第17話 ゼウスより炎を盗む者


 ソラリスの王座にてアレスジェネシスは、ラグエルから破壊した北朝鮮の現状報告を聞いていた。

 ラグエルが

「現在、米軍の管理によって北朝鮮は、民主国家へ移行しています」


  アレスジェネシスが、データの立体画面を捲り

「で、自衛隊が…米軍に参加しているのだな」

 

 ラグエルは肯き

「はい。派遣は、日本の国民議会、国会によって承認されています」

 

 アレスジェネシスが渋い顔をして

「もう…米国の言いなりになる必要が無いのか?」

 

 ラグエルは

「自衛隊の中には、人道的な事に関しての行動を起こすべきという考えが根強いです」

 

 アレスジェネシスは、額を小突きながら

「軍隊ではないだから…」

 

 ラグエルは肯き

「はい。我々が来る前の自衛隊の主な任務は、人命救助と災害活動でしたから」

 

 アレスジェネシスは、腕の一つで腕を組み

「まあ良い。それが国会の決定なら、問題はないだろう。何かあった場合は、議員が責任を取るだけだ」

 

 ラグエルが次のデータを開示する。

「次が我々が北朝鮮を攻撃した時の、各国々の動きです。我々の反粒子砲の抑えがあるので、軍事的動きは一切ありませんでした。後々も行動を起こしていませんが…。ロシアが…」

 

 アレスジェネシスはラグエルを見つめて

「何か問題を起こしたのか?」

 

 ラグエルが渋い顔で

「高高度偵察機を何度か…」

 

 アレスジェネシスは淡々と

「どう対処した?」

 

 ラグエルが次のデータを出して

「我々、アイオーンが接近して警戒をすると、直ぐにロシアへ戻りました」

 

 アレスジェネシスは

「それでロシアは?」

 

 ラグエルは首を横に振り

「何も…音沙汰もありません」

 

 アレスジェネシスは王座から立ち上がって

「分かった。とにかく、占拠した北朝鮮はアメリカに任せる事にするとしよう」

 

 ラグエルが

「朝鮮半島の南北が統一される事でしょう」

 

 アレスジェネシスはニヤリと笑み

「どうだかなぁ…。自力で一つになった訳ではない。案外…分裂したままかもしれんぞ」

 

 ラグエルが

「確かに、国家形態が違う国同士でしたから…」

 

 アレスジェネシスは頭を振り

「違う。朝鮮半島は北と南で全く違う文化形態を持つ地域だ。歴史を見ると、朝鮮半島北部は、様々な民族と人種が入り交じった混沌とした場所だった。その混沌が未だに残っているのだ」


 「はぁ…そうですか…」

と、ラグエルは驚きを向ける。

 

 アレスジェネシスが

「という事だ。自分達で纏まる気になるまで、放置して置け」

 

 ラグエルが肯き

「了解しました」


 アレスジェネシスは王座から去って行くと、地上へ降りた。

 向かった場所は、ソラリス府だ。

 アレスジェネシスは仮面を被り、ソラリス府の王座に座ると、正面にあるゲートから数名が来る。

 先頭は女性で、その両脇を黒服のSPが囲んでいる。

 ヨーロッパ系の女性は、アレスジェネシスの前に来ると、胸に手を置き

「今日は、お招きして頂きありがとうございます」

と、感謝を告げた。

 女性の両脇にいる同じヨーロッパ系の男性SP達が緊張している。

 

 ここのソラリス府の王座には、アレスジェネシスしかいない。

 アレスジェネシスは見ての通り、三メータ半の巨体が機械装甲で覆われているバケモノだ。

 もしも、自分達が、襲われた場合、圧倒的に不利だ。


 女性はニッコリと微笑む。

 アレスジェネシスは三つの眼を鋭くさせ

「別に感謝する必要は無い。合って欲しいと桜井総理からの要請で通しただけだ。アメリカ大使、キャロライナ・ケルディナ殿」

 

 キャロライナは

「これを機会に、ソラリスとアメリカとの」


 「どうでもいい」

と、アレスジェネシスは吐き捨て

「目的を言え。何をアメリカは求めている?」

 

 強引なアレスジェネシスに、キャロライナは困惑を浮かべ

「ステイツは、ソラリスとの友好関係を望んでいます。まずは…ソラリスの総帥でありますアレスジェネシス様」


「はぁ? 金にしか興味が無い弱肉強食の国が、友好なぞ。信じられん」

と、アレスジェネシスは遮り

「目的を言え、それ以外に望んでいない」

 

