第25話 マサエル


 アレスジェネシスは、ソラリスの創造の間で、アイオーンのコアを大量に製造する。

 三メータ半の巨体であるアレスジェネシスが入る巨大なナノマシン槽群を前に、アレスジェネシスが三対の巨腕を伸ばし、その巨腕全てに端子を接続さえ、アイオーン化用のナノマシン槽を調整していると、そこへ…ガブリエルが来る。


 ガブリエルは跪き

「天帝、世界中の金融システムを我らが掌握しました。これで…工業生産、金融、国家の全てが我らの手に…この後は?」


 アレスジェネシスは調節を続けながら

「ゼウスヘパイトスはどうだ?」


 ガブリエルが跪いたまま鋭い顔で

「どうやら、デウスエクスマキナを量産しているようです。それによって人類の進化を…」


 アレスジェネシスがフッと笑み

「全て予定通りか…」


 ガブリエルは肯き「はい」と答えた。


 アレスジェネシスは遠くを見ながら

「こうやって、アイオーンのコアと融合させる装置や、デウスマギウス、ネオデウスを作っているとマサエルを思い出す」


 ガブリエルが立ち上がり

「唯一、天帝が認めた後継なのでしょう?」


 アレスジェネシスは肯き

「そうだ。アイオーンを基板としてシステム・イザナギを組み込んでいる」


 ガブリエルが眼を細め

「もし、あの最終戦争が起こらなければ、天帝は我らを連れて、惑星開発の旅に出る筈でした。そして、地球圏はマサエルが…」


 アレスジェネシスは天井を見上げて

「運命だと思った。あのような苦労人の少年が現れた事…。あのぐらい甘い男の方が、次世代には相応しい。年齢も相応だったなぁ…」

 

 ガブリエルが眼を渋め

「確か…2044年のナノマシン・ハザードの時に…」


 アレスジェネシスは天井を見上げて過去を振り返り

「そう、たしか…日本名で神城 刀真で、17くらいだったなぁ」


 ガブリエルが

「最終戦争の時は、妹…双極機のレーナ・アイオーンと一緒に、どこかへ隠れていて…我々の招集には…」


 アレスジェネシスは優しい眼で

「あの刀真(マサエル)の事だ。妹の将来を考えて、我々に組みしなかった。分かり易い性格だ」


 ガブリエルが腕を組み

「わたくしには、天秤にかける理由が分かりません。私達、アイオーンは創造主である天帝、アレスジェネシスが絶対の父でございます」


 アレスジェネシスがガブリエルを横見して

「それは仕方ない。お前達がメルカバーの所有者、最上位アークエンジェルの証であるセイント・スティグマの始まり、システム・イザナギを持っているが為だ」


 ガブリエルがフッと笑み

「我ら、アークエンジェルの上位互換を持っているが故に許される横暴ですか?」


 アレスジェネシスが渋い顔をして

「その、システム・イザナギ自体…アレのエミュレーターに相当するかなぁ。どうしても、前の…アイオーン化する前の人としての意識が必要なのだよ」


 ガブリエルが肩を竦めて

「天帝が、前の世界を捨てたのも、マサエルがいるから…そんな理由もあるのですか?」


 アレスジェネシスは口角を上げて笑み

「そうだなぁ…。まあ、マサエルがいるなら、あの世界は…滅ぶ事はないだろう。それよりも今は…こっちの世界での事が優先だ」


 


 ◇◆◇◆◇◆◇


 2047年、2年前に地球全てを巻き込んだ最終戦争は、ネメシスがソラリスと共に消えた事で全てが終わった。

 世界は、勝利を手にしたと…興奮に包まれたが、三日後。ガイアシステム人種達が、一斉に最終戦争で使われた大陸艦の二機を占拠、それに備わっていた戦略兵器群ディアロスまでも手中にして、地球で戦いを起こしたAEU…アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国といった北半球勢力を制圧、ネメシスに勝った美酒は三日天下で終わる。


