第27話 ファーストエクソダス達


 刀真は項垂れる。モスクワ市内に来ていた。

 それは別にいい。

 だけど周囲を見て、再び項垂れる。

 周囲には、自分達に銃口を向けている警察官達、そして…警察の車に囲まれていた。


 刀真は、外にいて黒のランドクルーザーの運転席側の車体の壁に項垂れる。

 このランドクルーザーは、エステリアのデウスマギウス・ヴァナディースが変形していた。

 刀真の隣には、土門もいて

「どうする? 蹴散らすか?」


 エステリアが運転席の窓を開き

「別にいいわよ。どうせ、味方もいないし」


 三人は、ASDIDの秘密職員と接触する為にモスクワに来たのに、その秘密職員は、警察に捕まっていて、そして…その仲間として刀真達も警察に包囲されていた。

 

 余裕な刀真達に警察の一人が

「武器を捨てて投降しろ。包囲されているのが分からないのか!」


 土門が声を張った警察官を鋭く睨み、背中の空間収納から、デウスエクスマキナの片腕を伸ばすと、警察官達が響めく。

 こんな機能を持っているのは、人類から宇宙に適応進化したガイアシステム人種しかできない。


 つまり、自分達が持っている既存の質量兵器では、ガイアシステム人種には勝てない。

 更に緊張が警察官達を包む。

 刀真がその機甲腕を押して下げさせ

「止めろ。この人達は関係ない!」

 土門は鋭い目で

「どうせ、ロシア政府関係の人間だ。オレ達がどんな事を言っても無意味さ。だったら」

 エステリアが運転席から降りて

「同感。なら…突破した方がスムーズで良いわ」

 エステリアが変形したランドクルーザーから出た瞬間、黒のランドクルーザーが変形と色を変えて、黄金の三メートル半のデウスマギウスの装甲になる。

 巨大なスラスターの如き脚部と、腕部は二対の四つで、背面にはスラスターのような翼達が広がる。

 

 警察が

「抵抗するんだな! 発砲する」

と、発砲した瞬間、刀真がドミネータープラスを使い、空間を操作して飛んで来る銃弾のエネルギー移動をを止めて、その場に張り付けにした。

 空中に、3発の銃弾が凍り付いたように浮かんで止まっている。

 警察達は、銃弾を止めれた事に絶望の顔をしていると、刀真が

「待ってください。私達の話を聞いてください。私達は、貴方達を傷つけるつもりはありません」

と、告げるが警察官達の中にいる女性警察官が

「信じられないわ! 貴方達は、私達の国に圧力を行っている! 今度も侵略に来たんでしょう」

と、女性警察官が発砲する。

 エステリアは素早く自身のデウスマギウス・ヴァナディースと合体、土門が下げられた機甲腕を振り上げ、発砲した銃弾を叩き落とし、エステリアはスラスターの爆風で周囲を吹き飛ばそうと火炎のフレアが出そうになった瞬間

「待ってくれ」

と、止める人物がいた。老年の紳士だ。

 老年の紳士は、刀真達に近付き

「申し訳ない。どうやら、こちらの行き違いがあったようだ」

 老年の紳士の名は、ヴァルジール・ラートン、嘗てロシア大統領だった男であり、今はモスクワ市長になっている。

 ラートン市長が刀真達も下へ来て、帽子を取り胸に当て

「本当に申し訳ない。色々な行き違いがあって…こんな事になってしまった」

 土門が皮肉気味に

「行き違い? オレ達を犯罪者扱いして捕まえる算段だったんだろ」

 エステリアがフンと鼻息を荒げ

「いつの時代も、支配者は自分の都合の良いようにする。その為ならウソだって本当だと言い続ける程にね」

 ラートン市長は苦しそうな顔をして

「エステリア殿…。汝は…私達が許せないか?」

 エステリアは鋭い目をして

「ええ…晋太郎のお母さんを殺した連中に手を貸した国の連中だから…今すぐにでも、晋太郎の代わりに…なんて思うけど、父さんと晋太郎は主犯を殺した事で良しとしたから。それ以上は私も…でも、許せないとは思っているわ」

 ラートンは苦しそうな顔で

「私達は、君達の味方だ。今回の事を解決したい者達の一人でもある。信じて欲しい」

 土門が見下げるような顔で

「信じられる材料でもあるのか?」

 ラートンは肯き

「ああ…ある。主犯達が何処にいるか…判明している」


 土門は、デウスエクスマキナの腕をエステリアのデウスマギウス・ヴァナディースに伸ばして接触させて、接触通信をする。


”どうする? 信用に値するか?”


