第18話 国々の夜戦


 アレスジェネシスは仮面を被り、日本にあるソラリス府で、アメリカ大使のキャロライナが笑みを向けている。

 アレスジェネシスは、王座…というより、三メータ半の巨体を収める専用の席で、キャロライナの話を聞く。

「つまり…国連に来て、北朝鮮を国連の監視下で運営すると、私自ら…言えと…」

 

「はい」と笑顔でキャロライナは頷く。


 アレスジェネシスは、腕の一つで額を掻いて

「それに何の意味があるのだ?」


 キャロライナは両手を広げ

「北朝鮮を変えたのは、アレスジェネシス様です。それを我々に放りなげたという形では、国という体裁が成り立たないのです」

 

 アレスジェネシスは仮面の奥にある瞳と渋くさせ

「体裁の為に、私が来て…言えと…」


 キャロライナは肯き

「そういう事が大事な時もあります」


 アレスジェネシスは「はぁ…」と溜息を漏らして

「どうでもいい。それに…そのような宣言をさせるなら天皇陛下の方が効果がある。国のシステムを管理しているだけの者の言葉に、重みなぞない」


 キャロライナは真剣な顔で

「お言葉ですが…。アレスジェネシス様の事を世界は、国家運営の管理者だけとは思っておりません。アナタは…国家元首です」


 アレスジェネシスは、腕の一つで頭を掻く。

 このまま、色々と言っても難癖を付けられるだけか…。

 席から立ち上がって

「すまんが…全くその気はない。そういう話は、民主的に選ばれた首相、桜井総理に相談してくれ」


 アレスジェネシスが歩み出すと、その前にキャロライナが立ち塞がって

「では、桜井総理が要請すれば…」

 

 アレスジェネシスは、三対ある腕の一つでキャロライナを退けて

「しない。メリットがない。北朝鮮の事は、桜井総理達が決めた事に従う。以上だ」


 キャロライナが、スラスターの脚部の端を掴み

「待ってください。もう少し…お話しを…」


 アレスジェネシスは、仮面を外して苛立った顔を向け

「いいか、私にも仕事はある。新たなリアクターや、隕石資源の調査、月面の資源活用のシステム構築。色々と抱えているのだ。政治的な事は…国民が選んだ議員がやる。それは、アメリカも同じだろう」


 キャロライナが

「貴殿は…アレスジェネシス様は、ソラリスの支配者なのでしょう。そんなのは部下に任せて…」


「は"ぁ!」

と、苛立った濁音をアレスジェネシスは出し

「私は、支配という愚かな存在ではない。運営管理、創生者だ。命令するなら機械でも出来る。命令しか出来ない機械程度のレベルが低い連中と同じに、されては…侮辱の限りだ」


 キャロライナは困惑して引き下がり

「申し訳ありません」


 アレスジェネシスは仮面を被り

「では、以上だ。後は、桜井総理と折衷してくれ…」


 アレスジェネシスは、ソラリス府から出て空へ、ソラリスへ戻る。

 その飛行中に

「全く、これだから…権力が欲しいヤツは、使えない。他人に何かを頼むしか能が無い寄生虫のようだ。いや…寄生虫の方が、まだ…ましか…」



 アレスジェネシスが宇宙にいるソラリスへ到着すると、ソラリス上部、資源隕石を取り込む巨大粉砕口の部分で光が瞬いていた。

「なんだ?」

 アレスジェネシスがそこへ向かうと…。

 数キロサイズの隕石の上に、全身を装甲で包み翡翠色の結晶多翼を背負うヘパイトスこと、平行過去別世界の若い自分、山中がいた。

 その隣には、ネルフェシェルがいて、同じ位置で浮かんでいる。


 ヘパイトスこと山中は、背中にある結晶の多翼からフィールド型ナノマシンを放出する。光の帯であるナノマシンの線が幾つも広がり、数キロサイズの隕石を包み込むと、その光の線が電子回路のように広がり、隕石の構築物質を組み替えて、メタトロン(極小機械集合システム素材)を生み出していく。


