第28話 ロシア、ノースコリア地方地下基地


 刀真達は、ロシアの巨大輸送機Au-124で目的の場所に向かっていた。

 Au-124、アントノフの格納庫で刀真は、ロシアから渡された黒い軽装甲戦闘服に身を包み感触を確かめていると、隣にいる土門が

「ロシア共が渡した装備を信じて良いのか?」

 土門は、ガイアシステム人種が持つデウスエクスマキナを展開した白い装甲の戦闘服だった。それは、どことなくロボットに近い。

 刀真は

「一応、これにはどのように事態が進行しているか…知らせる機能がある。要らぬ心配をさせない為の処置だ」

 そこにエステリアが来る。

 エステリアは、デウスマギウス・ヴァナディースから展開される紅蓮の装甲スーツに身を包んでいる。

 それは土門と同じロボット系統の装甲服だ

「そんなの信じて良いの? 連中、問題をもみ消す為に純粋水爆を投下する事も予定しているのよ」

 刀真は、エステリアが言わんとしている事が分かる。

 つまり、頃合いを見て全てを消滅させるかもしれない。

 刀真は

「まあ、それでも…信じてみたい」

 土門はサングラスを押さえ皮肉気味に

「人間ってのは、裏切らないと思っていると裏切るような行動をする。己の利益と復讐されないなら、簡単に裏切る。特に権力のトップにいる連中は、そういう傾向にあるぞ」

 刀真は、それ以上言わない事にした。

 土門の言いたい事も分かるが…それでは、自分の心情を裏切るようで気に入らなかった。

 土門とエステリアは、やれやれと少し呆れる。


 友人とは、気持ちを理解して頷くだけが友人ではない。厳しい事も言い合えるのが友人である。

 ただの自分の気持ちを分かって欲しい相手が友人なら、機械にでも喋ってそれらしい意味の無い適当な言葉を貰えばいい。

 厳しい事も言い合えて、尚且つ、共にあれるのだから、刀真と土門やエステリアは友人であるのだ。

 お互いの嫌な部分も理解し合えているのだ。


 アントノフの格納庫のは、ファースト・エクソダスの民、今回に裏で糸を引いているオシリスの傍人…アラティアの力で作られた時空船が収納されている。

 アラティアは、自分の時空船を見上げていると刀真が来て

「なぁ…一つ、聞いて良いか?」

 アラティアに尋ねる。

「何でしょう」

 刀真は微妙な顔で

「傍人って、どういう関係なんだ?」

 アラティアは、ファースト・エクソダスの力、創造の黄金力ゴールドジェネスで作られた自分の時空船を見上げて

「私達、ファースト・エクソダスは、極端に…男性が少ない種族です。子孫を増やす事に関しては、女性同士で体を交わらせ、お互いに子供を作る事が出来ます」

 刀真は顔を少し引き攣らせる。

 つまり…百合的な方法で子孫が残せるという驚くべき種族なのだ。

 刀真は、驚き困惑しているとその顔をアラティアが見て微笑み

「貴方達からすれば、信じられないでしょうが…。文明、叡智の力が進めば、その方が効率が良いですし、どんな環境でも安定した力を持つ子孫を残せます」

「はぁ…」

としか刀真は答えられない。


 アラティアは遠くを見て

「ですが…この繁殖には限界があります。どうしても女性同士だと、近親的に遺伝が近くなりやすいのです。その限度は…三世代まで」

 土門が近付く、どうやら話を聞いてたらしく、当然のように

「競走馬と同じか? 競走馬も早い馬を作ろうとすると、どうしても近親的になる。定向進化ってヤツだ」

 アラティアは肯き

「その通りだと思います。私達はゴールドジェネスの力によって、空間から様々なモノを作り出せますから。その力を衰えさせる訳にはいかない」

 土門が

「確かに…生命の進化は、オスから始まるんじゃなくて、子を産み育むメスから始まるって説がある。強い子孫を残すには、いいオスってのはあまり意味が無い。強いメスがいるからこそ、子孫は強くなるっていうなぁ」

 そこに同じくエステリアが来て

「なにそれ、男女差別じゃない」

 土門が面倒な顔で

「説だよ。一つの説! つまり、金持ちの男は、血を受け継ぐ子が金持ちになるとは限らないと同じで、同じ優れた子を作るには、能力が高い良い女をゲットして、作る必要があるっていう身も蓋もない考えさ」

