第23話 統の戦い方
ニューヨークにある国連本部の玄関に工事が入っていた。
それは、とある人物の為の専用玄関の増築だ。
三メータ半の巨体を持つソラリスの王、アレスジェネシスが入れる大きさではない。
入る為の通路や、玄関が急ぎで増設される。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスが、国連に来るのは5日後。
ゼウスヘパイトスは、新たに誕生したトルクメニスタン共和国の要請で、アレスジェネシスは、何度も打診をしていて無視されていたが…やっとの事でこぎ着けられた。
増設作業で忙しい国連へ、ドランド大統領の情報官であるイヴァンとテッドが来ていた。
国連は、今まさに世界の軍事力を総集結させても勝てないアレスジェネシスとゼウスヘパイトスを取り込もうと必死だ。
国連の前の名前は、連合国である。
だが、それは日本だけの呼び名で、世界では未だに連合国という第二次世界大戦の勝者の国によって、その運営が賄われている。
その証拠に、安保理というアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国という五カ国が国連の会議で決定をした事を覆す事も出来るし、何より、国連の経費は今まで、アメリカが賄ってきた。
国連という名前は、日本流の臭いものに蓋をする、玉虫色という、外面だけを飾った言葉である。
日本だけだ。まるで、国の連合という、国の上にあるような言い方をするのは。
そして、アレスジェネシスが日本を取ってソラリス日本地区としたお陰で、国連という連合国にある敵国条項から外れられたのも事実である。
所詮は、力がない国は、力がある国の暴威に怯えるだけなのだ。
国というシステムが誕生した初期から、それは永遠に変わらないと…。
だが、それに風穴を開けた存在が、皮肉にもアレスジェネシスとゼウスヘパイトスだった。
二人は、個人で一国家を遙かに凌駕する力を持つ存在。
利益を共通とする集団ではない。一個人が集団である国を凌駕した事実に、集団を使って権益を作るしかない者達、従来の支配者達は怯えていた。
そして、何としても取り込んで、国という枠組みに嵌めて、自分達の基盤を強固にしようと画策している。
テッドやイヴァンはそれを気付いていた。
「ねぇ、テッド…果たして私達の目論見は上手く行くのかしら…?」
イヴァンの問いにテッドは堂々と
「残念ながら失敗するだろう。何故なら、彼らにとって我々の利益が自身の利益ではないのだから」
イヴァンがテッドの見上げる顔を見て
「アレスジェネシスとゼウスヘパイトスの利益って何なの?」
テッドは眼だけが鋭い笑みで
「システムだよ。自身が作り出したシステムを広め運営、維持する」
イヴァンが呆れ気味に腕を組み
「つまり、人類から必要とされる事?」
テッドは横に首を振り
「人類から必要とされるんじゃない。人類が欲しいと喰らい付いているんだよ。彼らのシステムは、正に人類が欲していた新たな可能性だ。それを前に我々人類は…欲望を止める事はしないだろう。もう…我々人類は、アレスジェネシスとゼウスヘパイトス無しでは…」
イヴァンが鋭い目で
「じゃあ、誰がその一番乗りをすると思う」
テッドは背を向け
「無論、それは…我らアメリカだ」
イヴァンがそれに続く。
テッドの背から強い気迫が醸し出されている。
イヴァンとテッドは同じ、ハーバード大学の経済学部出身だ。
だからこそ、政治の世界に飛び込んだ。
だが、現在の地球のシステムでは、限界があった。
その中でもやっていくのが政治だと…二人は思っていた。
だが、それを凌駕するシステムが目の前にある。
テッドの中に、飛躍的に新たな可能性へ入れる存在があるのだ。野心を持たないのがおかしい。それは純粋な人の、競争が大好きな男の性だ。
そんなテッドにイヴァンは呆れつつも、何時も付いていく。
面白いからだ。
二人は親友である戦友だ。