 そして、ガイアシステム人種を中心とした地球連合が形成され、地球の勢力図は完全に書き換わってしまった。


 だが、結局は日常は変わらない。

 ショートカットで元気そうな16歳の少女が、お隣で寝坊している義兄を起こしに行く。

 彼女の名は乙姫…三幡 乙姫だ。

「こんにちはーー おじさん! おばさん!」

と、玄関を駆け上がって同じマンションのお隣さんの刀真を起こしに行き

「いぇええええええ」

と、乙姫は、刀真のいるベッドへダイブする。

 乙姫は冬なので厚着だが、それでも飛び込んだ勢いが強く、ベッドにいる刀真にダメージが入る。

「ぐおおぃぃぃぃぃおおおぃ」

 不様な男の声がベッドの掛け布団から響く。


 乙姫は退いて

「はい、起きてお兄ちゃん!」


 刀真はぼさぼさの剣山のような頭を抱えて

「乙姫、もう少し…大人しい起こし方をしてくれないか?」


 乙姫は呆れで胸を張り

「時間内に起きないのが悪いんでしょう!」


 刀真は苛立った顔をした次に

「はいはい、起きますよ…」

と、ベッドから出て着替えを始める。


 上半身裸になった刀真に、乙姫が顔を赤くして

「レディーがいるのに、着替えるなんて最低!」

と、枕を投げた。

 それが背中に直撃した刀真が

「いるのが悪いんだろうが!」

 乙姫がチョッと頬を膨らませ

「知らない!」

と、部屋から出て行った。


 刀真は呆れて再び頭を掻く、このやり取りが今まで続いている。

 穏やかな日常がそこにあった。

 だが、2044年、あの秋の時から変わった事も多い。


 刀真はそんな日常を過ごしながら、何時ものように義理の妹、乙姫と共に、通学への道を進む。

 二人は東京都私立お台場東海岸学園へ行くバスに乗る。

 バスには、乙姫と同じ通学の女生徒達が乗っている。

 他にも、違う制服だが、チラホラと男女の学生達でバスは埋まっている。

 全員が、東海岸学園は中高大、三学部一貫校で、しかも他に多くの高校を抱えている海上に出来た全長10キロの超弩級マンモス学園だ。

 この超弩級マンモス学園を作ったのは、アレスジェネシスこと、ナノマシン技術と事業で世界を席巻した山中 充…MYが作ったのだ。

 乙姫は、東海岸女子高校へ。刀真は、東海岸ナノマシン技術産業大学へ。


 この東海岸学園の始まりは、MYがナノマシン加工システムを広める為に作った専門学校が始まりだった。

 その形質は今でも受け継がれていて、多くの二十代から七十代までの年齢層に関係なくナノマシンの技術を勉強する為に、ナノマシン技術専門訓練所であるナノマシン技術関連学校へ来ている。

 もう、MYは存在しないが…勉強は何時になっても機会があるという精神は継承されて学費は安く、低所得者には無料で学問の扉が開かれている。

 しかも入学試験はない。

 人種、立場、生まれに関係なく、膨大な数の人々がここへ通っている。

 


 刀真はアクビして

「全く、大学生には朝、早いって」

 隣にいる乙姫が

「良いじゃない。生活習慣が乱れて不健康にはなるよりわ」

 刀真は、耳に掛けてコメカミで固定しているAR(拡張現実)の端末に触れると、刀真の視界にしか見えない時計が刀真の前に投影され

「まだ、7時40分だぞ。10分で学園に到着するぞ…。高校は8時半からだろう。早くないか?」

 乙姫はべーと下を出して

「女子高生は、色々と朝にやることがあるの!」

 刀真は項垂れ

「さいでっか…」

 乙姫が刀真の頬を抓り

「それよりも、こんなに可愛い女の子が、毎朝、起こしに来るのよ! 何か言う事は!」

 刀真は面倒クサそうな顔で

「はいはい。何時もかわいい乙姫ちゃんに起こしてもらって、私は幸せです。ありがとうございます」

 半ば言わされているような感じで告げる。

 乙姫は胸を張り

「それでよし」

と、何時ものやり取りをしていると、バスが目的の学園前に到着した。



 刀真は、大学のとある学部の研究室に入る。

 そこは…古代未明遺物学部。大学でも小さな学部の一つで、研究室のドアを潜った次に

「おはよう、刀真くん」

 同じ学部で研究して学んでいる一つ上の21歳の女性、浅見が微笑み。

 刀真も同じく

「おはようございます。浅見さん」

 浅見は刀真に近づき

「何時も早いわよね。朝にやる事がなければ、何時も刀真くんが一番だもんね」

 刀真は首を傾げ

「まあ、起こしてくる厄介な妹がいるので…」

 浅見は微笑み

「あの可愛い子よね。確か…乙姫ちゃんだったかしら…」

 刀真は、自分のデスクに行きながら

「何時もうるさいですよ」

 浅見は肩を竦めて

「慕われているのよ。女の子だもん。好きな人の面倒を見たいっていう気持ちが強いのよ」

 刀真は視線を横にして浅見から反らして

「それ、以外も…ありますがね」

 刀真には、別の多い当たる節がある。

 システム・イザナギ。システム・イザナミ。

 双極のシステムとして…。

 刀真が俯くと

「よーーー 刀クン! 元気ないじゃんか!」

と、刀真の頭に腕を載せる男がいる。

 金髪、サングラスのいかにも不良っぽい男。同じ研究室の御堂・ディラン・土門だ

 

