ノアが祖父に
「お爺様達のせいではありません。あんな存在が現れるなんて誰にも予測できなかったのですから…」
祖父はノアを見詰めて
「ノア…もう…私達を捨てて彼の元へ行きなさい。ゼウスヘパイトスと知り合いなのだろう?」
ノアが戸惑い気味に
「まあ、話し相手くらいには…。東トルクメニスタン共和国に行って通してくれるのは…私から本国や、その他の追随する国々の動きを聞いたりする為ですから…」
祖父は俯き気味に
「それでも…我々よりは…門戸を開いてくれている。このままアメリカやヨーロッパ、その他、先進諸国とされた国々は没落するだろう。今…アメリカでは発展した南米へ逃れる移民が多い。移民の流入によって維持されていた人口と国力が、数年の内に半分以下に落ち込むだろう。ヨーロッパも同じだ」
ノアが心配げに
「アメリカには世界中に構築した金融の」
祖父が塞ぐように
「その金融のシステムは崩壊した。新たなナノテクノロジーという力の前に無力だった。所詮、他人にお金を払って物品を得て横流しをして値をつり上げてお金を集めるだけのシステムだ。他人を利用してのし上がるだけの構造だった。それが…ナノテクノロジーによって完全に崩壊した。それしかできない連中は、この先…どうすればいいか?と悩んでしまっている」
ノアが苦しい顔で
「それでも…ゼウスヘパイトスに言えば…もしかしたら…」
祖父が頭を横に振り
「我々の考えなぞ、人類の悪性を歴史から散々学んだ彼らからすれば、野蛮なサルの思考なのだ」
ノアが苦しそうな顔で
「それでもお爺様達のような財団が生き残る権利くらいは…」
祖父が微笑み
「権利は、人だけが行使できる。組織には…行使されない。その考えを最たるに具現化しているのが、彼ら…アレスジェネシスとゼウスヘパイトスだ」
ノアが俯いてしまうと、祖父が優しく
「ノア…気にするな。何れどんな存在でも滅びる。永遠不変なぞ、この世に存在しないのだよ」
ノアが顔を上げて
「だったら、それは彼ら、アレスジェネシス達やゼウスヘパイトスにも言えるわ」
祖父が肯き
「それを最も理解しているのは、その彼らなのだ。何れ…自分達は必要とされなくなった場合を想定して動いてもいる。真におそるべき知性の者達よ」
ノアは何も言えなくなってしまう。
何故なら、自分達が必要とされなくなったら、どうするのか?とゼウスヘパイトスに問うた事があった。答えは…。
それは素晴らしい事だ。そうなったら…オレ達は宇宙へ旅立って自分達の国を作り、その国でも必要とされなくなったら、同じように旅立つまで…。
そう、そうやって宇宙を開発する永劫の旅をする気なのだ。
今、ここにいる人類達が、宇宙民になって必要としなくなる事を望んでいる。
そして、対等になり、同じく宇宙を開発する民になる事も望んでいる。
ノアは落ち込む。
地球という惑星に留まり、金を稼ぐ事や、権力を得ること、名誉を欲する事だけに執着していた自分達より遙かに崇高なのだ。
落ち込むノアに祖父が
「ノアよ。もう…他人の
ノアが祖父の顔を見詰めて
「ねぇ…お爺様…知っている? ゼウスヘパイトスには妻がいるのを…」
祖父は肯き
「ああ…」
ノアが真剣に
「そのヒト…妊娠したらしい。お腹には…ゼウスヘパイトスの子供がいるって」
祖父は驚きを向け
「そ、そうか…子供が作れるのか…。あのような存在なのに…」
ノアが
「そのお腹にいる子供はね。ゼウスヘパイトスの力…デウスマギウスを生まれながらに持っているって」
祖父がそれを聞いた瞬間に
「ノア…止めなさい。自分の身を犠牲にする必要はない」
ノアは微笑み
「私は、お爺様達を守りたい。この国の人達が好きだから…」
祖父は頭を振り
「バカな考えは止めて、未来に生きなさい。いいね」
ノアは返事をしなかった。
2020年のこの地球は…変貌してしまった。
アレスジェネシスというソラリスの存在が世界を席巻し、そして…その対としてゼウスヘパイトスを誕生させた。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスという国家を越えた統達によって、発展途上国だった国々にナノテクノロジーが提供され、未来の可能性に飢えていた発展途上国の国々は貪欲にそのテクノロジーを取り入れた。
たった一年だ。
それだけで、南米、東南アジア、中東、中央アジア、アフリカにあった国々は…未来都市となった。
今現在もナノテクノロジーを使い工業が、情報システムが、研究が発展して行く。
当然の結果であろう。
未来の完成形をアレスジェネシスは持っているのだから。
叡智こそ、一番に人類を発展させた。
宗教も、法律も、主義も、人類を一度も発展させた事は無い。
人類の発展には、叡智が絶対に必要なのだ。
その叡智を最大限に具現化させるナノテクノロジー、アレスジェネシスのアーベル式ナノマシン加工機と、デウスマギウス関連の技術によって人類は宇宙へ飛び出すだろう。
だが、そう…事は上手く行かないのが世の常である。
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