第26話 エステリア

 エステリア


 刀真と土門は、モスクワから離れたウラジミール周辺の森の中にある屋敷にいた。

 外は吹雪いている。

 ロシアは冬のど真ん中だ。

 部屋にある暖炉の薪の炎が優しく部屋を温める。そこへ

「ご飯、出来たよ」

と、エステリアが後ろにロボット台車を連れて入る。

 ソファーに寝ていた土門は起き上がり

「待ってました!」

と、直ぐに向かい。

 窓の吹雪く夜を見ていた刀真も近付く。


 部屋にあったテーブルに料理が並ぶ。それはロシア料理だ。

 サーモンのサラダ、ペリメニとされるロシア風水餃子、魚と野菜を煮込んだ暖かいウハーのスープ、キエフ風カツレツ、具材が沢山はいったロシア風クレープのブリヌイ、その他、ロシア料理のコースに

「うめぇぇぇぇ」

と、土門は吼える。


 刀真も口にすると、気分が解れる。

 

 さっきまでトランスフォーマーのようなロボットと戦いを繰り広げて、神経が高ぶったままだったが、こうして美味しい料理を食べると、その緊張が直ぐに取れた。


 食事を共にするエステリアが

「やっぱり、美味しいモノは気持ちが安らぐわね」


 刀真が

「なぁ…どうして、オレ達が来る事がバレたんだ?」

 唐突な質問だった。


 土門はフォークを置いて

「おい、せっかくの飯時になって事を」

「飯時から聞くんだよ」

と、刀真は告げる。

「こういう時だからこそ、何か言われても怒る事を控える。だからなんだよ」


 刀真の言葉にエステリアは複雑な顔をして

「マサエル。残念だけど…内通者がいるわ」

 土門はフォークを取って無理矢理に口にカツレツを放り込む。

 その言葉が土門にとって予測済みだったからだ。


 刀真は、スープを口にしながら

「どの程度まで、バレている?」


 エステリアは、眉間を寄せて

「私達に協力してくれるロシア政府の関係者は、みんな…やられたわ」


 土門はカツレツを呑み込み

「いいじゃねぇか。ここには、あの御方、MYと同じデウスマギウスが二柱もいるんだ。この地球上で最高の戦力だろう」


 刀真はピロキシを手にして

「情報は重要だ。誰が味方で敵かって事が分からないと、悪戯に犠牲を生む」

 

 エステリアが

「情報に関しては、私達…アメリカの、アメリカ軍特別防衛統合本部…ASDIDが協力するから」


 刀真がピロキシを口にして黙る。

 土門が

「凄いだろう! ASDIDが力を貸してくれるんだぞ。御方の妻だったイヴァン氏が作った強力な組織だせ。一国の軍隊と同じ力を持っているんだぜ」


 刀真がピロキシを呑み込み

「現地の協力があってだろう」


 エステリアは渋い顔で

「一応、問題を起こしている者達は分かっているわ」


 刀真がエステリアを見詰めて

「誰だ? そいつ等で確定なのは間違いないんだろうな」


 エステリアは肯き

「だから、食事の後にしましょう。ここは安全よ。漏れていないから」


 土門が

「だから、お前…さっきから外だけを見ていたのは、そういう事だったからか? 自分達の行動がバレているから…」

 

 刀真は二人から視線を反らして

「当然だろう。空港で、明らかにオレ達を狙っていたんだからな」


 エステリアが

「そんなに殺気立たないで、本当に安全だから…。食事の時くらいは、ゆっくり楽しく食べましょう」


 土門が

「そうだから、な…落ち着けよ」


 刀真は俯き「分かったよ」と告げて、言葉をしまった。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 三人の食事が終わった後、エステリアは小箱をバックから取り出し、三人が食事したテーブルの上に置いて開き

