第12話 紆余曲折


 アレスジェネシスは、日本地区にあるソラリスの宮殿、ソラリス府の王座に座っていた。

 目の前には、自衛隊の統合幕僚の自衛官達がいる。

「なんだ?」

と、アレスジェネシスは面倒クサそうに告げる。

 統合幕僚の上官達が

「どうして、あのような事を中国にしたのですか!」

 一人が声を張る。


 アレスジェネシスは、仮面を被る顔を傾け

「ええ…ああ…中国の航空戦力と、艦隊戦力の破壊か?」


 統合幕僚の上官が

「あのような事をして、中国との関係が悪化したら…どうするつもりだったのですか!」


 アレスジェネシスは巨体の肩を竦め

「それで? それが中国との付き合い方だ…」


「な!」と統合幕僚の上官達は絶句する。

「アレスジェネシス皇帝…」

と、上官の一人が慎重に畏怖を込めて告げるが、アレスジェネシスは


「アレスジェネシスでいい。まあ、我のアイオーン達がいる前では、天帝と呼べ」


 上官が喉をさすり、呼吸を整え

「では、アレスジェネシス様…それでは…世界から、日本が孤立してしまいます」


 アレスジェネシスは仮面の奥にある目を細め

「心配するな…たかが…一国に、とくに面子でしか政治が出来ない国の脅威なぞ…恐れる事はない」


 上官が

「彼らは、ロビー活動が上手い。それ故に、日本は遅れを取った歴史があります」


「心配するな」とアレスジェネシスは右手の一つを上げると、上官達の前にとある立体映像を浮かべる。

 それは中国全土にあるコンピューターネットワークの全ての回路網図だった。

 自衛隊の上官達がそれを凝視して

「これは…」

「これは…中国全土にある情報ネットワークの回路網だ」


『え…』と上官達は困惑を浮かべる。


 アレスジェネシスは淡々と

「中国の中には、我々に協力する者達がいる。その者達を通じて、中国全土のネットワーク全てを把握している。民間も軍事も、政治も、全てのネットワークを、我らソラリスが見ている。もし、中国で共産党や、政府主導のそのような動きがあれば、直ぐに判明し対抗策を講じられる」