◇◆◇◆◇◆◇
ゼウスヘパイトスこと山中 充は、トルクメニスタン共和国の首都ウルチム市に作った?ではなく、アレスジェネシスのソラリス府と同じく、浮かべているラテリス府の住まいにいる。
因みにトルクメニスタン共和国にあるソラリスのダウンサイジング・コピーのSRフィランギルは、何か呼び方が機械的で良くないとして、ソラリスをもじってラテリス(曙光の天空城)とした。
そして、そのラテリスと繋がるからラテリス府と、安直だが…。
ラテリス府でスーツに身を包んでいるゼウスヘパイトスの充が
「これでどうかなぁ?」
と、若い妻のイリディアが
「なんか、普通すぎて面白くないわねぇ…」
充は人の姿である。
「普通でいいんじゃない?」
イリディアは腕を組み
「友人や家族と会うなら、良いかもしれないけど…トルクメニスタン共和国の代表でいくなら、あの…黒いデウスマギウスの方が良いわよ」
充は渋い顔をして
「それって戦闘形態で行けって事だぞ」
イリディアは微笑み
「国連での話し合いも戦闘みたいなモノだから」
充は、全身から漆黒の装甲を展開してデウスマギウスになる。スーツを取り込んでのデウスマギウスで「じゃあ、そうするよ」と、歩き出し
「話し合いが終わったら直ぐに帰ってくるよ。こっちでやる事があるから…」
イリディアが微笑み
「分かったわ。アナタ…いってらっしゃい」
ゼウスヘパイトスの充は、頬を照れくさく掻き
「ああ…行ってくるよ。イリディア…」
ラテリス府に横付けされた、ラテリスの宇宙戦艦に乗って国連があるニューヨークへ向かった。
駆逐艦サイズの宇宙戦艦は、雲より高い高度に達すると、一瞬で超音速に加速、二時間語にはニューヨークに到着予定だ。
完全な自動で動く宇宙戦艦内で、ゼウスヘパイトスは、デウスマギウスのまま、専用の座れる無重力ソファーに腰掛ける。
背中にある多結晶の翼の所為で、背もたれが使えないのだ。
この多結晶の翼は便利でもある。亜光速での飛行や、防御のフィールド、その他の拡散攻撃、フィールド型ナノマシンの散布など…。
だが、何かに座っての移動の際には不便だ。
「せめて、到着するまで、人型の方が良かったな」
と、ゼウスヘパイトスは漏らした。
◇◆◇◆◇◆◇
ゼウスヘパイトスの宇宙戦艦が到着する。
国連本部の上で静止して、ゼウスヘパイトスが降り立つ。
そこは玄関だった。玄関には予め到着していたトルクメニスタン共和国の者達がいて
「時間通りですな」
と、壮年の男、トルクメニスタン共和国首相のアブハーラが近付く。
ゼウスヘパイトスは肩を竦め
「もう少し早く到着するつもりでした」
アブハーラが笑み
「それでは、大問題だ。貴殿が乗ってくる宇宙戦艦が、突如、国連本部に到着したとなれば、アメリカが大慌てになるでしょうな」
ゼウスヘパイトスは右の眉間を曲げて訝しい顔で
「たかが、一隻でしょう」
アブハーラは、ゼウスヘパイトスの鋭いフォルムの宇宙戦艦を見上げて
「それでも、我々を凌駕するモノだ。無用な混乱は避けたいですからな」
ゼウスヘパイトスが頭を振り
「人間、慣れることがありますから…問題」
と、告げた次に、轟くような巨大な音が上空から響く。
ゼウスヘパイトスは、空を見上げると、全長千メータの超巨大な宇宙戦艦が十隻も遙か空から降り立つ。
ニューヨークの人々は驚愕に包まれる。
アブハーラが鋭い顔をして
「貴殿の師であるアレスジェネシス氏は、どうやら…貴殿とは違う考えのようだ」
ゼウスヘパイトスは苛立った顔をする。
そう、アレスジェネシスはワザと、力を見せつけるように宇宙戦艦の艦隊で来た。
威圧を伴った千メータ級の十隻の大艦隊だ。
戦争でもしに来たのか?とゼウスヘパイトスは、アレスジェネシスの宇宙戦艦艦隊を見上げていると、中央の旗艦から、アレスジェネシスがアイオーン達を伴って降りて来た。
ズンとアレスジェネシスの三メータ半のデウスマギウスの巨体が着地して、ゼウスヘパイトスを前にする。
