第15話 世の常
東城は、レンタカーの自動運転にて、ヘパイトスがいる山の村へ来た。
東城が、ヘパイトスのヤマナカ ミツルの家の前の道に車を止めると、他の車が…。
そして、東城がヤマナカの家の前に来ると
「もう、良いだろう! 帰ってくれ!」
と、玄関で山中が声を荒げていた。
玄関には、男女男の三人がいて、何かを山中に話している。
「これは、中国と、日本に、とって、有効な事、です」
どこか、たどたどしい日本語で女性が話している。
山中は頭を抱えて
「そんなの、知らんわ! オレには権限なんてない!」
女性の両脇にいる男性が
「アンタが、一番、権限を持っている。ソラリスに、行ってる。我々は、知っている。これは、世界の命運が、掛かってる」
ドンと山中は、玄関を叩き
「知らん! 出てけーーーーー」
と、手を大きく振って拒絶を示した。
三人は、互いに顔を見合わせた次に女性が
「また、来ます」
と、言い残し、山中は
「二度と来るなーーー」
と、怒鳴った。
入れ替わるように東城が来て
「どうも…」
「ああ!」
と、山中は苛立った顔を向けた。
東城は困惑気味に
「またにするよ」
山中は項垂れ
「いい、上がってくれ」
と、東城を入れた。
東城は家に入り、お茶を貰いながら
「何があったんだね? さっき…」
山中は、斜め隣に座って
「連中は、中国の…中国共産党の連中さ。オレが、ソラリスに行っているのを知って、アレスジェネシスとの対談をお願いしたって…お金は幾らでも出すと…」
東城はお茶を貰いながら
「君にそんな権限が」
「ねぇよ」
と、山中は即否定した。
「そうか…」
山中は東城を見つめて
「アンタも、同じか?」
東城は、首を横に振り
「私は違う。ただ…君と話がしたかった。それだけだ」
「何の話だよ」
と、山中は腕を組み、警戒の態勢だ。
東城が
「この、日本で…世界初の女性与党が誕生した。それについてどう思うかね?」
山中は右の目を渋くして
「別に…変わらないんじゃない? 政治を握る人物は、男性も女性も同じタイプがなる。男女差なんて、子供を産めるか産めないくらいで、社会的な事に関しては、男女差なんて全くない。でも…まあ」
山中は、腕組みを崩し手、両手を組み合わせ渋い顔で
「もし、女性が社会のメインになったら…今の、ソラリスのナノマシン技術の世界では…女性が強くなるだろう。いいや、機械的な事が発達すればする程、男女差は無くなり、寧ろ、平行して物事が出来ない男は不利になるだろうね」
東城が真剣な顔で
「じゃあ、今後、男性が活躍する職業はなんだね?」
山中は嘆息して
「農業か漁業、または…開拓業だろうね。人は食べないと生きていけないからさ」
東城は肯き
「成る程、それがソラリスが求めている社会像か…」
山中は東城を見つめて
「これは、あくまでオレの個人としての意見だぞ。当てにしないで欲しい」
東城はお茶を貰いながら
「だが、君が一番、ソラリスに近い人間だ。なら…君に意見が最もソラリスに近いと見た方が普通だ」
山中が東城に
「アンタの秘書している阿部元総理、当選したんだろう。なら、そうならないような政治をすればいいだけだろう」
東城が肩を落として
「残念ながら、政治の世界は多数決だ。圧倒的に女性与党の方が強い。それを説得するなんて難局だ」
山中は首を傾げて
「簡単じゃん。女性は、生命に関する事に敏感だ。それを持ち出して説得すればいいだろう。やりようは幾らでもある」
山中はハッとして
「もしかして、セクハラ的な方法でしか…説得が出来ない連中が…」
東城が首を横に振って
「そうじゃない。ただ…今までのやり方が通じない事に不安があるんだ」
山中は東城を見つめて
「アンタ、結婚しているんだろう」
「ああ…」と東城は頷く。
山中は胸を反らして
「じゃあ、オレより女を知っているんだから、出来るだろう」
東城はフッと笑み
「女遊びは得意じゃあない」
山中が口元に皮肉な笑みを浮かべ
「奥さんを説得するように、やればいいだろうが…。そんなに難しいの? 男女にだって友情はあるだろうが…」