 上官が恐る恐る

「それは…どのような…協力者で?」

 その問いにアレスジェネシスは

「その協力者を守る為に、教える事は出来ない。その辺りは分かって欲しい」


 上官達は困惑を浮かべるも

「ですが…中国だけでは…」

 アレスジェネシスは王座から立ち上がり、その背後には国々の情報ネットワーク図が大量に浮かび

「案ずるな、隣国のロシア、台湾、韓国、フィリピンと多くの隣国のネットワークも全て裏から監視している」

 アレスジェネシスは三対ある巨腕を後ろで組んで

「因みに、北朝鮮は…その…乏しいので…把握は…あまり出来ていないが…日本の上にあるソラリスから絶えず監視はしている。おかしな動きがあれば、対応出来る」


 自衛隊の上官達は顔を見合わせて一人が

「その…情報を…我々にも…」


 アレスジェネシスは肯き

「無論だ。汝達にも必ず提供すると約束する」


 自衛隊の上官達は、まだ不安な顔をしている。

 それにアレスジェネシスは、鼻息の溜息をして

「なら、今度ある。国民議会選挙で、議員と一緒に国家安全委員や、内閣情報調査室を再構築すればいいだろう。自衛隊の諸外国に対する特別情報室の設立も許可する」


 上官の一人が

「約束して頂けるのですね?」


 アレスジェネシスは肯き

「約束する。国民議会選挙で、国会議員が選別された後、それを認める」


 上官達は、それを聞けて一応は納得したのか…ソラリス府を後にした。



 ソラリス府の王座にいるアレスジェネシスに、レミエルが来て

「天帝。中国ですが…我々に対するヘイト活動を活発化させるようですが…」

「ほぅ…で」と、アレスジェネシスは呟き「で、どのようにするのだ?」

 レミエルは肩を竦め

「我々が凶暴なインベーダーであると…アメリカ政府や、ヨーロッパの各地にてロビー活動を行うようです」

 アレスジェネシスは顎を擦り

「力で勝てないなら、口で勝とうと…は、まるで紀元前の始皇帝の時代と変わらないなぁ…」

 レミエルが右手を挙げると、立体映像の板が浮かび

「如何なさいますか? また、中国に大きなダメージを…。それとも…このような情報が…」

 アレスジェネシスの元へ、中国共産党が持っている裏の資産データが載った立体映像の板が来る。

「ほう…意外に色んな場所にあるのだなぁ…」

 レミエルが首を傾げ

「この秘密資産情報を、暴露すれば…大きなダメージにもなります」

 アレスジェネシスは、裏の資産データに触れて

「この犯罪組織関係の資産を、これからロビー活動しようとする国々の政治家や、官僚に送ってやれ」

 レミエルはお辞儀して

「承知しました。直ぐに手配します」

 了承してレミエルが

「その…自衛隊の方々にはどう…」

 アレスジェネシスは第三の目がある額の右を小突きつつ

「そうだな。中国が、貶めようとするロビー活動をすると伝えて置け」

「は…」とレミエルは了承し

「我々、ソラリスが…極秘裏に中国全てのネットワークにナノマシンの傍受の仕掛けをした事は…」

 アレスジェネシスが

「ああ…心配するな自衛隊の者達には、先程、中国にいる我々の協力者によって中国のネットワークを全て把握、監視していると言って置いた」

 レミエルは顎に手を置きニヤリと笑み

「成る程…協力者がいるので情報を得ているとすれば…後々、自衛隊から情報が漏れても、我々が極秘裏に仕込んでいるという事には、気付かないですね」

 アレスジェネシスは、仮面を外して残酷な笑みをして

「我らに協力する者が中国にいるとしたら…中国共産党の連中はどうなると思う?」

 レミエルも残酷な笑みで

「疑心暗鬼になり、内部崩壊を起こすやもしれませんね」

 アレスジェネシスは、王座に背を預け

「際限の無い粛清、あの中国は、その粛清の歴史を何度もやっている。大規模な粛清の後は…国が自ら自壊、その後…どんな政府が立ち上がろうが…変わらない。それが中国だ。何度も同じ事を繰り返すだろう」

 レミエルが肩を竦めて

「何度も過ちを繰り返す国民性ですか…」

 アレスジェネシスは呆れた顔で

「あの国は巨大過ぎる。国内は、文化の違う民族同士が何時も隣り合っている。その独特な文化がある民族だけの国々に分裂すればいい」

 レミエルが渋い顔で

「始皇帝の呪いですかねぇ…。一度、昔に統一されたという歴史があると、それに奢る」

 アレスジェネシスは右手の一つの手に頬を乗せ

「嘗てのローマ帝国でさえ滅び。今の多くの国があるヨーロッパになったのだ。中国もそのような多くの国の集合体になった方が上手く行くだろう」

 レミエルが皮肉な笑みで

「バカほど、高い場所が好きですからねぇ…。巨大国家という分不相応な愚行に夢をはせるのでしょう」

 アレスジェネシスは、右手の一つで第三の目がある額を擦り

「中国の国民性は悪くない。大らかだし、家族や友人を大事にする。優しくて情に厚い面も持ち合わせている。優秀な者とて多くいるが…。ことさら、政治や、利潤に関係するとその良い部分が潰れる程に醜悪にして醜聞となる。なんというか…歴史なんだろうなぁ…」


 レミエルが肩を竦め

「始皇帝のような、強制統一の歴史がなく、色んな文化圏の違う民族で国が乱立する状態で今日まであれば、天帝が言うようにヨーロッパのような歴史のパターンを辿っていたかもしれませんね」

