第9話 世界の動き


 ソラリスによって日本が統治されて半年。

 四月に入る前にあったソラリスの降臨と、ソラリスによる日本地区の統治は…順調に進んでいた。

 ソラリスが、政治システムをソラリスが持つシステムで構築した事によって、ベーシックインカムが始まり、それが国民の社会保障となり、必ず一定の経済が回るようにした。

 これが成功した理由には、日本人が持つ勤勉な体質による部分が大きい。

 きっとこのような体質がない国民なら、国は崩壊していただろう。


 日本は様々なモノを生み出す工業がある故に、正常にベーシックインカムは機能している。


 そして、ヘパイトスで彼は、山中 充として、母親の実家に来ると、実家の傍に役所の車が来ていた。


 役所は、変わった。

 なんでもかんでも民間押しつけ、お金だけ管理する仕事だったのが…。

 役人みずから家々を回って、その地区の生活状況をチェック、不備があれば、ソラリスの社会システムに通達、直ぐにその不備を解消する行政サービスを提供する。

 

 かつての、トップダウン式の時代にそぐわない。見栄と権力欲だけの構造から、ダウンアップ、国民一人一人からの問題データを上げてそれを解決する。

 本来ならあるべき政府システムになったのだ。


 いつの時代も、トップが優秀とは限らない。

 現実の問題を解決するのは、上からの命令ではなく、末端、現場である下からの要望に、どれだけ応えられるか…。

 それだけなのだ。


 人間の性は、万年から変わらない。権力を握れば必ず、自分に権益を集中させる。

 そうでないと、誰も言う事を聞かないし、動かせない。

 日本もそうだし、それ以外の国々も似たようなモノだ。


 だが、ソラリスが来てから日本の権力集中から分散維持に変わり、上手く回る。


 皮肉なモノだ。本来は人がそうして行う筈が…人でない者達によってそれが叶うのだから。

 どこまでいっても、人は度し難いのだ。


 母親の実家にいる祖父母が、困り事を聞きに来た役人に色々と話した後、役人はお辞儀して帰っていくと、ヘパイトスこと山中 充と前にお辞儀して

「ああ…何時も偉いですねぇ。こちらの祖父母の面倒を見てくれるなんて」

 ヘパイトスは肩を竦み

「そうだね…。まあ、家族だし」

 役人が名刺を取り出し

「何時でも何かあった場合は…」

「はい…」

と、山中は受け取り、渡す役人の顔は生き生きしていた。


 役所は、全て、部長級以上の役職が消滅、データを集計、対処を行うソラリスのシステムになり、多くの役人達は、余った人員をこうして、各家庭を回る訪問員兼ケアマネージャーにした。


 山中は、今まで見てきた役所の役人達は、どこか機械的で冷めた感じだったが…ソラリスがシステムを担った後の役人は、本当の国民を助けるという仕事が出来て生き生きとしていた。

 役人の離職者が出る思われていたが…本来の役人の使命を真っ当出来ると分かった瞬間、それは生き甲斐に変わった。

 

 山中は、天蓋の様に空の上にあるソラリスを見る。

「本当に全てを変えてしまった」


山中は、祖母と話をすると

「充も、ナノマシン何とかの仕事をしな」

と言う。

 

 祖母の言っているのは、ナノマシンエンジニアだ。

 ソラリスが提供する原子サイズナノマシン加工機を使って個人で製品を製造する工場を持つ職業だ。

 原子サイズナノマシン加工機の力は絶大だ。

 今まで人類には、理論としては存在していが、加工する方法と加工機がない為に実現出来なかった膨大な技術がある。

 その全てを原子サイズナノマシン加工機は可能とした。


 車は、既存の姿のまま、エンジンが外れて、小型のエンジン発電機で発電する電気自動車になり、それは大型の貨物トラックも、ありとあらゆる車両にも適合され、一気に広まった。

 家の軽トラも、トルクが高いエンジン・ジェネレーター車になった。


 更に、ペーパーのように薄いタブレット。電波障害がない、電波式量子テレポート通信装置。テラ規模のネット通信システム。宇宙に行くのだって、ソラリスが打ち込んだ巨大アンカーのエレベータに運ばれる。