 刀真が苛立ち気味に腕を退けて

「何だよ! クソ土門!」

 土門は嬉しそうなサングラスの笑みで

「やっと元気が出たか! 辛気くさい顔をしていると、一日が無駄に過ぎるぞ!」

 テンション高い。

 

 刀真は項垂れ

「誰にでも考えてみたい日があるんだよ」

 土門は肩を竦めて

「ヘタな考え休むに似たり、お前は…悩むようなタマじゃあないだろう。あ! そうか…あのお前の将来の嫁さんの乙姫ちゃんとケンカしたんだなぁ!」

「違うわーーーー」

と、刀真は叫んで否定した。

 土門が刀真を指さし

「いぇぇぇぇぇいーーー 元気でた!」

 土門の変なペースに飲まれて刀真は余計に頭を抱えていると。

「朝から、元気だな」

と、ドアからこの研究室の教授、アルベルト・山中が入ってくる。

 

 三人が

「おはようございます」と浅見が

「おはようございます。教授」と刀真が

「元気です! 教授」と土門が

 三人の挨拶がある。


 アルベルトは肯き

「おはよう。みんな、早速だが…調べて欲しい事がある。手伝ってくれないか?」

と、みんなで研究が始まった。


 刀真の所属研究室は、古代の時代に存在する遺跡に関する研究をしている。

 この世界に3つある全長15万キロの軌道エレベーターの最上部には、地球全土へ量子通信リンクを行う共振用の電波が放たれているのと、地球の表面に内部地下数百キロまでの地殻を探査するニュートリノ波動レーダーが設置されている。

 そのニュートリノ波動レーダーが地表から地下数キロを探査すると、地下に遺跡のような反応を検出する。

 大方の遺跡は、今まで発見された事実通りの遺跡が多い。

 発掘作業を行う場合もあるし、予算がないとか、必要がない場合は放置される。

 だが、その地下に眠る遺跡の中には、明らかに史実とは異なる遺跡が存在している。

 その割合、史実通りが7割、明らかにおかしいのは3割と多い。

 この三割に関して、研究を行うのが、刀真がいる古代未明遺跡学部だ。

 世界で、僅かしない少数の学部である。


 刀真達は、軌道エレベーターからもたらされた。分類不明の探査画像を見る。

 それは上から見た地下投影図だ。

 それが映るペーパー端末を、四人は見詰めて

「これは…自然現象としては不自然です」

と、浅見が告げる。

「アレだよ。これは太古の宇宙人が遺した遺跡だ! 見ろ! 飛行場みたいな部分があるぞ!」

と、土門が興奮する。

「どうかなぁ…。祭典を行う為の広場って可能性も高いぞ」

と、冷静に刀真が告げる。

 アルベルトが

「これと似た。区画がしっかりと分けられた遺跡に近いモノは…太平洋沖の海底にあるモノと、インドの地中にあるモノだ」

 浅見が顎に手を当て

「まるで、都市計画のようにしっかりと区分けされている。アメリカのニューヨークのセントラルパーク周辺のようですね」

 刀真が

「でも…さあ、遺跡の範囲は、直径200メートルサイズだぞ。そのぐらいだったら、紐と木の棒さえあれば、測量して作るのは簡単だぞ」

 土門が手を上げ

「あれだぜ、超古代文明の遺跡だぞ!」

 刀真が

「もっと冷静な分析をしろ! 土門!」

 浅見が

「教授、発掘調査の申請は?」

 アルベルトが

「ロシアの北シベリア奥地なので…難しいそうだ」

 浅見が冷静に

「私は、発掘調査をするべきです。こういう遺跡は…探査レーダーの結果では…判明しませんから」

 刀真が渋い顔をして

「どうして…そんなに発掘許可が出ないのですか? 分かっているなら価値はあるはず…」

 土門が「発掘させたくないのさ」と皮肉気味に

「要するに、今までの学説から外れた存在を認めると、自分のオマンマの食い上げになる。存外、人ってのは…事実より真実より、自分が食えるか食えないかしかで判断してないぜ」

