第8話 ソラリス 日本地区 第三章
アレスジェネシスは、ヘパイトスがいるドームに来る。
小型の完全環境都市(アーコロジー)のそこでは、女性型のアイオーンのソフィニアがヘパイトスの世話をしている。
庭の所にヘパイトスこと、山中が座り、隣にソフィニアがヘパイトスが見ている端末に何の説明があるか…教えている。
アーコロジーのアレスジェネシスが悠々と通れる大扉が開き、アレスジェネシスが来ると
「どうだね? 居心地は…」
ヘパイトスはアレスジェネシスを見つめる。
アレスジェネシスは、仮面を顔に被って表情が見えない。
ヘパイトスは、アレスジェネシスの仮面の顔を見つめ
「完全管理された空間なので、過ごしやすいです」
アレスジェネシスは、スラスターの脚部を動かして、ヘパイトスの前に立ち
「それはそうだろう…。わたしは…昔に農業の経験があってね。それを生かして作ったんだぞ」
「へぇ…」
と、ヘパイトスは反応が薄い。いや…アレスジェネシスの見える三ツ目から、分かる反応を逃さないように、捉えている。
それをアレスジェネシスは察し
「君は、観察眼力が高い。仮面のまま話すと、わたしがどんな反応をしているか…分からなくて不安だろう」
ヘパイトスは肩を震わせ
「素顔があるんですか?」
「当然だとも…」
アレスジェネシスは仮面に右手の一つを合わせ、仮面を外した。
そこには、壮年となったヘパイトスの顔が…そう、もう一人の別世界の己がいる。
ヘパイトスの瞳が大きく開く。
それを三メータ半の巨体から見下ろすアレスジェネシスは、口角を上げて笑み
「なぜ、君と同じ顔をしていると思う?」
ヘパイトスが眉間を寄せ
「似た者の方が…人は…親近感を感じますから」
アレスジェネシスは、スラスターの膝を曲げ
「それは、本心からの結論か? お前の直感は…どう言っている」
ヘパイトスは、口を強く結び言葉にしない。
アレスジェネシスは、楽しげに笑みながら
「お前は、分かっている筈だ。そのソラリスも、ソラリスにあった兵器達も、となりにいるアイオーン達も、どんな構造をしているか…分かる筈だ。それは…お前が将来…とある技術を可能としたら…作ろうと思い描いていた全てだ」
ヘパイトスは震える。
アレスジェネシスは、笑みながら
「お前は、その技術が…三次元しか理解出来ない領域では、不可能であると…理解している。お前は、知っている。お前が接触したあの巨大物体の正体を…ゾディファール・セフィールをな…」
ヘパイトスは、唇が震えながら
「お前は…オレ…なのか…」
アレスジェネシスは、立ち上がって背筋を伸ばし
「初めまして、私。ようこそ…私。お前は私だ。私はお前だ。この世界と似た並列時空から来た。お前だ。だが…そこは、ここより27年進んだ世界だ」
ヘパイトスが震えて自分の両手を見つめる。
「おれは…おれは…つまり…」
アレスジェネシスは怯えるヘパイトス、己を見下ろし
「お前は、お前が想像していたモノを創造したのだよ。その果てが私だよ」
アレスジェネシスはソフィニアを見て
「ヘパイトスに、我らが体験した歴史を見せてやれ」
ソフィニアは肯き
「畏まりました」
アレスジェネシスは背を向け
「では…また、会おう。この世界の私よ」
このドームから去る。
ヘパイトスは震えていると、ソフィニアが
「これをお見せします」
アーコロジーのドームの壁面が画面に変わり、アレスジェネシスの歴史が投影される。
2020年、アレスジェネシスこと、山中 充は、山奥にあったゾディファール・セフィールに接触、それによって高次元の領域を得て、四次元限界であるこの世界では、創造不可能だった原子サイズナノマシンを作り、原子ナノマシン加工機、アーベル型ナノマシン加工機を創造した。