 ロケットのように天候や、莫大な威力がある燃料を必要としない。


 山中は、祖母に

「おれ…週に何度か…ソラリスで働いているから」

 祖母がハッとして

「そうだったねぇ…」



 現在、ナノマシンエンジニアは、一千万人を突破した。

 嘗ての就職厳冬時代の30代、40代や50代達の多くが、この職業に入り様々なモノを創造、製造している。

 年収はまちまちだが…最低でも450万は確保される。

 まあ、位置的には、ソラリスと提携を結ぶ個人事業主になる。

 大個人事業主創生時代なんて、テレビでは、相変わらずの見当違いな話をしている。

 正直、ソラリスとの繋がりの強化でしかないが…それで救われている者達がいるのも事実だ。


 山中、祖父母達を連れて買い物に行く。

 車を走らせる道路の脇にある電柱の上には銀光りする尖った先を下にする円錐の物体がある。

 ソラリスによる犯罪者監視システムだ。

 最初は、監視社会の人権侵害だ! なんてテレビで言っていたが…それによって犯罪を犯す者を事前にキャッチ、警察に保護して貰う事が出来て、絶大な防犯となった。

 そうなると、テレビは手の平返しのごとく、この犯罪者監視システムを褒め称えた。

 テレビって本当に都合が良い。

 何処かの隣国のようだ。

 おっと、口が過ぎた。

 でも、捕まる事はない。ソラリスでは、政治的な意見の所為で逮捕される事は無い。

 何処かの隣国では、政権に逆らう事を言うと国家反逆罪なんて、アホな罪状で捕まるけどね。

 

 基本的に、憲法は変わっていない。

 基本的人権、国民主権…近々、国民議会発足の為に、国民選挙で国会議員が選別される。その男女比は半分。これに、なんちゃってフェミニスト達は大賛成して、海外では画期的なんて褒め称える。

 なんて都合がいい連中だ。ソラリスが来た時は、独裁やら、侵略者、虐殺者なんてのたうち回っていたのに、普通のように経済交流がされて、変わらず外の国の人を受け入れていると、善政者なんて言い出した。

 アホらしい。


 とにかく、憲法は変わっていない。人権も権利も義務もそのまま、唯一変わったのが、解釈によって読み違える事の完全放棄だ。

 日本…いや、国を支配したい愚かな、権力欲の男共は、拡大解釈や、解釈の違いなんて持ち出すが、それは絶対にない。1ミリも変更はないと、明文された。

 変わったのが…九条くらいだろう。

 

 一条の…


 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


 は残ったが…二条が変わった。


 国際平和を守るには、自らを守る力を有する必要がある。故に、日本国民を守る盾となる力を保有する権利と、義務と、責任が国にはある。

 

 更に三条が加わる。

 

 国民を守る力は、国民を一切傷つけてはならない。国権の横暴によって国民を絶対に犠牲にしてはならない。


 多くの日本の国民が、言い落とし所とした。

 むろん、これに反対する連中が、デモを行ったが…。

 ソラリスが、そのデモを支援する者達の資金源、投資先を暴露した。

 あ、察し…みたいな事だった。

 他国からの内政干渉の産物だった。

 どことは、皆、口にしないが…まあ…何時も問題を起こしてくれる隣国達からの援助があった。

 それはかなり昔から、行われていた事も発覚。


 デタラメだと、言う人達もいたが…次々とアメリカや、他国からその証拠が開示されると、その声が擦れてしまった。


 反対者達は、それを嵌められた、その国に陥れられた!と手の平返しを始めた。

 それは、マスコミ関係者にもいた。

 まあ、戦後、安保闘争時に、そういう人物達の受け皿としてマスコミが機能したのもあったが…。

 結局の所、彼らの内面は、こうだ。

 とにかく、自分より権力があるヤツに噛み付きたい。ガキのような反抗心のまま大人になってしまった者達なのだ。

 彼らにとって、理由なんてどうでもいい、権力がありそうなヤツに噛み付いて、自分がそれに立ち向かって、かっこいいという見栄えでしか生きていなかった。

 