 エステリアがチィと舌打ちして

「最低、セクハラ発言だわ」

 土門が渋い顔をして

「悪かったよ」


 刀真は話が逸れたので

「とにかく、ファースト・エクソダスは、女性同士で子供を残せると、そして…それがどうしてオシリスの事を傍人と呼び、戻そうとする理由になるんだ?」

 アラティアが

「さっき言った通り、女性同士の子供達は近親的になりやすいので、それで…一定の数だけファースト・エクソダスの民の男性と子供を作ります。傍人というのは、私のいるオルファ…要するにファースト・エクソダスの女性のグループで、囲っている男性の事を言います」

 土門が微妙な顔で

「なんか…ライオンのハーレムみたいだな」

 アラティアが冷静に

「ライオンのハーレムと違うのは…オスが極端に少ない所です。ファースト・エクソダスの男女比は100対1です」


「え」とエステリアが額を抱え「ちょっと待って、100:1? 女性が100で、男性が1って…」


「はい」とアラティアが頷いた。


 土門が腕を組み

「あれかね。アンタ達の力、ゴールドジェネスは、女性を生みやすい特性があるのか?」


 アラティアが胸に手を当て

「力や叡智に関して男女差は皆無です。ですが…どうしてもゴールドジェネスといった強大な叡智の力を受け入れる適正は、女性の方が。男性のゴールドジェネスは、その力が大きく変異しますので」


 土門が顎を擦り

「ああ…何となく分かる。オレ等、ガイアシステム人種でも似たような傾向はあるからよ。

アレだ。女性は純粋に力を受け継ぐが、男は受け継いだ力を変異させやすい。

 それは自然界という惑星の中で暮らすには問題がないが、宇宙や別時空といった宇宙的時空的にはマズイ。

 何せ、守るエネルギーがなくなるのは死を意味するからなぁ…」


 刀真は渋い顔で

「つまり…野性的な地球環境では、男と女が同じくらいがいいが。

 それより外、宇宙とか時空とは、叡智の力、それがエネルギー体になったそれを扱うには、女性が多い方が有利って事だから女性が多く、男性が少ない比率になった。

 て…事は…つまり、オシリスってアラティアさん達のグループと子を作る為の…」


 アラティアは肯き

「地球で言うならハーレム、一夫多妻制のようなモノです」

 エステリアは納得しない顔で腕を組み

「で…どのくらいの人数で…一夫多妻なの…?」

 

 アラティアは

「だいたい、120から150人の女性達に、男性一人の割合です」


 土門が顔を引き攣らせて

「それ、羨ましくないレベルの割合だ…」

 刀真が渋い顔で

「何となく、居なくなる理由の方が…」


 アラティアは苦しい顔で

「その…どうしても逃亡する男性が…僅かに」


 エステリアは後頭部で腕を組み

「信じられない。それって男にとっては天国なんでしょう。逃げ出す理由がないわ」

 その言葉に刀真と土門は、無言だった。

 確かに下半身だけに脳みその、クソレイプ魔野郎だったら天国だろうが…並みの男ではメンタルが持たないだろう。

 

 そもそも、宇宙に出て時空を渡る程の存在になったファースト・エクソダス達の男にクソレイプ魔野郎がいるのが怪しい。

 そういうクソレイプ魔野郎が生まれる環境は、どうしても地球のような自然的な世界と人工的な的な世界が混じる矛盾が共存する世界に誕生しやすい。

 サル並みの男を産み出す環境がなければ誕生しない。

 叡智が力となったゴールドジェネスを持つ者達が、そのサル並みとは断じて思えない。

 サル並みだったら絶対に宇宙へ飛び出すのは不可能なのだ。

 出来たとしても、サル並みの愚かさで即死だろう。

 それ程までに宇宙という空間は、叡智と理性と冷静さを必要とする領域だ。

 それをガイアシステム人種である土門は良く分かっているからこそ、ファースト・エクソダス達の男には理性が強い者達しか…。


 話を戻しアラティアが

「私達、ファースト・エクソダスの女性が…気持ちを受け止める力がないばかりに…」

 卑下するとエステリアが胸を張り

「そんなの古今東西、男ってヤツは、身勝手でバカなのよ。逃げ出す男が悪いんだから、自分を下げないで。貴女達は間違っていない。そうでしょう、土門、刀真」

『ああ…』と刀真と土門は頷いて置く。

 

 アラティアは微笑み

「ありがとうございます。その…オシリスには、伯父がいます。その方の影響だと思います。大抵の方は、逃げても私のように探しに来ると、受け入れて戻って来てくれますが…。オシリスの伯父…アヌビス様は…」