”どうだか…散々、裏切っているし、これも…罠かも”


”だが、情報は欲しい”


”それを知っているから、騙そうとしているんじゃない? ロシアはどういう国家か知っている?

 自分達が勝手に決めた条約を、相手の国に結ばせていないで、自分達がそれが条約だって言って、勝手な事をするのがロシア国家の気質よ。国のトップにいる連中なんてそういう国の気質が強い者達がなるのよ”


”だな。信用に値しない”

 

 土門とエステリアは攻撃を開始しようとしたが、刀真が

「分かった。話を聞こう」


 土門が「ちょっと、お前!」と叫び。

 エステリアが呆れて頭を抱え

「100%罠よ」


 刀真は

「それなら、食い破ればいいだろう。オレ達なら問題ない。それに…情報が欲しい」


 土門が鋭い目でサングラスを上げ

「それを知っていて罠に嵌めようとしているかも…」


 刀真は

「それでも人の善意くらいは信じたい」


 土門とエステリアは項垂れる。

 仕方ない。これが刀真なのだ。人を信じたい、こういう甘い部分があるから父アレスジェネシスのMYは、刀真を自分の後継にしたのだ。

 自分と正反対だからこそ、自分には出来なかった事をするのを期待していたからだ。


 土門が

「ヤバい事になったら、強引にでも周囲を破壊して脱出するからな」

 刀真が肯き

「ああ…分かっている」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 刀真達は、ラートンが助手席で、運転手に運転させる大型の乗用車で移動している。

 無論、掴まったASDIDの職員は、解放されたが…無事に…。

 それを考えているエステリアの右には、刀真と、刀真の右に土門が、三人して後部座席に座っている。

 大きめの車内なので、余裕で三人は並んで座れるので問題ない。

 土門は、車の外に流れる風景を見詰める。どうやら、市内を移動しているようだ。

 グルグルと同じ場所を回って移動して方向感覚を無くす古典的な方法は、全くの無意味だ。

 土門に繋がっているデウスエクスマキナが、正確に移動している場所を特定している。

 車内に閉じ込められるのだ。電磁波を遮断する装甲に包まれて、外部の観測から切り離そうとしても、土門にある空間波動共鳴探査が、日本にある軌道エレベーターからのニュートリノ波動を受け取り、位置の特定を行っている。

 それは、エステリアも刀真も同じだ。


 その位置探査によって土門は、向かっている場所を察する。

「おい…もしかして…」

と、土門が助手席に手を伸ばしラートンが座る座席を掴み

「モスクワ近郊にある核攻撃専用の地下避難施設へ向かっているのか!」

 ラートンは顔を向け

「そうだ。それ程に厳重な場所でなければ情報を提供できない」

 エステリアが鋭い目で

「まあ、良いわ。罠だったら、その地下避難施設の天井を破壊して脱出するだけよね。土門」

 土門は頷く。

 ラートンは苦しそうな顔をする。

 全く信用されていない。

 仕方ない事なのは分かっている。だが…

「分かった。好きにするといい」

と、ラートンは告げて前を向く。


 刀真は、二人の会話から、やはり自分の選択は間違っていたのか…と不安が過ぎった。


 そして、車両は、地下駐車場へ入ると、地下駐車場の奥、角に隠れる部分に車を駐車させ、助手席から降りると、壁に隠れている端末を取り出し、それに自分の右手を当てると、駐車した部分がエレベーターのように下がり始めた。