 キャロライナは呆れた顔をした次に

「解放された北朝鮮に関しての統治の事で…」


「ほぅ…我らにどうしろと?」

 アレスジェネシスは冷淡だ。


「米軍に協力をお願いしたいのです」

 キャロライナは告げる。


 アレスジェネシスは腕の一つを組み

「防衛だけは、担当する。それ以外は、そちらで勝手にやれ」


 キャロライナは、アレスジェネシスを見つめて

「他に…何か…」


 アレスジェネシスは王座から立ち上がり

「ない。キサマ等、アメリカが第二次世界大戦前に、日本に満州国を手放すように迫ったのを我々は理解している。その二の舞はしない。アメリカの勝手にしろ。我らは日本地区以外に興味はない」


 アレスジェネシスが歩き出し、SPが警戒で懐に手を入れる。


 その一団を避けてアレスジェネシスは去る。

 その巨大なエメラルドの多翼の背中にキャロライナが

「どうして、北朝鮮を攻めたのですか?」


 アレスジェネシスは、仮面の横顔を見せ

「はぁ? 知らんのか? 連中は、我らの国、無断で侵入、妨害工作のテロを行おうとした。国民を守る為に、潰しただけだ。お前等、アメリカもそうだろう。同じ事をやった。それまでだ」


 キャロライナが

「ドランド大統領が、ソラリスの為に様々な好条件を提示しています。どうか…ご考慮を」


 アレスジェネシスが顔を前に戻し、ゲートを潜りながら

「キサマ等に、価値があると思うな。日本以外の大陸全てを灰燼にして、再び人類新生を初めても、構わないのだからなぁ…」

と、言葉を残して去って行った。


 アレスジェネシスが去ったソラリス府の王座で、キャロライナに部下の一人が来て

「大使…」

 キャロライナが呆れ気味に

「大統領にプロメテウスを語って頂きましょう」

 それはとある作戦の隠語だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 それはとある個人病院での事だ。

 院長の老人と、東城が向かい合っていた。

「なんだい父さん。急に呼び出して…」

 

 院長は東城の父親だった。

「こうでもしないと、お前は…帰ってこないだろう」


 東城は頭を振り

「父さんのワガママに振り回される時間はないんだ。帰るぞ」


 父親は

「お前は、医者にならなかった」


 東城は父親の言葉に不快な顔で

「妹の奈央がなったろう!」


 父親は感慨深い顔で

「別にその事を、今は怒ってはいないが…。政治は不安定な世界だ。もしもの場合は…。そのバックアップとしては、将来、ウチで働く事を考えて置けよ」


 東城は呆れた顔で

「そんな心配をする限り、永遠に父さんの心配事の通りはならないよ」


 父親は、机にある医療端末に触れて

「まあ、説教はここまでとして…」

 とある画面を東城に見せて渡す。

「お前は、これをどう思う?」


 東城が見ている画面は、ソラリスのデータバンクにある膨大な量の医療データだ。

 ソラリスが来てから、日本は今まで治療不可能とされた病気さえも治療可能となった。唯一、治せないのは寿命だけ、だが、治療が可能となると寿命は飛躍的に伸びるのは間違いない。


 東城は父親に端末を返して

「まあ、凄いと思うよ」


 父親は受け取り

「大学で遺伝子工学を専攻していたお前は、このデータ群を見て、不思議だと感じないか? 人類について詳しすぎると…」


 東城は腕を組み

「占領する前に、詳しく調べたんだろう。兵法としては当然だ。敵を知れば勝つ、知らなければ勝てない」


 父親は伏せがちで

「本当にそれが理由なのか? 私には…まるで、ソラリスが始めから人類の為に存在するような気がする」


「はぁ? 異星人なのに?」

と、東城は訝しい顔をする。


 父親は真剣な目で

「本当に異星人なのか? 彼らは…」


 東城が

「じゃあ、ソラリスは人類が作った存在だって言いたいのか? バカらしい。あんな凄すぎる技術なんて、人類には生み出せない。彼らは人類より遙かに進んだ文明から来たとしか説明が出来ない」