 それをアレスジェネシスは静かに見つめる。

 遂にここまで力を付けたか…。

 どこか、感動している己がいる。


 数キロの隕石をメタトロンに変化させたヘパイトスに、ネルフェシェルが

「合格だ」

と、太鼓判を押した。


 ヘパイトスこと山中は静かだった。

 そこへ、アレスジェネシスが来て、ネルフェシェルが会釈する。

 アレスジェネシスもネルフェシェルに会釈で返し、ヘパイトスを見つめる。

 

 静かに、二人は見つめ合い、アレスジェネシスが

「その実力だと…私と同じ階位の力は持っているだろう」


 ヘパイトスは視線を背ける。


 アレスジェネシスが近付き

「どうだ? もう…日本から離れて、その力を存分に世界で発揮しては? 私が北朝鮮や中国の軍事力を崩壊させたように…」


 ヘパイトスは結晶の多翼がある背を向け

「そうやって、オレをけしかけて、自分の双璧として立たせ、世界を操るつもりなんだろう」

と、ソラリスへ降りていった。


 ネルフェシェルがアレスジェネシスの隣に来て

「もう、単騎でソラリスを建造できる程の実力を秘めています」


 アレスジェネシスは腕の一つを組み

「で…外に出る気配は?」


 ネルフェシェルは首を横に振り

「北朝鮮の問題をかたづけても…何も変化は…」


「やれやれ…」とアレスジェネシスは首を傾げ

「このような事が出来るぞを示しても…動かんとは…。まあ、気質は…裏で色々とやりたいタイプだからなぁ…」


 ネルフェシェルが肩を竦め

「目立ったことが嫌いなのは、天帝と同じですね。平行別過去世界なので、多少は…違うと思っていましたが…」


 アレスジェネシスは顎を擦り

「結局は、尻を叩くより…心を動かされる理由を持つ者と引き合わせた方が…動くか…」


 ネルフェシェルが

「では…裏で情報を…」


 アレスジェネシスはニヤリと笑み

「大々的な事でない。ソラリスの技術融合を果たした。初の人類と…な」


「はい」とネルフェシェルは頷いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 ヘパイトスこと山中は、買い物に来ていた。

 100キンにより、頼まれたモノを手にしていると…不意に視線を感じた。

 文房具置き場のそこには山中しかいない。

 山中は伏せがちにして、周囲を見ると…こっちを見ている女性がいた。

「んん?」


 知り合いでもない。ましてや…。


 そう、山中のいる町は人口が二万程度の山間部が多い小さな町だ。

 どうしても買い物をする面子が一度は見た事がある人が多い。


 しかも…女性一人…。

 だいたい、こういう日用品が多い100キンに来るのは主婦か、家族連れ、駄菓子を買いに来た子供達。

 地方の田舎では、独身男性は少ない。

 自分は、マイノリティーだ。

 自分の友人全ては、結婚しているか、必ず彼女がいる。

 しかも、結婚している全員は、子供がいて幸せそうだ。

 結婚圧力が強い田舎の町で、独身の女性がいる…?


 数十キロ離れた人口が数十万も集中する政令指定都市くらいなら、あり得るが…。


 独身の女性なんて、田舎にいない。

 ホボ…いない。


 というか…こっちを見ている女性の服装が全くそぐわない。

 女性が、防犯ミラーを背にする角に来る。

 まるで、仕事に来たようなスカートスーツだ。


 ええええ?

 

 それも際立っている。

 地方田舎町の日用品がある100キンになんて、スーツでくる事は無い。偶にいるが…直ぐに目的のモノを買って出て行く。


 もしかして…

 

 山中、目的のモノを手にして早歩きで、その女性に向かって歩いて行く。

 女性が気付き、距離を取る。


 完璧に監視だ。


 普通というのも悪いが…買い物に来たのなら、商品に眼がいって自分なんて気にならない筈だ。横を通り過ぎても気付かない。


 山中は歩みを止め、傍にあった手鏡の商品を手にして90度ターンをして背を向けて歩く。

 そうすると…女性が適度な数メートルの距離を取って来る。

 山中は商品を見る振りをして、手鏡で後ろを見ると、バッチリ、こっちを見ている。

 しかも一人じゃあない。二人いる!