 刀真は首を傾げ

「その、アヌビスって人は…どんな人なの?」


 アラティアは目を輝かせ

「私達、ファースト・エクソダスの氏族中でも最高にして最強位の力を持つ御方です。この時空、この宇宙と同等の宇宙を開闢できる程の力を持っています。私達の中でも王とよばれるレベルの力を持っていました。だからこそ、女性のオルファを三つも授かりました」


 刀真と土門は顔を引き攣らせる。

 三百人以上の女性達を…。

 地球で言うなら、モンゴル帝国を作ったチンギスハン級のハーレムだ。


 土門が

「つまり、そんだけ強い力をもっているなら、出来た子達にも」

 アラティアが肯き

「はい、それなりの力が授かりました。この地球と同じ大きさの惑星を作り変える程のです。ですが…ある日、自分の力をもっと高めたいとして…何処かへ…」

 エステリアがフッと皮肉な笑みで

「ああ…成る程、おバカな男の子の発想ね。憧れた人と同じになりたいから、自分もって、その程度の低いレベルの話でしょう」

 アラティアが

「オシリスも相当に強い力を持っていましたから…。憧れたのだと」

 土門が

「それがどうして、オレ達の世界に関わるんだ? 明らかにファースト・エクソダスの力の方が優れているように思えるが…」

 アラティアが

「そちらのMYという方は…高次元解釈で原子サイズのナノマシンを作り出したのでしょう。伯父のアヌビス様も高次元解釈を手にしていましたから…」

 刀真は

「成る程、憧れの人の近付く為に、同じ力に手を染めるか…。単純明快で分かり易い」

 土門が渋い顔の口への字をして

「面倒くせぇなぁ…そういうヤツほど、説得が難しい」

 エステリアが

「そんなの、アンタ達二人でぶっ飛ばして倒した後、縛ってアラティアさんが持って帰れば良いのよ。だって大切な人達を置き去りにして成す事に、意味なんてないんだから…」

 そう告げた言葉の後にエステリアに悲しみが見えた。


 土門が肩を竦めて

「とにかくだ。そのオシリスだっけ。見つけたら直ぐに捕まえてアラティアさんに渡すよ」

 アラティアはお辞儀して

「ありがとうございます」

 土門が

「まあ、何となくだけど。アラティアさんと、そのオシリスってヤツには、お互いに思い入れがあるんだろう」

 アラティアは、悲しげでありつつも、何処か嬉しげな顔で肯き

「幼い頃からの…馴染みでもありますから…」


 刀真はそれで、察する。

 男女には色んな関係があるからだ。


 そうして、四人を乗せたアントノフが目標から50キロの距離に来た。北半球、人の少ない北極側からアントノフは高高度から目標の10キロ先で刀真達を投下で下ろす予定だったが…。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 オシリスは目が覚める。そこはベッドである。

 地下基地なので、壁は簡素なコンクリートだが、床は暖かな木だ。

 そして、周囲には調度品が置かれている。

 無駄を良しとしない基地で、無駄が許されるのは部隊を指揮する士官クラス以上だけ。つまり、この基地の最高責任者の部屋のベッドで、オシリスは眠っていた。

 その隣には、この秘密地下基地を支配している部隊の女将、ヴォルグ大佐がいて、横向きにオシリスの方を向いて寝息を立てている。

 二人は、服を一切着ていない。

 オシリスには、どうしてヴォルグがこんな事をするのを理解している。

 地球を脱出していない、エクソダス前世紀の人類にとって男女の性的な交わりは、最も充足と幸福感を与える快楽である。

 男にとって、女を抱くというのは、何者にも代えがたい興奮と快楽がある。


 だが…それは、地球から脱出して宇宙を渡るエクソダスの男にとっては、大した快楽ではない。

 子孫の繁栄は、同じくエクソダスした女性達の役割なのだ。

 だが、ファースト・エクソダスの女性達だけで子孫を増やすと、どうしてもゴールドジェネスの力の向上が起こらない。

 故に、ゴールドジェネスの力の変異と増幅をする男達との繁殖が必要だ。

 だが、ファースト・エクソダス達の男達に強い繁殖の性質は存在しない。

 なぜなら、ゴールドジェネシスの力なら、適当な惑星に降り立ち、その星をテラフォーミングして、自分で新たな種を育てる事が出来るからだ。

 ゴールドジェネスの力でテラフォーミングした惑星から様々な種族を産み出し、その種族が知的存在になり宇宙に出て自ら惑星を開拓するのが何よりの楽しみで、それを見届けて、その星の創造主の役目を終えて次の惑星に移動し、同じ事を繰り返す。