ゼウスヘパイトスがアレスジェネシスに近付き
「アンタは、戦争を起こすつもりで来たのか!」
フッとアレスジェネシスは笑み
「戦争? それはあくまで対等な者同士に使う言葉だ」
どこからともなく、アメリカの戦闘機達が出現し、ニューヨーク上空にあるアレスジェネシスの艦隊を警戒の為に周回する。
アレスジェネシスが、戦闘機の編隊を見て
「あのような骨董品級を持つ者達に戦争という言葉さえ、無意味だ」
ゼウスヘパイトスが
「無用な争いを起こすつもりか!」
アレスジェネシスはゼウスヘパイトスを見下ろして
「お前は、まだ…甘い。国家とは所詮、力でしか成り立っていない。国家と対等に話すなら国家以上の力を見せつける必要がある。それだけだ」
と、告げて国連本部へ向かい、その後をアイオーン達が続く。
そのアイオーンの一団にラグエルがいて
「ゼウスヘパイトス様、貴方は…分かっているでしょう? 国家いう存在の正体を…」
ゼウスヘパイトスは頭を掻き
「所詮は、己の利潤を追求する為の枠組みでしかない」
ラグエルは肯き
「ご理解しているなら、どうして…艦隊で来なかったのですか? 隙を突かれて貶められますよ」
ゼウスヘパイトスは、目元を渋め
「まだ、集団になった人達でも、人としての情けはあると…思いたいからだ」
ラグエルは肩を竦め
「集団化した人間は、人ではない。人外だ。それを分かっているなら、それに対応した行動をするのが道理でしょう」
ゼウスヘパイトスは、ふ…と溜息を吐き
「まだ、私も青い若造なんだよ」
ラグエルが眉間を寄せて
「四十近い年齢で、若造はないでしょう…。善悪を知るいい大人だ」
ゼウスヘパイトスは額を抱え
「もう少し、自覚した行動をするよ」
ラグエルは微笑み歩き出して
「ええ…当然ですね」
会話を終えたゼウスヘパイトスは、トルクメニスタン共和国の者達と共に、国連本部へ入った。
◇◆◇◆◇◆◇
国連本部の議会で、多くの国の代表達が席に着いている。
そのとある一角、仮設の大きな場所、そこに座るべき人物の席がないので、その者は自前で用意した。
アイン・ゴーレムの王座に座るアレスジェネシス。その周囲には、アイオーン達が浮かんで空中に座っている。
その一団の隣に、ゼウスヘパイトスも座っているが、いかにせん、ゼウスヘパイトスの専用の席がないので、自前の宇宙戦艦から持って来た。
それは三メータ半の巨体であるアレスジェネシスが座るアイン・ゴーレムの王座より大きな漆黒のクワガタ型のロボット王座である。
専用王座に座る統の者達。
議会の者達の視線が釘付けである。
議会の席は、座り心地が良く翻訳機が繋がった普通の人の席だ。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスの席、王座は、完全にそれより逸脱している。
もの凄く目立つ。
しかも、面倒な事に、演説する正面に位置している。人が通るそこしかスペースがないから仕方なかったのは分かるが、演説する者達が熱い目線で、訴えるように声にする。
これからの国際社会は、新たな局面を迎えているとか、新たな存在を受け入れて進めるべきとか。
ああ…なんかもう…アレスジェネシスとゼウスヘパイトスを何としても国というシステムに取り込もうと必死過ぎて、ゼウスヘパイトスは顔を引き攣らせる。
アレスジェネシスは、視線を下にして聞いていないような態度だ。
だが、多分…聞いているだろう。
この世界での自分(アレスジェネシス)であるゼウスヘパイトスには、何となく分かる。
多くの者達の演説が終わった後、議会は、とある採決を行う。
まずは、アレスジェネシス達を国際社会の一員に迎えるという決議と、今後の協力を求める事。
ゼウスヘパイトスの山中は、正直、自分達の出る幕はないと思っていた。
物事の交渉を行う場合は、必ず自分が有利な場所で行うのが当然なのだ。