「母さんから話があるから」

と、小箱から光が漏れて、それが小箱の上で立体映像を構築した。

 立体映像はエステリアと同じ金髪の五十代の女性だ。

 エステリアの母親、イヴァン・ソリニル・ヤマナカだ。

『こんにちは、刀真くん、土門くん』

と、イヴァンは微笑む。

 土門が

「お久しぶりですね。あれから一年ですか…」

 イヴァンは肯き

『ええ…二人がいなければ…大変な事になっていたわね』

 エステリアが眉間を寄せ

「父さんがいれば…もっと楽に片付けられたのね」

 イヴァンが少し悲しみを見せ

『ええ…本当にあの人は…どこに行ってしまったのかしらね…』

 土門が

「まあ、昔話は後にして…アメリカ軍特別防衛統合本部…ASDIDが協力してくれるなんて驚きですね。本来は、ロシアが片付ける問題でしょう。今回のディアロス強奪に関しては…」


 立体映像のイヴァンが何かを操作して

『これを見て』

 

 三人の正面に立体映像の画面が投影され、そこにディアロス強奪に関する一連の行動が映っていた。


 大陸型宇宙戦艦、レムリアとアトランティスのメインシステムに入り、手早くシステムを乗っ取り、ディアロスを強奪する手際は、見事である。まさに、そういう事になれたプロであるのは、間違いない。


 刀真が

「この強奪した者達の所在は?」

 イヴァンが渋い顔で

『ロシア政府は、頑なに関与を否定しているわ。でも、間違いなくロシア特殊作戦軍であるのは分かっているわ』

 土門が皮肉な顔で

「ロシアのSOFとは…」

 刀真が土門に

「知っているのか?」

 土門がコメカミを掻きながら

「まあ、オレのいた戦闘系ガイアシステム人種の部隊、第六天ゼブルとやりあった事がある」

 エステリアが

「二年前。父さんがいなくなった後、地上を制圧する為に派遣されたガイアシステム人種の軍隊の一つに土門はいたから…」

 刀真は微妙な顔で

「まあ、一応は…結果は分かっているが…。どんな感じだった?」

 土門は肩を竦め

「質量弾を使う骨董兵器で、オレ等、ガイアシステム人種でも戦闘特化のデウスエクスマキナを止められる筈がない。時間で制圧完了だよ。まあ、今は…ガイアシステム人種の技術が少しでも入るから、質量弾の兵器は少なくなっている筈だろうよ。その辺は…イヴァンさんが詳しいんじゃねぇ?」


 イヴァンは首を傾げ

『残念だけど、兵器への流用にガイアシステム人種の力は使われないように、管理されているわ。その筈だけど…彼らがレミリアとアトランティスに侵入したツールは、明らかに我々、MYの遺産と、ガイアシステム人種の力が、なければ作れないモノばかりよ』