 それがファースト・エクソダス達の男達の生き甲斐でもあり夢でもある。


 だが、ファースト・エクソダスの女性達は違う。

 彼女達の考えは、自分達の子孫達の繁栄こそが意義であると…。

 故に男達のやることは、所詮…児戯でしかないと…。


 ファースト・エクソダスの民は、男女比で極端に男が少ない。

 多数決で、何時も男の夢を断念させる。

 そして、ファースト・エクソダスの民の繁栄の為に…。

 それを良しとしない脱走者もいるが…捕縛されるのが常だ。


 オシリスの場合は、とある目的の為に原子サイズのナノマシンを作ったMYの力、高次元解釈を欲して、ここに、この世界の裏に隠れてヴォルグ達の元へ来た。

 ヴォルグ達の力によって何とかここまでこれたが…。

「アヌビスおじさん…」

 オシリスの優しい伯父であり、色んな事を教えてくれ、ファースト・エクソダス達の誰よりも強大なゴールドジェネスの力を持っていた伯父は、姿を消した。

 アヌビスは消える前に、オシリスの元へ来て。


”私は、次元を遙かに超えた存在に会いに行ってくる。暫しの別れだ…オシリス”

 

 と、いなくなる寸前にオシリスに告げて。

 その日から1000年が経過した。


 オシリスの望みは、アヌビスに会いたい。そして、願わくば、アヌビスと共にその、次元を遙かに超えた存在と会いたい。その為には…。


 オシリスは、起き上がり自分の手を見詰めて強く握り固めると、ヴォルグが起き上がり

「なんだ…まだ、元気じゃあないか。もっと楽しもうぞ…」

 オシリスをベッドに押し倒した。


 ヴォルグは、オシリスのファースト・エクソダスの力と、寡黙で真剣で知性的なオシリスに惚れ込んでいる。

 ヴォルグは、戦闘に関してのエキスパートだ。その為の強化ゲノム編集も受けている。

 戦う事しか出来ないヴォルグは、知性と強大な能力を持つオシリスを自分に繋ぎ止める為に、女としての快楽の武器しか方法を知らない。

 男は、何度も抱いた女に対して執着する。それで、オシリスを自分の隣に留めようとする。


 それがオシリスに功を奏しているかは…微妙だが。

 肌と肌を重ね合わせて、愛着を持たせる事は可能だ。

 そうして、自分の事を離すと寂しい思いにさせる為に…。


 ヴォルグの求めにオシリスは、面倒クサくなるも、拒否するとウルサいので、付き合う事にした次に、ゴールドジェネスの力の共振を感じた。


 ヴォルグを離して、ベッドから飛び起きて、部屋にある端末に手を置くと、ゴールドジェネスの力の端子が伸びて端末に接続される。

 ヴォルグが苛立ち気味に

「なんだ! こういう時に離れるなんて失礼にも程があるぞ!」

 怒るヴォルグにオシリスが

「基地から北に50キロの高高度に大型の機影があるぞ」

 ヴォルグは、直ぐにデスクにある電話の通話ボタンを押して

「警戒管制室、北に機影があるらしいぞ」


 地下基地の警戒管制室から

『ヴォルグ大佐、そんなはずはありません。レーダーや、ネットワーク反応、並びに衛星での警戒網に、そのような機影は一切ありません』


 ヴォルグがオシリスの背を見て

「だ、そうだが…」

 オシリスは、端末に接続したまま調査を続け

「なんという事だ。この基地のネットワークシステムのメイン権限がヴォルグから別に切り替わっている。その所為でレーダーや、ネットワーク反応、並びに衛星の監視が偽装されている」


 ヴォルグは青ざめる。

 そんな事を可能とするのは、ロシア軍中枢だけ

「やられた! 私達の目的が気付かれた!」

 ヴォルグは、急いで着替えながら

「警戒管制室、システムが乗っ取られた可能性がある。私はこれから、メインシステムの再起動を」

「今、ここで出来るぞ」

と、オシリスが告げる。

 ヴォルグは嬉しげな顔をする。

 オシリスが接続しているのは基地の端末だ。そこからオシリスの力を通じてメインフレームに接続しているのだ。

 ヴォルグは、オシリスに背中から抱き付き

「オシリス、お前は…凄い。やってくれ」

 オシリスは、端末を操作して再起動画面を出して

「基地の最高司令のパスワードが必要だ」

「ああ…」

と、ヴォルグはパスワードを入れる。

 そして、基地のシステムの再起動が掛かった。

 およそ、三分で完了する。


 ヴォルグは、オシリスに抱き付きながら

「なぁ…ずっと私の傍から離れないでくれ…」


 オシリスは、現状を進行させる必要があるので、虚偽の言葉を紡ぐ。

「分かった。傍にいる。望むまで…」

 ヴォルグは、その言葉を聞いて嬉しくなるも、オシリスが『望むまで…』という条件を加えた事にフッと皮肉に笑んでしまう。

 なんて、冷静で合理的なのだろう。

 そして、疼いてしまう。この人にお互いが分かつ事の出来ない愛を教えてあげたいと…。

 女の優しさなのだろうか? それとも傲慢なのだろうか?