どこかの勘違いな人は、アウェーに行って堂々と行うのが当然と思っているようだが…所詮は、四面楚歌の愚かな事だ。
丸め込まれて終わり。そのぐらい、交渉というのは周囲の力が必要なのだ。
そんな考えは、どこかのアホなテレビドラマの見過ぎだ。
ゼウスヘパイトスは、何も喋る事はなく、ただ、聞いているだけで終わりと本気で思っていた。
どうせ、こんな決議をしたって、自分がそれに了承しなければ、意味はない。
同意を求められても「知らん、勝手にしろ。自分は絶対に従わない」と言えば終わりだ。
多分、議会は大荒れするだろうが、知った事か、背を向けて帰るだけだ。
そんな気でいたのに、どこかのお国の代表さんが、特に日本と今回のゼウスヘパイトスで被害を被った共産党さんの手下が煽る。
「どうしたのですか! アレスジェネシス氏よ。何か言う事はないのですか? このままでは国際社会から取り残されますぞ!」
ゼウスヘパイトスは、かわいそうと哀れみの笑みを向けた。
別に国際社会から取り残されてもアレスジェネシスには問題ない。寧ろ、関係が無い事が不利なのは、言った側だ。
交渉にさえなってない。
そこへアメリカの代表が
「藩代表、むしろ…それは貴殿の国ではないかね?」
中国の藩代表は、アメリカ代表を睨む。
浅はかな煽りなんて効く筈もない。むしろ、他の国に対する手助けのポーズにされてしまう。
中国代表が、口論を始めた。激しく言葉にする。中国語まじりの英語で、何となく相手を侮辱するような言葉があるように思える。
面子を潰されると激怒する国民性の悪しきがそこにある。
それに大して周囲は冷ややかだ。
それをゼウスヘパイトスは見て、帰ろうか…と思うと、隣のアレスジェネシスが立ち上がる
「お前も来い」とゼウスヘパイトスへ呼び掛ける。
ゼウスヘパイトスは呆れた顔をしつつ、アレスジェネシスに続く。
アレスジェネシスの後に続き壇上の道を進むゼウスヘパイトスが、右の高い位置にある窓を睨む。
刺客だ。デウスマギウス形態にある額のサードアイが捉えていた。
アレスジェネシスか自分を…と思っている間に、アレスジェネシスが連れたアイオーンの一人がその窓へ飛翔、見えない空間波動で刺客を吹き飛ばした。
周囲が困惑しているが、ゼウスヘパイトスが通路をガードしている警備員に
「あの窓の部屋に暗殺者がいた。押さえたから直ぐに回収へ向かってくれ」
と、耳打ちして、警備員が通信でそれを知らせた。
アレスジェネシスとゼウスヘパイトスが、人一人がいるだけの国連議会中心の壇上へ来る。
皆、アレスジェネシスの言葉を待つ。
アレスジェネシスは顔にしている仮面を外す。
そこには、人の顔が、ゼウスヘパイトスの山中 充を老けさせた顔があった。
議会が騒然とする、アレスジェネシスの素顔がゼウスヘパイトス同じな事に驚いているのだ。
その中継を世界中が見ている。
アレスジェネシスが、3対ある巨腕を解すように動かすと、アレスジェネシスの体が小さく折り畳まれる。
アッという間に三メータ半の巨体が、ゼウスヘパイトスと同じ身長になる。
ゼウスヘパイトスはそれを鋭い視線で横見する。
議会の代表達は困惑しているそこに、ゼウスヘパイトスと反対の純白の人型デウスマギウスのアレスジェネシスがいた。
二人を見比べる代表達、二人は、余りにも似ている。
人型デウスマギウスのアレスジェネシスが、壇上に手を置き
「どうも皆さん。まずは、皆さんが勘違いしている事を指摘しましょう。
私は、別の惑星から来たインベーダーではない」
アレスジェネシスが指を鳴らすと、アレスジェネシスの上に立体映像の球体が浮かぶ。
そこに映し出されているのは、アレスジェネシスが通った過去、最終戦争の場景だった。
地球があり、巨大な機械の大地が二つ、地球から浮かび上がり、そこから無数の黒い悪魔のような匠の起動兵器達が出撃。
そして、アレスジェネシスがいるソラリスから、膨大な数のアイン・ゴーレムと宇宙戦艦が出撃する。