 刀真が

「じゃあ、何処かで技術の流出が…」


 エステリアが

「それを私達ASDIDは、探したけど…見つからなかった」

 イヴァンが

『その変わり…この男が浮上したわ』

と、イヴァンが別の画像データを投影させる。


 そこには、黒髪でその髪に金髪の筋が混じり目付きが鋭い二十代後半の男性が映っている。

 土門が

「コイツにどんな関係が?」

 イヴァンが

『どうやら、今回のディアロス強奪に関しての技術提供をしたらしいわ』

 刀真は男を見詰めて

「誰ですか?」

 イヴァンとエステリアが眉間を寄せて

「刀真が知らないんじゃあ、本格的にお手上げね」

と、エステリアが腕を後頭部で組む。

 刀真は

「イヴァンさん達の方は?」

 イヴァンは首を横に振り

『全く知らないわ。夫のあの人の人間関係は大体は把握していたけど、その誰にもこの人物はいなかった』

 土門は顎を擦り

「ディアロスの強奪に協力できるって事は、つまり、あの御方…MYの関係者であるのは間違いないだろうが…」

 刀真が

「分からないぞ。家族にだって言えない秘密があるかもしれないし…」

 土門が悪戯気味に

「もしかして、隠し子だったりして」

 それに刀真、エステリア、イヴァンが

『無いな!』

と、三人は口を揃えて告げた。

 土門がつまらなそうに

「いいじゃん。そういうゲスな想像も必要だぞ」

 イヴァンが項垂れ

『夫が女にだらしない人だったら、どれ程…楽だったか…』

 エステリアが

「父さん、恋愛フラグ折りつつ、人間関係を上手くいかせる達人だったから」

 刀真は腕を組み

「あの人、MYは苛烈だ。ついてこれる他人の女なんていないぞ。唯一、真面に接してくれたのは、エステリアと、MYの妹に、MYの弟さんの嫁さんだけだぞ」

 土門が皮肉る顔で

「それはオレも分かっているよ。肉親か片手しかいなかった友人にしか心を開かなかったってね」

 イヴァンが

『誰も知らないとすると…最悪の想像は…』

 エステリアが

「まさか…父さんのコピー?」

 刀真が

「MYのクローンだとしても、それで世界全てのナノマシン加工システムと繋がって統括しているユグドラシル・システムを騙せるのか?」

 土門がサングラスを押さえ

「外部との接続を完全に遮断して、尚且つ…もしもの場合のバックアップ接続コードを知り、ナノマシン加工システムを動かせるレベルの演算システムを有しているなら…」

 エステリアは顎に右手を置き

「確かに…不可能では…ないかもしれないわ」

 土門が

「あの御方、MYが危惧していた自分のクローン案件か…」

 エステリアが考えて手を顎に置いたまま

「何らかで、ナノマシン加工システムを単独使用可にして、ガイアシステム人種が持つデウスエクスマキナを作り、それと融合、そして…そのデウスエクスマキナのシステムから、ディアロスのシステムを乗っ取る機器を作れば…」

 刀真は

「ディアロスの強奪は…不可能じゃあないってか…」

 イヴァンが

『そうだからこそ、ロシア政府は表向きは一部の部隊の暴走にしつつ、自分達が優位になれる事を生み出す。ディアロスには空間波動兵器システムが存在するわ。それを複製可能になれば…』

 エステリアが

「国家的な優位を掴めるか…」

 土門が

「そんな事をすれば周囲からタコ殴りにあう事は決定しているに…」

 エステリアが

「だからこそ、一部の部隊の暴走にして置きたいのよ。自分達は関係ありません。一部の暴走によって困ってますをアピールしつつ、欲しいモノは手に入れる。強かって事よ」

 刀真は額を抱え

「ディアロスの奪還、または破壊では済みそうもありませんね」

 イヴァンが

『とにかく、ロシア政府の協力はポーズでしかないから、出来る範囲で我々ASDIDが協力するわ。三人には引き続き、活動をお願いしたいわ』

 

 刀真は項垂れる。

 今ある平和を壊したい輩がいる事に苦悩がこみ上げるのであった。



 ロシア連邦ノースコリア地方の山脈地下の基地。そこは嘗て、ノースコリア地方を統治していた独裁国家が極秘裏に核兵器を研究していた秘密基地だった。

 だが、ディアロスと、MYのナノマシン加工システムによる兵器群の登場で、核兵器は骨董化して、このノースコリア地方にあった国家は、従来の北半球と、ナノマシン加工システムの南半球とのいざこざの時に、ロシアに強制併合され、その下のサウスコリアもロシアに併合されてしまい、コリア地方は現在もロシアの一部である。


 その地下基地で、イヴァンの情報にあった男が巨大な七色に輝く円形の巨大プールの上で、両手から黄金の電子回路を伸ばして、七色の水を操作していた。

 黒髪に金髪が混じる眼が鋭い男が、何かをしているそこへ、金髪でスラブ系の体格がガッチリとした女性が近付く。

「進捗はどうだ? オシリス」

 

 オシリスと呼ばれた黄金の電子回路を全身から伸ばし、七色の水を操作する男が、美女に振り向き

「順調だ。大佐…」

 大佐と呼ばれた美女は「ふ…」と鼻を鳴らして笑う。

 大佐と呼ばれる美女のコートネームは、ヴォルグである。

 ヴォルグは、オシリスに近付き

「で、後…どのくらいで、このシステムは動く?」

と、呟きながらオシリスの右肩に肘を乗せる。

 作業に集中しているオシリスは動けないのを分かっているからだ。


 オシリスは鋭い目を更に鋭くさせ

「後…三日後には、起動できる」


 ヴォルグは、オシリスの方に乗せた肘を滑らせオシリスの腰を抱き自分を寄せて

「嬉しいねぇ…。お前が来てくれたお陰で私の望みが叶いそうで堪らない」


 オシリスは淡々と

「そういう契約だからな」

 