東城が山中を見つめて
「君はそういうタイプなのか? 男女に友情があると…」
山中は当然の如く肯き
「ああ…当たり前だろう」
東城が腕を組み
「君を議員に推せば良かったよ」
山中は手を振り
「オレは政治に世の中を変える力なんてないと思っている。意味ないぜ」
東城が湯飲みを見つめながら
「政治家になる男性は、勢いが強く男気がある人物が成りやすい。だから、男女を、男と女として見やすい。君みたいな友情タイプなんて滅多にしかいない」
山中は「はぁ…」と呆れた声を漏らして
「セクハラ野郎しかいないって事ね」
東城はチョッと不快になるも、不意にその言い方が似ていると思った。
「君は、皮肉る時にアレスジェネシスと似ているね」
山中の目が大きく開いた次に、口元だけの笑みで
「そうだね。ソラリスに行っているし、アレスジェネシスからも技術の指導は受けている。オレって結構、自分てヤツが緩いのさ。だから…似てくるかもね」
東城は山中を見つめて
「そうは、見えないがなぁ…」
「見かけで判断しない方がいいぜ」
と、山中は笑む。
東城が帰り際。
「娘がいる幼稚園に、アレスジェネシスが来てね」
「へぇ…」と山中はちょっと驚きを見せる。
「娘のいる幼稚園児達と一緒に遊んでくれたらしい」
「さぞ、アスレチックにされたんだろうな…。あの巨体じゃあ」
「まあね。そこで、娘がアレスジェネシスの仮面を外してね」
「はぁ…で?」
「その仮面の奥にあった顔が、君に似ていると…」
山中は、フンと鼻息を荒げ
「他人のそら似だろう」
「そうか…。じゃあ、また…話でも聞いてくれ。唯一、君はソラリスに行ける貴重な人間だからな」
と、東城は去って行った。
東城は帰り際、山中の反応を見て「何か…知っているな」と踏んだ。
山中 充ことヘパイトスは「チィ」と舌打ちして
「あの野郎…それについて、カマ掛けてきやがった」
と、東城の目論見を察していた。
◇◆◇◆◇◆◇
アレスジェネシスは、ソラリスの王座で、セフィロスを隣に、黙々と書類の確認作業をしていた。
「で、この…自衛隊の新たな兵器の予算は…」
セフィロスが指先を動かし
『問題ありません。予定通りの費用です』
アレスジェネシスは右腕の一つで顎を擦り
「予定通りに進んでいるか…。しかし、余りも予定通りだと…もしもの場合に対処出来ない。不確定要素の洗い出しを近々やるか…」
セフィロスは手を動かし
『では、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル、ラグエル、サラカエル、レミエルとのアークエンジェルと、部門のドミニオンズ達の招集を行います…』
アレスジェネシスは、セフィロスに
「ネルフェシェルの方は?」
『彼は、単独行動が許されていますから…。あまり、絡みとしては問題はないかと…』
アレスジェネシスは顎を擦りながら
「今、ネルフェシェルは何をやっている?」
『主に、ヘパイトスの教育と、天帝が中央アジアにバラ撒いたネットワークデバイスの分布状況の見回りですね』
「そうか…」
と、アレスジェネシスは頷いた後
「ヘパイトスの教育の方は…どうなっている?」
『現在、圧縮空間に収納できる、デウスエクスマキナ(機械神)を使えるようになったので、様々なモノを為に創造させています。極小機能システム材料…メタトロン、アーベル型ナノマシンの原子サイズナノマシン加工機、空間波動システム、パーフェクトゼロリアクター。ほぼ…単独で数十キロサイズのシステム人工島を創造する技術は習得しています』
「そうか…で、何か…動きはないか…」
セフィロスは肯き
『動きはありませんが。様々な組織の接触に悩まされているようです』
アレスジェネシスは呆れた笑みをして
「その組織とは…中国か? ロシアか? アメリカ? または…イギリスか?」
セフィロスは、立体映像のデータをアレスジェネシスの前に置き