 アレスジェネシスが渋い顔で

「そうならなかった今を残念に思うが、今は今だ。それなりに対処するぞ」

「は!」とレミエルは頷き

「力でも宣伝、口でも勝てないとなった場合は…。何らかの懐柔策を講じてくる可能性が…」

 アレスジェネシスは背を正し

「政治的な懐柔策や接触は潰せ。民間の関係は、ある程度…そうだな…ビジネスまでの関係なら許せ」

「畏まりました」

と、レミエルは頷いた。




 ◇◆◇◆◇◆◇


 中国がロビー活動を行おうとした国々に、ソラリスは極秘で、中国のトップである共産党達と通じている犯罪組織関係の資産のデータをリークさせた。

 ソラリスのヘイトロビー活動をしようとした中国の効果は尽く潰れる事になるのは後々である。



 その日、東城はソラリス府へ来ていた。

 女性型アイオーンの一人と雑談している。

「君達は…どの星から来たんだ?」

 東城はソラリスを異星から来た者達と勘違いしている。

 尋ねられた女性型アイオーンは困った顔をして

「そう…ですね…。まあ…地球と似たような…星ですね」

 ウソは言っていない。確かに地球と似た平行別世界から来た。

 東城が

「女性と男性がいるって事は、我々人類のように子供を作って育てるのか?」

 女性型アイオーンは「んん…」と唸り何処まで言えば良いか困る。

「確かに、私達は貴方達と同じくような繁殖行動が可能ですが…。私達は…皆、ソラリスを含めて全て天帝より創造されたので…」

 東城は驚きを見せ

「え…君達は異星人じゃあないのか?」

 女性型アイオーンは肯き

「はい。私達は天帝より創造された存在ですね」

 東城は驚きを隠せずに口に手を置き

「じゃあ…君達は天帝、アレスジェネシス氏に作られ…ここに来た…と」

「はい。それで差し支えないですね」

と、女性型アイオーンは肯定した。

 そこへガブリエルが来て

「あら…我らの仲間を口説くなんて良い度胸しているじゃない」

 女性型アイオーンはガブリエルの元へ行き

「もう、口説かれてなんていないって。ちょっと世間話をしていただけだから…」

 ガブリエルはフッと笑み

「それを世間では口説く文句なんて言うのよ」

 東城が恐る恐るガブリエルに近付き

「教えてくれ。さっき、彼女は自分達が天帝に作られた存在だと…」

 ガブリエルは片眉間を上げ

「そうよ。それが何か?」

 東城が困惑しつつ

「では、天帝だけが、異星人なのか?」

 ガブリエルは東城を見つめ。

「つまり…貴方達は、天帝が異星人だと思うのね」

 東城が真剣な目で

「違うのか?」

 ガブリエルは腕を組み

「どうしようか…まあ…本当の事を………。そうね。ソラリスが国連にデビュー出来たら、きっと天帝から話すと思うわ」

 東城がガブリエルを真っ直ぐ見て

「つまり、ソラリスの国連参加が、君達がなぜ、日本を統治したのか…理由を告げてくれるんだな」

 ガブリエルは肩を竦めて

「多分ね。だから、アナタのお友達であるアメリカ大統領の補佐官さんに伝えたら?」

 東城は眉間を寄せたが直ぐに戻して

「そうだな。一言、言って置くとしよう」

と、東城は「じゃあ」と告げて離れた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アレスジェネシスは十五万キロのソラリスへ戻ると、不意に思った。

「そうだ…北朝鮮の状態を知るに、中国での事を…本当にすればいい」

 

 アレスジェネシスは直ぐにレミエルとサラカエルを呼ぶ。

 二人は、アレスジェネシスの私室へ入り、説明を受ける。

 サラカエルは顎を擦り

「確かに…こちらで、全てのネットワークを管理すれば…」

 レミエルが不審な顔で

「上手く行くでしょうか?」

 アレスジェネシスは肯き

「目論み通りにならないとしても、広がったデバイス達は、世界中に拡散して、近くのネットワークを探知、我々に有益な情報をもたらす筈だ」

 サラカエルが

「レミエル。天帝の案はいい事だ。前例はある。我々のいた前の世界では、天帝が作った軌道エレベーターネットワークシステムと同じなのだ」

 レミエルが顎を擦りながら

「中国に内通者を作り、中国へ我々が作った無料のネットワークデバイスを配り、それが…北朝鮮へも拡散するように仕向ける。確かに…それによってネットワークが乏しい北朝鮮に、我々が一望出来るネットワークが出来るが…」

 サラカエルが

「ミカエルやガブリエル達が、アメリカやロシアにイギリスと多くの国々が、我々との何らかの繋がりを求めて動いている。このままだと、我々との繋がりを構築する為に、北朝鮮との拉致問題を持ち出すかもしれん」

 レミエルが目を細め

「確かに後手に回るよりはいいか…」

 アレスジェネシスが二人を見つめて

「どうだ? 価値がある提案か?」

 レミエルとサラカエルはお互いに視線を合わせて肯き

「天帝」とサラカエルが「中国でのデバイスを渡す者達の候補は、お任せください。中国の民主化を望む者達に、渡すように私が手配します」

 レミエルが

「ソラリスの生産能力を考えれば、三日後には、十数億のデバイスが製造可能ですが…。どのような仕様に…」

 アレスジェネシスは左手と右手の一つを組んで

「この時代…スマホが全盛期だ。そのスマホに張り付けられる程度のシール型通信システムにしろ。それと…中国の内部にも、中国のネットワークから独立して外と自由に繋がる橋渡しシステムを…」