 ヴォルグは顔をオシリスのうなじに寄せて、そのうなじにキスをして

「お前は、固いなぁ…。契約とか約束とか…。もっと楽しんだらどうだ?」


 オシリスは淡々と

「約束があるからこそ、目的を見失う事がないのだ。お前達は…何時も目的を見失う。目的がいつの間にか手段になり、気付いたら全く別の目的の為に行動している。結局の所…太古から変わらない権力の闘争を繰り返すだけ…」


 ヴォルグは、後ろからオシリスを抱き締め

「良いじゃないか…所詮、権力闘争なんて、愚かな男共の成れの果てだからなぁ…」

と、オシリスの体をまさぐる。


 オシリスは淡々と

「作業の邪魔になる」


 ヴォルグが

「基本的な作業なんて終わっているだろう。現在は、調整なんだろう」


 オシリスが

「何が目的だ?」

 ヴォルグが

「簡単だ。私は女で、お前は男だ。そういう事だ」


 


 ◇◆◇◆◇◆◇


 刀真は、寝室に来て吹雪く窓の外を見詰める。

 一人一人の個室を用意してくれて、ゆっくりと休むつもりだ。

 刀真は、腕に張り付けたペーパー端末をタッチして

「明日の天候は…」

 朝から雪が降るようだ。

「はぁ…」と刀真は溜息を吐く。

 明日の予定は、ロシア政府の協力は得られないとして、ASDIDの極秘職員と接触して、ロシア政府の政府データバンクに侵入、関係するデータを取得するという算段だ。

 まあ、吹雪いていたり、天候が悪いなら隠れる場所が多くなるから有利になるも…やはり、ロシアの寒さは、日本の寒さとは違うので上手く動けない事があるかもしれない。

 場当たり的な計画に、刀真は不安を感じていると、コンコンとドアがノックされる。

「わたしよ」

と、エステリアの声だ。

 刀真は、座っていた席から立ち上がりドアを開けると

「げ、なんだよ! その格好は…」

 エステリアはバスローブ姿に片手に飲み物を持っていた。

「入るわよ」

と、エステリアは強引に部屋に入り、テーブルにグラスと持って来たぶどうのお酒を置いた。

 刀真は渋い顔をして

「なんだよ。そのお酒は…」

 エステリアはベッドに腰掛け

「アンタと飲もうと思ってね。度数は6パーくらいだから、大丈夫よ」

 刀真は頭を抱え

「オレは、そんなにアルコールに強くない」

 エステリアは

「何を言っているのよ。アンタと私は、同じデウスマギウスの姉弟で、アンタはそれにアイオーンもくっついているのよ。この程度のアルコールなんて瞬時に分解されて、影響が出る事なんて無いわよ」

 刀真が渋い顔をして

「気分的な問題だ」

 エステリアがハッとして

「あんた、まさか…酔っ払うと女の子を襲っちゃうタイプ! あら、やだ…どうしよう」

 刀真は、テーブルにそばに来て

「からかう為に来たのか?」

 エステリアはフッと笑み

「冗談よ。弟と話がしたいだけよ。あたしとアンタは…同じMYの技術で転生した姉弟でしょう」

 刀真はエステリアの右前になる場所でイスに座り

「その、姉弟とか止めてくれ。オレには…自覚はない」

 エステリアは、栓を開けて

「アンタに自覚はなくても、私にはあるわ。あれから…もう三年か…。あの事件のお陰で、私やアンタは…デウスマギウスやアイオーンになった」


 

 2044年 1月15日。

 日本海、対馬から南に50キロの場所に新たなナノマシン加工システムの人工島が完成した。

 この人工島、アマハバは主にナノマシン加工システムを扱う技術の取得と、それに関する技術研究をする為に建造された、全長20キロの人工島だ。

 多くのナノマシン加工システムが導入され、ここで技術を学んだ者達は、MYの作った会社…というよりは、管理組織MYカンパニーの援助を受けてナノマシン加工システムを与えられる。