 だが、今はこの異常事態を乗り越えないと行けない。

「オシリス、マシンダイナソー達の起動を。それと…」

 オシリスは肯き

「あの、テラフォーミング装置の完成を急ぐ。最悪、周辺をテラフォーミングして、巨大な100キロ級の戦闘システムに変えて対処する」

「頼んだ!」

と、ヴォルグは発令する為に司令室へ急いでいった。

 そして、回復した基地機能は、近付く刀真達のアントノフを捉えていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アントノフの格納庫にある窓から、外を見ると、地上は雪景色だった。

 それに土門は「うわ…」と顔を引き攣らせる。

 エステリアが

「寒いなんて、宇宙に適応したガイアシステム人種には関係ないでしょう」

 土門はサングラスを押さえて

「宇宙よか、様々な環境がある地球って方が厄介なんだよ」

 エステリアはフッとバカにした笑みで

「何、言ってんだか…」


 同じく傍にあるアラティアがハッとした顔をする。

 それに刀真が気付き

「どうしたんですか?」

 アラティアが刀真の顔を見て

「ロシア政府の軍中枢から、オシリスのいる基地に入って権限を奪って、私達の事を発見されないように、基地のシステムを操作していましたが…リンクが途絶えました」

 それを聞いて土門とエステリアに刀真は、青ざめ土門が怒声を張り

「操縦士、今すぐに格納庫を開けろ!」

 艦内通信で

『しかし、目的の場所には』

 土門が声を荒げ

「撃墜されたいのか!」

 刀真が顔を渋め

「クソ、もう…察知したのか!」

 エステリアが背部からデウスマギウス・ヴァナディースを展開、黄金のドレス装甲機体が出現してエステリアとドッキングした。

「マサエル! アンタもデウスマギス・スサノオを出しなさい!」

 刀真は嫌な顔をして

「そこまで」

 

 ブーブーブー 警報が格納庫内で鳴り響く。

 操縦士が

『前方より多数の機影を確認! なんだこれは…見た事がないぞ』

 土門が装甲の壁を叩き

「早く開けろ!」

 

 刀真達がいる格納の後部が下がり開く。

「行くぞ!」と土門が飛び出し、アラティアが自身の時空船に乗り出て、次にデウスマギウス・ヴァナディースのエステリアが、そして最後に刀真が出る。

 刀真は背面からアイオーンの結晶翼を広げる。

 前方にシールドを展開しつつ、正面を見ると、見た事もない翼龍モドキのロボット達の群れが迫っていた。


 土門はデウスエクスマキナを全展開する。

 それは、白き脚部のない四メータ前後の機神だ。

 それに土門は接続され、スカート状の脚部から推進のフレアを放つ。


 刀真達が乗って来たアントノフは急旋回して空域を離脱した瞬間、前面にいた翼龍ロボットモドキ達が顎門を開き、加速したエネルギー粒子弾を放つ。

 アラティアの時空船は、戦闘機のような形状になり加速。

 エステリアのデウスマギウス・ヴァナディースはドレスの脚部と背面の結晶翼から推進の火炎を放ち加速。

 土門と刀真もそれに続いた。


 無数に飛び交う光弾を避ける四人。

 そして、翼龍ロボットモドキ共が刀真達に襲い掛かる。

 全長は四メータ前後、光線弾頭を放つ顎門に超音波振動を乗せた牙で襲ってくる。

 それを避けて、土門のデウスエクスマキナの装甲の腕にある巨大砲身から攻撃を放ち、破壊する。

 エステリアは、前方にデウスマギウスの四対の腕を伸ばし空間断裂を作ると、亜光速で飛び回り襲って来た翼龍ロボットモドキを両断する。

 刀真は、アイオーンの状態でシステム・イザナギのドミネータープラスで空間を操作、巨大な空間断絶の圧力を発生させて、翼龍ロボットモドキ達を破壊する。


 四人はこれが、向かっている基地から飛んで来たモノであると分かっている。


 破壊されるロボット達の破片を見る。

 それは、モーターやピストンのような機械的な構造ではない。筋肉質である金属素材、恐らく人工アクチュエーター筋肉だろう。

 土門は

「すげーここまで出来るのか…」

 驚きを告げていると、エステリアが通信で

「ぼさっとしてない!」

 