 浅見が渋い顔で

「教授…教授はガイヤシステム人種なんですよね。その権限で…」

 アルベルトは首を横に振り

「確かに、私は次元収納装甲機(デウスエクスマキナ)と融合したシステム人、ガイアシステム人種だ。だが、ガイアシステム人種達は、強権を振るうつもりはない。それは…愚かな最終戦争を起こした愚者と一緒になるとして、控えている」

 発掘調査が降りない状況に、四人の空気が重くなる。

 そこへチャイムが鳴る。

 浅見は右腕の手首辺りに張ったシール端末の時間を見て

「ああ…すいません。講義が…」

 アルベルトが「行きなさい」と微笑む。

「はい。では…また、後で…」

と、浅見は自分の単位である講義へ行く。


 部屋には、刀真、土門、アルベルトの三人が残り、アルベルトが

「では…コレの検討はここまでにして…」

と、刀真を見詰めて

「話を聞いて貰って言いかね? マサエルくん」

 刀真は、自分の別名を告げられて渋い顔をするも、肯き

「聞くだけなら…」

 そこへ土門が左肩に肘を乗せ

「お前…本当に固いなぁ…。良いじゃん。どうせ…バックアップにオレが同行するんだ。問題ない」

 刀真は鋭い顔をして土門を見詰め

「お前が、教授と同じガイアシステム人種とは思えない」

 土門はニヤリと笑みながら

「秘密にしろよ。女にモテなくなるからよ」

 アルベルトが首を右に傾げ

「こんな性格だが…土門は…ガイアシステム人種の中でも戦闘に長けた守護者(スプリガン)だ。毎回だが…信用はしてくれ」

 刀真は「ふぅ…」と溜息を漏らし

「話をお願いします」

 アルベルトは「分かった」と肯き指を鳴らすと、研究室の窓の全てにカーテンが掛かり、その後ろに装甲のシャッターが上から降りて外部との接触を断つ。

 無論、研究室のドアは変わっていないが…内部で同じ装甲のシャッターが降りて、部屋が真っ暗になると、研究室内の四方から立体映像用のレーザーが飛び出し、そのレーザーが交差して極小の点になり、それが集まって立体映像を形成する。

 アルベルトが腕を組むと、背後から収納空間に入っていたデウスエクスマキナの装甲機が出現し、その腕の一つが立体映像の触れる。

「これは…ガイアシステム人種、地球圏監視委員会からの要望だ」

 立体映像が、宇宙空間になり、地球の北極圏の遙か上に浮かぶ、大陸艦を映す。

 アルベルトが告げる。

「三日前…南極と北極の宇宙域に浮かぶ二艦の大陸艦、レムリアとアトランティスの二つより、ディアロスが三機、計六機が奪われた」

 土門が

「どういう事だ? ディアロスは…大陸艦のシステムと連結している。大陸艦のシステムと繋がっている事で、膨大な演算と、空間波動を介した受信機ジェネレーター。ストレイブによって動いている筈だ。奪われるなんて不可能だし、リンクを途絶した瞬間、構築素材のメタトロンがバラバラになる」

 アルベルトが肯き

「その通りだ。だが…どういう方法なのかは分からないが…現存したまま6機が強奪された」

 刀真が

「もしかして、レムリアとアトランティスのメインシステムにハッキングをされて…」

 アルベルトが首を横に振り

「二つともハッキングされていなかった。なのに、6機も強奪された」

 土門が腕を組み鋭い顔をして

「腑に落ちねぇ…。まさか、裏切り者…あの女、アロディアが…」

 アルベルトが首を横に振り

「残念だが違う。奪った者達の所属は判明している。ロシア軍の特別任務旅団である事が分かっている」

 刀真が渋い顔をして

「その…物騒な名前ですね。明らかにヤバい匂いが…」

 土門が

「ロシアを管理している連中は何をやっている! マトモにコントロールも出来ないのか?」

 アルベルトが

「仕方ない事だ。かつて、第二次世界大戦後の日本のように国や経済の枠組みを破壊する事はしなかった。そのまま、我々ガイアシステム人種達がが監視管理者として入っただけで、内部では未だに燻っている火種を全て消火するのはムリがあるのだ」