 山中は、直ぐに商品を精算すると、猛ダッシュで、その場から離れる。


 それを追跡している女性が追う。

 

 山中はとある角で曲がり、それを女性二名が追う。

 その曲がり角へ女性が来て、山中がいない事に戸惑い、進むと壁の合間に隠れていた山中が出て来て

「何のつもりだ?」


 二人は困惑していると…緊張した笑みで

「な、別に…ねぇ…」

と、隣にいる女性に呼び掛け

「ええ…」


 山中は額を小突きながら

「アンタ達、離れていたくせに、なんで親しいんだ?」


 人は緊張すると、無意識に顔や動きに出てくる。

 どんなに訓練しても、それは現れる。


 女性は構えるように腕を交差させ、左手をスーツの中に入れた。


 恐らく…銃があるのだろう。

 山中は呆れ顔で、フゥ…と溜息を漏らし

「なぁ…事情を説明してくれるなら…。別に、怒りはしない。まあ…何となく監視される理由は、察しているから」

 ソラリスの事だろう。


 二人は視線を交差して、アイコンタクトをした後、一人が

「私達は、アメリカのCIAの者です」


「え!」と山中は驚く。

 彼女達は、日本人なのだ。日本人の顔をしている。

「マジで?」


 彼女達は肯き

「私は、日系で彼女は…。留学生のスカウトで…」


 山中は困惑気味に

「そこまで、言って良いの?」


 CIAの彼女は肯き

「はい…貴方に敵意がない事が分かりましたから…」


 山中はコメカミを掻きながら

「女性に手をあげる程、外道じゃあないから…。で、目的は?」


 CIAの彼女が

「貴方の監視と情報を…。本当は…監視衛星を使おうとしましたが…。ソラリスによって監視衛星が回収されて、何時も日本から遠ざけられるので…」


 山中は肯き

「ああ…人海戦術になったのね。君達が…監視をするのは…やっぱり、ソラリスが…」


 CIAの彼女は肯き

「はい…。情報で貴方がソラリスの技術融合体第一号だと…」


 山中は後頭部を掻いて

「ああ…まあね…確かに…。その…監視をするって理由から察するに…オレを取り込む為に…」


 CIAの彼女は肯き

「はい、有益な情報を得て…貴方を…」


 山中は腕を組み…顎を擦り考えながら

「そのオレが、第一号だって情報は…けっこう広まっている?」


 CIAの彼女は肯き

「はい。イギリスもロシアも、イスラエルも、イタリア、ドイツ、中国、フランスも…」


 山中は渋い顔をする。

 おそらく、スパイ衛星や、日本のネットワークを利用出来ないとしたら…確実に彼女達のように監視者が増えるだろう。

 プライベートが、色々と迷惑を掛ける人が多くなる。

 妹夫婦や、弟夫婦達にも迷惑が…。


 考えている山中、ヘパイトスにCIAの彼女が

「あの…どうせなら…ウチで働きませんか? ソラリスの技術が欲しい国は沢山あります。きっと、来てくれたら、報酬だって望みのままでしょうし…」


 山中は、右手を横にすると、その右手を右肩から装甲と結晶の翼が広がり

「ああ…これね…」

 右腕は漆黒の装甲に包まれ、翡翠色の多翼があるそれに、CIAの彼女は驚きを見せ

「はい。本当に第一号なんですね…」


 山中ことヘパイトスは、片腕だけのデウスマギウスを動かしながら


 上手く…納得して終える方法は…ないな…。よし!

 

僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、時に理性を失うことも好ましい

Misce stultitiam consiliis brevem dulce est desipere in loc


 野蛮に行こう!