 人間の中になる多くの問題は、己自身の問題である。

 己の事は、己でしか解決出来ないのに…。

 己を解決させるでなく、その代償を、全くの見当違いな場所へ求めた。

 所謂、置換劣等感作用だ。

 その劣等感を払拭したいが故に、劣等感の元であろうとする権力者を狙う。

 だが、その劣等感を抱えたまま、権力者になっても、前の権力者より能力がある訳では無い。

 そういう歴史を、人類は何度も経験しているのに…全く学習しない。

 

 賢者はいう。

 愚者は己の経験でしか学べない。賢者は歴史から学ぶ。


 何時もそれを忘れていたのだ。


 だが、それをソラリスは知らしめ、思い出させてくれたのだ。

 人類でない存在が、それを示したのも皮肉だ。



 山中は祖父母達とホームセンターを回る。

 基本的には、外見は変わっていないが、機能が優れていく。

 凄まじい強度の素材達が出てくるので、コストも大幅に下がり、人件費が値段の半分を占めているも、それでも安い。

 昔の製品もならび、新たな製品も並ぶ。

 ちょっとづつ昔の素材の製品は消える。

 その全てはゴミにならない。全てリサイクルされ、工業製品の素材に戻る。

 プラスチックもポリエステル繊維も、何もかもリサイクルされる。

 唯一、土に帰るモノだけがリサイクル出来ない程度だ。

 だから、今までゴミを埋めていた場所の巨大なソラリスの自動ロボット重機達によって掘り返され、リサイクルされる。

 全長50メータ越えのロボット重機を見たい故に、ナード(オタク)や、親子連れが見に来る事があるが…。

 日本は総リサイクルに時代に入ったのだ。


 山中は、祖父母を乗せて祖父母の家に戻り、祖父母達を下ろしてお別れをして家に戻る途中、車内で考える。

 そう、ソラリスが行っている事は、もし…自分が将来、原子サイズナノマシン加工機を作り出せたらやろうとした夢だった。

 その夢は、どこか叶うはずない、バカな男の戯言として周囲に笑い話として、自分から笑いを取るつもりで言っていた事だった。

 だが、それが目の前に現れた。

 そう、それを叶えた別世界の己が来て、その別世界の己が、今の山中 充を三次元、四次元、次元といった領域を越えた存在と接触させ覚醒させた。

 つまり、ソラリスを作った天帝、別世界の己と同じ力を、今、持っているのだ。


 脳裏に別世界の己、アレスジェネシスが告げた言葉を思い返す。

「お前も、我と同じようにやってみよ…」

 その言葉には自信が満ちていた。いや、確信があった。


「クソ」と山中ことヘパイトスは漏らす。

 どうすればいいか? 全く自分には分からなかった。

 いや、違う…分かっているが…今は、行動するべきではない。

 そう、内心で告げる何かが昔からあった。

 そう、それは、きっと遙か次元の領域を越えた場所から、何時もヘパイトスに呼び掛けていたのかもしれない。

 世界は、巨大な流れの一部でしかない。

 ありとあらゆるモノが、まるで精密な歯車のように噛み合わさって動いている。

 この世に、偶然なんて一切無い。

 偶然を取り出す者は、自分の小さな世界しか見えない矮小な者…。

 酷い話をすれば、サルにどうして車が動くか説明しても理解されないのと同じだ。

 そして、サルのくせに、分かっていると威張って自分の好き勝手やって壊してしまうのも、人類の権力を求める者の性だ。


 無論、そういう権力欲を否定しているつもりはない。

 だが、それが己に見合っているか? それが、ただ、己の劣等感を払拭したいが為の行動なのか? それを自身で理解する必要があるのに、多くの者は、忙しいとか言って理解しようとしない。