 刀真が腕を組み

「奪った動機は分かります。ロシアに優位性をもたらす為に…」

 土門がサングラスを押さえ

「核弾頭が骨董になった時代で、一番の抑止力兵器となるのは、MYが作り出したメタトロン・フレームか、その進化形で自動兵器のディアロスのみ。昔の偉大なロシアなんて幻想を追いかけている連中には、喉から手が出る程に欲しいわなぁ…。だが、使えるのか?」

 アルベルトが

「盗まれたという事は、使えるという事だ。どうやって盗んだか…不明だがね」

 刀真は真剣な顔で

「つまり、その盗まれたディアロスの6機を…」

 アルベルトは肯き

「奪還、または…破壊だ」

 土門がサングラスの付け根を上げ

「ロシアの特別任務師団って事は…ロシア政府が主導なのか?」

 アルベルトは渋い顔で

「ロシア政府は、一部の暴走した者達による犯行だとして、関係ないと…」

 土門は皮肉な顔をして

「ウソくせぇなぁ…」

 刀真が

「奪われたディアロス6機の所在は?」

 アルベルドが斜めに首を傾げ

「ロシア国内に反応があるが…途切れ途切れで検出している。恐らく、移動しているのでは?と思われる」

 刀真が眉間を寄せて

「その仕事…自分でなければ、ならないんですか?」

 アルベルドが真っ直ぐな眼で

「我々、地球圏監視委員会が動いてもいいが。そうなると…かなりの権力の発動になる。ただでさえ、まだ最終戦争の爪痕が残っているのだ。ここで、我々ガイアシステム人種が動くと、再びその戦争の再開となり、地球圏は…完全に国家達の解体をして、ガイアシステム人種の統治下に入る。我々ガイアシステム人種はそれが良しとは思っていないが…そうならざる得ないとなれば…覚悟をしないといけない」

 刀真が俯き

「もっと悲惨な事が…」

 土門が

「最終戦争は、二千万人の犠牲で終わったが…。再開となると…数十億人が犠牲になるだろうよ。90億いる地球人口の内、四分の一、22億の人命が消えるかもな」

 刀真が押し黙ると、土門が

「神坂 刀真。いや、マサエルよ。お前は、MYの後継だ」

 刀真が鋭く

「成りたくてなった訳じゃあない。偶然が重なって、それで…偶々で」

 土門が同じく鋭く

「あの人、MYが偶然でなんて事で、お前をMYの、デウスマギウスになりネメシスとなったあの御方が、後継としてその力と権限、持っている全ての技術と能力を与える事なんて絶対に無い。お前に、それが出来る可能性を感じたから、あの御方はお前を選んだ」

 刀真が土門を睨むように見詰め

「なんだよ! まるで、MYを知っているような口ぶりじゃないか!」

「おお」と土門は肯き

「オレは…あの御方が作ったアイオーンの中でも最上位の七名の一人、ラグエルと一緒に過ごした事があってなぁ…。それで会った事が何度もある。そんな、オレだから思う。あの御方は、狂気と畏怖を纏っている。故に恐れられたが…信望もされた。世を潰して作り直す狂王だった。だからこそ、後継には自分にはない者を選んだ。オレ達ガイアシステム人種達が、月のコロニー都市、クレスケンスで、あの御方の生き残っている血族を保護している」

 刀真が

「じゃあ、その人達に、自分の身に宿るシステム・イザナギを返却する。オレは…静かに暮らしたいんだ」

 脳裏に義理の妹の乙姫が過ぎる。

 そう、乙姫と静かに暮らす為に、最終戦争の招集に集まらず、ヒッソリと隠れていた。

 

 アルベルトが

「残念だが、それはムリだ。保護している方達の中で、年齢を考えれば四人だがね。あの御方の妹の息子二人、弟の息子二人。その四人は、あの御方よりアーベル型ナノマシン加工機、ナノマシン加工システムを作り出すシステム・ゼハールを受け継いでいる。君のシステム・イザナギは君だけのシステムだ」

 

 土門が

「お前が持っているシステム・イザナギは、あの御方、MYの作り出したナノマシン遺産の全てと繋がっている。いわば、MYの全てを受け継いでいる。故に今回に任務も、ディアロスの破壊、奪還を容易に行えるのは、お前しかいない。オレ等、ガイアシステム人種がディアロスを潰すには、大陸艦のシステムとの繋がりを切ればいいが。今回は、オレ達の管轄を離れて動いている。今までにない事態にも対処するには、マサエルであるお前の力が必要なんだよ」


 アルベルトが

「引き受けてくるかね?」


 刀真が答えないでいると、土門が

「もし、放置すれば、さっき言ったように」


 刀真は

「分かっている。再び、最終戦争の幕開けになる。どの道、断れないじゃあないか!」


 アルベルトが

「手厚いサポートはする。頼まれてくれないか?」

 土門が

「何時もみたいに、オレも付いていくから、大丈夫。何とかなるさ」


「はぁ…」と刀真は溜息を漏らし

「分かりました。引き受けます」

 アルベルトがお辞儀して

「ありがとう。よろしく頼む」

 刀真は、額を抱える。

 どうして…こんな事になったんだろう?