 父親は肩を下げ

「秀一、思い込みで物事を見ると…見誤る。今一度、彼らがなんなのか…考え直してみてはどうだ…」



 東城は父親の病院から去り、車に乗りながら父親の「思い込みで物事を見ると…見誤る」を思い返した。

「思い込みか…」

と、確かにそうだと…噛み締めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 東城が父親と話した夜、ソラリス内の空中庭園で、アレスジェネシスが花を観賞していると、ネルフェシェルが飛んで来た。

「どうした?」

 尋ねるアレスジェネシス。


 ネルフェシェルが

「急いで王座に戻ってください。お話しする事が…」


 ソラリスの王座には、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルと女性のレーナのアークエンジェルのアイオーンと、ラグエル、サラカエル、レミエルのトーマのアイオーンの七名もいた。


 アレスジェネシスは、集まっている七人を見て

「どうした?」


 ミカエルが

「これを見てください」


 七人が輪になっているそこへ平面湾曲の世界地図の立体映像が浮かぶ。

 そして、そこには無数の光点が示されている。

 アレスジェネシスは来て、それを見つめて

「これは…」


 ネルフェシェルも隣に来て

「我々がバラ撒いたネットワークデバイスの分布です」


「ああ…確かに」とアレスジェネシスは納得する。


 その地図の光点の分布は、主に中国と朝鮮半島に集中して、後は疎らにロシア、中東、インド、東南アジアと、僅かにヨーロッパや、アフリカとある。


 ガブリエルが「これを…」とアメリカ大陸を指差すと、僅かにネットワークデバイスの光点が出た。


 アレスジェネシスは腕の一つを組み

「なんだ。アメリカにも行っているのか…。意外に広まったなぁ」


 ガブリエルが首を横に振り

「天帝、妙なのです。このアメリカにいったネットワークデバイスのGPSが中国のGPSであると。ですが…我々のバイリオン波動反射探査では、アメリカにあると…」


「はぁ?」とアレスジェネシスは眉間を寄せる。


 ネルフェシェルが

「我々が広めたネットワークデバイスには、確かにGPS信号を受信して位置を知らせる機能があります。それ以外に極秘にバイリオン波動反射探査によって位置を調べられるナノマシンマーカーが組み込まれてもいますが…」


 ミカエルが

「そのナノマシンマーカーは、システムとは独立しているので、操作するのは不可能です」


 アレスジェネシスは、手の一つで額を小突きながら

「つまり…システムを弄って、ワザとそれが中国にあると、偽装しているのか…」


 レミエルが肯き

「はい、恐らく…」


「何の為に?」とアレスジェネシスは首を傾げる。


 そこへソラリスを司るDIのセフィロスが出て

『天帝、よろしいでしょうか?』


「どうした?」とアレスジェネシスが


 セフィロスは淡々と

『ソラリスにハッキングが行われています』


『”はぁ?”』

と、全員が疑問の声を同調させた。


 ラグエルが「どこだ!」と怒り気味に尋ねると、セフィロスが


『おそらく、我々が放出させたネットワークデバイスからです』


 サラカエルが「規模は?」と


『数万機のネットワークデバイスですからです。ですが…妙な事が…』


 アレスジェネシスはハッとして

「まさか…そのネットワークデバイスは…」


 セフィロスは肯き

『はい、先程…皆様が話していた。GPS信号は中国で、ナノマシンマーカーの反応は、アメリカやヨーロッパといった場所であるというデバイス達です』


 ミカエルが

「まさか…全世界同時、ハッキングを開始したの?」


『はい。同時に始まりました』


 ガブリエルが

「ソラリスは、どうなっているの?」


『全く問題ありません。ダミーシステムとデータのあるブロックに流して、何も奪われていません』


 アレスジェネシスは右腕の一つで顎を擦りながら

「セフィロスよ。逆ハッキングは可能か?」


『はい、行っているコンピューターシステムの規模は、ハッキングによって大凡、目星は付いていますので。それから推察するに問題はないか…と』


「よし、やれ…」とアレスジェネシスは命令した。


『はい』とセフィロスが了承した後、セフィロスの周囲に無数の幾何学魔法陣が浮かび、命令の逆ハッキングを開始する。


 レミエルが

「天帝、どのようにするつもりで?」


 アレスジェネシスは怪しい笑みをして

「少しばかり驚かせてやろう」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アメリカの国防総省では、その施設にあるコンピューターシステムをフル稼働させて、ソラリスへハッキングしている。