それを、中東ドバイやインドに広め、世界に今まで理論だけしかなかった全ての創造技術を可能として、人類の技術文明が爆発した。
当時、AIが最も人類に影響を与えると政治家共は、言っていたが…所詮、AIは現存のコンピューティング技術の延長でしかない。精々、コンピュータへの入力が音声になり、データをまとめ易くなった程度しかもたらさなかった。
仕事が無くなる。そんな事はなく、もっとAIを使う人が必要とされ、職種の幅が広がった程度しか、影響がなかった。
だが、山中がもたらした原子サイズナノマシン加工機は、違った。
今まで机上の空論でしかなった理論の産物、技術が全て可能となり、ありとあらゆるモノが創造される。
核融合発電炉、宇宙まで伸びる軌道エレベーター、完全なる人型のロボットスーツ、炭素複合セラミックス。空間推進システム、量子コンピュータ、医療に置いてはウィルスや病原菌による疾患の完全克服。その他等。
まさに、技術のビックバンが発生し、人類は2030年には、月に巨大基地を建造して月で資源や技術開発を開始した。
これからが…ターニング・ポイントだった。
ナノマシン加工機が広まった、中東、東南アジア諸国、アフリカ、南米。
この南半球は、驚異的に発展。
それに取り残された北半球、北米、ヨーロッパ、ロシア、日本を除く東アジアは、没落した。
今まで、ヨーロッパや、北米に進出していた移民は、全てナノマシン加工機の発展が広がる南半球へ移動を開始。
最初は、ヨーロッパや北米は、移民問題が解決したと…喜んだが…人が来ないという事は、今まで維持されていた人口の力も失い。
気付いた時には、国の税収が半分近くも喪失、不動産や、金融、株式、そういう金融経済は、その繁栄を見る影もなく縮小、ヨーロッパ、北米に広がる大手銀行の倒産が相次いだ。
発展していた北半球は、かつての南半球のように墜落した。
それを何とか解消しようと…北半球の国々は、原子サイズナノマシン加工機を作り出した山中に救援と援助を頼み込むも、この時、山中は、ナノマシンと人類の融合体であるガイアシステム人種を作るのに専念していたので、そういう権限はあったが…嘗ての北半球の横暴を歴史から知っていたので、与えれば絶対に横暴になると、踏んで話だけ聞いて何もしなかった。
力を貸してくれない事に憤った北半球の国々は、ナノマシン加工機で発展した南半球へ連合して戦争を始めた。
だが、それは無謀だった。
北半球には、ナノマシン技術で作られた兵器ではない、骨董の技術兵器しかなく。
南半球は、ナノマシン技術によって作られた空間波動兵器初期型ディアブロを配備してた。
北と南の地球を二分する戦争は、僅か…七日でディアブロの軍勢によって制圧。
普通なら、制圧した国を支配するのが定石だろうが…。
南は、追い払った程度で良しとして…戦争で生じた損害を両方で折半という人道的処置で終わった。
この戦争の規模事態、割れた国境ライン上でしかなかったので、損害も小さかった。
北は、ナノマシン技術を手にする事はなかった。
開いて行く北と南の格差。
南は、地球を脱出する大陸型宇宙戦艦を創造、新たなナノマシンと融合したガイアシステム人種と共に、火星へのテラフォーミングを目指していた。
ナノマシン加工機を作り出した山中は、様々な惑星をテラフォーミング出来る全長15万キロの超弩級宇宙戦艦の建設に取りかかった。
ソラリス(SOLARIS) solely ardor integer system
単独で、どんな惑星でもテラフォーミングする惑星級宇宙戦艦システム、それが本来のソラリスだったが…。
北の悲惨が状況にガイアシステム人種の一部が力を貸す。
それが悲劇を加速させた。
北の為政者や、権力欲まみれの愚か者達が、それを利用して、山中の家族や友人、仲間を殺した。
神罰という愚かな、見当違いのバカなテロ行為を行った。