 そう、その核兵器用地下避難施設は極秘なのだ。


 モスクワの地下にある地下施設へ入ると車両は、大きな地下庫へ運ばれると、そこには数名の待ち構えている者達がいた。

 車両がその者達の傍に落ち着くと運転手が降りて

「ラートン市長」

と、先導をする。

 それにラートンと、待っていたラートンの付き添い達が続き

「こっちだ」

とその一人が呼び掛け。

刀真、土門、エステリアは続く。


 施設内に入るドアを潜り、通路を進む。

 施設内の設備は自動で、動いている。


 ラートン達がとある厳重なドアを開けて、そこへ刀真達が入る。

「んん…」

と、刀真は唸る。

 そこは巨大な格納庫だ。

 戦闘機が十数機も入れそうな、格納庫には戦闘機ではなく、奇妙な存在がある。

 全長は30メートル前後だろう。

 白く輝き、窓がない小型の飛行機のようでもあるが…。ジェットエンジンに必要な吸気口がない。その表面は滑らかだ。

 飛行機のようでもあるが、どことなくスペースシャトルのような雰囲気がある。


 土門が近付き

「なんだこれは…?」

と、そのスペースシャトルモドキに触れると、触れた部分が、脈動するように電子回路の模様を明滅させる。

「ええ…なんだ!」

と、驚き土門が手を離すと、そのスペースシャトルモドキの脇が開き

「不思議な感触がしましたか?」

 開いたドアから、一人の女性が姿を見せる。

 金髪で、どことなくアラブ系に近い顔立ち。纏っている服装は、ドレスのようだが…胸部と肩の部分は、鎧のようである。

 刀真も近づき

「あの…どちら様で…」

 金髪の女性は、お辞儀して

「初めまして、アラティアと申します」

 刀真の隣にエステリアも来て

「んん…不思議ね。金髪なのにどことなくアラブ系…。どこの国の出身なの」

 アラティアは微笑み

「私が産まれた所は、地球ではありませんので…」

 

 刀真、エステリア、土門がハッとする。

 地球でないとしたら…月だ。月には現在、土門と同じガイアシステム人種が月を開拓し、月の中央には巨大なコロニーが形成され、そこにガイアシステム人種達が生活を営んでいる。

 土門は苛立ち気味に

「まさか…アロディアみたいに、地球の連中に同情して…」

 アラティアは、ふふ…と笑み

「わたくしは、貴方様のようなガイアシステム人類とは違いますよ」

 

 え?という疑問が刀真とエステリアに土門へ訪れる。


 アラティアは、三人の前から動き、同じく巨大格納庫に置かれていた装甲車に近付き触れると、装甲車の全身に、アラティアが触れた右手から電子回路模様が広がって覆い尽くされ、その模様が明滅して数秒後に消えた。


 アラティアが

「立ち上がりなさい」

と、言葉にした次に、その電子回路模様が覆った装甲車が変形を始めた。

 それは、刀真と土門を空港で襲った二機のトランスフォーマーバリのロボットと同じだった。


「え…」と刀真は困惑して、土門とエステリアは目が点になる。

 ラートンが近付き

「驚いたかね」

 エステリアが怪しむ顔をして

「まさか…ナノマシンで…」

 土門が渋い顔をして

「いや、それにしても作り替えるのが早すぎる」

 

 刀真はドミネータープラスを使って、アラティアがロボットに作り替えた装甲車を探査すると

「同じだ。空港でオレ達を襲ったロボットと…」


 アラティアは変異させた装甲車ロボットを伴って刀真達に近付き

「どうぞ…触れて見てください。貴方達なら、これがなんなのか…分かるはずです」


 刀真と土門にエステリアは、ゆっくりと怪しむ感じで触れた。

 刀真のドミネータープラスと、土門のデウスエクスマキナ、エステリアのデウスマギウス・ヴァナディースが、触れたロボットを解析する。

 そうすると、何と…細胞サイズの何かのエネルギーを核にした集合体であると分かった。

 つまり、メタトロン極小機械群と似ているが、全くの別物なのだ。

 メタトロンは、ナノマシン技術で作られた極小の機械だ。

 これは…その極小単位、つまり、細胞サイズの核の部分が未知のエネルギーで、そのエネルギーが装甲車を構築していた金属をバラバラにして繋げてメタトロンのようにしているのだ。