『十カ国です。中国、ロシア、イタリア、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、スイス、スペイン、カナダ、等です』
アレスジェネシスは冷淡な目で
「で、ヘパイトスは…」
『今の所、全て協力を拒んだそうです』
「そうか…」
と、アレスジェネシスは王座に背を深く預け
「まさか…後々に、あの時の戦争で敵になる国の全ての協力を拒んだか…」
セフィロスが、別のデータをアレスジェネシスに見せ
『もし、ヘパイトスがこの国々と協力をしようとしても、瓦解するでしょう。元来、この国の国民性は、新たな事を受け入れる土壌が弱いです。対して変化が少ない食事や、文化的な事、ことさら哲学という役に立たない分野での、柔軟性は際だって高いですが…。生活を向上させる技術システムに関して、最も受け入れようとする力は弱いです。生来あるキリスト的価値観は、神という信仰の存在によって人の統制を行っているので…その神の信仰というシステムを超えるような存在には、極度のアレルギー反応を起こします』
アレスジェネシスは、セフィロスを見つめて
「なぁ…セフィロスよ。AIを超えたDI(人工知性体)であるお前は…神を信じるか?」
セフィロスは淡々と
『我々が存在する確率的問題であるなら、神はいるでしょう。宇宙開闢から様々な確率を計算するに、神という創造者がいる方が、我々の宇宙を誕生させたとする確率が高くなります。私は、神を肯定しますが…。それは人類にとって都合の良い神を肯定する理由にはなりません』
プッとアレスジェネシスは吹き笑い
「いや…作ったワシに似るのかなぁ…」
セフィロスは淡々と
『それは否定しません。作った天帝に似るのは仕方ないですが…。この結論は、私が様々な情報を得て、至った結論です。別のDIでは違うかもしれません』
アレスジェネシスは三対ある両腕の一つを組んで
「そうだな。その話は、ヘパイトスが同じようにDIを作り出した時に聞くとしよう。でだ…ヘパイトスが無用な国家共の接触に困っているなら…助け船を出さないでもない。その方法は、なんだ?」
セフィロスが呆れた様な瞳で
『それは、お分かりになっているのでは?』
アレスジェネシスは目を細め退屈そうな顔で
「つまり、国連に、UN(戦勝国連合)に入れと…」
『はい。その通りです』
アレスジェネシスは呆れで首を傾げ
「我らが入った所で、何になる? 所詮は、第二次世界大戦の勝者によって作られた組織。どうせ、我らの技術や産物をタダで寄越せと吼えるだけよ」
セフィロスが
『残念ですが、天帝。人類は自分の利益を追求する生き物。共存や調和を取るのは人類に不可能です。与える代わりに、こちらしか整備出来ないとして条件に出せば、我々の管理下に置けます』
アレスジェネシスは皮肉な笑みで
「それは同じ人類であるワシも、同じ自己利益追求を性にしていると…」
『天帝は、ご自覚があるからこそ、まだ、マシな方です。99%の人間はそれに気付いていません。それが人類が未だに殺し合う理由でもあります』
フンとアレスジェネシスは鼻で笑い
「なら、天皇象徴を復活をしよう。元来的な天皇での外交公務を復活させ、それで国連の建前とする」
『それでは、様々な手段を使って、引っ張り込んできますよ。まだ、自身で拒絶を示した方が…コントロールが可能では?』
アレスジェネシスは右腕の一つで顎を擦りながら
「ズルをするなら、複雑にした間を噛ませたズルをする方が面白い。人類は知恵を付けると狡猾になる。最初から狡猾な者を眼前にするより、間に入れて、間にいる者が右往左往する方が、分かり易いからなぁ…」
『分かりました。それもまた、不確定要素の洗い出しの際に…』
「頼む」
と、アレスジェネシスは了承した。
◇◆◇◆◇◆◇
数日後の国民議会、国会では、ソラリスからの提案が提出されていた。
初のソラリスからの提案は、天皇象徴の復活だった。
それに反対は…僅かにあった。
女性与党からだった。
天皇、つまり、王政象徴復活は、男性の強権的な権勢の復活になるのでは…?