地球の空がその戦争によって紅蓮の炎に包まれ、赤く輝いていた。
2045年の世界最終戦争の映像を上にアレスジェネシスが
「私は、この世界と同じパラレル・ワールドから来た者だ。つまり、この世界が本来辿る未来、2045年の最終戦争の未来から降臨した者だ」
それを聞いた議会の代表全員が絶句した。
同じく国連の中継を見ていた世界中の人々が驚きの顔のまま固まった。
そして、世界中のネットワークに、アレスジェネシスが体験した世界最終戦争の映像が配信される。
国連でアレスジェネシスは続ける。
「2045年、地球は人類が起こした最終戦争によって破滅した。私はその世界から来た者だ。その世界での最後の人類という事だ」
アメリカ代表と共にいたテッドにイヴァン、テッドが挙手して
「失礼。つまり、アレスジェネシス氏、貴方は…未来人なのか?」
アレスジェネシスはテッドを見つめて
「正確には、この世界を通過したパラレル・ワールドの未来という事だ」
テッドが
「では、貴方の世界とは違うと…」
アレスジェネシスは、嘲笑に顔を歪め
「はははははは! 愚かだ。その想像力の足りない所は、相変わらずだな…テッドくん。君はもう少し、想像力を磨いた方がいい。私の世界にいたテッドくんも、君と同じで思考スピードは高いが…想像力が貧弱だったぞ。そして…特別CIA情報官イヴァン・レイオス女史」
アレスジェネシスは忌々しげにイヴァンを睨む。
イヴァンは困惑する。
アレスジェネシスが、冷たい眼でイヴァンに
「そういう気質を戒めるのも、付き合いの長い友人としての努めではではないかね…」
イヴァンは眼を瞬きさせ困惑する。
テッドが
「私を…知っているの…ですか?」
アレスジェネシスは睨むようにテッドとイヴァンを見つめる。
ゼウスヘパイトスは、それで…ある事を思い出した。
CIAの女はやめて置け…。
ああ…この二人と何かあったんだな
そう理解出来た。
アレスジェネシスは正面を見据えて
「私の話をちゃんと聞きたまえ。言った筈だ。この世界を通過したパラレル・ワールドの未来から来たと…」
イヴァンが挙手して
「つまり、実質、ここは貴方が、アレスジェネシス氏の過去なのですか?」
アレスジェネシスが、ゼウスヘパイトスを見つめて
「もし、私が何もしなかった場合は、お前が私になる未来が確定していたがなぁ…」
ゼウスヘパイトスは視線を背ける。
理解できた者には理解できた。
つまり、アレスジェネシスとなる存在がゼウスヘパイトスだった。
アレスジェネシスが来なければ、最終戦争を起こした未来が待っていた。
だが、そうなる未来が回避された。アレスジェネシスが来た事と、ゼウスヘパイトスがアレスジェネシスではなく、別のそれ相当になった今によって。
テッドが恐る恐る
「つまり、アレスジェネシス氏。貴方の目的は、26年後に起こる地球を、人類を破滅させる最終戦争を防ぐ為に…」
アレスジェネシスが遠くを見て
「私は、逃れてきたが…もう、人類は…地球は完膚なきまで破壊され、原始の時代に戻ったかもしれん。人類が存続している事も怪しいだろう」
テッドは呆然として組んだ手に額を乗せた。
インベーダー、侵略者ではなかった。世界を二十数年後に破滅する未来を防ぐ為に来たヒーローだったのだ。
だから、全部が納得した。
なぜ、支配をしないのか、侵略をしないのか、システムとして世界に広がろうとした事も…。
イヴァンがゼウスヘパイトスを見詰めて
「ゼウスヘパイトス氏よ。貴方は…それを知っていたのですか?」
ゼウスヘパイトスはフッと笑み
「ああ…知っていたさ。始めて会った時に驚愕したよ、自分が欲しかった力を技術を能力を全て獲得した未来の自分が来たんだからなぁ…」
アレスジェネシスは、少し俯くと体が膨らみ始め、元の三メータ半の巨体のデウスマギウスに戻った。
三メータ半の巨体で周囲を見下ろすアレスジェネシスは