これに、力を貸したガイアシステム人種が激高するも、それさえも無視して、今度は山中や南に、聖戦として戦争をふっかけた。
北は、南が作った大陸型宇宙戦艦を奪取、地球を占領しようとしていた。
悲劇が加速する。
山中は、怒り狂い、自身を持てる技術と融合進化させたデウスマギウス(神機)に変えてネメシス(復讐神)となり愚かなUAE連合(アメリカ、ヨーロッパ連合)と戦争を開始する。
巻き込まれたガイアシステム人種も、強引に組み込まれ、地球で最終戦争が始まった。
空が業火と閃光に包まれる地球、ソラリスの巨大戦闘システムと戦う、大陸型宇宙戦艦にあるディアブロ達。
地球の空を閃光に染めた苛烈な戦いは、ネメシスの戦意喪失によって終わり、ネメシスこと、アレスジェネシスは、ゾディファール・セフィールの力によって時空転移して、現在のパラレル過去世界にいる。
それを見たヘパイトスは、頭を抱えその場に座る。
「大丈夫ですか?」
ソフィニアが心配げに背を擦る。
ヘパイトスは自分の両手を器にして、超次元の力を使うと、そこから物質が発生し、空間のエネルギーと空気中の物質を使って両手に乗るロボットを創造した。
「ちきしょう…」
と、ヘパイトスはその場に小型ロボットを下ろして蹲った。
ショックが大きかった。
アレスジェネシスは、王座に戻り天井を見上げる。
「さあ、これらどうする? もう一人の私よ」
◇◆◇◆◇◆◇
ヘパイトスが翌日に家に帰された。その胸部には、監視をするナノマシンの刻印をされて、どのような者とどのような会話をしたか…ソラリスに記録され続ける。
家に戻ると、心配していた両親が駆け付ける。
帰ってくると、心配していた親戚や、妹に弟が来てくれた。
どんな事をされたのか?と尋ねられると…。
ヘパイトスは…暫し黙った後、あの天使達、アイオーンとされる存在と人との融合実験をされて、適合した。
月に何度か、ソラリスへ行くかもしれないと…告げた。
本当の事は言えなかった。
それで、家族や親戚達は納得してくれた。
ヘパイトスは、何時もの人としての日常へ戻るも、今後…どうなるか…分からなかった。
ソラリスが日本を手にして一ヶ月、多くの国民が本当にベーシックインカムが支払われるのか?と疑問に思っていたが…その心配は無用だった。
本当に、十二万円が通帳に入っていた。
通帳を持っていない者は、郵送されて届けられた。
他にも、水道、電力が本当に無料になっている。
ソラリスの日本改造は続く。
まずは、日本に一千万人のナノマシンシステムを使うエンジニアの雇用を創出する。
それは、主に、日本にいる派遣社員達300万人を対象に始まり、僅か半月後には、その300万人がナノマシンエンジニアになった。
ソラリスから、ソラリスが管理するナノマシン加工機を300万人に配布、設置させ、そのナノマシン加工機は、従来のリチウムイオン電池を越える完全個体電池、リアクターを作り、更に鋼材の数十倍の強度がある特殊複合素材、量子コンピュータのチップ、発電効率90%の太陽電池、今まで理論はあったが実現不可能な技術物を生み出した。
更に、ソラリスはナノマシンエンジニアを拡大させる為、全国にいる全年齢の引きこもり達の支援にも手を伸ばし、母子、父子家庭の者達も取り込み始めた。
ソラリスの大いなる雇用創出をヘパイトスがネットやテレビで知る。
派遣社員として多かった30代後半から50代は、かつて、バブル崩壊によって職に就けず、社会から取り残された者達が、何とかの行き場として派遣社員になるしかなかった。
その現状は、今日まで続き、若い20代から30代前半の雇用売り手市場からも取り残されていて、大きな問題になっていたが…誰しもが、自己責任というなすり付けの責任転嫁をして、社会の問題として扱わなかった。