 ただし、それは許可された国だけに…。


 この当時、東アジアの世界地図は大きく様変わりしていた。

 2039年に勃発した北半球と南半球との小競り合いの戦争は、第三次世界大戦とも呼ばれて、長期化するに思えたが…。

 MYのナノマシン加工システムよりもたらされた圧倒的な兵器群、特にディアロスによって僅か、二週間で終息した。

 この時、戦いのボーダーラインとなった国、中国と韓国、北朝鮮は、混戦を究めてた。

 北朝鮮と韓国は、ロシアの侵攻に飲まれて吸収、中国はMYのナノマシン加工システムの技術がもたらした兵器群を持つ東南アジアや、中東の国々進攻を受けて、チベットやウィグル地区を飲まれて、その地区は、独立国家として立ち上がった。

 さらに、中国で内乱が勃発して香港から下も独立が勃発、中国は領土と多くの人口を独立によって失われて、2010年移行にあった勢いを消失してしまった。

 中国は、その責任を全てMYの所為だと訴えるも、誰も力を貸すことなく、世界から孤立を更に深めて、2040年には、世界中の国々から経済封鎖を受けてしまい。完全な孤立無援だった。

 

 衰退していく中国、その責任を問われる支配者だった中国共産党。

 そんな権力に取り憑かれた愚か者は、必ず愚行を行う。

 この世に一発逆転なんて存在しない。

 地道に、その実績を積み上げていくしかないのに、彼ら中国共産党は最悪な一手をした。

 それが、この新たに建造されたアマハバの占拠だった。

 中国共産党は、ナノマシン加工システムさえ手に入れば、嘗ての栄光を取り戻せると狂気に走り、ナノマシンの世界で骨董でしかない質量兵器の戦艦艦隊で攻め込み。多大な犠牲を払って上陸するも、直ぐに韓国から離れて人工島となった対馬沖アメリカ軍基地から、最新装備と、メタトロンによって作られた新型のメタトロン・フレーム軍団の攻撃を受けて、瀕死に陥った。


 そんな戦場の島をMYはアイオーン達と共に行動していた。

 MYは、島にあるナノマシン加工システムを封鎖する為に、動いていた。

 ナノマシン加工システムには致命的な欠陥がある。

 それは、その加工システムに使うナノマシンが人体に入ると、人体は瞬時に癌化して即死する。

 それは、ナノマシンという絶大なシステムに対するマイナスの側面だ。

 僅か、一滴のナノマシンの群体液が撒かれただけで、数千万の人間が癌化して死ぬのだ。

 大きな力には、相応のマイナスがあるという真理でもあり、それを防ぐ為に、ナノマシンを強力な結晶化にさせるプログラムも存在する。

 それによって、ナノマシン拡散による事故は防いで来たが…今回の戦闘で、ナノマシンが拡散する可能性が高いので、MYは、通信が途絶した一機一機に封印作業をしていた。

 

 護衛を共にしているアイオーン達は、周囲を警戒していると…。

「邪惡的權利」

と、叫んで骨董品のアサルトライフルで特攻してくる中国共産党兵士達がいた。

 数名のトーマのアイオーン達が前に来て、弾丸は、アイオーンの空間波動兵器の防護に弾かれ届かず、アイオーン達は空間波動の攻撃で、特攻してくる中国共産党兵士達を吹き飛ばし、兵士達は気絶し転がった。

 

 MYと同行していたサラカエルが

「ミツル様…作業は?」

 MYは端末を持って立ち上がり

「終わった。次に向かうぞ」

と、姿勢を正しつつ倒れた兵士達を見て

「彼ら何と言っていた?」

 サラカエルは微妙な顔で

「悪の権化だ、そうです」

 MYはフンと鼻で笑い

「悪の権化? どっちがだ? 自分達の愚かな権力者という悪の権化は無視しているのなぁ…」

 レミエルもいて

「仕方ない事です。それが正義と思い込んでいるのですから…」

 MYは背を向け

「恐ろしいな…独裁国家というのは…」

 サラカエルが

「独裁国家なぞ、もう…遙か太古の遺物なのですがねぇ…」


 MYは、レミエルとサラカエルのトーマのアイオーン達と共に、ナノマシン加工システムの封印作業を続けていると、大きな爆炎がとある箇所から上がる。

 それをMYは見て

「あのバカどもがーーーーー」

 そこは、間違いなく封印処置をしていないナノマシン加工システムがある場所だ。


 中国共産党兵士達は、ここが手に入らないとして、最悪をした。

 何時もそうだ。権力を握っている者は愚かな行動をする。

 ウソも百回つけば、本当になると勘違いしている。

 ウソを吐き続けても、結局はウソで、後でそのツケを支払わされるのだ。


 ナノマシン加工システムは、二メータ四方の立方体の台形のような形だ。簡単の破壊されないように、自身を構築する複合金属素材にはダイヤと同じ正方形結晶構造をさせて、更にエネルギーを与えられると強度がエネルギーに比例して増すという仕組みも組み込み、通常なら核弾頭の直撃にも余裕で耐えられる。