「私の目的はそういう事だ。ならば、協力を求めれば良いとか、今に至る諸々の事をする必要はないとか…いう輩がいるだろうが…。そんなのは無意味だ。今のこの押し黙る全てが物語っている。私も同じ人類だ。だから分かる。目の前に分かり易い事が顕れないと理解できないのだ。そういう事だ」
言い残してアレスジェネシスは壇上から降りて、それにゼウスヘパイトスも続いた。
そして、アレスジェネシスは出口に向かうと、それにアイオーン達も続く。
ゼウスヘパイトスも、王座のロボットを連れて帰ろうとしたが…
「待ってくれ。山中くん」
呼び止めたのは東城だった。
名字を言われた声で、東城と分かり後ろを振り向く
「何?」
東城が近付きつつ
「山中くんの目的も…未来の君、アレスジェネシスと同じなのか?」
ゼウスヘパイトスの山中 充はフッと怪しげに笑み
「もう、目的は達した。自分もアレスジェネシスも…次の段階に行くだけだ」
東城は、ゼウスヘパイトスの前に立ち塞がり
「じゃあ、その次の段階を…我々と共に…」
ゼウスヘパイトスは、東城の肩をつかみ退かして
「必要ない。君達は、どうやって国民から集めた税金を運用するか、金勘定でもしていればいい。そんな者達を必要とはしていない」
と、出て行った。
国連の議会は沈黙したままだった。
誰しもこの場にいる者が、彼ら…アレスジェネシスとゼウスヘパイトスを説得する力や材料を持っていなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
アレスジェネシスが上空に待機していた宇宙艦隊に帰ると、そこには、とある人物達が集まっていた。
東南アジア諸国、南米の国々、その国の財政を管理する財務大臣や、責任者達がそこにいた。
全員がアレスジェネシスがパラレル・ワールドの未来から来た事を知っている。
アレスジェネシスが楽しげな笑みを浮かべ
「さあ、皆さん。これから未来の話をしましょう」
ゼウスヘパイトスはトルクメニスタン共和国のラテリス府に戻る。
ラテリス府の広間には妻のイリディアと老婦人がいた。
老婦人は、ウィグル自治区だった時からここを気に掛けていた女性実業家である。こしてトルクメニスタン共和国となって、日本地区や外との繋がりを作ってもくれている。
老婦人が頭を下げ
「お帰りなさいませ…ゼウスヘパイトス様」
ゼウスヘパイトスが
「で、彼らは…」
老婦人は微笑み
「ええ…全員集まっております」
その女性実業家の老婦人に案内されて来ると、別室で多くの人々が待ち構えていた。
インド、中央アジア、中東、アフリアの重要人物達だ。
ゼウスヘパイトスは、その者達にお辞儀して
「では…今後について、お話しを…」
◇◆◇◆◇◆◇
イヴァンとテッドはホワイトハウスに戻っていた。
ホワイトハウスの執務室で、テッドは額を掻き上げ
「全く、とんでもない想定外だ」
イヴァンが
「テッド、政治に想定外はあり得ない。それは私達の想定不足を認める事になるわ。政治に想定外は敗北よ」
テッドは頭を掻き乱して
「とにかく、一から交渉の作戦を考えるぞ」
イヴァンが
「世界中から情報を集めましょう」
テッドが
「イヴァン、君はアレスジェネシスに何をしたんだ? アレスジェネシスが君を見た時に明らかに感情があった。怒り憎しみ、いや…なんだろう? とにかく驚きの顔だったぞ」
イヴァンが苛立ち気味に
「知らないわよ。テッドだって同じように向けられていたでしょう。それに名前を覚えてくれる程、アナタの方が親しいみたいだし」
テッドは頭を抱えて
「パラレル・ワールドのオレは何をしたんだ? 会って聞きたいよ」
そうして、二人はアレスジェネシスとゼウスヘパイトスの交渉の事を練る事、三日目
ドランド大統領に呼び出され
「まだ、交渉の糸口は見つからないのか!」
テッドが俯き加減で
「申し訳ありません…」
イヴァンが
「その…複雑な事が多すぎて…。大統領、私とテッドを日本へ出向させては貰えませんか? 情報が欲しいのです」
ドランド大統領が