 この一団を抜けなければ、目的の基地には到達出来ないのだから。



 一方、翼龍ロボットモドキのマシンダイナソーを発進させた基地では、戒厳令が発動されて、この基地に追いやられた強化ゲノム兵士達が武装の装甲を纏い雪原へ出て行く。

 強化ゲノム兵士達は、男性だけではない。女性も同じ人数でいる。

 強化ゲノム兵士は、男女でどのようなゲノム強化作用があるのか…調べる為にも半分づつの人数である。

 なので、女性だからと言ってか弱いではない。

 トップエリートとされる特殊部隊の隊員でさえ勝てない程に強靱なのだ。

 強化ゲノム兵士達は、雪原を飛び跳ねて移動する。

 その早さ、まるで雪原を飛び回る兎のようだ。

 人の走る速度ではない。


 彼ら強化ゲノム兵士達の纏っている装甲服も特殊だ。

 オシリスがMYのナノマシンを解析して、オシリス式のエネルギーナノマシンで構築された今の地球に存在しない装甲で出来ている。

 服のように柔らかく、ダイヤモンドのように強靱、当たった衝撃はRPG程度では吸収され、何より体温や身体代謝の状態を最適な温度と湿度に保つ。

 そして、力の倍増も行う。

 強化ゲノム兵士達は、更に強化された。

 そして、腕部にある攻撃変換式レーザーソード手甲にて、刀真達の迎撃に向かう。


 

 刀真達は、大方の翼龍式マシンダイナソー達を倒して地上へ降下する。

 空を飛んでいては、見つけてくださいと言っているようなモノだ。

 地上スレスレを飛んでレーダー検知を逃れる。


 土門を戦闘に右に刀真、左にエステリア、その間にアラティアと三角の陣形で飛翔して行くと、前方が当然、爆ぜた。

 同時に、周囲も爆ぜて周囲が完全にホワイトアウトした。

「クソ!」と土門が悪態を付いた次に、背中から強化ゲノム兵士達が飛び出て土門を襲撃する。

 だが、それに土門は反応して強化ゲノム兵士達を装甲の左腕で弾き飛ばす。

「見え透いた手だぜ」

と、告げた次に自分をデウスエクスマキナごと、縛る無数の線に覆われた。

「やろう!」


 刀真は立ち止まり、後ろに下がってアラティアを守ろうとするが

「きゃああああ」

 アラティアの時空船に幾つもの金属線が巻き付き、固定してしまう。

「アラティア」

と、刀真が助けようとした背後に強化ゲノム兵士達が出現、両手甲にある攻撃変換式レーザーソードを高エネルギー短剣にして刀真に襲い掛かるも、刀真は

「ドミネータープラス」

と、兵士達に向かって空間を爆ぜさせた衝撃波を浴びせて吹き飛ばした。


 その隙に、アラティアの乗った時空船は、強化ゲノム兵士達に捕縛、そして、周囲から大型のティラノサウルス型のマシンダイナソーが出現、それに強化ゲノム兵士達は、捕縛したアラティアの時空船を繋げて、ティラノサウルス型マシンダイナソー達が、アラティアを何処へ運搬してしまう。


「クソ!」と刀真は追跡しようとするも、雪原に隠れていた強化ゲノム兵士達が刀真を金属製のネットで包み動きを止める。

 そこにエステリアが来て

「バカ、アンタまで掴まったら仕方ないでしょう」

 デウスマギウス・ヴァナディースの腕の一つをプラズマカッターにして、刀真を捕縛ネットを切っていると、周囲から別のマシンダイナソー達が姿を現す。

 ティラノサウルス型から、ステゴサウルス型、トリケラトプス型と、攻撃タイプであるのは明白だ。


 土門がデウスエクスマキナの両肩のパックを開いて、そこにある無数のミサイルを放出させる。

 連続する爆発の円環が広がり、その中心にいる土門は、ミサイル達が避けた刀真とエステリアに近付き

「お前達は、アラティアを追え。ここはオレに任せろ」


 刀真は苦しい顔をするも、エステリアがデウスマギウス・ヴァナディースで刀真の腕を持ち

「分かった。土門に任せる。後で合流しましょう」

 土門はニヤリと笑み

「ああ…後でな」

 そう答えた次に、爆発を耐えたマシンダイナソーが三人に襲い掛かると、土門はデウスエクスマキナの腕砲身を発射して破壊する。

「早く行けーーー」

 次々と現れるマシンダイナソーへ、土門はデウスエクスマキナの両腕にある砲身から火を放ち破壊する。

 エステリアは刀真を連れて離れる。

 