 何時も考えると、あの事件に行き当たる。2044年に起こったあの事故から全てが変わった。

 そう痛感していると、土門が隣に来て

「気楽な海外旅行と洒落込もうぜ!」

と、楽しげな雰囲気に、何となく刀真は賛同できなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 刀真と土門はロシアの首都モスクワから離れたドモジェドヴォ国際空港に来ていた。

 十月後半のロシア中央の気温は一桁。日本で言うなら冬のど真ん中の気温だ。

 空港のロビーを通り、外に出る。

 勿論、二人は防寒着だ。

 キャリーバックを引く刀真が

「おい、気楽な海外旅行どころか…冬のど真ん中だぞ」

 同じくキャリーバックを引く土門が

「冬だとご飯が美味いだろう。だからさぁ…飯で気分上げようぜ!」

 刀真は、額を抱え

「迎えが来るまで、こんな寒い中の車ターミナルで待つのか…」

 土門が

「いや…ロシアの寒さを体感するのも旅行だぜ!」

 刀真は…沈黙で答えた。


 本来の任務は、ロシア国内にあるディアロスの破壊か奪還だが、大学生としての建前は、説明前にあった遺跡の許可の交渉と、その現地の近くまで行き、どんな雰囲気の地域なのか?の下見である。

 まあ、許可が出た場合の下見先遣隊だ。


 刀真は、空港内へ向き

「自分は、中で待つ。来た呼べ」

 土門が抱き付き

「いいじゃんか! 一緒にモスクワの冬を感じようぜ!」

 刀真が引き剥がそうとして

「うるさいわ! どうして連絡の番号を教えなかったんだよ!」

 土門が抵抗の抱き付きをして

「連絡を交わすと、ロシア国内の通信網を使うだろう。そうなると…逆探知される可能性があったからよ! いいじゃん。こうして苦労を分かち合うのも旅の醍醐味だぞ!」

 刀真は両手を持ち出し

「そんな男二人で味わいたい醍醐味なんざ、ないわ! それにお前は、ガイアシステム人種なんだろう。絶対零度で真空の宇宙に放り出されても、デウスエクスマキナでへっちゃらなんだろう!」