 ヘパイトスはCIAの彼女達を指さし

「面倒クサい事は止めよう。10名の精鋭部隊とオレが勝負して、その部隊が勝ったら、オレがそっちに行くよ。負けたら…監視というか、オレの平穏を乱さないでね」


 CIAの彼女達は驚きを見せ

「つまり、勝負して…勝てば…来てくれると…」


 ヘパイトスこと山中は肯き

「ルールはサバイバル戦闘、武器は…ミサイルとかバズーカとかは止めてね。アサルトライフルとか拳銃までならOK。持てるマシンガンとか…なしね。対装甲弾頭も止めてね」


 CIAの彼女達が

「大丈夫なんですか? 銃を使うなんて、危険では?」

 

 ヘパイトスは、右腕だけのデウスマギウスを動かしながら

「大丈夫、おれは…この装甲…全身をデウスマギウスに出来る。まあ、アイアンマンみたいに出来るから問題ない」


 CIAの彼女達は戸惑いを見せつつ

「本当に、勝てば…」


 ヘパイトスは肯き

「出来ない約束はしない。だから、君達が負けたら…オレや家族、友達、親類に迷惑を掛けるのは止めてね。約束を守らないなら、オレも守る義理はない。その時は…容赦はしない」

 鋭い目をヘパイトスは向ける。


 CIAの彼女達は肯き

「分かりました…」


 ヘパイトスが

「あと、他の欲しい国にも呼び掛けて、同じ約束をさせて参加させても構わない。寧ろ、一遍に何とかしたい。日時と場所の連絡をしたいから…連絡先が分かるモノは?」


 CIAの彼女が懐から名刺を取り出し

「ここに、私のアドレスが…」


「はいはい…」とヘパイトスが受け取り、名前を見ると

「へぇ…朝宮 葵ねぇ…。偽名だよね」

「はい」とCIAの彼女、朝宮は頷いた。

「じゃあ、今日中に連絡するから…。じゃあね」

とヘパイトスは、デウスマギウスをしまって歩き出すと、その背に朝宮が


「あの…すいませんでした。ありがとうございます」


 山中ことヘパイトスは、戻した右手でバイバイをした。


 そして、数時間後…朝宮のアドレスに戦う場所と日時をメールした。

 場所は、家がある村の更に奥の山々の窪地。時間は一週間後の夜中であった。


 この事をソラリスにも知らせたが…好きにしろ、と未来から来た自分、アレスジェネシスから言われた。その顔はどこか、楽しみのように笑んでいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 三日後、朝宮からメールが来た。

 これに参加する国のリストだった。

 アメリカは当然だが…ロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オーストラリア、イスラエル、スイス。

 11カ国のエントリーだった。

 律儀…というか、自分が何処に負けたかをハッキリさせないと、後々問題あるとしてのリストの送信なのだろう。


 ルールが載っている。

 一カ国、十名一チーム。

 武器は拳銃、アサルトライフルと軽武装のみ。実弾可 装甲弾は不可。

 軽武装、ナイフ、手榴弾、防弾装備。

 

 敗北した国に従う。

 なお、勝った後の労働契約については、事が終わった後にする。

 死傷者及び、その責任は問わない。

 敗者の国は、今後、山中 充氏とは関わらない。

 その家族、親族、友人もその限りである。


 明確なルールがあり、山中は、一応は約束を守ってくれていると理解して、返信に。


 なお、当日において、関係者以外の巻き込みを防止する策を講じられたし 


と、返信を送った後、直ぐに返信が来て。


 了解しました。と朝宮のメールの次に

 もし、心変わりがありましたら…何時でも受け付けています。

と、最後にあった。


 山中は「ねぇーよ」とツッコんだ。



 そして、当日が来た。

「じゃあ。行ってきます」

と、母親に告げると

「気をつけてね」

 心配する声の隣に

「かる~く~ひねってきてね~」

と、ウリエルがいた。


 山中が渋い顔で

「なんでいるんだよ」


 ウリエル以外に、多くのアイオーン達が家にいる。しかもお茶をご馳走になって寛いでいる。

 ウリエルが

「だって~約束を~破るヤツがいる筈だから~」


 要するに負けた場合に家族を人質に取る連中がいるって事だ。

 妹や弟の家族にもアイオーン達が付いている。


 ウリエルが

「天帝~が言ってたもん~。人の善意より、人の悪意の方が信用出来るって」


 山中はフッと嘲笑い

「まあ、確かにな。人の面の皮は、悪意でさえ、善意に覆うからな」


 山中は、車に乗って目的の山奥の窪地へ向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 車を窪地の所に置いて、周囲を見渡す。