 だが、今回は、供給エネルギーも途絶され、その強度はダイヤより、高い程度だ。

 つまり、何らかの高性能火薬や数千度になる高温化学反応を使えば、穴が開く。

 そして、そこにはエステリアと、MYのもう一人の息子がいた。


 エステリアは、もう一人の息子、晋太郎と共に、ナノマシン加工システムの封印処置をしていた。

 無論、その護衛にはガブリエルとミカエルといったレーナのアイオーン達が付いていた。


 悲劇の数分前

「全く、晋太郎。アンタは逃げてもよかったのよ」

と、エステリア。

 優男の晋太郎が

「ぼくがいないと、エステリアの作業が捗らないだろう」

 二人と、アイオーン達は奔走していた。


 エステリアが

「全く、お互いにお父さん思いなんだから」

 晋太郎が

「そうだね」


 そして、エステリア達が次のナノマシン加工システムのドームに到着した次に、その入口に兵士達が陣取っていた。

 兵士達は、質量系のアサルトライフルの連射を発射する。

「全く」とエステリアは物陰に隠れて、同じく隣で隠れる晋太郎が

「相手は背水の陣か…」

 そこにガブリエルと数名のレーナのアイオーンが来て

「私達が突破口を開き」

と、告げた次に

「榮耀歸於祖國和偉大的共產黨」

 兵士が叫んで、巨大な爆発が起こった。

 

 ミカエルが「まさか!」と叫んだ次に、小さなキノコ雲が生じ、その爆煙に混じって破壊されたナノマシン加工システムからナノマシンが漏れ出した。

 勿論、ナノマシンにもロック機構はある。大気に触れた瞬間、硬化するが、それでも…防げない数ミリの量が存在する。

 ガブリエルが

「いけない!」

と、空間波動シールドにエステリアと晋太郎を包もうとしたが、晋太郎とエステリアが自分の手を見た瞬間、手が黒く癌化し始めた。


 アイオーン達は、ナノマシンによる浸食耐性があるので、問題ない。

 だが、エステリアと晋太郎は、普通の人間だ。故に、ナノマシン・ハザードが起こった。

 二人は全身が黒くなり倒れた。



 その頃、ここに見学に来ていた高校生の刀真と中学生の乙姫がいた。

 刀真は、必死に乙姫の肩を抱き、戦場となったここから逃げていた。

 その願いは、乙姫を助けたい一心だったが…強烈な爆風に襲われて刀真は、乙姫を守るように抱き締めて転がった。

「大丈夫か? 乙姫」

 乙姫が眼を開け

「お兄ちゃん…」

と、告げた次に、末端から黒くなり始めた。

 刀真は、青ざめ

「おい、乙姫(イツキ)。しっかりしろ!」

 刀真は、ナノマシン・ハザードで癌化する乙姫を両腕に抱えて歩き出す。だが、その汚染も刀真を襲っていた。

 全身が癌化を始め、激痛を刀真が襲うの、刀真は両腕に抱える乙姫を助ける為に、歩く。

 己の命を燃やして…。


 そこへ、デウスマギウスであるMYと、アイオーン達に遭遇する。

 MYはデウスマギウスである。全くナノマシン・ハザードの影響を受けない。

 白き人型装甲デウスマギウスのMYが刀真の元へ来て

「大丈夫か!」

 刀真が両腕に抱える乙姫をMYに差し出し

「頼むよ。コイツだけは…助けてくれ…」

と、黒くなる顔に涙を浮かべる。

 自分の命を顧みず、ただ、大切な者の為に命を燃やす尊い姿だった。

 MYは乙姫を受け取り

「分かった。お前も!」

と、告げた頃に、刀真は事切れ側にいたサラカエルとレミエルに抱き留められる。


 そこへ、エステリアと晋太郎を抱えて運ぶミカエルとガブリエル達が走ってきて

「ミツル様ーーー」


 MYは、事態の最悪かを理解した。



 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 アマハバは、廃棄される事になった。

 ナノマシン・ハザードを防ぐ為に、周囲全てをディアロスの空間波動シールドで覆い、そこへ、対消滅で消し去る反物質ミサイルを衛星軌道上から投擲して、対消滅にてナノマシン・ハザードをアマハバと共に消滅させた。