 刀真が離れて行く土門を見ているとエステリアは

「アイツはガイアシステム人種での戦闘に特化した第六天ゼブルの隊長だったのよ。心配する必要はないわ」

 刀真は肯き

「分かった…」



 土門はデウスエクスマキナの砲身からエネルギー砲を放ってマシンダイナソーを破壊していると、それに隠れて強化ゲノム兵士が近付き、機神のデウスエクスマキナの胸部にいる土門に腕にある牙を突き立てようとしたが、土門は自分のいる部分の装甲を展開してロボット状の腕を伸ばし、その手から荷電粒子砲が発射される。

 ギリギリで強化ゲノム兵士は避ける。

 土門は、両手の荷電粒子砲とデウスエクスマキナの兵器達を使い攻撃すると、不意に攻撃が止まった。


 マシンダイナソーが一定の距離を取って止まる。


 土門は「何をするつもりだ?」と窺っていると、強化ゲノム兵士達がマシンダイナソーの隣に来て

「久しぶりだな…ガイアシステム人種、戦闘部隊、第六天ゼブル隊長…ドルグラルよ」


 土門はサングラスをあげて

「今は土門だ」


 喋った強化ゲノム兵士が顔を覆うバイザーを上げる。

 土門はそれを見て懐かしく呆れた笑みを向ける。

「ああ…二年前のロシアで…」

 そう彼女はヴォルグの副官だ。

「懐かしいなぁ…キサマ等に圧倒的な力で抑えられ…陵辱された気分だった」

 土門は渋い顔で

「制圧はしたが…クソ強姦魔野郎な事はしていない」

 副官の彼女はバイザーを下ろして

「あの時の屈辱を…倍返しにして晴らしてやる」

と、告げた後、マシンダイナソーが変形する。

 それは巨人型のパワードスーツだ。


「おいおい」と土門は戸惑いを告げる。


 マシンダイナソーは、強化ゲノム兵士の巨人型パワードスーツになり、強化ゲノム兵士達と合体する。

 十メートルサイズの巨人装甲ロボット兵士が、土門へ一斉に向かう。


 土門は項垂れ

「コイツだけは…生涯…使う事はないと思っていたが…」

 土門の本気が出る。

 土門と合体するデウスエクスマキナの機神が背面から巨大な船体を出現させる。


『何!』と巨人装甲ロボット兵士達はたじろぐ。


 土門が取り出した150メートルサイズの船体が分割され、巨大なデウスエクスマキナの機神になる。

 土門の最大にして最高だ。

 それと土門が接続され

「デウスエクスマキナ・アマツミカボシ…行くぜ」

と、操縦主の土門が告げると、戦艦サイズのデウスエクスマキナから暴虐なエネルギー光線が放たれ周囲を破壊する。

 一瞬にして数百メートルが灰燼、その破壊力は小規模の核兵器レベルだった。

 強化ゲノム兵士が乗る巨人装甲ロボットはそれに耐えたが、次の攻撃が続かない。

 土門は、ここで彼らの相手をする事に集中する。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 デウスマギウス・ヴァナディースのエステリアに連れられて刀真は、攫われたアラティアを追う。

 アラティアには、追跡用のマーカーが備わっているので、直ぐに場所を判明。

 アラティアはティラノ型マシンダイナソー達に運ばれ、地下から開いた通路に入った。

 その通路が閉じようとしていると、エステリアが

「閉じさせない!」

 デウスマギウス・ヴァナディースの二つの手に高重力の圧縮を作り、それを投擲した。

 超質量のエネルギーが閉じようとするゲートを破壊、そこから二人はアラティアを追う。


 地下通路を飛翔して進み、地下深くまで来ると、そこには巨大な数キロサイズの空間が広がっていた。

「ええ…」

と、エステリアはデウスマギウスを止める。

 刀真もその空間を見下ろし

「これは…」


 その空間の底部には、光輝く巨大な円柱の水槽が膨大な数も並んでいる。

 