 明らかに、この世界にあるナノマシン技術とは別系統だ。


 エステリアがアラティアを見詰めて

「貴女は…何者なの?」


 アラティアは自分の胸に手を置き

「私は…ファースト・エクソダス。貴殿達が、地球と呼ぶ星の現在から十万年前に、最初に、この星から旅立った知性体です」


 刀真は信じられないという顔で、土門がサングラスの奥にある瞳を輝かせ、アラティアに近付き

「是非、詳しく」

と、アラティアの両手を取った。

「ええ…」とアラティアは強引な土門の行動に戸惑い、土門の頭にエステリアが

「アンタ、セクハラだから、手を離せ」

と、キツく殴った。

 土門は前に仰け反り、アラティアから手を離して殴れた後頭部を押さえる。

 それを余所に刀真は、アラティアに近付き

「どうして、そんな存在が…ここに?」

 土門は後頭部を撫でながら

「もしかして…オレ等を襲撃したロボット共と…」

 アラティアは肯き

「そうです。貴方達を襲撃したロボット達と、そして…今回の起動兵器ディアロス達の強奪に関して、私達の者が…関わっています」

「なるほど…」

と、エステリアは納得した。


 アラティアは話を始める。

「今回の事で、今の地球の民に迷惑を掛けているのは、私達…ファースト・エクソダスの者です。彼の名は、オシリス。

 わたくし達、ファースト・エクソダスの中でも、時空を渡る者、異界渡りという、強大な力を持つ一派から生まれた人物です」


 アラティアを前に土門が挙手して

「じゃあ、そのなんだ…お、オシリス?だっけ…。なんでそいつがオレ達に問題を起こしているんだ?」


 アラティアは苦しそうな顔をして

「この今の地球に満ちているナノマシン達、その技術を手に入れる為です。MYという人物が作ったナノマシンは、高次元解釈という」


「待って!」とエステリアが止めた。

 そして、同じくこの格納庫内にいるラートン達を睨み

「悪いけど…」

 ラートンはフッと悲しげに笑み

「悪いが、私達にはさっぱり分からない。だからこそ…我々に接触してくれたファースト・エクソダスの彼女と引き合わせた。我々、ロシア政府の力では…問題を解決できないのは明白なのだよ」


 エステリアが

「だったら、アタシ達に解決を頼むなら…。アンタ等、ロシアで問題を起こしている者達の情報を先に提示しないさいよ」

と、その顔は鋭い。


 ラートンの後ろにいる護衛達が厳しい顔をする。

 エステリアに告げるという事は、アメリカのASDIDにバラす事になる。

 

 ラートンはフゥ…と息を吐き

「ノースコリア地方に展開している特殊作戦軍の一つ、第四十四師団…通称…ビュアリーヴォーグ(白狼)と呼ばれる特別任務を請け負う独立部隊だ」


 刀真が厳しい顔で

「ロシアの意向で動いているんだろう…」


 ラートンは苦しい顔で

「最初は…な。だが、暴走した。今のロシアは、ガイアシステム人種の管理下にある。ロシア全土の全ての資源、エネルギーをガイアシステム人種が握っている。始めはそれからロシアを解放する予定だった。だが…」


 土門がサングラスを押さえ皮肉気味に

「だが、それから外れ始めた。全く…人間なんてそういうモンさ。その独立部隊を指揮しているのは誰だ?」


 ラートンが厳しい顔で

「アレクサンドラ・ウレチェンコフ大佐だ。彼女は…ヴォルグと呼ばれている」


 土門がサングラスを外す。その眉間には何かで切られた傷跡があった。

「ああ…あの女か…」


 刀真は、額の傷跡を押さえる土門に

「知り合いか?」


 土門はサングラスを掛けて

「ああ…オレが…二年前の、第六天ゼブルに所属していた時にやり合った女軍人だ。確か…肉体を強化するゲノム編集を受けた」


 ラートンは肯き

「強化人間部隊の隊長だった。君達に敗北した後、ノースコリア地方に追いやって閉じ込めた」


 土門は額を抱える。

「成る程、敗残の兵士達が自分達の復活を掛けて反乱を起こした…」

 ラートンは肯き

「そういう事だ」


 刀真は

「じゃあ、その女性大佐以外にも…」


 ラートンは苦しい目をして

「そうだ。多くのゲノム編集によって強化兵士にされた男女達が、ノースコリア地方に集まってヴォルグ大佐に強力している」

 

 アラティアが

「それに、わたくし達、ファースト・エクソダスのオシリスも加わっています」


 刀真が頭を掻き上げ

「つまり、そのオシリスの目的であるMYのナノマシンの中核にある高次元解釈を欲している目的と、反乱を起こしたヴォルグ大佐達の思惑が一致している。そういう事なんだな」