労働者厳冬時代の者達に、ソラリスの雇用創出は、まさに天からの助けだった。
一生涯続けられる変化に対応出来る、個人が生産工場になれるナノマシンエンジニアは、年収の最低ラインが450万円であり、十分に暮らして行ける。
自分で新たな物を創造して売るもよし、ソラリス経由の他の企業からの納品部品の作成でもよし、その二つを同時にでもよし、やっと訪れた安定の職でもあった。
それを日本の大手企業も見逃さない。
経済連のトップが、ソラリス府に訪れサラカエルと話をする。
「我々にも、ナノマシン加工機を…提供して頂けないでしょうか」
サラカエルが冷たい目で
「ナノマシン加工機は、非常に危険な加工機です。責任が分散する組織という形態には、持たせる事が良いとは思えません」
経済連の会長が
「大丈夫です。必ず、安全に管理をしますので…」
サラカエルがフッと嘲笑い
「我々、ソラリスは、国民を守るのであって、組織を守るつもりは一切ありません。ナノマシン加工機は、国民を守るシステムの一つです。アナタ達のような組織に任せる積もりは全くありませんので、お引き取りを…」
経済連のトップの一人が
「我々も国民でしょう」
サラカエルが
「先程も言いましたが…組織は、国民ではありません。システムです。
法と秩序によって運営されるシステムが組織です。
何度も言います。組織を守るつもりは一切ありません。
組織なんて幾らでも潰れれば良いのです。
国民さえいれば国がある。
社会があるから人が存在するのではありません。
人がいるから社会があるのです。
アナタ達は、二十年前に組織を守る為に人を切り捨てる事をした。
そんな組織、システムを守る価値はあるとは…我らソラリスは一切、思いませんので…」
経済連のトップ達は、ゾッとする。
ソラリスにとって、自分達は紙くず程度の価値しかないのだ。
「そんな横暴な!」と一人が叫ぶが、サラカエルが
「では、貴方達に協力したいと、彼らナノマシンエンジニアの総意があるなら、我々は協力しますよ」
経済連のトップは、各大手や系列企業にお願いして、新たに生まれたナノマシンエンジニア達に、協力して欲しいという署名に回ったが…誰一人、サインをしてくれなかった。
当然である、彼らは皆、自分達、大手企業や会社を守る為に、二束三文の値段を、企業達から付けられた者達だ。
そんな連中に協力する気なんてサラサラない。
企業の経済連は、何とかしようと足掻くも、状況は全く変わらない。
ソラリスから、大手企業達は、部品を買い続けるという状況が続き、とある大手企業の営業マンが、こっちが買わないと無駄になるから、格安で流せと脅した次の日から、その企業へ一切の部品供給が止まった。
そして、一言
「アナタ達の一つがなくなっても、バックアップは沢山ありますし、我々で新たに流通を作れば問題ありませんので…」
無常の一言をアイオーン達から告げられ、その企業は必死に謝りに行くも、戻る事は無かった。
そして、何時も帰り際に
「アナタ達が潰れても、その従業員達は、我々で保護して新たな、組織を再編させますので…ご心配なく」
と、返答された。
かつて、人を切り続けた企業が、逆に切り捨てられるという状況に陥り、何度も何度も経済連のトップは、ソラリス府へ足を運び、説得をするも…話は聞くが
「アナタ達も暇人ですね」
と、冷徹に帰されるだけだった。
ソラリスが日本を手にして二ヶ月。
日本と海外との取引が元に戻り、まるで、ソラリスと日本で勃発した戦争がウソのように日常が流れていくが…日本は確実に変わりつつあった。
日本の社会システムが守り切れなかった弱者を、ソラリスが守り、遂にソラリスに繋がるナノマシンエンジニアが一千万人を越えた。