 アマハバに来ていた人達の九割は汚染から逃れる事は出来た。だが、ナノマシン・ハザードによって一割の者達は…癌化して死亡、その僅かな生き残りの四人。

 晋太郎、エステリア、刀真、乙姫は、MYの太平洋沖にある50キロ級のナノマシン研究施設人工島、アマノホコへ移送された。

 四人は、専用のナノマシン医療カプセルに入ったまま、アマノホコへ来て、その側でMYはイスに座って苦悩していた。


 人工知性DIセフィロスとアマノホコにある膨大なAI達を駆使して、四人を助ける術を探す。

 多少の微量のナノマシン汚染なら投薬で癌化を防ぎつつ暮らしていける事はある。

 だが、彼ら彼女達の汚染は酷いモノだった。


 今回の事件を起こした中国共産党に対して、世界は圧力を強めた。

 そして…世界中で中国共産党を排斥しようとする動きが始まった。

 つまり、恐ろしい生け贄の算段が世界で始まった。

 中国共産党を潰す為に、北半球諸国は、極秘裏に中国内に武器を流通させる。

 それによって内乱が勃発して、中国の各地で、新たな政府を建てようとするレジスタンスが広がった。

 後、数年後には、中国は数十以上の細かな国に大分裂するだろう。


 そんな事はMYに全く関係ない。

 晋太郎とエステリア、刀真と乙姫を助ける為に、方法を探す。

 そして…とある結論が出た。


 MYは苦悩する。

 そんな時、カプセルに浮かぶエステリアが「父さん」と、呼ぶ。


 MYは血が繋がらないが、娘であるエステリアのカプセルに来て、エステリアの顔が見えるガラスに顔を向け

「希…」

と、日本名を告げる。

 

 カプセルからエステリアが

「父さん…。最後まで父さんの役に立てなかった」

 MYは涙を零して

「そんなの、お前がそばにいてくれるだけで十分なんだよ…」

 MYは涙が止まらない。

 エステリアが黒くなる顔に笑みを出して

「わたしね。五歳の頃に父さんがいなくなって悲しかった。回りは父さんがいなくなった原因は、父さんが母さんと私にDVをしたから離婚したって言っていたけど…違うって知っていたよ。血が繋がっていない娘だって。

 でも…わたし、父さんのそばに居たかった。だから…三年たって父さんの所に来たの。

 迷惑だったのに、父さんは私を受け入れてくれた。嬉しかった。ありがとう」

 

 MYは泣き崩れてしまった。


 そこへ隣の晋太郎も意識を戻し

「お父さん」

と、カプセルの中から呼び掛ける。

 涙で顔が崩れているそれを晋太郎に見せ

「晋太郎…」

 晋太郎は微笑み

「ありがとう。父さん…生活が苦しくて母子家庭だった僕たちを拾ってくれて…本当に、嬉しかった。父親の愛情を沢山もらって、幸せだったよ。母さんにごめんねって伝えて置いて…」