 そのコントロール広場では、無数のオペレータと、ハッキングのハッカー達が、コンピューターを操作している。


 とある席で、プログラムを組んで送るハッカーの一人に、上官が来て

「どうだ?」


 ハッカーが組みながら

「送られてくるデータから、専用のボットを組んでいます。これを送れば、ソラリスの情報を好きな時に好きなだけ、気付かれずに取り出せますよ」

 自信満々だ。


 上官は笑み

「期待しているよ」


 他のハッカー達も、急いでプログラムを組んで、ソラリスへ送り込んでいる。

 隣にいる同じハッカーが

「本当にチョロいよなぁ。所詮、どんな高度な技術を使ってもネットワークシステムを使うなら、オレ等の勝ちだね」


「ああ…戦争じゃあ、負けたが…情報戦じゃあ、オレ等の勝ちだ。目に物見せてやる」


 二人を挟んで隣の女性ハッカーが

「でも、本当にこんなに簡単でいいのかしら? だってあんな技術力を持った異星人よ。幾らなんでも簡単すぎるわ」


 男のハッカーが

「アレだろう。インディペンデンスディみたいに。オレ達がこんなにコンピューター技術が高いなんて思ってもいないんだろうよ」


 女性ハッカーは不安な顔で

「だといいけどね…」


 ソラリスへのハッキングは、アメリカ、ヨーロッパの国々の機関が協力して行っている。皆の利害は一致していた。



 ソラリスでは王座にてアレスジェネシスとアークエンジェル七人にネルフェシェルが、セフィロスから

『天帝、全てのハッキングしているシステムの逆ハッキングを完了しました』

と、報告が終わった。


 ミカエルが

「以外にアッサリと終わって拍子抜けね」


 レミエルが

「まあ、我々が持つシステムより遙かに、この地球にあるシステムは劣っていますからね。例えるなら、古いゲーム機と、最新鋭のスーパーコンピューターですかね」


 アレスジェネシスが

「連中のハッキングは? 終わりそうか?」


 セフィロスは首を横に振り

『ダミーデータを取れるだけ取得しているようです。正直…ダミーデータに始めから逆ハッキングを組み込んでいるので…。掌握は簡単でした』


 アレスジェネシスは顔を引き攣らせ

「お前も、なかなかエグい事をするなぁ…」


 セフィロスは淡々と

『わたくしも創造主である天帝の娘ですから』


「は、はい…」とアレスジェネシスは微妙な気分だった。


 セフィロスが

『この後は?』


 アレスジェネシスは笑みを浮かべ

「乗っ取った機器のデータを全て取得しろ」


 セフィロスの右に円の図形が浮かび動き出し

『全て取得するまで15分ほど、お時間が掛かります』


 アレスジェネシスは

「その間に、相手側のハッキングは終わってしまうか?」


『終わらないように、ダミーデータを生成し続けて繋ぎ止めます。取得後は?』


 アレスジェネシスは右手の一つを掲げ握り

「ハッキングに使われた機器を全て自爆させろ」


『はぁ…ですが…。それでは、世界的に大きな影響が…』


「自爆して破壊した後、世界に影響を与えない為に、我々が取得したデータを元に管理しろ」

と、アレスジェネシスは命令した。


 セフィロスは肯き

『了解しました。全ての事を全く問題なく遂行出来ます』


 セフィロスが動き出すと、ガブリエルが

「天帝、後で大問題になりますが…」


 アレスジェネシスはフッと嘲笑い

「構わん。やってきたのは向こうだ。相応の罰は受けて貰う」



 十五分後、アメリカ国防総省及び、協力したヨーロッパの国々の機関のシステムが、自爆した。

 画面が一瞬で、文字の羅列に変わり、火花を上げてシステムが自ら高電圧を生成し燃えた。

 世界を支えるコンピューターシステムが止まると思われたが…ソラリスのバックアップのお陰で、その影響は極少数であった。

 そして、世界中のハッキングした国々に、何時でもデータを返す準備があるので…何時でもご連絡ください、と皮肉の効いたメールが機関達の送信された。



 アメリカ、ホワイトハウスでドランド大統領は、ソラリスの総決起であるハッキングプロジェクト、プロメテウスが失敗に終わった事に、項垂れた。


 大統領執務室で、その報告をしたテッドは

「もう…後は…ソラリスに…国連本部へ来て貰うしかありません」

 全ての対応策が尽きてしまった。

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