医療も変貌する。年収400万円以下は医療費が5%負担、それ以上は、一割負担で、無職又は、大きな病気、つまり、入院を経験した病気は継続治療でも無料となった。
ソラリスからもたらされるナノマシン医療は凄まじく、末期のガンでさえ治療可能なナノ錠剤点滴や装置、認知症のタイプ別により治療、エイズやエボラ、インフルエンザといったウィルス、細菌感染治療の完全根治化。内臓器の完全再生医療、人類が到達すべき医療の数百年分の未来が訪れた。
治安も変わる。日本中の電柱、及び都市部のあらゆる場所には、ソラリスの監視システムの逆円錐型の装置が付けられ、その監視システムによって犯罪者が放つ、予備動作を探知して、いち早く警察に通達、犯罪を事前に防止する。
無論、そういう犯罪行為を繰り返す者達に、カウンセリングや、社会復帰の後押し。
そして、日本の太平洋、丁度、小笠原沖の遠くに、数十キロ級の円柱型集約刑務所がソラリスの建造システムによって作成され、置かれた。
因みに、収容人数は一千万人である。そこへ、全ての犯罪者が収容された。
無論、完全管理されている。
死刑をいうのも無くなり、一生、その海上集約大型刑務所で過ごす事になった。
日本は変わっていった。
表面的には、変わっていないようで、内面から変貌していく。
人とは残酷だ。外見が変わると直ぐに気付くのに、中身が変わったのは全く気付かない。
人は外見でしか物事を判断出来ないのだ。
希に、中身で判断出来る者もいるが…それは、狂人、キチガイと多くの人々は見る。
本当に大事なのは、内面なのに…だ。
上っ面しかみない日本人は、ソラリスの事があっても、なんだ…何時ものように流れているとしか思っていない。
◇◆◇◆◇◆◇
日本を手にして三ヶ月半、アレスジェネシスは、王座にてセフィロスから報告を受けている。
『現在、日本の雇用システムの改造を行っています。我らの労働管理システムが入り込み、全体の50%程度が、置き換わっています』
アレスジェネシスが
「残りの半分は?」
セフィロスが淡々と
『大手やその系列会社ですね』
アレスジェネシスは
「それも時間の問題だろう。我々の統合労働管理システムが優れていれば…認めざる得ないが…。人は自らの過ちを認めたくない。時間を掛けよう。長期計画で進めよ」
『はい』
と、セフィロスが肯き
『次ですが、教育システムが置き換わり完了しました。幼児から高等、大学まで、全ての教科書が、個別端末学習に置き換わり、幼児部、小学、中学、高校の四つの成長過程学校の教師には、生徒を良く観察して、生徒のメンタルをケアする事と、生徒のプロデュースを専門にさせています。因みに、教師になるには、幼児、思春期、青年期の心理学を専攻した者で、四年以上の社会経験がある者が教師になる資格を有するとしました』
アレスジェネシスが右にいるセフィロスへ
「個別端末学習の具合は?」
セフィロスが
『日本中にいる、塾を運営している家庭教師や、それに優れた講師により、どのように生徒に教えれば良いかの、設計を任せました。それを元にAIも構築します』
アレスジェネシスは両手の一つを組み
「生徒に寄り添う教師、教えるのが上手い講師といった者達は、全てに置いてそれぞれで優れているとは限らん。それが上手い者で選別させ、そのように仕事をさせた方が効率的だ」
セフィロスが肯き
『その通りです。天帝』
そこへ、ガブリエルが来て
「天帝、現在、日本地区の経済システムが円滑に起動しましたので、日本地区による国民議会の発足に関しての行動を起こすには十分な時かと…」
アレスジェネシスは肯き
「成る程、もう…そのようになったのか…。一年弱は掛かるかと思ったが…」
ガブリエルは微笑み
「日本地区の国民は、勤勉です。ルールさえしっかりと分かれば、直ぐに馴染んでくれます。攻撃的で変に楽天的な者も少ないですからね」