 真の闇に包まれている山奥、人の眼には闇しか見えない。

 だが…気配がする。


 山中は懐にあるスマホを手にすると、あと数分で始まる。

 現時点で襲って来ない事自体、約束は守られているようだ。


 スマホを見続けていると、時間になった。

 そして、赤い光が地面を走って足に向けられた。

 狙撃だった。

 貫く弾丸が、山中の足を襲う。

 山中が地面に転がる。


 そこへ、闇の中から数名の者達が拳銃USPを手にして近付く。

 時間到達の速攻をしたのだ。

 地面に横になっている山中へ静かに近付く全身を黒いサバイバルスーツに覆う一団。

 拳銃のUSPの銃口を山中に向けたまま、山中の安否を確認しようとした瞬間、山中が飛び上がって近付いた一団へ走る。

 USPから弾丸が出る前に、山中は一団へ到達。USPの先端が、山中のクローで削り取られる。

「ああ!」と声を上げている間に、山中は腹部へ正手を叩き込む吹き飛ばす。


 USPの銃口が吼える。その弾丸が山中へ到達するも跳弾して弾かれる。

 山中の全身は漆黒の装甲、デウスマギウスに覆われていた。

 人型のデウスマギウスが走る。

 弾丸が弾かれて漆黒の装甲に火花を咲かせる。


 山中の足は負傷してなかった。始まった瞬間にデウスマギウスへ変化していた。


 山中からヘパイトスになり、そのクローで合金の塊であるUSPを削り取る。

 拳銃では歯が立たないとして、ナイフを手にして斬り掛かるが、そのナイフさえ削り取り、強烈なパワーで一団を投げ飛ばす。


 ヘパイトスの腕を掴む者、そのまま十字固めで腕をへし折って倒そうとするも、人知を超えたパワーと強度に負けて投げ飛ばされた。

 別の戦闘員がヘパイトスの横から来て人体の急所である喉や鳩尾にナイフを向けるも、装甲に阻まれ折れる。

 その顎に強烈な一発を貰って吹き飛ぶ。

 数秒の間に、先方が敗れ去った。


 ヘパイトスは最大の観測力を発揮する為に、額の第三眼を開く。

 三つの眼が闇の中で光る。


 暗視ゴーグルでそれを見ていた挑戦者の戦闘員の背筋が冷たくなる。

 ヘパイトスが、人知を超えたバケモノに見えた。

 逆に言えば、それ程にソラリスの技術は凄いという証明だ。


 ヘパイトスに狙撃が放たれるも、ヘパイトスは走り出し、狙撃の弾丸が後ろに消えた。 

 それは…闇の中を走る獣だった。三つの眼を光らせ狼の如く山の中を疾走する。

 闇を獣の如く走るヘパイトスにアサルトライフルの弾丸が襲い掛かるも、照準より早くヘパイトスが動き避けて、攻撃手に迫ると、ボロキレの如く投げられた。

「うあああ!」

「ぎやあああ!」

 悲鳴が山の中に響き渡る。


 狙撃主が狙い撃つも、撃った瞬間に向きを変えられ、全てが避けられる。


 発射する動き全てを分かっているかの如く、ヘパイトスが疾走する。


 ヘパイトスは額に開いた第三眼の力、領域探知を使ってここにいる全ての攻撃者の動きを見ている。その位置さえも手に取るように分かる。

 律儀に、人数はチャンと110名だ。


 己の土地であるようにヘパイトスは、闇の森を走る。

 ここはヘパイトスの家より近い山奥、土地勘や方向感覚はバッチリだ。

 それは、この挑戦者達も念入りに調べているが…そこで暮らしている者と来た程度の者では、その土地に理解度には雲泥の差がある。

 戦いは八割が地の利を制した者が勝利する。

 