それに関して、レミエルが
「その可能性は低いでしょう。なぜなら、今、現在、女性政党が誕生しているのです。これを覆そうなど…思う者達は…ねぇ…」
と、男性の国会議員達を横見した。
そう、それは男としてのプライドがある男性議員として、ムリだった。
世の中は、革新的な女性政党が誕生した事を評価している。
これを覆すには、余程の事が無い限りムリだ。
そのまま、600名の議員達の多数決が取られて、過半数を超えた票を得て、天皇象徴が復活した。
つまり、それはソラリスが行った国譲りを再び、天皇に返還するという事だ。
阿部議員の秘書である東城と赤田がそれを聞いて
「いいのか? ソラリスの権勢が落ちるぞ」
と、赤田が阿部議員の執務室で、復活可決の議会を映した画面を見る。
向かいにいる東城が腕を組み鋭い目で
「問題はない。もう…ソラリスと日本は切り離せない関係だ。役所のシステムは全てソラリスだ。更にソラリスが創出しているナノマシンエンジニアは、国内で2500万人を突破した。企業でいうなら、日本で最大の企業になる。更にベーシックインカムの費用も捻出して国民に配っている。もう…日本国民はソラリスを敵して認識していない。寧ろ、天からの助けとさえ思っている」
赤田が不安な顔で
「じゃあ、我々、政治家はどうすればいい?」
東城が立ち上がり外を見る。
東京の風景は変わっていない。だが、着実にソラリスのシステムが広まって、その勢いは止まらない。
人は、外見が変わらないと、何も変化を感じない。
東城は窓に手を置き
「再び、我々の意義を取り戻すには…地道に、国民の声を聞いて進めるしかない」
赤田が
「我々に、その言葉を掛けてくれるだろうか…? 我々は、日本を守れなかった。そして、今も…ソラリスの力によってここに立っている。そんな我々に国民は言葉を投げかけてくれるだろうか…?」
東城は振り向いて
「投げかけてくれない。無視されるなら、頭を下げてでも聞きに行く。それだけだ」
赤田が横を向いて投げやりに
「権威が落ちた政治家に、誰も言葉なんて掛けてくれないさ」
東城はそれを否定しようと、何かを言おうとするが、言葉にならなかった。
その通りなのだから…。
天皇象徴の復活の決議後、数日して国戻しの儀がソラリス府がある皇居で行われ、天皇は皇居に戻り、ソラリス府は、迎賓館、赤坂離宮の隣の上空に鎮座した。
アレスジェネシスは、皇居に来て天皇陛下と話をしていた。
「これにて、再び天皇陛下のご公務を復活させますので」
と、三メータ半の巨体の頭を下げるアレスジェネシス。
天皇陛下が
「元号は…」
「問題ありません。様々な年式の呼びは、そのまま使っているので…」
天皇陛下は伏せがちに
「私は、隠居します。後の後身に関しても…」
「問題ありません。象徴だった時と同じくご公務を真っ当していただきます」
アレスジェネシスは淡々と告げる。
「一つ…貴方達の目的は…何なのですか? このように日本を手にして、独裁をする訳でも無い。ましてや…独占もしない。片や強権を見せる。何が、目的なのですか?」
アレスジェネシスは仮面の奥にある三ツ目を細くして
「我らソラリスの事を、宇宙から来た侵略者として扱ってくれるのは、好都合なのです。それが我らの目的達成の手助けとなっている。それだけです」
「正直に話してください。貴方達は何をしようとしているのですか?」
アレスジェネシスは暫し目を伏せた後
「そうですね。ただ…言える事は一つ、世界を滅ぼすつもりはない。そして、私の…そうワガママを通しているだけです」
そうして、天皇陛下との対談を終えたアレスジェネシスは、皇居から出て行くと、ネルフェシェルが頭上から降り立ち
「天帝、国連の奴らが…天皇を通じて、天帝を動かそうと画策していますが…」
アレスジェネシスは立ち止まり
「所詮、人の褌でしか相撲を取れない連中という事だ」
ネルフェシェルが怪しい顔で
「その目論見を潰しますか?」
アレスジェネシスは仮面を外して、皮肉に笑み
「どんな風に巻き込んでくるか…見て見ようじゃないか…」
ネルフェシェルは肩を竦め
「どうせ、人道的とか、人権とか、戯言をほざいて気を引こうとするガキみたいな手管でくるのがオチですよ」
「なら、こちらも戯れ言で通せばいい。内政干渉はしない…とな」
アレスジェネシスが告げ、ネルフェシェルが
「では…ヘパイトスが動き出すまで、我々は国連に干渉しないと…」
アレスジェネシスの肩が震え
「そうか…そうだな…。もう、計画の半分は終了している。ここでヘパイトスには、何かの動きをして貰わないとなぁ…」
と、アレスジェネシスは考え
「よし、少しは尻を叩くか…」
ネルフェシェルが
「天帝、どのような作戦を」
アレスジェネシスは笑みを向け
「まずは、全員で計画の話し合いをするぞ。それからだ」
ネルフェシェルが肯き
「了解しました。天帝」
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