アレスジェネシスはフッと皮肉に笑み
「攻撃的と楽天的には、相関関係があるからなぁ…。ガブリエル。暫定政府の者達に通達をしろ」
「は!」とガブリエルは頷いた。
元政府関係者は、ソラリスの運営を円滑にする為に、元の…残されているポジションにいた。
阿部元総理達の元へ、ガブリエルが来て、国民議会の発足のデータ乗る端末を渡す。
東城が
「国民の投票によって選別された国会議員と、ソラリスの意向にそったソラリス院の二院制で、国の法律や運営を行うと…」
ガブリエルは肯き
「そうです。日本地区が落ち着きを取り戻したので…発足させます」
阿部元総理が
「国会議員の多数決によって決められた法律や案は、ソラリス院へ行き、ソラリス院の認証によって決まると…」
「はい」とガブリエルは頷く。
東城が
「では、ソラリス院より、国会議員への認証を求めた場合、それが国会で否決されてもソラリス院での可決は、そのまま通るという事になるのですね」
ガブリエルは首を傾げ
「そんな事はありません。そちらでの案件が否定されるように、我々の案件も否定された場合は、全く機能をさせませんので…」
ええええ?と周囲が響めく。
普通の独裁支配なら、自分の意見を通すのが当たり前だが、ソラリスは、こっちが否定すればそれを認めるというのだ。
ガブリエルが訝しい顔で
「二院制はお互いの暴走を防ぐ為に機能し、国民を守る為にある筈では?」
東城は眉間を寄せる。
どういう事だ? 独裁をするつもりがないのか?
阿部元総理の元秘書の一人が
「だが、議員600名で、その比率は男女が半分づつとは…」
ガブリエルが
「誤差30%以内でなら、問題なく立候補が行われます。日本人口の半分は女性です。その比率に合わせて国家も運営されるべきです」
東城が
「もし、その比率に候補者が集まらなかった場合と、その比率通りに議員がならなかった場合は…?」
その問いにガブリエルは
「次の選挙まで、持ち越しです。このまま、ソラリス単独の維持管理が続きます」
阿部元総理が
「投票率は投票地区で6割を超えないと認証されないとは…難しいのでは?」
ガブリエルが肩を竦め
「当然ではありませんか? 国の運営を決めるのです。国民の過半数の票はあって然るべきでしょう」
東城が
「このプランはムチャあります。実現性に乏しい」
ガブリエルが
「では、我々が提示するこの、新たな国民議員の男女比率半々と、投票率の6割越えについて国民投票をして、認めるか認めないか確認しましょう」
後日、本当にこの案についての国民投票が行われ、結局、ソラリスが出した男女半々と投票率6割越えが、圧倒的過半数の国民投票で可決された。
一億を越える国民投票は、今まで難航が多かったが…ソラリスが構築した政府システムは、それを容易にする程に、強大なシステムだった。
更に、国会議員へ立候補についても制約も国民投票で行われた。
国会議員の候補者は、年収が数億単位の経営者や、お金持ちは出来ないという制約だった。
国民の90%は、年収が450万未満であり、年収が億越えの大金持ちは全体の1%未満である。
そんな1%に満たない、成功者とされる者達が…多くの国民の意思をくみ取れるか?
そんは筈は無い。人間はその周囲に合わせて活動する。
お金持ちはお金持ちの世界で、それ以外は、それ以外としての世界しか分からないのだ。
まあ、ベーシックインカムという強大な社会保障を悪用されない為の、措置でもある。
お金持ちが権力を握ると、絶対に自分のお金を増やす政策しかしないのは、人類の歴史から証明されている。
その年収億円を越える者達の政治への立候補をさせない制約は、圧倒的90%の賛成を得て可決された。
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