 レミエルが鋭い顔をして

「もしもの露見を防ぐ為に、橋渡しシステムはパソコンのマザーボードに偽装したデバイスにしましょう。無論、普通にパソコンとして使えるようにも…」

 サラカエルが

「その偽装した橋渡しシステムはどの程度の接続になる?」

 レミエルが

「メタトロン(極小機械集合システム素材)ではなく、ナノマシンで原子サイズから構築する部品になるから…一機だけで数億の同時接続で、1Gまでなら…」

 アレスジェネシスは肯き

「この世界では十分な仕様だ。我々のいた世界では、1Gでは足りなかったからなぁ…」

 サラカエルが肩を竦めて

「VRデータがまだ、登場していない時代ですからね」

 レミエルが

「北朝鮮に配るモノは…」

 アレスジェネシスは慎重な顔で

「ペーパーサイズの極薄で、名刺サイズからA4のノートサイズと豊富に用意しろ。見つかっても紙であると偽装可能にする」

 サラカエルが鋭い目で

「勿論、それにはカメラシステムを組み込んで…ですよね」

「うむ」とアレスジェネシスは頷く。

 レミエルが腕を組み首を傾げて

「上手く、北朝鮮に拡散するでしょうか?」

 サラカエルがその問いに

「大丈夫だ。北朝鮮と中国は、民間や、政府でも裏で相当の繋がりがある。諸外国の建前上、関係は冷淡としているが…。現実は、人と経済の繋がりが深い。そこの管理不能な部分から必ず流れるだろう」


 アレスジェネシスの提案通り、中国と北朝鮮の国民用の無料ネットワークの準備がなされる。


 四日後、中国の香港で、ソラリスから来たサラカエルが、ステルス迷彩を纏う宇宙戦艦で降り立ち、香港にいる中国の民主化を望む者達に、ソラリスが提供する無料ネットワークデバイスと、そのデバイスが持てないなら、橋渡しをする偽装システムのマザーボードが大量に入ったコンテナ、そして…北朝鮮に拡散希望のペーパーに偽装したネット端末を託した。


 中国の民主化を望む者達は、サラカエルに力強く握手してくれた。

 ここ近年、中国はネットの規制を強めていた。

 中国の統治を批判する者達を断罪する為に、行っている。

 国内では、自由に外との通信を望む者達が圧倒的に多い。

 だが、それは中国がどんな国か…外から情報がもたらされて現統治が転覆する危険が高い。

 まあ、それだけ中国の政治は危ういのだ。


 早速、サラカエルからもたらされたソラリス製造のネットシステム達は、中国全土に瞬く間に拡散、ネットワークデバイスが無くても橋渡しをする偽装マザーボードに繋がるアドレスを入力すると、自由に外との情報交換が始まった。


 それに中国の統治機関、共産党が気付いたのは、それが十分に広まってしまった後だった。



 アレスジェネシスはソラリスの王座から、中国がソラリスのネットシステムが入り込んでいるデータを見て

「順調だな」

 隣にいるラグエルが

「はい。中国共産党が規制を始めましたが…。後の祭り、後は品を変えして誤魔化せば…どうにでも…」

 アレスジェネシスは頭を傾げ

「全く、情報が…自由にされるだけで国が転覆するかもしれないとは…。始めから民主化していれば…」

 ラグエルが皮肉な笑みをして

「それが中国です。自分の利益には愚かな程に従順ですから…」

 アレスジェネシスはラグエルを見つめて

「もしかして、昔にラグエルの友が中国によって殺された事を…」

 ラグエルが眉間を寄せ

「その前の我々の世界とは違うとは分かっていますが…。これ程…同じだと…」

 アレスジェネシスが心配な顔をして

「ラグエル。復讐は…虚しいだけだと、日和りがちな言葉など無意味だ。だから、復讐する相手を間違えるな。その復讐する真実を見誤るな」

 ラグエルは肯き

「はい、分かっています。私が憎いのは中国の民ではありません。権力を握って愚かな事をする愚者ですから」

 アレスジェネシスは肯き

「良く言った。お前は私の自慢の息子だ」

 ラグエルが恥ずかしそうな顔をして

「照れますよ天帝。いいえ…お父さん…」

 アレスジェネシスは、深く王座に背を預け

「私は、優秀すぎるお前達、子供達のお陰で何時も楽をさせて貰っている。お前達も何れ、独立する事を願うなら…。何時でも協力する」

 ラグエルが微笑み

「父さん。まだ…ぼくは、父さんの傍にいたい。良いだろう」

 アレスジェネシスは大きな右手の一つをラグエルに伸ばして頭を撫で

「分かったよ。これからも頼むぞ…息子達、娘達よ」

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