「現地に行って、獲得してくると…」
イヴァンが自分に手を置き
「どうも…アレスジェネシスは、私とテッドに何かあるようです。もしかして…何か…パラレル・ワールドの世界で、私達がその当時にアレスジェネシスと絡みがあったようですから」
ドランド大統領が腕を組み
「んん…そうだな…僅かでも…」
ドアがノックされ、男性仕官が入りドランド大統領の耳打ちする。
「何? FRB(連邦準備銀行)から?」
「はい」と仕官が肯き、ドランド大統領がデスクの電話を手にして受ける。
「私だ」
『……』
「何? 本当なのか?」
『……』
「信じられん。本当か?」
『……』
「分かった。そうなれば、新たに国際基金の投機が可能だな。分かった」
テッドが、国際基金の投機という言葉を聞いて
「大統領…何が?」
ドランド大統領が首を傾げて
「諸外国に投機していた援助の借金が返済される事になった」
テッドが困惑で
「ドルで…ですか?」
ドランド大統領が
「現物だ。金やエメラルドといった貴金属で…大凡、10兆ドル分な」
テッドは手を口に置き
「え…そんな、貴金属が? ええ…何処から大量に採掘、流通されている報告なんて…」
そう考えたテッドは青ざめ
「大統領、その諸外国って我々がアジア基金や、南米基金、アフリカ、中東といった…発展途上国に…」
「ああ…」
と、ドランド大統領が頷く。
テッドは、口を開けるように青ざめ、大統領のデスクを両手で叩き
「大統領、急いでそれを返却してください。その国々には長期的返済で構わないと、とにかく理由を付けて!」
ドランド大統領は困惑して
「もう到着して受け取りは済ませたぞ」
テッドは、呆然としてフラフラとしてその場に跪く、そこへイヴァンが掛けより
「どうしたの?」
テッドは過呼吸気味に
「終わった…イヴァン、資料、180だ…」
イヴァンがそれを思い返した瞬間、同じく驚愕に青ざめ
「まさか…。そんな…このために…」
ドランド大統領がテッドに近付き
「どういう事だ」
テッドは絶望した顔で
「大統領、アメリカが…今まで築き上げた世界的金融システムは…。世界に影響力を行使し続ける金融が…今日、崩壊しました…」
ドランド大統領が呆れた顔で
「そんなの…また、投機すれば…」
イヴァンが、テッドを起こしながら
「大統領。我々が発展途上国に借金として、行使してきた影響力は、もう…使えません。なぜなら、南米、東南アジア諸国、中東、アフリカといった発展途上国達は、新たなる国家を越えた二名の後ろ盾を得たのですから…」
ドランド大統領が青ざめ
「そんなバカな…」
テッドはイヴァンに支えられ
「資料180は、アレスジェネシスとゼウスヘパイトスが、南米、東南アジア諸国、中東、アフリカの有力者と接触しているという情報が載っていました。最初は、自分達のシステムを広める為に…。ですが…違った。この為だったんです」
イヴァンが
「アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、そういった先進諸国は、世界に対する影響力を全て失いました。我々が作った金融システムの管理を外れた。つまり、我々は彼らに、発展途上国に優位を示せなくなったのです」
ドランド大統領が
「なら、新たに!」
テッドが
「受けれると思いますか?」
◇◆◇◆◇◆◇
アレスジェネシスはソラリスの王座で、眼を閉じて待っているとレミエルが来て
「天帝、全ての発展途上国の発展基金に対する返済が終了しました。ヨーロッパ諸国、中国、ロシア、アメリカ。全てに我々とゼウスヘパイトスが返済をしました」
アレスジェネシスは目を開き
「よろしい。これにて…全て完了した」
レミエルがお辞儀して
「はい」
アレスジェネシスは王座から立ち上がり
「では、始めるとしよう。νジェネシスを…」
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