 それを挑戦者達は忘れていた。


 これが同じ銃器をメインにした戦闘なら、訓練された彼らの方に軍配がある。

 対人戦ではない、ソラリスの力を持ったバケモノとの戦いなのだ。


 狙撃で、傷つかないなら…接近戦で戦うしかない。

 狙撃銃をアサルトライフルに装備変更して、ヘパイトスに襲い掛かる。

 数十人が、アサルトライフルの掃射に切り替え、ヘパイトスを襲うも、ヘパイトスは三つの眼の観測によって、全ての弾頭通過ラインを見て、軽やかに避ける。


 戦法を変更、アサルトライフルでの支援でヘパイトスの動きを鈍らせ、近接戦闘に持ち込む。

 手榴弾は、放られて到達する前に、ヘパイトスが信管ごと切り裂き、不発にされる。

 

 アサルトライフルの援護で、二人が特攻するも、それをヘパイトスは掴み紙くずの如く援護する者達へ投げ、共倒れになった。


 実際、国が違う同士の挑戦者達は、結託していた。その方が勝率は高いのは当然だ。

 だが、それも意味はなかった。

 ヘパイトスの圧倒的な膂力の前に、全員がボロキレの如く屠られていく。


 遂に一人がヘパイトスに抱き付き

「クソッタレがーーーー」

 頭部を拳銃のファイブ7で連射する。

 その全ての弾丸、顔に接触した瞬間、ヘパイトスが張った高電磁湾曲シールドに引っ張られ、顔を貫通する事無く、周囲に拡散、その流れ弾に、抱き付いた戦闘員が襲われ転がった。戦闘員はやられた右肩を押さえていると、ズンと前に三ツ目を光らせるバケモノのヘパイトスがいた。

「デビル(悪魔)…」

 戦闘員はやられると思ったが…ヘパイトスはフッと笑った次に、その場から走り出した。

 負傷して戦えなくなった=負け。

 無闇に襲う必要性はない。


 ヘパイトスは闇を走り、戦いを挑む戦闘員を全て襲撃する。

 銃もナイフも、体術も効かないヘパイトスに狩り倒されて行く。

 

 二時間後、全ての戦闘員を倒し終えると、数台の大型車両達が入ってくる。


 ヘパイトスの前にいる動けない戦闘員が

「全員、やられた…アンタの勝ちだ」


 ヘパイトスは、倒した戦闘員は担いで、大型車両達がいる窪地へ向かう。


 そこには多国籍軍の兵士達が、倒された110名の回収をしていた。


 ヘパイトスが、持って来た戦闘員をその者達に渡すと…

「待ってくれ…」

と、米兵が止める。

 ヘパイトスが振り向くと米兵が…

「なぁ…アンタの力を必要としている人達がいる」


 無視してヘパイトスはデウスマギウスを解除して山中 充になり、乗って来た車へ向かう。


 車に乗る寸前に、米兵がドアを押さえて止め

「なぁ…アンタの力は、誰かの為に生かすべきだ! それ程に強大な力は、人類全体の為に使う事が使命じゃあないのか!」


 山中は、ドアを押さえる米兵の手を握り力を強めて

「そんなのどうでもいい。人類全体の為を思うなら、お前等の政治や軍隊を使って何とかしろ」


 米兵が山中の腕を掴み

「今のオレ達は…ソラリスを前にして無力だ」


 山中は、米兵を睨み見て

「そんなの昔のお前等、アメリカ様、先進諸国様がやった事だろうが…。無力だったら無力なりに努力しろ。オレは無力だった時に、そうして努力したし、今も続けている」


 米兵は、山中の威圧に押されて動かないと、その胸部に山中は押して退けて、車に乗って帰って行った。


 それを…ソラリスのアイオーン、ラグエルとネルフェシェルが上空にいて見ていた。

 無論、ソラリスにもそれは捉えられていた。


 片付けをしている者達の上から、ラグエルとネルフェシェルが降り立ち

「さあ、皆様…ご帰宅の準備は? 何か不備があるなら…手伝いましょうか?」

と、ラグエルがどことなく皮肉な感じで尋ねる。


 それを指揮している者が

「大丈夫だ」

と、協力を拒んだ。


 ネルフェシェルは肩を竦めて

「そうですか…」

と、空へ帰っていた。


 ソラリスへ帰る二人を見て米兵の一人が

「クソ…」

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