 エステリアはその水槽を見て

「まさか…ナノマシン製造槽。そんな…上部が解放されている。製造槽にあるナノマシンが拡散してナノマシン汚染が」

「それが無いんだな…」

 一機のディアロスが来る。その重なる両手にはヴォルグがいた。

 二十メートルサイズの悪魔のデザインを備える騎士型ディアロスをヴォルグは完全に制御している。


 エステリアがヴォルグを見詰め

「どういう事…?」

 ヴォルグは自慢げに

「これは…我々が開発した新型のナノマシンさ。エネルギーで構築されたナノマシンは、製造槽から離れた瞬間、電磁エネルギーと光に変換される。全くの周囲を汚染しない画期的なナノマシンなのさ」


 エステリアがフッと皮肉に笑み

「ファースト・エクソダスの力を借りて…でしょう」


 ヴォルグは顔色を全く変えない。

「そうか…まあ、さっきのファースト・エクソダスの女を連れていたから…多分とは思っていたが…」


 エステリアが堂々と

「こんな事は直ぐに止めなさい。もし…露見した場合…ロシアはおろか、アンタ達だって」


 ヴォルグはフッと嘲笑い

「それがどうした! 私は…いや、私達、強化ゲノム兵士はお前達によって排斥された。我らの未来を勝ち取るには世界に戦いを挑まねば為らん。そして…勝つ!」

 ヴォルグを乗せたディアロスに、他の強奪された五機が現れて近付き、巨大なエネルギーフィールドを形成する。

 それに弾かれてエステリア達は下がる。

 

 ヴォルグは堂々と

「我らの未来の為に、キサマ等を倒す!」

 ヴォルグを乗せたディアロスを中心としてディアロス達が分解、集結して一機の巨大で歪なディアロスを形成する。

 それはもう…ディアロスとは呼べない代物だ。


 黒き千手観音の如きディアロスから生まれたそれにヴォルグが

「やれ! ルエヴェイト」

と、新たな存在であるルエヴェイトは、幾つもある腕から光線を発射する。

 それをエステリアは回避するが、光線が曲線の如く曲がり再び襲ってくる。


 エステリアはシールドを、刀真はドミネータープラスで防壁を張った。

 幾つもの止まない光線が二人を襲う。

 光線の攻撃を受けながらエステリアが、通信で刀真に

”刀真…アンタがアラティアを追いなさい”

”でも…”

”大丈夫、アンタのお姉さんを信じなさい”


 同じMYから力を受けた家族であると…。


”分かった。行く”

と、刀真が答えた次に

 エステリアは、デウスマギウス・ヴァナディースの脚部と背面の翼を開き、爆発の噴出をした。

 高エネルギー粒子の噴出爆発によって、光線の連続攻撃は吹き飛ばされ、ヴォルグはルエヴェイトに防御をさせた。

 

 その爆発に紛れて刀真は、アラティアを追う。


 ヴォルグは、ルエヴェイトで離れた刀真を追跡しようとしたが

「おっと、アタシがいるわよ」

と、デウスマギウス・ヴァナディースのエステリアが塞ぐ。


 ヴォルグはルエヴェイトの胸部の前に位置して浮かび

「そう…じゃあ、お前を倒して追うまで。MYの最高傑作デウスマギスが強いか…私達の兵器であるルエヴェイトが強いか…」

 

 エステリアがフッと笑み

「そんなの、アタシが勝つに決まっているじゃん」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アラティアは掴まって運ばれる。

 マシンダイナソーから、巨大な高速運搬カーゴモノレールに乗って、運ばれる。

「どこへ…行くのでしょう」

と、アラティアは様子を窺っていると、到着したのは巨大な円柱がある空間だった。

 その円柱の上部と下部は暗く、大凡、数キロサイズであるのが想像できる。

 その円柱を覆う外壁から飛び出し、円柱と外壁の間に浮かぶ。

 そう、その間の空間は無重力だ。


 浮かんでいると上から

「久しいなアラディア」

と、オシリスが降りて来る。

 アラディアの時空船の上部が開き、そこからアラディアが姿を見せて

「オシリス…」


 オシリスは、アラディアの少し上で浮かんで止まり

「皆は息災か?」

 アラディアが悲しげな顔をして

「帰りましょうオシリス」

 オシリスは黙る。

 アラディアはそれでも

「こんな事をして何になるのですか? この時空の地球の人達までに迷惑を掛けて…。我らエクソダスをした者達の盟約を忘れたのですか?」


 オシリスが眼を細めて

「自ら宇宙へ飛び出す者になるまで、一切、触れてはならない」

 アラディアが肯き

「そうです。エクソダスした我々の無用な接触は…文明の力を異常加速させ、滅びへ向かわせます」

 アラディアは説得を始める。

 オシリスは、静かにそれを見詰めていた。

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