 アラティアは肯き

「はい。オシリスは手にしたMYのナノマシンの高次元解釈がどのように作用するか…知りたいはずです。その実験の為の場所が欲しいはずです」


 エステリアが厳しい顔をして

「最悪、ロシアを手にしようとするテロリストまがいの連中と、手にした力を試したいっていう餓鬼みたいな野郎が、手を組んでいるって事は…」


 土門も肯き

「絶対に最悪な結末しかもたらさない」


 ラートンが

「そういう事だ。だから…頼む。止めて欲しい」

と、頭を下げる。


 土門がサングラスの付け根を押さえて

「悪いね。元ラートン大統領。オレ達、ガイアシステム人種もこの事態を内密にして収めるつもりだったが…。これはヤバい事態だ。地球連合に報告させて貰う」


「待ってくれ!」

とラートンの右にいた男性が声を張る。

 土門はその男を見詰め

「何だ? お前は…」

 男は背筋を正し

「ロシア政府の情報士官ヴィリジョフ・イバノビッチだ。頼む、君達だけで解決してくれ。確かに我々ロシアの失態なのは認める。だが…地球連合だけには報告を待ってくれ」


 エステリアが鋭い顔でヴィリジョフを睨み

「はぁ…お前、事態を分かっているの? じゃあ、もし…本当にロシアだけじゃあない。周辺国まで巻き込むような事態になったら、どう責任を取るのよ!」


「それは…」とヴィリジョフが黙ると、ラートンが

「もし、君達で解決できないなら、ロシアは、ヴォルグ大佐達がいる山岳地下基地に向かって地下貫通型水爆を投下する」


『な!』と刀真とエステリア、土門が驚きの声を漏らす。


 ラートンは淡々と

「我々の失態は、我々自身の破壊で解決させる。それがロシアのやり方だ」


 土門が皮肉な笑みで

「何もかも、跡形もなく消して、終わりとは…流石、雷帝の国…ロシア様だぜ」


 ラートンが鋭い目で

「我らロシアは、その始まり以来、そうして来た。これからも…ロシアが続く限りな」


 土門とエステリアは、苛立つ顔をしていると、刀真が

「分かった。何とかやってみる」

 土門が

「おい! マサエル!」

 刀真が

「土門、犠牲は無い方がいい。その方法があるならそれを取りたい」

 エステリアは呆れた顔で

「全く、アンタは…まあ良いわ。刀真の言う通りにするわ。でも…もし、最悪な事になったら、地球連合の介入を行うわよ」


 ラートンが鋭い目で

「それが先か、我らの水爆消滅が先か、それだけだ」


「あの…」とアラティアが「協力の方は…?」と事態が勝手に進んでいる場に問う。


 刀真はハッとして

「ああ…ごめんなさい。アラティアさんに協力するよ」


 アラティアは微笑み

「ありがとうございます」

と、お辞儀してくれた。


 こうして、ファースト・エクソダスのアラティアと、刀真にエステリアと土門の三人が組む事になった。



 同時刻、オシリスとヴォルグ大佐達は、とある地下工場のいた。

 そこは十メートルの巨大な円筒水槽がならぶ場所だった。

 その巨大な円筒水槽は、オシリスが解析したMYのナノマシンを元に、ファースト・エクソダスのエネルギー構築を合わせた。

 エネルギー型ナノマシンの培養水槽だ。

 その巨大培養水槽に伸びるケーブルが引き上げられて、十メートルの物体が出現する。

 それは鋼で出来た恐竜だった。

 マシンダイナソー(機竜)を前にヴォルグ達は歓声を上げる。

「これで我らの悲願が達成できるぞ!」

「バンザーイ。我らに栄光を」

「偉大なるロシアの復活だ!」

 ヴォルグ達、ゲノム編集強化兵士達は喜びを上げるも、その装置を生み出し作業をしているファースト・エクソダスのオシリスは冷淡である。

 それにヴォルグが近付き

「なんだ…嬉しくないのか?」

 オシリスは淡々と

「出来て当たり前だからなぁ…」

 ヴォルグはオシリスの腰を抱き

「喜べよ。そして、我らがこの国を正して、手に出来るのだぞ。そうなったら、理想国家を共に築こうじゃないか…。なぁ…オシリス」

 オシリスは暫し黙った後

「そうだな…面白いかもしれん」

 ヴォルグは甘えるようにオシリスに頬を寄せ、キスする。

「本当にお前は、固い男だ。お互いの隅々まで知り合った仲である私に隠し事なんて止めろ」

と、ヴォルグが告げ目付きが鋭くなる。

 オシリスは呆れた目をして

「そうか…知っているのか…」

 ヴォルグが、オシリスの腹に手を置き、力を込める。

 強化人間の膂力が伝わり

「アレは…なんだ?」

 オシリスは、正直に

「テラフォーミング装置さ。理想国家を作るためには必要だろう」

 ヴォルグはオシリスに密着して、首に息を吐きかけつつ

「私にも権限を寄越せよ」

 オシリスは肯き

「分かっている。契約だからな」

 ヴォルグは、満足げな怪しい女の顔をして

「ああ…やっぱりお前は最高だ。この後…私の部屋に来てくれ。この興奮をお互いに温め合って冷まそうじゃないか…」


 ヴォルグは、オシリスを完全に自分の支配下に置いている。

 そのつもりだが…。

 オシリスは…。


 生命にとって雌雄で交わるのは至上の喜びだ。

 だが、オシリスは、宇宙に出て平行時空を渡る程の力を持った知性体だ。

 それ程に強大な知性体にとって、雌雄の交わりは、大した快楽でもない。

 なぜなら、自身が創造主となって様々な生命を創成できるからだ。

 オシリスは、その典型だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る