 忙しいのではない、それを見ると己の劣等感と向き合って辛くなるなら、目をそむけているだけ、それでは、自身は成長しない。

 そして、己と向き合った者こそ、己の本心を知る事が出来る。

 外とか家の事とか、自分以外の存在の所為にする事がなくなるのだ。


 ヘパイトスは、分かっている。

 己の内にある言葉が、今は…事態を見守れと…。

 何とかなるとか、大丈夫、大丈夫とか、現実を見るのを止めた者の言葉ではない。

 今は、まだ、ソラリスにて学べ…と、己がそう…告げているのだ。




 ◇◆◇◆◇◆


 ソラリスの王座で、アレスジェネシスは、セフィロスからの報告を聞いている。

『以上、これが現在の日本地区の経済状況です』

 アレスジェネシスは背を伸ばし

「そうか…経済活動レベルは、我らが手にする前に戻ったか…」

『はい』

と、セフィロスは頷く。

「経済界の大企業のトップ達は?」

 アレスジェネシスが尋ねると、セフィロスがデータを開示させ

『問題ありません。どうやら、現状に慣れて、それなりに活動をしています』

 アレスジェネシスは肯き

「そうか、まあ…前の状態から、我らソラリスを付け加えただけだからなぁ…」

 セフィロスが別のデータを見せる。

『次は、国民議会の選挙に関する、データです』

 アレスジェネシスはデータの立体画面群を見て

「ほう…前の国会議員が…多数、出ているなぁ」

 セフィロスは、立候補者達のデータを男女に分けて

『大凡、900名が立候補していて。その比率は男性500、女性400ですね』

 アレスジェネシスは左手の一つで顎を擦り

「まあ、比率と割合的に、妥協点だな」

 セフィロスが

『予想としては、男性が320名、女性が280名の当選見込みです』

 アレスジェネシスが

「まあ、比率が半々でないなら、何度でもやり直し出来るからなぁ…」

 セフィロスが

『選挙の宣伝や、方法に関しては、我々の管理で行いますので…』

 アレスジェネシスが右にいるセフィロスに

「選挙を手伝いたいという者達がいたろう」

 セフィロスが

『その人数も限定しています。過度に人数が分布すると、公正な選挙は出来ませんので』

 アレスジェネシスが嘆息して

「資金や、運営もこっちでもっているからなぁ…」

 セフィロスが淡々と

『今までの選挙は、利権や資金によって引っ張られて、非常に不合理で不公正なモノでした。選挙に関する法律も、非常に脆弱でした。我々の処置は当然だと思います』

「んん…」

と、元人であった、まあ、今も人であると思っているアレスジェネシスは微妙な笑みを浮かべる。

「んん!」とアレスジェネシスは咳払いをする。

 それにセフィロスが

『何か、思い当たる節でも?』

 アレスジェネシスは微妙な笑みをセフィロスに向け

「まあ、なぁ…。それより、自衛隊の方は?」

 セフィロスはデータを開示させ

『結局の所、自衛隊は、自衛隊のままの名称で行きます。自衛軍という軍の言葉を付けると、人類は、軍は武力を行使する存在として認識します。各地の言語でも軍とは、侵略、征服、占領という源流があります。人類は、それを無意識に理解しているので、軍ではなく隊にする事で、それとは違うという意識にさせる効果を残しました』

 更にセフィロスは別のデータを開示

『自衛隊の空戦力、戦闘機は、全て遠隔操作の無人機型操縦戦闘機に変更、陸自の装備は、大型のパワードスーツ部隊に、海自、海保の戦艦は、潜水、航海、といった二界域専用の海洋統合戦艦…アルゴート級に置き換わります。これによって、潜水艦やイージス艦という部類はなくなり、全ての艦は、潜水能力と海上防衛能力を持つ艦隊に変わります』