 MYは涙する顔まま立ち上がり

「お前達を死なせない」


 MYはとある所へ連絡を入れる。

 エステリアの母親イヴァンと、実父のテッドへ

「という事だ。イヴァン、テッドくん」

 画面向こうからイヴァンとテッドは、エステリアが助かる方法を聞く。

 イヴァンは

「そう…それしかないのね…」

 テッドは

「エステリアは、なんと…」

 MYは鋭い顔で

「これから意思の確認をする。二人は…」

 イヴァンは微笑み涙を流しながら

「エステリアなら、絶対のそれを望むでしょうね。私は、エステリアの意思を尊重するわ」

 テッドは

「君の元へ来た時から、あの子は、君の娘だ。私は父親らしい事が出来なかった愚か者だ。任せる」


 次に、晋太郎の母親だ。

「あの子は、きっとそれを望むでしょう。お願いします」

と、頭を下げてくれた。


 そして、刀真と乙姫の両親達に説明する。

 MYが

「苦難の道かもしれません」

 刀真の父親が

「それでも、刀真が助かるなら…私は…お願いします」

 乙姫の両親も

『お願いします』



 最後の意識の確認。喋られない晋太郎とエステリア、刀真、乙姫へ、ナノマシンによる脳内直接回線を構築して尋ねる。

 エステリアは

「嬉しい。やっと本当のお父さんの子になれるのね」

 晋太郎は

「やってくれ、父さん」

 二人からは了承を得た。


 刀真と乙姫だが、脳内直接回線でも応答がなかった。

 恐らく、癌化の影響で髄神経が汚染され、脳内活動が停滞している。

 MYは、とある予感を刀真に抱いていた。

 刀真には自分にない。真っ当な光の眼をしていた。

「何て事だ…ここに来て、私の後継に出会うとは…」

 そう、刀真にその輝きを見た。

 自分のような狂気ではない。誰かを守りたいという真っ当な少年の純真が、未来を見せた。


 MYはあの三メートル半の三対の腕を持つ巨体装甲、機神のデウスマギウスになる。

 そして、四人のカプセルを掴み持ち、巨大な通路に出るとアイオーン達が列を成してお辞儀していた。

 デウスマギウス全開状態のMYが告げる。

「これより、四人をデウスマギウスにする転生化(サンサーラ)を行う。

 晋太郎とエステリアは、私の遺伝子との親和性と相性がいいので、私の遺伝子を添加しつつデウスマギウスにする。

 神城 刀真と、龍宮 乙姫は、脊髄神経が全て癌化している程に、晋太郎とエステリアより酷い、故に…アイオーン化しつつ、神城 刀真の遺伝子を元に、龍宮 乙姫の遺伝子を補間しつつアイオーン化するも、それでも補間が足りないだろう」

 サラカエルが

「では、その足りない部分を…」

 MYは鋭い三眼で

「システム・イザナギと、システム・イザナミを二人へ融合させる」

 アイオーン達に動揺が広がる。

 ガブリエルが

「つまり、ゾディファール・セフィールの複製を二人に持たせるという事ですか? そんな事が可能なのですか? ゾディファール・セフィールは、ミツル様以外、誰にも適合した事がありません」

 MYは巨体の胸を張り

「問題ない。神城 刀真は、必ずシステム・イザナギと適合する。それによって龍宮 乙姫のシステム・イザナミの適合を促す」

 レミエルが

「その根拠は?」

 MYはニヤリと笑み

「勘だ。私の直感が、この神城 刀真こそ、相応しいと告げている」



 そして、四人を助けるデウスマギウス化の施術が始まった。


 四体のデウスマギウス。

 黒の四対の腕を持つ、威圧的なデウスマギウス。

 黄金で、巨大なスラスターがあるドレスのようなデウスマギウス。

 青く幾つもの翼がある刃の如きデウスマギウス。

 赤く花弁のようなドレスのようなスラスターがあるデウスマギウス。


 そして、二機のゾディファール・セフィール、システム・イザナギと、システム・イザナミが運ばれる。

 システム・イザナギは六芒星の形だ。

 システム・イザナミは五芒星の形だ。

 二つとも、黄金に輝いている。全長十メートルの物体だ。


 巨大な百メートルサイズの球体型ナノマシンのシステムに、四人と融合するデウスマギウスと二機のシステムが入る。

 同時にMYもその中へ入ると、巨大球体ナノマシン・システムが幾つも黄金の回路を形成して、入ってくる者達を受け入れる。


 全てのコントロールはMYが握り、四人の巨大球体ナノマシンシステム内で、四人は新たな転生をした。


 そして、四人は、ベッドの上で眼を覚ました。

 デウスマギスとなる施術は成功だった。

 

 エステリアと晋太郎は両手を叩き合わせて

『やったーーーーー』

と、喜びを分かち合う。


 刀真は瞬きさせ、その隣にいる乙姫は周囲を伺う。

 そこへMYが来て

「良かった。目覚めてくれ」

と、安堵を四人に見せた。

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