 土門が更にしがみつき

「それを言うなら、君だって、アイオーンなんだ! 同じように宇宙に放り出されても平気だろうが!」

「離れろーーーー」と刀真が叫ぶ。

「旅は道連れーーーー」と土門はしがみつく。


 そんな茶番をしている二人の視線が、遠くの道路からくる二台の車を発見する。

 車というには余りも厳ついそれ、ロシアの装甲車、ブーメランと呼ばれる砲身をもった三角の四輪装甲車と、もう一台が…高い車高のタイフーンとされる兵員輸送装甲車だ。


 刀真が近付く二台を見て

「あれ…もしかして…迎え?」

 土門は顔を引き攣り

「いや…普通の車だって…」

 その二台が、道路を無視して車を押し潰して空港へ向かって来る。

 派手な破壊の音をバラ撒き迷わず、刀真と土門の方へ向かって来る。

 そして先頭の装甲車ブーメランが、機関砲の砲身を二人に向けた。

 土門と刀真は青ざめ

「ヤバい!」

と、土門は叫び刀真は無言で、二人が脱兎した瞬間、二人がいた場所を機関砲で撃ち抜く。

 機関砲から親指サイズの薬莢が飛び出す。


 空港は大混乱に陥る。

 土門と刀真の二人は、中へ逃げ込む。

 阻まれてこれない…だろうは無駄だった。

 空港の玄関窓をぶち破り、二台の装甲車が、空港内へ突入した。


 土門と刀真は、脱兎して二階の壁に隠れる。

 二台の装甲車が玄関ロビーで止まる。


 刀真は、マサエルの力の一つ、空間支配(ドミネータープラス)を使い、不可視の観測を行う。

 ロビーに入った二台には何の動きもない。

 刀真の横にいる土門が、刀真が展開した空中に浮かぶ天衣眼(スカイアイ)の画面を見て

「あれ? 一台は…兵員輸送用だから兵士が…」


 二台は、兵士になった。

 装甲が割れて変形、まさにトランスフォーマーさながらの大型ロボットへ変わった。


 土門と刀真は青ざめ

「トランスフォーマー。ご光臨ですか…」

と、土門は告げた。

 刀真は頭を抱えて

「これってMYさんの遺産の何かか?」

 土門は否定の首を横に振り

「いいや、こんな無駄な事をあの御方はしない。変形なんてフィクションの世界でしか通じないぜ」

 刀真は、額を小突きながら

「ロシアに、こんな兵器を作れるナノテクノロジーは?」

 それも土門は否定の首の横振りをして

「いいや、ロシアにはナノマシン加工システムを一切いれてない。ましてや、メタトロンも厳重に管理されていて、使える筈がない」

 刀真は匍匐前進で

「なら、少し調べる必要がある。もし、隠されたMYの遺産だったら。自分の支配下に入れられる」

 土門も匍匐前進で続き

「違ったら…」

 刀真は

「アレは、明らかに自分達を狙っている。被害が出る前に倒す」

 土門は肯き

「了解」


 二人は匍匐前進で移動する。


 二台のトランスフォーマーよろしくのロボット兵器は、周囲を探査の赤い瞳で見回す。


 それをスカイアイで見た刀真は、空間支配(ドミネータープラス)で、自分と土門の二人を探査の識別に引っかからないようにステルスのコーティングをする。

 二台のロボット兵器は、周囲を探査しても刀真と土門を見つけられず、動きを止める。

 それは空港内のネットワークにアクセスして、空港内の監視カメラを乗っ取り二人を探す。

 その切り替えの隙を刀真なさない。

 二階の柱に捕まって滑り下りて、ロボット兵器に駆け付け、タッチする。


 システム・イザナギ起動

 兵器のメインシステムにアクセス


 刀真の触れた右手からロボット兵器にアクセスして支配下に置こうとする。

 こんなとんでもない兵器を作り出せるのは、MYしか存在しない。

 現在、MYはこの世界にいない。

 唯一、MYの後継である刀真(マサエル)が、MYの全ての技術遺産を支配下に置ける。 アイオーン、マサエルの力、システム・イザナギを使うが…。


 アクセス

**”(’~()~()~’)(~(POUL~)(~(~(~((==

 

 それは、解析出来ない、データだった。

 違う!これは、MYの遺産じゃあない!

 刀真が手を離すと同時に、ロボット兵器の二体は、刀真を殺そうと巨大な手で刀真を叩き潰そうとした。

 だが…轟音が響く。

 それを放ったのは、土門だった。

 背面の空間収納からデウスエクスマキナの装甲機を取り出し、巨大な、大砲の砲身を土門は右腕に背負っている。


 一回一回、リロードするしかない巨大砲塔を背負う土門の放った強烈な一撃が、刀真を潰そうとしたロボット兵器の一つが兵員輸送車が変形したロボット兵器に突貫、それに巻き込まれて装甲車のロボットが転がる。

 二体のロボット兵器が空港内を破壊しながら転げ回る。


「間一髪だぜ」と土門は呟く。

 刀真は立ち上がり、転がったロボット兵器達を睨む。

 そこへ土門が来て

「支配下に置けたよなぁ…」

 刀真は首を横に振り

「いいや、あれは…MYの遺産じゃあない」

「はぁ!」

 土門は驚きの顔を向ける。


 転がったロボット兵器達が立ち上がり再び襲って来ようとする。だが、土門が放った巨大砲塔の一撃が聞いているのか…足を引きずっている。

 

 土門は再び巨大砲塔を向け

「このまま破壊するぞ」

 刀真が

「待て、破壊すると動力炉が誘爆する可能性がある」

 土門は「はぁ!」と訝しい顔をする。

 刀真はロボット兵器達が転がった後、素早くドミネータープラスで、ロボット兵器の内部を調べていた。

 ロボット兵器の胸部、丁度、人間の心臓に当たる位置に、ロボット兵器を動かす強力な動力炉反応を感知していた。


 足を引きずりつつ近付くロボット兵器に土門が

「じゃあ、どうするんだよ?」

 その問いかけに刀真が

「足か、腕を破壊してくれ。その間にドミネータープラス空間支配ルールオブエル波動操作で動力炉に収まっている反物質を通常の物質に変換する」

 土門は開いている左手で頭を掻き

「分かったよ。ただし…数十秒しか持たないぞ」

 刀真はクラウチングスタートの体勢になり

「十分だ」


 土門は、右肩にあるデウスエクスマキナの巨大砲塔を近付くロボット兵器二機に向ける。

 