 アレスジェネシスは肯き

「順調だな」

 セフィロスは肯き『はい』と答えた。

 アレスジェネシスが右手を挙げ

「他国の動きは?」

 セフィロスはネットのデータや、その他のデータを開示させ

『今の所は…大きな動きはありません』

 アレスジェネシスは腕の一つを組み

「静観といった所か…」

 セフィロスが

『ですが…国会発足が知れ渡りましたので…何らかの…アクションは…』

「引き続き、情報の収集に当たれ」

『は!』

 アレスジェネシスは王座から立ち上がり

「さて、もう、時間だ…日本に降りる」

 動きだそうとする主、天帝にセフィロスが

『ヘパイトスに関しては…どのように?』

 アレスジェネシスは立ち止まり、セフィロスに

「ヘパイトスが、何か言っているのか?」

 セフィロスが首を横に振り

『いいえ、全く…。我々に言う通りにしていますので…』

 アレスジェネシスは笑み

「ならいい。何れ、時が来たら動き出すだろう」

 セフィロスが

『我々の方で、煽ってみては?』

 アレスジェネシスはプッと吹いて

「アレは、煽られて動くタマではない。まあ、見ていろ。必ず自分が最も動きたい時に動く。そういう男だ」

 セフィロスが

『天帝が嘗て、そうだったようにですか?』

 アレスジェネシスは肯き

「その通りだ」

と、告げて王座の間から去り、日本へ降りた。




 ◇◆◇◆◇◆


 アメリカのホワイトハウス、ドランド大統領は、空母の艦長に渡されたソラリスの提案を、情報官テッドとイヴァンと共に話し合っていた。

「これを受け入れると、日本がヤツのモノだと、我々が認めた事になるぞ!」

 ドランド大統領が怒っていた。

 テッドが

「悪い知らせです。南米の太平洋側の国々が、同じように提案され、明日にでも受け入れるそうです」

「クソ!」

と、ドランド大統領が机を叩く。

 イヴァンが

「悪い話ではありません。それに、彼らによる日本統治は上手く行っている。このまま無視する事も出来ません。大統領、我々の失った戦闘機の多くには日本のコンピュータチップと技術が使われています。経済的には…占領前と同じように回っています。このまま受け入れて我が国も総電力を貰うべきです」

 ドランド大統領が額を掻き上げ

「我は世界で最強の国家、USAなのだぞ。負けを認めろと! 友好国を捨てろと! 友人を見捨てて、自分の得を追求する愚か者になれと!」

 テッドが顔を近づけ

「大統領、明らかに我々と彼らの技術、力には彼岸の差がある。ここは耐えるべきです。これをチャンスに変えて…前に進むべきです」

 ドランド大統領が厳しい顔をして

「ヘタをしたら、我らが勝つ前に、連中が乗っ取るかもしれんぞ」

 テッドが説得する。

「大統領、彼らは圧倒的に世界を征服する力があった。それをしなかった。何らかの理由があるはずです。それを知る事が、我々が勝つ事が出来るシナリオが描ける」

 ドランド大統領は頭を抱え

「少し一人にしてくれ」

 テッドは肯き、イヴァンと共に大統領室から出た。


 イヴァンが腕を組みドア前でテッドと共に待つ。

「大統領は決断するのかしら?」

 テッドがドアを見つめながら

「するさ、あの方は優秀な経営者だった。まさにアメリカの大統領さ」

 

 そして、数分後、呼び鈴がなって二人が入った。

 大統領は決断した。



 ◇◆◇◆◇◆


 東城は、静岡のとある農村に向かっていた。

 車を運転する。ソラリスの技術によって格段に燃費と乗り心地が向上した車。

 それに乗ってとある家の前に来ると、家に昇る少しの坂を上がり、家の呼び鈴を押すと反応が無い。

 時刻は、午前10時だ。

 農村では、まだ、農作業中で家に誰もいない。

 東城は時計を見てどうするべきか、考える。

 そして、自分が来た証拠を残す為にドアノブを引くも開かない。

「え?」

 東城のイメージとしては、こういうのどかな農村の家には鍵が掛かっていないと、テレビで見た知識で見たが…。

 その背に

「今の農村じゃあ、道路が良くなって変な人が来るから、玄関の鍵が掛かっている場合が多いぞ」

 呼び掛ける声に反応して東城が後ろを見ると、そこには農作業から帰って来た山中ことヘパイトスがいた。

 東城が困惑して「申し訳ない」と謝る。


 ヘパイトスが

「アンタは泥棒か? それとも、前にあったリフォーム業者を偽って入った泥棒か?」

 

 東城がヘパイトスの前に来て

「いいや、その…とある方を尋ねて来てね。山中 充さんを…」

「ああ…それ、オレだけど…」

 ヘパイトスは、東城にあまり良い印象を持っていない。

「ああ…」と東城は姿勢を正して

「その…内閣府総理秘書だった、東城 秀一です」

 ヘパイトスは

「ああ…そんな、元偉い人がオレに何の用だ?」

 東城が

「話を聞かせてくれないか?」

 ヘパイトスが厳しい顔で

「オレは女には甘いが、同じ男には厳しい。勝手に玄関、開けようとした野郎に、信用があると思うか?」

 東城は渋い顔をした。

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