 ロボット兵器が、ダメージの足を無視して、走っている。

 土門は二機が重なった瞬間に、二機の足を打ち向く。

 強烈な爆音が響き、巨大薬莢が転がる。

 重なったロボット兵器の右足と左足が粉砕、完全にロボット兵器二機は一本足になり転がる。

 そこへ、刀真が走る。その背中には、アイオーンの結晶翼を背負い、空間書換推進で、ロボット兵器の仰向けになった胸部の上に来ると、動力炉、反物質炉がある部分に触れる。

 ロボット兵器は、腕を動かして刀真を殺そうとしたが、その腕を土門が巨大砲塔で吹き飛ばす。

 その間、刀真はマサエルの力、ルールオブエルを使い動力炉にある反物質を変化させる波動を放ち、フェトムサイズ以下での素粒子置換を行い、動力である反物質を、通常の物質にした。

 突然の動力切れで、ロボットの動きが石像の如く止まる。


 刀真は、その場にへたり座り「やった…」と安堵する。

 土門も、兵装のデウスエクスマキナを空間収納に戻して

「やったなぁ」

と、刀真の隣に来た次に、壊された玄関から、黒ずくめの武装した兵士達がアサルトレーザー銃を両手に突入する。

「動くな!」

と、兵士達が銃口を土門と刀真に向ける。

 兵士の一人が

「我々はPOCH地域特殊任務課だ」

 

 土門と刀真は、アサルトレーザー銃の照射威力強化前のレーザーに全身を囲まれて両手を挙げる。

 そこへ、二階の窓を突き破って一台の深紅の車が突入する。

 フェラーリ488GTだ。

 POCHは驚き退くと、488GTがドリフトして土門と刀真の下に来ると

「乗って!」

と、助手席が開いた。

 そこには、金髪の麗しい女が運転手だった。

 土門と刀真はその女に憶えがあり

「助かった」と、土門と刀真は、一人しか乗れない助手席に二人して詰め込んで乗り込んだ。

 助けた金髪の女は、急いで488GTをフルアクセルして、POCHが入って来た破壊された玄関から脱出する。


 POCHはあっという間に遠くなる488GTを見詰めるも、急いで車種を報告して手配する。


 488GTの狭い車内、刀真は狭い真ん中で土門は助手席である。

 運転する金髪の美女に土門が

「助かったぜ、ノゾミ」

 金髪の美女は眉間を寄せて

「日本名で言わないで。私はエステリア希望よ」

 土門がにやけ

「良いじゃん。同じ意味なんだからよ」

 金髪の美女エステリアは刀真に

「ねぇ…マサエル。どうして、デウスマギウスを使わなかったの?」

 刀真は渋い顔をして

「オレは、マサエルじゃあない」

 エステリアは

「貴方は、私と同じお父さんに選ばれた人なのよ。使うべき時に使わないなんて…与えたお父さんが悲しむわ」

 刀真は渋い顔をして黙る。

 土門は頬を少し引き攣らせつつ

「なぁ…迎えは、エステリアだったんだろう? どうして、今頃…」

 エステリアは顎で前を示し

「アレよ」


 三人の乗ったスーパーカーが道の隣に出来た巨大なクレーターを通り過ぎる。


 土門がそれを見て

「まさか…同じヤツに襲われたのか?」

 エステリアは肯き

「ええ…そうよ。私はデウスマギウスで倒したけどね」

と、エステリアが告げた次に

「ここの治安部隊に関する通信が入ったわ。車種を変えるわよ」

 

 三人が乗る車が光を放ち、姿を変貌させる。

 今度は赤のブガッティ・シロンだ。

 エステリアが

「シロンなら多少大きいから、余裕があるでしょう。マサエル」

と、刀真に呼び掛けるが黙っている。

「はぁ…」とエステリアは溜息を漏らし

「刀真、キツくない?」

 刀真は肯き

「ああ…大丈夫」

「そう、良かった」

と、エステリアは、変形させた車を走らせて、これからの潜伏先へ二人を連れて行った。

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